2009年1月31日土曜日

四川大地震はダムが原因 (?)

昨年5月に発生した四川大地震は、ダムが原因だったとの説が浮上しています。四川省地質鉱物局の主任技師ただ一人がその説を唱えていたのですが(政府や党などから相当な圧力があったのではないでしょうか)、中国科学アカデミーは否定していました。しかし最近、アメリカ・コロンビア大学の研究者が、その説に肯定的な発表をおこなったため、再び注目を集めています:
記事によれば、四川大地震の原因となったのは、震源から数キロのところに新たに建設された Zipingpu ダムです。このダムに貯水された数億トンの水の荷重が、歪みを蓄えていた最寄りの断層に影響し、大地震を引き起こしたとのことです(記事によっては、逆に Zipingpu ダムの水を抜いたことが直接のきっかけであると受け取れるものもあります)。しかし、ダムやその周辺の地震についての詳細なデータは中国政府によって統制されているので、真相の科学的究明は困難だと、ほとんどの記事が指摘しています。

この件に関しての詳細な解説は以下にあります:
上記記事によると、これまでにダムが原因であると一般に認められている M6 以上の地震は以下の4件だそうです:
  • Xinfengjiang(中国)
  • Kariba(ザンビア)
  • Kremasta(ギリシャ)
  • Koyna(インド)
また、RIS(reservoir induced seismicity)と RTS(reservoir triggered seismicity)とは区別されるべきものなのだそうです。日本語でどのように訳し分けたらよいのかわかりませんが、直訳すれば、前者は「貯水池が引き起こした地震」、後者は「貯水池がきっかけとなった地震」です。私の理解したところでは、前者は貯水池の水の荷重やその変動で地殻に歪みがたまったことによって発生した地震、後者は貯水池の水の荷重やその変動が既存の断層に影響して発生した地震です。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年1月30日金曜日

あってはならないもの

下に紹介するページは、スペインにある古い大聖堂の写真を5枚掲載しています。上から順番に、徐々にあるものにカメラがズーム・インしています。5枚目の写真でおわかりのように、古い建築物にあってはならないものが外壁に浮き彫りにされています。この大聖堂は1102年に創建されたとのことで、写真は CG や合成ではないことが確認されています。1102年というと、日本では白川上皇による院政がおこなわれていた時代です。
実際には、写真に写っている大聖堂は、同じ町にあるもう少し新しい大聖堂を写したものだということが判明しているのですが、その新しい方の大聖堂でも、建築期間は 1513年から 1733年にかけてとのことです。1513年は足利義尹、1733年は徳川吉宗の治世です。このミステリーの謎解きは、上記のページでどうぞ。

ピサの斜塔も真っ青

下記の記事は、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブ・ダビに今年後半開業予定の5つ星ホテル「Hyatt at Capital Gate」について伝えています:
記事所載の写真を見ておわかりのように、傾いています。ピサの斜塔の傾斜角 4度に対して、こちらは 18度。ギネス・ブックによって「World's Most Inclined Tower」(世界で最も傾いた塔)に認定されています。地震に対する対策も十分に講じられているとのことですが、私は宿泊したくありません(値段も高そう)。

リダウト山に噴火の兆候

お知らせ(2): 2月3日(火)18:00現在、AVO(アラスカ火山観測所)のウェブ・サイトは正常状態に復帰しています。以前より、応答時間が短縮されているように感じます。おそらく、サーバーの処理能力を増強したものと思われます。

お知らせ: AVO(アラスカ火山観測所)のウェブ・サイトは日本時間 1月30日(金)夜から大変混み合っています。以下の記事では、AVO が提供する情報へのリンクをいくつか張っていますが、それらのリンクをクリックしても、接続できない(connection failure)か、「Due to very high load on our web server, we can only support a very limited website」というメッセージとともに、限定された情報が表示されるか、という状態が続いています

米国アラスカ州アンカレジの南西約 160km にあるリダウト山(Mt.Redoubt)で、地震が急増しています。AVO (アラスカ火山観測所)は噴火注意報を出すとともに、噴煙などが上空を通過する定期航空便に影響する可能性があるため、航空カラー・コードを「オレンジ」に引き上げています。各ニュースサイトも競って報道しています:
上の 4件の記事は報道時刻順に並べてありますが、タイトルだけを見ても、当初はすぐにでも噴火しそうだというトーンだったものが、時間がたつにつれてやや抑制した調子になっています。

AVO の最新発表は以下で見ることができます:
以下は、AVO が提供しているリアルタイム地震連続波形です。数分ごとに自動更新されます。時刻表示は協定世界時(日本標準時 - 9)です。この記事を書いている最中に、また地震が増えてきています。この連続波形を監視していれば、噴火の瞬間を捉えることができるかも知れません。富士山の地震波形をモニターしている方にとっては、噴火が切迫したさいに波形がどのように変化するかを実際に見ることができ、良い「演習」になるのではないでしょうか。リダウト山は富士山と同じ成層火山で、標高 3108m です:
AVO がリダウト山に向けて設置しているウェブ・カメラの映像を以下で見ることができます。難点は、リダウト山が高緯度にあるため、冬の季節には明るい時間が非常に短く、真っ暗な画面しか見えない時間が長いことです:
AVO は、今流行の Twitter でも 1~2時間ごとに状況を発信しています:

2009年1月29日木曜日

『武江年表』と地震

『武江年表』(ぶこうねんぴょう)という江戸時代の文献があります。蔵国の戸の出来事を年表にしたものです。世界大百科事典(平凡社)によると、次のような由来の資料です:
江戸 300年にわたる精細な年表。斎藤月岑(げつしん)著。正編8巻8冊、続編4巻4冊。正編は1849年(嘉永2)、50年に江戸須原屋伊八ら刊。続編は未刊のまま残った。正編は1590年(天正18)より1848年まで、続編は1849年より73年までを収める。内容は地理の沿革、風俗、事物起源などで、近世江戸における世態風俗の変遷を知るうえに便利な文献。
この『武江年表』から、江戸時代初期の地震とその前後の天象・地象などを拾い出してみました。日付は旧暦です:
1601年(慶長6年)
  • 10月16日 大地震、房総の山を崩し、海を埋め、丘と成し、又海上俄に潮引く事、三十余町干潟と成る。
  • 10月17日 潮大山の如く巻上げ流死夥し。
1627年(寛永4年)
  • 4月8日 芝愛宕山権現社火(災後再び御造営有り)。
  • 8月 洪水。大地震。
1630年(寛永7年)
  • 6月23日 大地震。毛降る。
  • 12月23日 大地震。戌の刻光物飛行し、其の音すさまじかりし。
1631年(寛永8年)
  • 3月19日 江戸中に灰降る。
  • 3月20日 諸国甘露降る。
  • 4月2日 浅草寺炎上。
  • 去年より今年に至る、六十州皮癬瘡を病む者多し。
  • 8月 大風、家屋を壊ち樹木を折る。
  • 10月 灰降る。
1633年(寛永10年)
  • 1月21、22日 諸国大地震。小田原は別けて強し。
  • 1月26日 申の刻、大地震。
  • 4月より6月まで洪水。 
1635年(寛永12年)
  • 1月25日 寅卯の刻、大地震。午未の刻、又地震あり。
  • 6月13日 大風。遠州豆州渡海の船八百艘破損す。
  • 7月、天赤くして焼くが如し。
1647年(正保4年)
  • 4月15日 夜、月の暈四方、月影の如く、朧の月四つ現はる。
  • 5月13日 江戸大地震、上野大仏の像砕破す。
  • 7月22日 氷降る(大きさ梅の実のごとし)。
1649年(慶安2年)
  • 麻疹流行す。
  • 6月20日 武州大地震。江戸中武家町家潰れ、死人怪我人多し(上野大仏像砕けしはこのとき也ともいふ)。
  • 5月13日 河越大霰降る(重さ二斤、小は四十匁、人馬多く死す)。
  • 8月20日 江戸大地震。
1650年(慶安3年)
  • 3月23日 夜、江戸大地震あり。
  • 5月 国々洪水。諸国毛降る(長さ四、五寸)。
  • 8月7日 秩父郡辺大風雨。氷降る(大きさ八、九匁より十匁位)。 
光物飛行し、其の音すさまじかりし」(1630年)とあるのは、大火球が飛んだものと考えられます。轟音をともなう火球の報告は、現在でも時たまあります。

月の暈四方、月影の如く、朧の月四つ現はる」(1647年)とあるのは、幻月(moondog)が現れたのだと思います。下記は、幻月の写真です。4つの幻月が写っているわけではありませんが、条件が整えば、本物の月の上下左右に一つずつ、計4つの幻月が見えるとのことです。写真をクリックすると拡大します。いずれも極めて寒い地域で撮影されたもので、日本の江戸で旧暦4月に現れたものとまったく同じとは言いにくいですが:
様々なものが降ってきたことが記録されています。そのうち、「甘露降る」(1631年)については、下記を参照してください。甘露が降ったとの記録は、奈良時代のことを書いた続日本紀などにも見えます。広辞苑には、「夏、カエデ・エノキ・カシなどの樹葉から甘味のある液汁が垂れて樹下を潤すもの。アブラムシが植物内の養分を吸収して排泄する、葡萄糖に富む汁」とあります。甘露が天から降ってきているのを直接目撃したのではなく、身のまわりのものや木の葉などに甘露が付着しているのを見て、天から降ってきたと思ったのではないでしょうか:
一番多いのが「灰降る」という記述です。これは、火山灰と考えるのが妥当だと思います。理科年表によれば、1600年代の前半、浅間山は頻繁に活動しています。

毛降る」(1630年、1650年)については、火山毛(かざんもう)の可能性が高いと思います。ハワイでは、火山の女神ペレの髪の毛とされています。その写真が以下にあります(写真をクリックすると拡大します):
火山毛については以下に解説があります:
UFO現象と結びつけて語られることの多い「エンゼル・ヘア」と呼ばれる現象もあります。それも含めた解説は以下にあります:
『武江年表』の本文は、『隆慶一郎公式サイト』から引用させていただきました。
Photo Credit: Copyright © menamomi.net

2009年1月28日水曜日

アンデス山脈は急激に高くなった

プレート境界の造山運動は、これまで考えられてきたよりもかなり急速に進行するとの説が、数年前から注目を集めています。これまでプレートテクトニクスで考えられてきた造山運動のメカニズムでは説明が困難なため、新たに「デラミネーション」あるいは「デブロッビング」と呼ばれる過程が提唱されています。多くのサイトがこの件を掲載しています。以下はその例です:
このような説が提唱されるようになった背景には、堆積物に残る同位元素の比率などによって、過去の山の高さを定量的に推定する新しい手法が開発されたことがあります。

以下は、各サイトの記事を私なりにまとめたものです:

これまでの方法

過去のある時点で、山の高さがどのくらいあったのか? これを推定する従来の方法は、植物の葉の化石を調べ、その植物がどのくらいの標高のところに生えるかによって山の高さを推定するか、ある種の鉱物がいつ急に地表に現れ始めるかという点にもとづく年代決定などによって、標高を推定していた。しかし残念ながら、数百万年という時間の間には植物の性質は大きく変化する。また、気候の変化も浸食を引き起こすし山の高さに影響する。このため、従来の方法による推定値には大きな疑問符がつく。

