中国の宇宙ステーション・天宮1号が落下してから1ヶ月が経とうとしています。この時の報道を振り返ると、大手メディアの記事でも、天宮1号の機体は「大気との摩擦で燃え尽きる」と書いているものが依然としてかなり多く見受けられました。テレビ番組のコメンテーターの中にもそのように解説する人がいたとのことです。
これは、中国側の発表に引きずられてそのように書いたり発言したりしたのかも知れません。『朝日新聞』は中国国営の新華社通信の配信記事を引用して「新華社は機体について大気との摩擦で『燃え尽きる』としている」と書く一方で、別の段落では「再突入すると、空力加熱などによって数十分で壊れるとみられる」とも書いています。
流星や人工衛星が落下するときに高温になり光を発するのは、断熱圧縮による空力加熱という現象が起きているためで、大気との摩擦が原因ではありません。以下は JAXA(宇宙航空研究開発機構)による解説です:
もう一つ気になったのは「大気圏再突入」という言葉です。『読売新聞』は「欧州宇宙機関(ESA)は、中国の宇宙実験施設『天宮1号』が(中略)地球の大気圏に再突入すると発表した」と書き、『朝日新聞』は「中国『天宮1号』大気圏再突入へ」というタイトルを掲げていました。私も無自覚に使っていましたが、よく考えると変です。「再突入」と言うからには2度目の突入ということになりますが、1度目の突入はいつだったのでしょうか。
英語では人工衛星や宇宙船の落下や地球帰還を「re-entry」または「reentry」と言います。日本語にすれば「再入」です。いちど大気圏外に出たものが再び大気圏に入ってくるという意味合いです。この英単語の「re」を意識したために、単純に「大気圏突入」とすれば良いものを「大気圏再突入」としてしまったのかも知れません。
天宮1号が落下したのは「ポイント・ネモ」とよばれる場所の近くでした。そこは、過去に大気圏に突入した数百もの宇宙船や人工衛星の残骸が眠っている「宇宙船の墓場」です。制御不能であったにもかかわらず、天宮1号がそこの近くに落下したのはなんとも不思議なことです:
記事では、「ネモ」の意味はラテン語で「誰もいない」という意味だとしていますが、ジュール・ベルヌの小説では「誰でもない」という意味だったと記憶しています。
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