新しい方法(1)

山が浸食されるにつれて、山体の堆積物は斜面を流れ下り、山麓に集積する。山が隆起すると、高度の変化によって異なった大気条件にさらされる。たとえば、気温、降水量や雨水の成分などは山腹の異なる標高の地表に堆積する鉱物に記録される。このような堆積物から過去の大気の情報を採取し、年代を決定することによって、山岳地帯の隆起の履歴を再構築することができる。

炭酸塩は地表の水から沈殿する。したがって炭酸塩の成分は降水の良い指標となる。標高によって雨水の成分は変わる。水に含まれる酸素の99%以上は「酸素16」で、残りは「酸素18」である。水蒸気が雲を形成しながら上昇するにつれて、重い酸素18は雨となって雲から取り除かれ、雲は次第に酸素18が少なくなる。この変化は、山腹で雨水から作られる炭酸塩などの鉱物の中に記録される。これを採取して酸素16と酸素18の比率を分析すれば、当時の山の高さが推定できる。

新しい方法(2)

第2の方法は、炭酸塩が形成された温度に注目する。大気の温度は、標高が高くなるにつれて低下する。炭酸塩に含まれる「酸素18」と「炭素13」の結合体の多寡が指標となる。気温が高いところでは、個々の原子は激しく振動し、原子間の結合は壊れやすくなる。重い同位体原子どうしの結合ほど壊れにくい。低温で振動が穏やかなときには、軽い同位体の結合の方がより壊れやすい。この原理を応用して、炭酸塩が形成された当時の温度を推定することができる。温度が推定できれば、その炭酸塩が沈殿した場所の標高がわかる。

2つの方法の結果が一致

2つの方法による計測結果は非常によく一致した。過去の標高の記録は、山岳地帯が数千万年にわたってゆっくりと隆起した後、突然「一般に認められているテクトニックな過程よりも速いスピード」で隆起したことを示している。

停滞と急速な隆起

造山活動では、山が数千万年間もほとんど同じ高さに留まる時期と、その後に続く数百万年間で1キロメートル以上も急速に成長する時期からなる。

アンデス山脈の成長

アンデス山脈中央部は、100万年ほどの短期間で少なくとも1500メートルも隆起した。この急速隆起は、今から1000万年前から700万年前(記事によっては600万年前)の間におこった。

反対意見

土壌の中に残された同位元素は、地域の気象パターンによって大きく変化する。今回の研究には、現在の気象パターンと数百万年前のパターンが大差なかったという大前提がある。しかし、実際のところは、当時の気候は現在とは大きく異なっていたはずだ。暫定的な気候モデルの研究では、当時の降水は南米大陸の太平洋側からやって来たが、現在は大西洋側からだ。太平洋側からの降水は、異なった同位元素の痕跡を残す。この違いを考慮に入れれば、アンデス山脈の隆起は急速なものではなく、ゆっくりと持続するという解釈がありうる。

デラミネーション説

現行のプレートテクトニクス説は、デラミネーション(またはデブロッビング)と呼ばれる過程を考慮に入れたものに修正されるだろう。NSF(National Science Foundation;米国科学財団)の指摘によると、デラミネーション説は1980年代初頭に提唱されていたが、造山運動を再現するモデルの構築が困難であり、さらに、今回の新しい手法が出現するまでは、過去の山脈の高さを定量的に推定する信頼できる方法がなかったため、検証が困難で賛否両論があった。

デラミネーション説では、海洋プレートと大陸プレートが衝突すると、衝突によって褶曲した大陸地殻の下に密度が高く重い「根」が形成されるが、その根が突然はがれ、反動で山脈が急速に隆起する、と考える。

我々は、地殻上部でおこる褶曲と断層が高い山岳地帯を形成したと考えてきた。しかし今、我々は、それ以外の原因が山脈の隆起をもたらしたことを示すデータを手にしている。

「デブロッビング」はあまり科学的な用語のようには響かない。しかし、この術語は、地殻の下に延びている密度の高い「根」(ブロブ)が不安定になり、自重によってマントルの内部に沈んでいき、最終的には地殻から分離してしまう現象を表している。

2つのプレートが衝突すると、通常は大陸プレートの方が屈曲し始める。たとえば、太平洋南部のナスカ海洋プレートと南アメリカ大陸プレートの衝突。マントルの上に漂いながら、2枚のプレートは互いに押し合い、その結果、屈曲した部分は山脈の最初の隆起部分となる。一方、地殻の下でも、上部マントルで屈曲が進行する。これによって形成された密度の高いマントルの「根」は地殻の下側に粘着し、地上で成長する山脈と歩調を合わせて成長する。この高密度の「根」はアンカー(錨、いかり)の役割を果たす。つまり、山脈を下向きに引っ張り、山脈の隆起を抑制する。釣りのときに使う錘(おもり)が、浮子(うき)を水面下に引き込むのと非常に似ている。アンデス山脈の場合、マントル上部の「根」が剥がれ分離するまでに、約1000メートルの高さまで隆起していた。その後、釣りの錘を切り離したときと同様、山脈は急激に「浮上」した。300万年以下の期間で、1000メートルの高さから、約4000メートルの標高に急成長した。

科学者は、チベットや中央アンデスのような標高の高い高原地帯を形成するテクトニックな過程を考え直さなければならない。

他の山脈でも

ノルウェー西部の山脈では、造山活動のサイクルがこれまで考えられていた 4000万年より大幅に短く、1300万年であった、との研究報告がなされている:
また、米国カリフォルニア州南部のシエラ・ネバダ山脈では、デラミネーションが現在進行中であると考える研究者もいる。

Credit: Copyright © Michael Collier; Image source: Earth Science World Image Bank

2009年1月26日月曜日

地球のストーカー

今月初め、地球とほとんど同じ軌道を持ち、地球の後をつかず離れずに追いかけてくる奇妙な天体が発見されました。「2009 BD」と名付けられたこの天体は、直径約10メートル。地球に最も近づくときでも 64万4000キロの距離(地球から月までの距離の約1.7倍)があり、衝突(追突)の危険はないとのことです:
想像をたくましくすると、地球の周囲をまわる衛星軌道では発見されやすいので、目立たないところから地球を観察しているエーリアンの宇宙船かも。その気になると、大きさもそれっぽいような。

ふと思い出したのですが、以前、天文関係のクラブにいたとき、女性の尻ばかり追いかけている男性を指して「あいつは、てんびん座だから…」という言い方を何度か耳にしました。てんびん座は、いつも乙女座を追いかけるようにして東の地平線から昇ってくる(あるいは乙女座を追いかけるように西に沈んでいく)ため、そのような言い方ができたとのことでした。

アラブ首長国連邦に積雪

熱い砂漠の国というイメージのあるアラブ首長国連邦(UAE)で、北部の山と周辺に史上初めて雪が積もり、現地の人たちを驚かせています。アル・アラビア・ニュース・チャンネルは次のように伝えています:
記事をまとめると以下のとおりです:
積雪は最大で 20cm。雪は金曜日の午後3時頃からちらつき始め、その日の夜には本格的な降雪になった。気温は氷点下2度まで低下。降雪のなかった UAE の他の地域では、激しい落雷をともなう大雨となり、一部の地域では金曜日の夜に約20分間にわたって雹が降った。UAEでは、2004年にも雪が降ったが、このときは積もらなかった。
他のニュースサイトも報道しています:
「雪」を表す単語がない場合、雪をどう言い表すのでしょうか。「空から落ちてくる白く冷たいもの」というような言い方をするのでしょうか。イヌイット(エスキモー)の言葉には「氷」や「雪」を表す言葉が、日本語には「雨」に関する言葉が極めて豊富だといいます。「五月雨」、「通り雨」、「秋霖」、「梅雨」…。また、マフィアのスラングには「殺す」を意味する表現が何十とおりもあり、実際の殺し方も非常にバリエーションに富んでいるとか。

人は対応する言葉がないものを目撃したとき、それを他人に伝えようとすると非常な困難に直面します。絵が使えないとしたら、あとは話者と聞き手が共通して知っているものにたとえるしか方法がありません。「フライング・ソーサー」は、空飛ぶ円盤を意味する英語ですが、「ソーサー」は茶碗の受け皿を意味しています。初めて空飛ぶ円盤を目撃した人が、その形をソーサーに喩えたことに由来するとのことです。

少し話が飛びますが、旧約聖書中の三大予言書の一つ、『エゼキエル書』の不可解な記述も、予言者エゼキエルが実際に目撃したものを、なんとかして他の人たちに伝えようとしたものだ、という解釈があります。このことについては、『円盤製造法 エゼキエルの〈宇宙船〉を復原する』(ヨーゼフ・F・ブルームリヒ、角川文庫、1977)が一番詳しい書物だと思います。著者のブルームリヒは、NASA で設計チームのチーフや企画構成部長などを歴任したエンジニアで、大型ロケット製造に関する特許をいくつも持っているとのことです。『円盤製造法』という不真面目なタイトルは、原著(ドイツ語)とは無縁のもので、日本の出版社の利益至上主義のなせるわざです。原題は『Da tat sich der Himmel auf』(There, the heaven opened)で、エゼキエル書の一節からとられています。

著者のブルームリヒは、エゼキエルについて次のように書いています:
こういう記述をするのにどれほどの知性が必要であったかを理解するのには、エゼキエルのおかれた立場をもう一度思い描いてみなくてはならない。なんの予告もなしに彼はある異象の証人となり、自分の知識と感性を総動員しても比較も手がかりも論理的説明もえられないような事象に直面したのである。
同書の内容と類似の情報が下記サイトにあります。ただし、そこに登場するエーリッヒ・フォン・デニケンという人物は、古代の遺跡を手当たり次第に宇宙人に結びつける山師ですので注意が必要です:
『エゼキエル書』の全文は以下にあります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年1月25日日曜日

鳥インフルエンザ

CCTV(China Central Television 中国中央電視台)のサイトが、中国北西部にある新彊ウイグル自治区の中心都市ウルムチで、31歳の女性が鳥インフルエンザのために死亡したと伝えています。中国国内で鳥インフルエンザのために死亡した人は、今年に入って4人目とのことです:
さらに、南西部にある貴州省で、29歳の男性が鳥インフルエンザのために危篤状態になっているとの報道もあります。中国国内では、今年に入って6人目の患者とのことです:
ネパールでは、鳥インフルエンザの患者が見つかったとの報道があり、パニックになりかけましたが、検査の結果、鳥インフルエンザではないとの結論がでたようです:
ネパールやインドでは、鳥インフルエンザに感染した鶏や、死亡した渡り鳥が発見されています:
カナダのバンクーバー近郊では、飼育している七面鳥が鳥インフルエンザに感染しているのが見つかっています:
人から人に感染する鳥インフルエンザが日本国内に入ってきたときに備えて、少なくとも2ヶ月間(最低限のカロリーで過ごせば3か月以上)は外出しなくても済むように食料品や日用品を準備していますが、冷凍庫の容量不足がネックになっています。それを補うためにフリーズドライやレトルトの食品を用意していますが、どうしても野菜が不足します。新鮮な野菜を備蓄するために、冷凍室の大きい冷蔵庫か、専用の冷凍庫を買おうかとも考えるのですが、長時間停電になると冷凍物は全滅です。そのリスクを回避するためには、フリーズドライやレトルトもある程度は必要なようです。野菜不足にそなえて、ビタミン剤やサプリメントを用意しました。

SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したとき、香港では集合住宅の通気管や換気口を通じて感染が拡大した例があります。そのため、住宅の換気口に貼り付けるフィルターや、扉や窓の隙間をふさぐ粘着テープなどの材料も必要になるかも知れません。

外出しなくても済むようにどんなに準備をしていても、致命的な弱点が私にはあります。それは、地方で暮らしている親です。親が感染した(あるいは感染が疑われる)場合、感染するリスクが高い鉄道や飛行機を利用して看病に行くべきなのか、相当悩むと思います。さらに、自分が感染して死に瀕したとき、親兄弟に一目会いたいと願うのか、長距離移動による親兄弟の感染リスクを考えてあきらめるのか…。

2009年1月24日土曜日

串田彗星が近日点通過

来る 1月27日(火)に、「144P/串田彗星」が近日点を通過します。この彗星の発見者は、FM放送の電波を利用した地震予知研究で有名な、八ヶ岳南麓天文台(地震前兆電離層観測研究センター)台長の串田嘉男氏です。

新たに発見される彗星の中には、放物線軌道か双曲線軌道をとり、一度太陽に近づいた後は無限の彼方に飛び去って、二度ともどってこないものがかなりあります。一方、楕円軌道を描く彗星は周期的に太陽の近くまでもどってくるため、周期彗星と呼ばれます。串田彗星も周期彗星の一員です。

新彗星が発見されると、「C/××」という仮番号が与えられます。「C」は "comet"(彗星)の頭文字です。観測によって楕円軌道であることが確認されると、「P/××」に変更されます。「P」は "periodic comet"(周期彗星)を意味します。彗星は太陽に近づくと、太陽風や太陽光によって構成物質がはぎ取られ、尾を引きます。このため、周期彗星は太陽に近づくたびに、その質量を失ってやせ細っていきます。今回観測されたからといって、次の周期にも観測できるとは限らないわけです。初めての観測の後、太陽から遠ざかって、次の周期に再び観測されると、周期彗星としての確定番号が与えられます。串田彗星に付与された「144P」は、この確定番号です。

確定番号が付けられた周期彗星は、これまでに約200個しかありません。「1P」は有名なハレー彗星です。串田氏は、「144P」の他に、「147P/串田・村松彗星」の発見者にもなっています。

串田彗星の最新の写真は以下にあります:
FM電波の観測による地震予測について説明したpdf形式の資料(P0~P6)が、下記にあります:

2009年1月23日金曜日

イギリスにハトの大群

イングランド中部の都市バーミンガムの西方にある町キングズウィンフォードに、一千羽を越えるハト(ウッド・ピジョン)の大群が現れ、話題になっています。最初に報道したのは BBC で、1月17日のことでした。その後、各メディアが写真入りで追随しています:
宏観異常についての情報が普及しているのか、地震の前兆と考える住民もいるようです:
One resident said he thought it might be something weird, like a sign an earthquake was about to happen.  (ある住民は、地震がおこる前兆のようで気味が悪い、と語った。)

I thought it was like Armageddon. The sky was black and I thought maybe it meant an earthquake was going to happen. (アルマゲドンのようだと思った。(ハトの大群で)空が真っ暗になり、地震が起こるかも知れないと考えた。)
往年のヒッチコック監督作品『鳥』を思い起こした住民もいたようです:
It does look like something from a Hitchcock film. (まるでヒッチコックの映画のようだ。)
各紙とも専門家の見解を掲載しています:
  • この季節にウッド・ピジョンが数百羽の群を作るのはさほど珍しくないが、千羽を超える群は極めてまれ。
  • えさ不足から、比較的えさを得やすい地域に集まったのだろう。
  • 一時的なもので、来冬には現れないだろう。
  • 国内のハトが主体と考えられるが、スカンジナビア半島から飛来した可能性もある。
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年1月22日木曜日

キイナ

昨夜10時から、日本テレビ系列『キイナ 不可能犯罪捜査官』の第一回目の放送を見ました。警視庁捜査一課に所属する女性刑事と新人男性刑事が、超常現象や心霊現象などが絡むナゾの多い事件を解決するドラマです。主人公の春瀬キイナ(29歳、いわゆるアラサー)は、目で見たものは何でも、一瞬で細部まで写真のように記憶することができる特殊な能力を持っているという設定ですが、なんとなくほんわかとしたキャラクターで好感が持てました。演じているのは、菅野美穂さんです。

主人公の女性刑事と新人男性刑事が、捜査一課特別班(通称「ベッパン」、所属は2人だけ?)として、超常現象や心霊現象に取り組むという設定は、『Xファイル』(The X-Files)の女性捜査官スカリーと男性捜査官モルダーを思い起こさせます。『Xファイル』では女性捜査官の方が超常現象に懐疑的ですが、『キイナ』では男性刑事がその役割を担っているようです。

第1回目は、冒頭に空から生きた魚がたくさん降ってくる事件がおこるのですがあっさり解決、続いて、心臓移植を受けた女性が臓器提供者の「記憶」に悩まされる話でした。心臓を移植すると、心臓を提供した人の記憶が、移植を受けた側でよみがえるという現象を扱っています。結局、心臓提供者は殺人事件の被害者であったことが判明、キイナが見事に(?)殺人犯をつきとめて一件落着。

ストーリーの要所要所に過去に実際にあった(?)不可思議な現象や事件、犯人の手口などがちりばめられています。一回目は、好きな女優の出演番組ということもあって退屈せずに楽しめたので、私の評価としては何とか合格点です。2回目以降の展開に期待したいと思います。

少し気になったのは、草刈正雄さんが演じる管理官です。セリフが誇張されすぎで不自然に感じました。俳優のせいではなく、シナリオか演出のせいだと思うのですが。

月面探検車がパレードに参加(続報)

17日の記事「月面探検車がパレードに参加」のフォロー・アップです。実際に祝賀パレードに参加した探検車の動画映像です:
探検車は、車体を任意の方向に向けたまま、走向可能なことがわかります。また、車外に取り付けた宇宙服の背中が、車外へ出るときの扉の役割も兼ねていることも見て取れます。飛行機のハッチか、小型のバスタブを背中に背負っているようで、あまり見た目はよくありません。

予算削減に悩む NASA が、新大統領に必死のアピールをしたという面もあるようです。この映像で見る限り、NASA のパレードに対して、新大統領夫人がしきりに拍手をしたり手を振ったりしているのに比べると、新大統領自身はほとんど反応を見せていません。NASA に対して冷たい視線を送っているようにも見えます。今後の NASA の運営は厳しいものになるのかも知れません。ちなみに、NASA の長官は、現在空席になっています。ブッシュ政権に任命されたこれまでの長官は、政権移行チームとの対立や、夫人が留任を求める署名運動をおこなったことなどが伝えられていますが、最終的には辞任しました。

以下は NASA が公開している写真です:
上から5枚目の写真に、車内と宇宙服の接続部分が写っています。宇宙飛行士が、宇宙服から車内にもどる様子を撮影したものです。ヘルメットのガラス越しに外の情景が見えています。

2009年1月21日水曜日

ショック・ダイナミクス

プレートテクトニクスを否定したり、別の説を立てたりしているサイトを、時間があるときに読み歩いています。そのようなサイトの中から、一つわかりやすいものを紹介します。トンデモ説は数あれど、なかなかの力作です。

天体衝突をきっかけにして大陸が急激に移動したとする説で、提唱者は「プレートテクトニクスに取って代わる」と自負しているようです。説明は英語ですが図解が豊富ですので、次々にページを繰って説明図を見るだけで、どのような説であるかは理解いただけると思います(最初のページでは中央付近にある「EVIDENCE」と書かれたボタンをクリック、以降は各ページ最下部にある「NEXT」をクリックしてください)。
地質学者が忌み嫌う2大要素 ―― 激変説(斉一説の対極)と外因説(地球外に現象の原因を求める) ―― が濃厚に含まれている「説」(と言うよりは「お話」)ですので、もちろん専門家の受けは非常に悪いと思います(もう少し率直に言うと、専門家には相手にされないと思います)。

2009年1月20日火曜日

World Wide Earthquakes

複数のウェブサイトから情報を収集し、それらをまとめて表示するマッシュ・アップの技術を使ったサイトが増えています。先月21日の記事では、その一例としてリアルタイムで世界災害情報を提供しているサイトについて書きましたが、今日は地震情報専門のサイトを紹介します:
画面左上方のタブで「ヨーロッパ」、「オーストラリア」、「アメリカ」、「世界」を選択することができます。これらのタブは、地震情報のソースを切り替えるものです。とくに、ヨーロッパとオーストラリアの地震情報は、アメリカ USGS のリストに記載されないことが多いので、価値が高いと思います。

画面左側の地震リストをクリックすると、対応する震央が画面内に入るように地図がスクロールするとともに、地震の情報が表示されます。地図中の震央を示すマークをクリックしても、地震の情報が表示されます。地震のマークが密集していて、クリックしづらい場合は、左側にあるスケールで地図の縮尺を変えると選択しやすくなります。

そのほかの使い方は、通常のグーグル・マップと同じです。

2009年1月19日月曜日

掃海訓練が原因で「地震」

《この記事は、昨年5月上旬に『宏観休憩室 地震前兆研究村』という掲示板に投稿するために用意していたものですが、5月12日に中国・四川省で大地震が発生したため、投稿しないままになっていました。》

2008年2月27日に観測史上 2番目の規模の「大」地震があったイギリスでは、国民が地震の情報に敏感になっているようです。先ごろ、イギリスと NATO 諸国合同の定期軍事演習「ジョイント・ウォリアー」の一環として行われた掃海訓練について、海軍が非難されています。原因は、イギリス海軍が同国本土近海で行った機雷処理演習です。海底に敷設された機雷を無害化する過程で発生した爆発(複数)が、イギリス本土の地震計ネットワークに記録されたとメディアが伝えたところ、国民の安全を守るべき軍が地震を起こすとは何事か、地震計に記録されるような爆破は規模が大きすぎるのではないかといった非難や疑問が軍に寄せられました。

以下は、BBC が伝えた記事です:
記録された「地震」のマグニチュードは、1.1、1.5、1.9 でした。

これに対して、海軍が反論を発表しています。訓練の必要性を強調するとともに、英国地質調査所(BGS)の観測機器が非常に鋭敏だから地震として記録されたにすぎない、という内容です:
この海軍の発表のなかに、おもしろい情報が含まれています ―― 大型の手榴弾の爆発は M0.5、建設現場の騒音は M1.0、第2次世界大戦中に使用された爆弾の爆発は M1.5 に相当するのだそうです。

地震多発地帯の日本人にとっては何ともない無感地震ですら、一般市民の間では「軍がおこした地震」になりかけたわけです。このようなことがうわさとなり、尾ひれがついて、最終的には「軍は地震兵器を保有している」というトンデモ話になるのかも知れません。

なお、1番目の記事で BGS の職員が語った次の言葉は重要です:
Looking at the squiggly lines, as we call them, we were 99% sure they were explosions because they have different characteristics from an earthquake. (波形を見て 99% 確実に原因が爆発であるとわかった。なぜなら、自然の地震とは異なる特徴をもっていたから。)
地下核実験の振動波形も同様です。爆発現象による振動と自然の地震では、波形の特徴が異なります。私のような素人にも理解しやすい特徴は、縦波と横波の振幅の違いです。自然の地震では、ご存知のように縦波(P波)より横波(S波)の震幅の方が大きくなりますが、爆発現象では逆に縦波(P波)の方が大きくなる傾向があります。これは、地震では断層が食い違うという、モーメントをともなう(ねじれるような)運動によって主要なエネルギーが放出されるのに対して、爆発現象では、爆心から外に向かって押す力が振動を引き起こすためです。前者は波の進行方向に対して直角の振動(つまり横波)、後者は波の進行方向と同じ方向に振動する疎密波(つまり縦波)となります。地震の原因が爆発だと考える人は、このような基本的な事実がわかっていないのかも知れません。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

ライフクエイク lifequake

アメリカで「ライフクエイク(lifequake)」という言葉が流行の兆しを見せているとのことです:
上の記事から引用するとライフクエイクとは:
lifequake refers to an event that suddenly changes your life ― a car accident, being laid off, a catastrophic illness, getting divorced, losing your home in an earthquake or fire or suffering any other unpredictable life-changing event (人生を変えてしまうような突然の出来事、たとえば、自動車事故、失業、命に関わる病気、離婚、地震や火災で家を失うこと、そのほか人生を狂わすような予測できない出来事)
ハリケーン・カトリーナやカリフォルニア州の大規模山火事など自然災害の被災者や、最近の金融危機で突然レイオフされた人たちが、その経験を語るときに「ライフクエイク」はふさわしい言葉なのかもしれません。

私の場合、人生の方向を大きく別の方向にそらせたというわけではないけれど、かなり変えた出来事が、いま思うと2度あります。これらをライフクエイクと呼べるのであれば、その影響の大きさからして 1度目は M6.5、2度目は M7.0ぐらいで、いまもときどき余震があるという感覚です。

「ライフクエイク」は、1970年代からある言葉だと記事には書かれていますが、私の手近にある英和辞典数冊には載っていません。日本語にするとすれば、どのような言葉が訳語として適切でしょうか。「人生震」ではあまりに能がなさすぎます …。「一寸先は闇」、「板子一枚下は地獄」や、「青天の霹靂」というフレーズは思い浮かぶのですが、名詞でぴたりと「ライフクエイク」に対応する言葉は思いつきません。

2009年1月17日土曜日

大西洋海底の地磁気の縞模様

先日このブログで提示した「移動する海嶺、広がる南極プレート」に関して、ある方が『新・地震学セミナー』(注1)の「[1543] アフリカプレートが拡大?」に次のように書かれているとの情報を送ってくれました(笑):
[1538] で提示した【疑問3:同じくアフリカ大陸では東西からプレートが誕生していますが、どこにも潜り込んでいく場所がありません。誕生したプレートはその後どうなるのでしょうか。】に関して、ある方が「グローバルテクトニクス地球変動学」(杉村新、東京大学出版会)に次のように書かれているとの情報を送ってくれました。
―――――――――――――――――――――――――――――
アフリカプレートや南極プレートは一部を除きほとんど拡大軸(海嶺)で囲まれている。もし拡大軸が動かないとすると、アフリカも南極もどんどん隆起でもしないと説明がつかないが、そういうことは決してない。これらの拡大軸の位置は、外へ外へと動いてゆき、アフリカプレートも南極プレートも、面積を拡げつつあるのである。このことが理解できないと、プレートの概念のポイントを把握したことにならない。
―――――――――――――――――――――――――――――
ということです。「プレートの概念のポイント」というのは、普通の頭では理解しがたい難解なものです。
これは、書籍からの引用ではなく、このブログからコピーしたことが歴然としています。なぜなら、「グローバルテクトニクス 地球変動学」の原文にはなく、引用に際して私が括弧をつけて補った文言を、括弧をはずして本文としたり、括弧付きのまま残したりしているからです(そのほかにもいくつか理由があります)。このブログからの引用だと書けなかった事情 ―― おそらく、プレートテクトニクスの初心者が陥りやすい疑問という文脈で取り上げていることが、不都合だったのだろうと推察しています。

ところで、「[1543] アフリカプレートが拡大?」には、非常に面白いことが書かれています。南米大陸とアフリカ大陸にはさまれた大西洋の地図が掲げられているのですが、その地図中で、大西洋中央海嶺のおおよそ北緯20度から南緯15度の範囲について、以下のような注釈がつけられています:
両大陸はこの位置でくっついていた
ここには縞模様がない
海底が若いことを意味する
同じサイトの別のところ、「9 大陸の移動は激変的に起きる」(注2)には、同じ図を掲げて、次のように書いてあります:
この図からわかるように、アフリカ大陸と南米大陸の間にある縞模様は南部では7000万年まで認められますが、それより北では、一単位(100万年)も観測されないことが分かります。これは、両大陸が分裂し、移動し始めたのが、100万年も経っていない新しい出来事であることを意味します。またプレートと称するものが、一つの剛体となって移動するのでもないことが明らかです。(中略 by Nemo) このように、大陸は移動することがあるのですが、つねに一定の速度で移動する(斉一説)わけではありません。地球大変動の時に、激変的に移動(激変説)することがあるのです。
本当にこの部分の海底には地磁気の縞模様が残っていないのでしょうか? 次の図を見てください:

たしかに、大西洋の赤道をはさんだ部分に縞模様のない部分があります。範囲も上のサイトの地図とほぼ一致しています。では、次の図を見てください:
こちらの図では、縞模様は途切れておらず、大西洋の全域でつながっています。

実は、(1)の図は1974年に作られたもので、当時はまだ調査が行われていない海域がたくさん残っていました。この未調査の範囲が、図では縞模様のない空白となっているのです。少し古いプレートテクトニクスの書籍には、この図をもとにしたものが載せられていることが多いようです。前出の「グローバルテクトニクス 地球変動学」(杉村新、東京大学出版会)もこの図を載せていますが、「その後、本図の空白部分は完全に埋められている」と注記しています。一方、(2)は、最新のもので、NOAA(米国海洋大気庁)のサイトに掲載されているものです。

以上をまとめると、『新・地震学セミナー』の執筆者は、意図的か否かは別として、データの欠落した古い資料にもとづいて、あるいはデータの欠落を現象の不存在と誤認して、激変説を称揚し、プレートテクトニクスを批判しているのではないか、ということです。

最後に私見ですが、『新・地震学セミナー』には次のような特徴が見られます:

  • プレートテクトニクスや地震学について、初歩的な教科書や通俗解説書に載っている、説明をわかりやすくするために簡単化した記述や模式図にもとづいて、プレートテクトニクス批判をおこなっている。現実はもっと複雑です。(たとえば、レンガの破壊実験と断層面の角度の話。)

  • 初期のプレートテクトニクスの理解のまま、現在のプレートテクトニクスを批判している。学問は日進月歩を続けています。(たとえば、ここに書いた地磁気の縞模様の件や、ホットスポットについての議論。ホットスポットが不動点か否かについては、いまだ議論がある。かりに不動点ではなかったとしても、プレートの移動を示す証拠は山積しており、そのことのみでプレートテクトニクスが否定されるものではない。)

  • プレートテクトニクスの用語について誤解したまま、批判をしている。(たとえば、「海洋底」の定義。これが食い違っているから、グランドキャニオンやロッコール海台の地質年代が古いことが、プレートテクトニクス破綻の「証拠」になってしまう。)
私は地球科学について一介の素人に過ぎませんが、その私の目から見ても、「新・地震学」には上記のようにおかしな言説がいろいろ見られます。私には、最新の地震学やプレートテクトニクスを否定して、古い地球観のアンシャン・レジームに戻そうとする復古運動のように思えます。「・地震学」という名前の方がふさわしいのではないでしょうか。

ところで、この記事についても、「ある方」が実在していて、ふたたびご注進におよぶのでしょうか(grin)。

(注1) www.ailab7.com/Cgi-bin/sunbbs2/index.html
(注2) www.ailab7.com/idou.html

月面探検車がパレードに参加

近くおこなわれるオバマ新大統領の就任記念パレードに、NASA が現在テスト中の月面探検車(LER: Lunar Electric Rover)が参加することになったそうです:
リチウム・イオン電池を電源とする電気モーター駆動で、最高時速 20km、航続距離 100km。12輪6対の車輪であらゆる方向に走向可能。トイレ、キッチン、ベッドが備えられており、2人の乗員が2週間、基地から独立して生活できる機能を持っています。

上の記事の冒頭に掲載されている LER の写真では、2人分の宇宙服が車体の外側につり下げられているように見えます。宇宙服を着るために車外に出なければならないとしたら、真空に身をさらさねばなりません。実は、写真に写っている2着の宇宙服は、背中の部分で気密状態の車内とつながっているのです。宇宙服を着用して車外に出る場合には、背中側から宇宙服に滑り込みます。その後、車体から分離して歩き回れるように作られているのです。この方式により、エア・ロックの設備のためのスペースが節約でき、また、宇宙服に付着した月面の細かい塵を車内に持ち込まずにすみます。月面の塵は、アポロ計画のように短期間であればとくに問題にならなかったのですが、長期間月面に滞在し、この塵を吸い続けていると呼吸器に障害が出かねないとのことです。

LER の詳しい情報は以下の NASA 資料にあります。車体から分離した状態の宇宙服を着た人物の写真もあります。まるでドアを背中にしょって歩いているようです:
下は、ご存知ボストン・グローブ紙の "The Big Picture"です。LER のシャーシー部分がテストされている写真があります。とくにおすすめは、最後から2番目のアポロ17号の写真です。背後の山の大きさと、月着陸船の小ささの対比が印象的です:

2009年1月16日金曜日

2020年: 火星の春

コメントはありません。たんに面白かったので …。

トルコで異常な引き潮

トルコのニュースサイトに掲載された記事です:
記事によると、トルコ南西部マルマリス近郊の海岸で、異常に大きな引き潮があり、海水が80mも後退、海底が露出したとのことです。記事には、この現象の発生した日時の記載がありませんが、記事そのものは日本時間の1月13日から14日にかけてアップロードされたものです。地元住民によると、毎年12月には大きな引き潮があるが、これほど大きく潮が引いたのは、1957年の大地震の前以来で、そのさいは今回よりもやや遠方まで潮が引いた、とのことです。地元大学の教授は、異常なことではないので心配する必要はない、とコメントしています。

トルコでは、1957年5月26日に北アナトリア断層でM7.2の大地震が発生、66人の死者と多数の負傷者を出しています(USGSの資料)。

なお、マルマリスの沖合には、世界の七不思議の一つに数えられる巨人像が存在したことで知られるロードス島(ギリシャ領)があります。


Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

さようなら マクグーハン

私の好きな俳優の一人、パトリック・マクグーハンがなくなりました。80歳でした。
1995年に公開された『ブレイブハート』で彼が演じたイングランド国王エドワード1世のイメージなどから、ずっとイギリス人だと思いこんでいました。しかし、今回の死亡記事によると、アイルランド系のアメリカ人で、生まれたのはニューヨークだったとのことです。

彼が主演・企画・監督した『プリズナー No.6』シリーズは、1969年に NHK で放映されたのち、何度か再放送されています。DVDもあります。彼の死を伝える記事のなかで、ある評論家は、このシリーズを「the most important television series of my life」と評しています。初期の放映を見たことがある身内に言わせると、なにか意味深で難解なドラマだったとのことです。

私は、色々な TV シリーズのテーマ曲を、ディスコ・ミュージック風にアレンジしたものを集めた CD を持っているのですが、その中に、どういうわけか『プリズナー No.6』や、もうひとつの彼の主演作『秘密諜報員ジョン・ドレイク』のテーマ曲が入っています。曲としては『秘密諜報員ジョン・ドレイク』の方が好きなのですが、『プリズナー No.6』の曲中に挿入されている「I am not a number, I am a free man!」という彼の声も捨てがたい味があります。

2009年1月15日木曜日

最低のジョーク

イギリスのデーリー・メール紙のサイトが、「最低のジョーク」を集めた記事を掲載しています。駄洒落や「おやじギャグ」をそのままジョークにしたようなものがほとんどです。「隣の空き地に塀ができたね」「へぇー」という小咄と同じレベルと考えればよいと思います:
集められたジョークの中に、地震に関するものがあったので紹介します:
What did one mountain say to the other after an earthquake? ‘It's not my fault.’
訳すと次のようになります:
地震のあとで、ある山がもうひとつの山に何て言ったと思う? 「オレのせいじゃないよ」
英語の洒落というか、一つの単語に2つの意味があることを利用したジョークなので、日本語に直すと何がおかしいのか伝わりません。野暮を承知で解説すると、英語の「fault」という言葉に、「責任」や「欠点」という意味に加えて、「断層」という意味があることで成り立っているジョークです。つまり、「It's not my fault」に、地震が起きたのは「オレのせいじゃないよ」という意味と、「自分のところの断層が原因じゃないよ」という意味が重なっているのです。

地震の原因は断層の運動であるという考えが、ジョークになるほど普及しているということになりますが、地震の原因は断層ではないといまだに考えている向きには、面白くも何ともない、まさに「最低のジョーク」ということになります(grin)。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

スウェーデンの牛

「ノルウェーの森」じゃなくて「スウェーデンの牛」についての残念なお知らせです ;-)

先月このブログに「スウェーデンで1世紀ぶりの強いゆれ」(12月16日付)という記事を書きましたが、この地震のさいに、震源から 5km のところにいた牛の挙動を分析した研究者がいました。地震の少ないスウェーデンに、動物の地震察知能力に関心を寄せる専門家がいたことは、いささか驚きです。以下はそのことを伝えるスウェーデンとイギリスの報道記事です:
結果は研究者の期待どおりというわけにはいきませんでした。以下は、スウェーデンの記事の概略です:
スウェーデンで12月中旬に発生した地震のさいに収集されたデータによると、スウェーデン南部の牛は足下の揺れにほとんど気づいていないことが明らかになった。動物は自然災害を察知する本能的な能力を持っているのではないかと考えている研究者たちは、この結果に落胆している。

スウェーデン農業科学大学(SLU)の研究者たちは、スウェーデン南部の牛の群に取り付けたセンサーが、12月16日にスウェーデン南部を襲った地震の前や最中の牛の行動について興味深い手がかりを明らかにしてくれるものと期待していた。しかし、牛に取り付けた最先端のGPSセンサーと動物監視装置はあまり説得力のある結果を示さなかった。

「地震の前や揺れの最中に、牛たちはごくわずか、というよりは、ほとんど何も反応を示さなかった」と SLU の研究者 Anders Herlin 氏は地元紙に語る。

Herlin 氏によると、牛たちは震源から5kmのところにいたにもかかわらず、センサーを取り付けた8頭のうち、1頭が揺れの始まる1分前に、もう1頭が揺れの最中に起きあがっただけだった。他の2頭の牛は起きあがった姿勢、もう2頭は寝そべった姿勢を地震の前・最中・後も続けていた。1頭の牛が揺れが始まる瞬間にしゃがみ込んだ。8番目の牛は、取り付けた装置が故障していて記録が残らなかった。

サンプルの数が8頭と少なかったが、Herlin 氏はこれらの結果から、ある種の結論を引き出せると考えている ―― 「牛という種は、世界中で最も地震に対して敏感な動物というわけではない。」
記事に書かれている8頭の牛の挙動をまとめると次のようになります:
1頭: 揺れの始まる1分前に起きあがる
1頭: 揺れの始まる瞬間にしゃがみ込む
1頭: 揺れの最中に起きあがる
4頭: 姿勢に変化なし
1頭: 装置故障のためデータなし
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年1月13日火曜日

ペルセポリス作戦

イスラエルがガザ地区へ地上軍を投入したことで中東は騒然としていますが、その少し前、『アル・アラビアというニュースサイトが以下のような記事を掲載しています。もともとは、アラブ首長国連邦の『NATIONAL』というメディアに12月14日付で掲載された記事のようです:
イランの核開発に危機感を募らせるイスラエルは、すでに、国連決議などの外交手段や経済制裁などでイランに核開発を放棄させることは不可能と判断していると言われます。イスラエルには、1981年にフランスの支援で建設中のイラクの原子炉を奇襲攻撃して破壊した「前歴」がありますので、イランに対しても同様の奇襲を仕掛けるのではないか、とみられています。

上の記事は、もしイスラエルがそのような攻撃をイランに対して仕掛けたら、その後どのような影響が出るかをシミュレーションした架空の記事です。記事では、このイスラエルによる攻撃を「ペルセポリス作戦」と呼んでいます。これは、1981年のイラクの原子炉に対する攻撃が「バビロン作戦」(別名オペラ作戦、オフラ作戦)と呼ばれたことに倣ったものと思われます。バビロンはイラク領内の古都です。イラン領内でそれに匹敵する知名度の古都といえばペルセポリスしかない、ということで選ばれたのだろうと思います。

なお、架空記事の日付は「2010年2月29日」となっていますが、2010年は閏年ではないので、その日は永久にやって来ません。

上記架空記事によると、ことの発端は以下のとおりです:
2010年2月27日土曜日、イスラエルが「ペルセポリス作戦」と名付けた軍事行動を決行、イランの核関連施設を攻撃した。この作戦でイスラエルは無人機を使用、イラン中部の Natanz にあるウラン濃縮工場と、ペルシャ湾岸の Bushehr 原子力発電所を攻撃、破壊した。第一撃によって、数万の遠心分離装置を稼働させていたと推定されるウラン濃縮施設内で、少なくとも19人の作業員が死亡。ロシアが建設した Bushehr 発電所については情報がない。
そして、「ペルセポリス作戦」後の世界の動きが述べられています(以下は記事の概略です。各段落のタイトルは私がつけたもので、もとの記事にはありません。):
バグダッド発、2010年2月29日月曜日  イスラエルの攻撃がもたらす結末はどうなるのだろうか ……

ホルムズ海峡封鎖・原油高騰

日量1700万バレル、世界の原油供給量の25%が通過するホルムズ海峡を、イランのエリート組織・革命防衛隊が封鎖。これが中東にさらなる緊張の高まりをもたらし、ニューヨーク商品取引所の取引では、原油価格が1バレルあたり163ドル上昇して228ドルになった。

アメリカ

イランに隣接するイラク領内に4万5000人の部隊を駐留させている米国が、この攻撃を事前に知っていたのか、同意を与えていたのかは明らかになっていない。イスラエルの報道によると、イスラエル国防軍はかなり前から、イランの原子炉に対する精密誘導兵器による攻撃を検討していたとされるが、ペンタゴン(アメリカ国防総省)との連携は除外されていた。バラク・オバマ大統領は世界の指導者たちや、国土安全保障省と国防省の長官たちと協議中と伝えられているが、今夕にもイスラエルを公に支持する声明を発表するものとみられている。

EU・国連・ロシア

EU の大統領を務めるベルギーの Yves Leterme 首相は、イランのアフマディネジャド大統領と最高指導者ハメネイ師のもとへ高いレベルの使節団を派遣。使節団には、イギリスの David Milliband 首相、国連の潘基文事務総長も加わっている。使節団は、イスラエルの不当な武力行使を非難し、イランの自制を求める報道声明を発表した。イラン政府は、イスラエルの攻撃後、同国の軍隊に高度の警戒態勢をとらせているが、明日に予定されているプーチン・ロシア大統領(首相から大統領に復帰?)の訪問を待ってから、報復行動に移るものとみられている。

在留外国人の避難

一方で関係各国は、破壊された Bushehr 原子力発電所に近い湾岸アラブ諸国から自国民を避難させるための大規模な空輸作戦を準備している。日曜日には、湾岸諸国で在留外国人が領域外へ脱出するための航空券を求めて空港に詰めかけたが、多くの航空会社が湾岸アラブ諸国への飛行を取りやめている。湾岸地域に多くの在留国民を抱えるインド政府は、すべての政府所有航空機と民間航空機が、自国民の湾岸アラブ諸国からの輸送にあたるよう命じた。

親欧米派の湾岸アラブ諸国には 1200万人の外国人が在留している。駐留米軍は高度の警戒態勢に入っている。サウジアラビアは、650万人におよぶ最大の外国人居住者を抱えている。それに次ぐのは、アラブ首長国連邦で500万人。これは同国全人口の80%に相当する。

食料高騰・株価急落

湾岸諸国の市民は食料品の確保に殺到。買い占めにより食料品の価格は急上昇した。ダウ・ジョーンズを筆頭とする欧米株式市場の急落をうけて、投資家からの売りが殺到、今朝の取引開始時点で17%下落したため、株式市場は閉鎖された。

イラン国内

日曜日にテヘランで開かれた200万人大行進と名付けられた集会で、アフマディネジャド大統領は熱弁をふるい、彼が「卑劣なシオニスト集団」と呼ぶイスラエルに対して報復し、地図の上から消し去ることを誓った。イラン全土で散発的に抗議運動が発生、デモ参加者たちは、国家が持てるすべての軍事力を使って、イスラエルと湾岸地域に展開する米軍の基地を破壊するよう要求している。

イラクの過激派

イラクの扇動的な聖職者アル・サドル師の影響下にある民兵組織のスポークスマンは、匿名を条件に、次のように発表している: イラク政府の同意の有無にかかわらず、イランが敵(イスラエル)の国境に近い戦略的地点を確保できるよう支援する方向だ。同様の支援表明ステートメントは、ハマスとヒズボラからも出されている。

イスラエルの核

イスラエルのネタニヤフ首相は、今日ホワイトハウスでオバマ大統領とペルセポリス作戦の影響について会談するが、「イスラエルは国家の総力を挙げて第二のホロコーストの可能性を除去する」と語っている。ネタニヤフ首相は、もしイランが報復におよんだ場合、核兵器の使用を検討するかとの問いに対して、核の存在について否定も肯定もせず曖昧なままにしておくという同国の方針を維持して、コメントを拒否している。アメリカのカーター元大統領は、かつて「イスラエルは少なくとも150発の核兵器を保有している」と語っている。

イランの軍事力

ペンタゴン(アメリカ国防総省)は、イランには徴兵制があり、イラン政府は少なく見積もっても約2000万人の兵員を動員できると推定している。これは、同じく徴兵制のあるイスラエルの総人口の4倍にあたる。

今年前半におこなわれた軍事パレードで、イランは「シャハブ4」大陸間弾道弾を公開している。これは、核弾頭搭載可能で射程2300km、イスラエルの全都市が射程内に入る。昨日、イラン軍部のスポークスマンは、射程1000kmの「ゼルザル4」ミサイル(ゼルザルは地震の意)を、「テルアビブ・ゼルザル」(テルアビブはイスラエルの都市、同国の人口の約3分の1が集中)と改名することを発表した。
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年1月12日月曜日

フィリピン海プレートとウナギ

10日に投稿した「移動する海嶺、広がる南極プレート」の記事で、プレートテクトニクスを学び始めたばかりの人からよく出る質問(FAQ)の一つに「フィリピン海プレートには海溝があるのに海嶺がないのはどうして?」というものがあると書きました。たとえば、以下のページにある質問が典型的なものでしょう:
回答の中には、巷間トンデモ説と見なされている内容のサイトを紹介したものもありますが、その他の回答は「まだ解明されていない、地学研究上のナゾ」、「解っていない」としています。しかし、一方で:

地球上にはたくさんのプレートがあり、重なり合い、また生まれては消えていきます。太平洋プレートは比較的新しく活発であり、フィリピン海プレートの海嶺はその活動に飲み込まれてしまったのではないでしょうか。今あるのはその残骸の活動と考えれば、一応説明はつくと思います。
とも書かれており、これは比較的妥当な考え方だと思います。

たしかに、フィリピン海プレートは沈み込む海溝だけがあって、プレートを生産する海嶺がないように見えます。その点では、南極プレートやアフリカ・プレートとは逆の立場にあると言えます。仮にそうであった場合は、「移動する海嶺、広がる南極プレート」にも書いたとおり、プレートの境界である海溝が移動して、プレートの生産と消費のバランスをとることになります。つまり、フィリピン海プレートは徐々に縮小するということです。現実にそのような例があります。フィリピンの南方、スラウェシ島(セレベス島)の東にモルッカ海という小さな海があります。モルッカ海プレートは、ほぼ南北に走る二つの沈み込み帯にはさまれて東西両方向に沈み込んでおり、いずれ2つの沈み込み帯が接触してモルッカ海プレートは消滅すると考えられています。

しかし、本当にフィリピン海プレートには、海溝だけで海嶺はないのでしょうか。

フィリピン海がどのように形成されたかについては、専門家の間で完全に一致した見解があるわけではありません。しかし、フィリピン海はユーラシア大陸の縁海(背弧海盆)として始まり、その後、数次の拡大期を経て今日の姿になったという考えが大勢です。

基本的な点を抑えるために、『世界大百科事典』(平凡社)の「フィリピン海」項目から必要なところを抜粋すると、以下のとおりです:
(フィリピン海の)大部分の海底は海洋性地域をもつ。中央部を九州南東方からパラオ諸島まで九州・パラオ海嶺と呼ばれる高まり(古島弧)が縦断する。九州・パラオ海嶺上の唯一の島である沖ノ鳥島(パレス・ベラParece Vela礁)は最南端(北緯約20°)の日本領土である。九州・パラオ海嶺の西側を(西)フィリピン海盆と呼ぶ。フィリピン海盆は台湾南東沖から東南東へ走るセントラルベーズン断層を拡大軸として、6000万年前ころから4000万年前ころまでの間に拡大してできた海底だとされており、水深は6000m前後ある。その北端には沖大東海嶺、大東海嶺(南・北大東島はこの上にある隆起サンゴ礁である)、奄美海台という三つの古島弧がある。九州・パラオ海嶺の東側の海底は、北を四国海盆、南をパレス・ベラ海盆と呼ぶが、どちらも約3000万年前から1500万年前ころまでに拡大してできた海盆であり、4500mないし5000mの水深をもつ。そのさらに東には、西七島海嶺から西マリアナ海嶺へつづく古島弧がある。西マリアナ海嶺の東側のマリアナ弧で囲まれる三日月形の海盆はマリアナトラフと呼ばれ、約500万年前以来拡大をつづけている水深3500m前後の起伏に富んだ海底である。フィリピン海の北東部に、マリアナトラフに相当する現在拡大中の海底があるかどうかについてはまだはっきりしない。西七島海嶺と七島・硫黄島海嶺の火山弧の間が拡大中との説もあるが、もしそうだとしても、マリアナトラフに比べると拡大した海底の面積も、拡大期間も小さいらしい。
上の記述で注目して頂きたいのは、次の3点です:
  • フィリピン海にも数本の海嶺が走っていること(必ずしも中央海嶺というわけではありません)、
  • かつて拡大軸があったこと、
  • 現在も拡大を続けている海底があること、です。
つまり、フィリピン海プレートは沈み込むだけではなく、現在も拡大している部分があるということです。さらに、プレートの拡大は、中央海嶺の専売特許ではなく、トラフでもおこるということです。縁海(背弧海盆)にはこのパターンが多いようです。

なお、マリアナトラフという地形が出てきますが、トラフというと知名度の高い南海トラフからの連想で、プレートが沈み込む場所と誤解している方がいます。しかし、トラフは必ずしもプレートが沈み込む場所だとは限りません。沖縄諸島の西側にある沖縄トラフ(側の琉球海溝とは別)やこのマリアナトラフは、海底が拡大する場所となっています。つまり、トラフには、海溝と同じくプレート収束帯の働きを持つ南海トラフのようなものと、中央海嶺と同じくプレートを拡大するはたらきをもつマリアナトラフのようなものがあるということです。

文章だけでフィリピン海プレートの形成過程を理解するのは困難だと思います。そこで、以下に紹介するページを見て頂きたいと思います。1ページ目の下の方に、各海嶺の位置を示す地図やフィリピン海プレートの成長過程を示す地図があります。

ニホンウナギの産卵場所は長い間ナゾとなっていましたが、最近、フィリピン海プレート上にあるマリアナ諸島西方沖の海山であることが明らかになっています。この産卵場所はフィリピン海プレートの成長につれて移動してきました。このことが、ニホンウナギの種分化に大きな役割を果たしたのではないか、との考えが述べられています。実に興味深い内容です:
1ページ目に添えられているフィリピン海プレートの形成過程を示す地図でもはっきり示されていますが、プレート境界の海溝が、新たに誕生したり、消滅したり、移動したりしていることに注目してください。

移動する海嶺、広がる南極プレート(補足)

南極プレートが拡大していることを示す動画がないかと探していましたが、海嶺まで描き込んであるものは見つけることができませんでした。以下は、超大陸パンゲアが分裂して、その一部であった南極大陸が現在の位置に近づくまでを描いた「手動」の動画です:
地図の下に表示されているスライダーを、マウスで左右にドラッグすることによって、パンゲアの分裂を自分で制御しながら眺めることができます。

スライダー上の表記の意味は次のとおりです:
  • Triassic(中生代三畳紀)
  • Jurassic(中生代ジュラ紀)
  • Cretaceous(中生代白亜紀)
  • Tertiary(新生代第三紀)
  • Quaternary(新生代第四紀)
  • Present(現在)
  • mya(単位は100万年、たとえば「235mya」は2億3500万年前)
この「手動」動画に大陸と大陸の間の中央海嶺は描かれていませんが、だいたい各大陸の中間付近にあったと見なしてください。頭の中で中央海嶺の位置を想像しながら、スライダーを右方向に動かしてみてください。南極大陸を囲むように中央海嶺があったとすると、それは南極大陸から遠ざかる方向に徐々に移動し、その内側、すなわち南極プレートの面積が時代とともに拡大していることが十分に想像できると思います。南極プレートは、パンゲアの分裂以来、基本的に拡大傾向を続けており、それが現在も続いていることがおわかりいただけると思います。

最後に、繰り返しになりますが、以下の点を再度強調したいと思います:
  • 海嶺や海溝が新たに生まれることがある。
  • 海嶺も海溝も活動を止めることがある。
  • 海嶺も海溝も移動する。
  • 海嶺が海溝に沈み込むことがある。
  • 海溝どうしがぶつかって、間のプレートが消滅することがある。
Image credit: U.S. Geological Survey

2009年1月10日土曜日

移動する海嶺、広がる南極プレート

Credit: U.S. Geological Survey

プレートテクトニクスを学び始めたばかりの人からよく出る質問に、「南極プレートは海嶺に囲まれていて、海溝がないのはおかしくない?」、「フィリピン海プレートには海溝があるのに海嶺がないのはどうして?」、「太平洋プレートがあるのに、『大西洋プレート』がないのはなぜ?」などがあります。

これらの質問が出る背景には、プレートの境界を非常に静的にとらえていることがあると思います。プレートテクトニクスの通俗的な解説書にはあまり書かれていないのではないかと思いますが、次のような動的な現象があることを理解できれば、上記のような疑問は氷解するのではないかと思います:
  • 海嶺や海溝が新たに生まれることがある。
  • 海嶺も海溝も活動を止めることがある。
  • 海嶺も海溝も移動する。
  • 海嶺が海溝に沈み込むことがある。
  • 海溝どうしがぶつかって、間のプレートが消滅することがある。
ちなみに上記南極プレートに関する疑問について、「グローバルテクトニクス 地球変動学」(杉村新、東京大学出版会)には次のように書かれています:

これら(アフリカプレートや南極プレート)は一部を除きほとんど拡大軸(海嶺)で囲まれている。もし拡大軸が動かないとすると、アフリカも南極もどんどん隆起でもしないと説明がつかないが、そういうことは決してない。これらの拡大軸の位置は、外へ外へと動いてゆき、アフリカプレートも南極プレートも、面積を拡げつつあるのである。このことが理解できないと、プレートの概念のポイントを把握したことにならない。

注:括弧内の文言は私(Nemo)が補足したものです。

プリウスを非常時の電源に

先月、アメリカ東海岸をブリザードが襲い、広い範囲が数日間にわたって停電しました。その際、ハイブリッド車のトヨタ・プリウスを使って家庭電化製品に給電し、急場をしのいだという経験談が紹介されています:
1番目の記事によると: これをおこなったのはマサチューセッツ州ハーバードに住む電気技師の男性。プリウスのバッテリーからの直流電流を、インバーターを通して120ボルトの交流に変換。冷蔵庫、冷凍庫、薪ストーブの送風扇、テレビ、照明などに利用。プリウスは、バッテリー残量の減少に応じて、おおよそ30分ごとに数分間程度自動的にエンジンがかかる状況だった。3日間の停電中、通算17キロワット時を発電、5ガロン(約19リットル)のガソリンを消費。熱力学的には効率がいいとは言えないが、停電の際には効率は二の次。

通常のガソリン自動車では、バッテリーの残量が少なくなるとエンジンが自動的にかかって発電・充電するという機能がありません。そのため、常時エンジンをかけた状態にしておく必要があり、家庭電化製品に給電する目的には使いづらいと思われます。また、バッテリーの蓄電容量もハイブリッド車に比べればはるかに小さい点もネックになると思われます。

2番目の記事では、非常用にハイブリッド車の電源を家庭用に変換するキットを売り出す企業はないだろうか、と提案しています。ハイブリッド車の所有者にとっては、災害用に自家発電機を準備しておくよりは、コストパフォーマンス的に有利な選択肢になるのではないでしょうか。

2009年1月9日金曜日

地質学者と気象学者

気象条件と地震発生の関係については否定的な意見が大勢ですが、次のような記事が、カリフォルニア州のニュースサイトに掲載されています:
この記事でいう「地質学者」は、私の1月4日付の記事「"earthquake intuitive" な女性」でも紹介した、お騒がせ「地質学者」ジム・バークランド氏のことです。

バークランド氏の1月の地震予想時期(ウィンドウ)は、1月8日から15日。上記記事によるとその主な理由は:
  1. この時期、ゴールデン・ゲートの潮位が8.9フィート(最高潮位 9.2フィートをわずかに下回る)
  2. 1月10日の満月は月が近地点を通過した16時間後で、1月4日に地球が近日点を通過して6日後
というものです。

これに対して、Southern California Weather Authority の気象学者ケビン・マーチン氏が、気象学の立場から肯定的な見解を表明しています。以下は上記ニュースサイトの記事からの抜粋です:
多くの人が地震予知は不可能だという意見に同意しているが、Southern California Weather Authority の気象学者ケビン・マーチン氏は違う見解を持っている。「気象パターンが我々の近隣にある断層に影響を与えている。事実、1994年のノースリッジ大地震のときには、高気圧の長大な尾根が、これから予想されているサンタ・アナ風(Santa Ana wind)の期間とまったく同じ位置に滞留していた。(滞留が)予想される期間は1月9日から14日の間である。これは、地質学者のジム・バークランド氏が発表している(地震発生が予想される)期間と重なっている。大きな地震がおこるとすれば、この期間内に発生するだろう。」

マーチン氏は地震の予知はおこなっていない。しかし、彼の研究によるところの地震の引き金となりうる気象条件が、地質学者ジム・バークランド氏の地震予想期間内におこると述べている。

「私は、ノースリッジ大地震級の地震が起こりそうだから避難しろと言っているわけではない。しかし、(気象)パターンはノースリッジ大地震のときとほとんど同じだと言わざるをえない。気象パターンが地震発生の指標であるならば、常に備えていなければならない。バークランド氏の地震予想期間が、(ノースリッジ大地震のときと同じ)気象パターンと同期していることを考慮して、私は地震が起きたときの備えをしている。『備えよ常に』という言葉を肝に銘じなければならない」とマーチン氏は語る。
Southern California Weather Authority」という名前や「www.socalweather.org」という URL は、いかにも公的な気象予報機関という印象ですが、実際は民間の組織です。ホームページの一番下に小さい字で「DISCLAIMER: The Southern California Weather Authority is a private weather forecast and information agency(中略)Claims are not made 100% and weather is never a sure thing ...」と言い訳がましいことが書いてあります。

そして、上のニュースサイトの記事をもう一度見てみると、冒頭に「SocalWeather.Org」とあり、記事そのものがこの民間組織から提供されたものであることがわかります。

なお、サンタ・アナ風については、以下を参照してください:

イエローストーン一帯に避難命令?

いつも見ている USGS(米国地質調査所)のウェブサイトに、いきなり以下の記事が掲載され、少々面食らいました:
原因は、天然ガスを扱う会社の社長で自称「地質学者」の男が、自分の管理するウェブサイトに、USGS のロゴを使って "Yellowstone National Park - State of Emergency"(イエローストーン国立公園 ― 非常事態)と題する文言を掲載、イエローストーン周辺から避難するように呼びかけたことにあるようです。この男のサイトは現在アクセス不能になっています。下記記事に経緯が書かれています。記事の下部には、この男がイエローストーンの噴気を背景に、深刻な顔つきで噴火の危険性を述べる YouTube の動画が掲載されています:
以下の記事は、この男に電子メールでインタビューした結果を掲載しています。本人はいたって大まじめで、過去10年間、カリフォルニア州の多くの災害を予知してきたと述べ、繰り返し自分の事業(天然ガスの採掘)が連邦政府と深い繋がりを持っていることや、自分の経験の豊富さを強調しています。USGSのロゴを使ったことも正当なことだと主張しています:
さらに別のサイトも、ニセの避難命令を転載したようです。こちらはアクセス可能ですが、問題の記事はすでに削除されているようです。

日本でも、巨大地震の危険を煽って「非常事態」を連発し、避難を呼びかけるようなサイトを見かけますが、何とかならないものでしょうか。騙される人はほとんどいないでしょうが、このようなサイトがあるせいで、宏観異常にもとづく地震予知への信用が大きく損なわれ、色眼鏡で見られる状況になっていると思います。

2009年1月8日木曜日

地球には内核が2つある !?

地球には2つの内核があり互いに逆方向に回転しているという、にわかには信じがたい仮説が登場しました。アメリカ・ケンタッキー州にある Murray State University の2人の研究者が、先月開催された AGU(米国地球物理学連合)の大会で発表したものです。以下は、その発表内容を伝えるディスカバリー・チャンネルの記事です:
これまでの地球の内部構造モデルでは、地球内部は大きく分けて
  • 地殻(固体)
  • マントル(固体)
  • 外核(液体)
  • 内核(固体)
の4層に分かれている、とされています。今回の新しい仮説は、液体の外核の中に2つの内核があって、互いに逆方向に回転しているとするものです。

Credit: U.S. Geological Survey

以下は上記記事の概略です:
44億5千万年前、火星サイズの天体が地球に衝突した。当時の地球は誕生したばかりで、高温でほとんど融けた状態だった。衝突によって飛び散った破片が集まって月ができた。火星サイズの天体が衝突したとき、その天体の核は飛散せずに地球内部に留まり、地球本来の核のそばまで沈み込んだ。

太古の天体衝突によって月が形成されたとする説は、現在ひろく認められている。しかし、ほとんどの科学者は、2つの核は地球内部の途方もない高い圧力によって一体化してしまっていると考えている。

依然として内核は神秘的な場所である。最近、科学者は、内核が地球の他の部分よりも高速で回転していることを発見した。地震波がどのように鉄の内部を伝搬するかについての昨年おこなわれた研究では、核が明確な2つの領域に分かれていることが明らかになった。しかし、それ以上のことはほとんどわかっていない。

2人の研究者は、2つの内核があることによって、プレートテクトニクスの発生や、地球がその大きさから想定される温度に比べて今日もなお熱いままでいる理由、などを説明できると考えている。「もしこの仮説が真実であるならば、われわれが知っているすべての地球のモデルは変更を迫られる」、「もしこの仮説が間違っていて、2つの核が早い段階で合体してしまっているとしても、地球の初期に2つの内核が存在したと考えることによって、プレートテクトニクスがいかにして始まったかを説明できる」。

2つの内核は互いに逆方向に回転している。2つの内核は、その回転によって背後からマグマを吸い込み、それを前方に吐き出す。もし、この運動が十分に長い期間続いたならば、巨大な循環流が発生し、正面では地球表面のプレートを分裂させ、後方ではプレートをマントルの中に引きずり込む。

回転運動による摩擦が地球を熱く保つ。

研究者たちは、まだ状況証拠に基づく推測に過ぎないことを認めている。「まだ確固とした証拠はないし、(2つめの内核が)今も存在していると100%断定しているわけではない。地球の内部を調査するのは非常に困難だ。」

この仮説についてコメントを求められた科学者たちは、皆非常に懐疑的である。コロンビア大学 Paul Richards氏は、「地球の内核は、その体積や質量の観点から、地球全体に比べて非常に小さく、約1%しかない」、「内核の運動が、地表のテクトニックなプレートを動かす重要な役割を果たしているということは、非常に疑わしい」と語っている。
記事の中で、2つの内核が互いに逆方向に回転することによって、「背後からマグマを吸い込み、それを前方に吐き出す」とされている点について、イメージが湧きにくい方もおられるかも知れませんので、私流に少し説明します ――
2つのボールを思い浮かべてください(ゴルフボール、テニスボールなど)。その2つのボールが接近して机の上に置いてあり、それを上から眺めている状況を想像してください。左側のボールは上から見て反時計回り、右側のボールは時計回りに回転しているとします(回転軸は机に垂直)。2つのボールの手前側にある空気は、2つのボールの回転に巻き込まれ、2つのボールの間を通り抜けて、反対側に放出されます(空気では粘性が弱いので、流動パラフィンをイメージした方が良いかも知れません)。このことによって、2つのボールの周囲に一定方向の流れが発生します。実際の地球では、この流れがマントル・プリュームとなって、「正面では地球表面のプレートを分裂させ、後方ではプレートをマントルの中に引きずり込む」というわけです。
発表した研究者たちによると、この新しい仮説によって以下の点が説明できるとのことです:
  1. 太陽系内の地球型惑星の中で、なぜ地球だけにプレートテクトニクスが働いているのか。
  2. プレートテクトニクスはどのようにして始まったのか。
  3. 何がプレートを動かし始めたのか。
  4. なぜ、マントル・プリュームが発生するのか。
  5. なぜ、外核は液体なのか。
  6. なぜ、マントルの最深部に地震波の超低速度域が存在するのか。
  7. なぜ、地球の磁場は変化するのか。
(1)については、火星や金星でプレートテクトニクスの痕跡と思われる地形が見つかったとの報告があります。また、氷の「地殻」を持つエンケラドスやタイタン(ともに土星の衛星)でもテクトニックな運動によると思われる地形が見つかっています。

なお、内核が予想以上に高速で回転していることについては、次の動画による解説が参考になります:
以下は、内核の回転についての別の説です。図2が興味をそそります:
冒頭で、今回発表された仮説について「にわかには信じがたい」と書きました。ウェーゲナーが大陸移動説を発表したとき、当時のほとんどの人たちも同じような感想を抱いたのではないでしょうか。

2009年1月6日火曜日

イエローストーンの群発地震が沈静化

アメリカ・イエローストーン国立公園で起きている群発地震は沈静化しているようです:
記事によると、この週末から現在にかけて、地震の数、規模ともに低下。M2を越えるものは1件しか発生していないとのことです。群発地震はこのまま終息するのか、それとも一時的な小康状態に過ぎないのか、現時点では判断できません。ニュースサイトによっては、大噴火について不安を煽るような記事を載せているものもありますが、大方の見方は心配することはないというトーンです。科学誌『サイエンティフィック・アメリカン』のサイト所載の記事に書かれている、次の言葉が現時点では一番合理的な見方だと思います:
The real warning signs will be rapid changes in the shape of the ground as well as volcanic gases leaking from the ground, neither of which have been sighted―yet.

本当に警戒しなければならない兆候は、(群発地震ではなく)地盤の急激な変動と、それに付随する火山ガスの漏出である。その二つのいずれもが、現時点では観測されていない。

以下は、イエローストーン地域の震源マップです。1時間ごとに更新されているようです:
こちらは、イエローストーン地域の観測ステーションを示した地図です:
観測ステーションに付いているラベルをクリックすると、その観測ステーションで記録された連続波形を過去1週間分見ることができます。日本の Hi-net の連続波形画像と同じ要領です。群発地震の活動がもっともさかんだったイエローストーン湖北岸にある「LKW」というラベルをクリックして、1週間前と現在の波形を比較すると、沈静化の様子を視覚的に確認できます。

2009年1月5日月曜日

地震多発の週末

この週末、世界中で大き目の地震が発生しています。心配になるのは誰でも同じなのでしょう。次のような記事が目にとまりました:
以下は記事の概略です:
地震活動が増加しているのは偶然だろうか? 毎日、地球上のどこかで地震が起きているが、過去24時間の地震活動は非常に活発だった。現地時間の土曜日遅くにパキスタンでM5.9があり、ロシア、日本、アルゼンチンでも地震があった。

(地震の少ない)ペンシルバニア州ヨーク郡ディルズバーグですらM2.4の地震があった。スーパー・ボルケーノのあるイエローストーン国立公園でも多数の地震が発生している。不思議なことだが、この記事を書いている時点で、イエローストーンの地震活動レポートの更新が停止したままになっている。前回の更新以降、M3.0の地震が新たに発生しているにもかかわらずだ。おそらく週末の職員の勤務時間が関係しているのだろうが、誰かが何らかの理由でデータを公表したくないと思っているのかも知れない。

それはともかく、インドネシア・パプアの北岸で最大級の地震(複数)が発生した。M7.6とM7.5を記録している(USGSはその後、数値を修正しています)。たくさんの強い余震が続いている。インドネシアの気象・地震局は津波警報を発令したが、震源が陸域にあるということで1時間もたたないうちに警報を取り消した。

今、多くの人びとがイエローストーンに注目している。地震の規模は大したことがないにも関わらずだ。しかし、地震が起きている場所が場所だけに心配で、噴火が起こるかも知れないとの懸念もある。スーパー・ボルケーノの噴火は地球全体に影響が及ぶ可能性がある(規模や継続期間にもよるが)。7万5000年前、インドネシアのトバ湖でそのような大噴火が起きたときには、地球は「火山の冬」(volcanic winter)に突入し、当時の人口の60%が抹殺された。

最近の地震活動の増加は偶然かも知れない。しかし、それは何かもっと悪いことがわれわれの行く手に立ちはだかるのではないか、との不安を抱かせる。
上記の記事では触れていませんが、この週末にはスイスやギリシャなどでも地震が起きています:
地球の近日点通過前後は、太陽の引き起こす潮汐力が強まるので地震が多発したと考える向きがあるかも知れませんが、その可能性は低いと思います。毎年、同じ時期に地球は近日点を通過しますが、その時期に特に地震が多いという傾向は見られません。

Image Courtesy: Copyright (c) Larry Fellows; Image source: Earth Science World Image Bank

インドネシア・ニューギニア島西部の大地震

今回の大地震はニューギニア島の西端、ドベライ半島で発生しました。ドベライ半島は別名「鳥の頭」とも呼ばれます。ニューギニア島が全体として鳥の形に見え、同半島がその頭部に相当することからの命名です。ちなみに、ニューギニア島の西半分はインドネシア領、東半分はパプア・ニューギニア領です。

下の図は、USGS(米国地質調査所)のウェッブ・サイトに掲載されているものです。震央は陸域にあります。津波に直結するような海底地震ではなかったわけです。気象庁が当初、津波注意報を出すことをためらった理由の一つかも知れません。

Credit: U.S. Geological Survey

今回の大地震を考えるには、震源周辺のプレートの基本的な配置を頭に入れておくことが重要ですが、震源のあるインドネシア東部のプレート構造は、非常に複雑です。震源周辺を拡大した上の図でも、震源の周囲に4本の構造線が走っています。それらについて、簡単に説明します:

【図の上端中央から真下に震源に向かってのびる赤い線
アユ・トラフとよばれ、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界です。アユ・トラフを北にたどると、パラオ海溝、ヤップ海溝を経て、マリアナ海溝(南端部は世界最深のチャレンジャー海淵)につながります。

フィリピン海プレートと太平洋プレートの相対運動の極は、この図の北方、パラオの南付近にあります。この極より北では、両プレートは収束傾向を示しますが、極より南にあるアユ・トラフは拡大する傾向を持っています。
【赤い線の下端から右にのびるピンク色の線
太平洋プレート(研究者によってはカロリン・プレート)の沈み込み帯です。
【震源の上側を左右に走るピンク色の線
【震源の下側を左右に走る緑色の線
左横ずれ断層です。この地域では、フィリピン海プレートと太平洋プレートはともに南西ないし西南西方向に沈み込んでいます。この斜め沈み込みの西向き成分に引きずれる形で、左横ずれ断層が発達しています。

この断層線を西にたどるとフィリピン海溝に、東にたどると南ビスマルク・プレートを形成する海嶺のトランス・フォーム断層に接続しています。
今回の大地震は、フィリピン海プレートの南端部で発生しました。そこは、フィリピン海プレートと太平洋プレートを含む少なくとも3つのプレートが複雑に影響しあう場所です。ひるがえってフィリピン海プレートの北端部はどうでしょうか。そこは関東地方とその周辺で、やはりフィリピン海プレートと太平洋プレートを含む3つのプレート(最新の説では4つ)が関係する場所です。そういう意味で、今回の大地震は暗示的であり、新年早々嫌な場所で大地震が起きてしまった、という印象を持っています。

地球が近日点通過

今日1月5日午前0時、地球が近日点を通過しました。地球と太陽の距離がもっとも短くなった瞬間でした。

半年後の7月4日午前11時には遠日点を通過します。このときの地球-太陽間の距離と比べると、今日の地球は500万kmほど太陽に近いところにいます(地球の中心と太陽の中心の間の距離で計算)。

地球は毎年、北半球の冬に近日点を通過し、北半球の夏に遠日点を通過します。太陽に近いときに寒く、太陽から遠いときに暑いのはなぜでしょうか。それは、地球の回転軸(地軸)が公転面に対して傾いていることに起因する日照時間や、地面に対する太陽光線の角度の変化の方が、
太陽との距離より大きく気温に影響するからです。南半球では、夏に太陽に近づき、冬に太陽から遠ざかることになるので、夏はより暑く、冬はより寒くなりそうですが、気候には太陽との距離以外にも多くの要因が関与するので、北半球と南半球ではっきりとした違いがあるわけではないようです。

2009年1月4日日曜日

"earthquake intuitive" な女性

これも、一つ前の投稿と同じく中国・四川大地震のために投稿を保留してそのままになっていた原稿です。群発地震が続くネバダ州・リノ(Reno)の新聞『リノ・ガゼット・ジャーナル』が、昨年5月19日付で次のような記事を掲載しました(現時点では、残念ながら記事は削除されています):
記事の内容は次のようなものでした:
タホー湖(ネバダ州リノの南南西、ネバダ州とカリフォルニア州の境界にある湖)近くに住む女性Cal Orey氏は、自分のことを"earthquake intuitive"(地震を心や本能で直接感じ取ることができる、地震を直観的に知覚できる)だと言う。彼女は、頭痛、不安、ビジョン、音、夢などが、地震がやってくることを知らせてくれると語る。

「科学者たちは私たちのことを、信用できないし地震予知ができているわけでもない、と言い続けています」、「でも、私たちにはできるんです(But yes, we can)。私たちは何度も地震を予知しているんです」とOrey氏は語る。

Orey氏は、自分の地震予知について議論するためのウェッブ・サイトを持っている。彼女によると、約140人の"earthquake-sensitive"(地震に対する感受性を持つ)な人たちがそこに集って、議論を重ねているとのことである。

Orey氏の語るところによると、彼女は、今年(2008年)Mogul地域で発生した地震(複数、群発地震)を予知し、また、昨年(2007年)6月にはカリフォルニア州北部の沖合で発生したM5.0の地震を正確に予知し、地質学者のJim Berkland氏から50ドルの賭金を獲得した。

Berkland氏は、サンタ・クララ郡の地質学者で、1989年10月にサンフランシスコ湾岸地域で大地震がおこることを予知、Loma Prieta地震(M6.9)が予知どおりに発生している。

Orey氏はBerkland氏の伝記を執筆し、彼との交流を通じて自分に地震を予知できることを覚ったと語る。彼女は、『Cats Magazine 』、『Dog World』、『Women's World』などの雑誌に動物の地震予知能力についての記事を書き、それがきっかけとなってBerkland氏との交流が始まった、そして、そのことがBerkland氏の伝記を書く契機となった、と語る。

動物の地震予知能力について問うと、彼女は「動物は地震を直感するのです。地震を予知するのではありません。彼らは直感するのです」と記者の認識を訂正した。

彼女は地震前の動物の奇妙な行動に気づいていた。昨年(2007年)、彼女の住むタホー湖南部でクマを目撃し、サン・ノゼで(昨年)10月におきたM5.4の地震を予知した。タホー湖周辺地区でクマについて何か異常なことがあったのだろうか? 「Bijou Pinesのこんなに近くでクマを見かけることはありません」、「コヨーテやアライグマならともかく、クマを見ることは決してありません」と彼女は語る。このときのクマは震源から150マイル(約240km)も離れた場所に出現した。しかし、彼女は「動物は数百マイル離れたところでも地震の影響を受けるのです」と語る。

彼女は、動物が地震を察知することについて記事を執筆した後、自分自身も地震を予知する能力があることに気づいたという。彼女は、多くの人びとが同じ能力を持っていると考えている。「私たちは人類は忙しすぎるのです。それで私たち人類はその能力に関与しないことを選択したのです。私は、その能力を研ぎ澄ますことを選択しました」。

「頭痛はしばしば地震の指標となります」と彼女は言う。「それは、洞(鼻孔に通じる頭蓋骨の空洞部)が痛む副鼻腔炎のような独特な頭痛で、地震が起こるまではどんなことをしても治まりません」。

もうひとつの指標は頭の中に聞こえる音である。彼女はこれを"ear tone"(耳鳴りのことか?)と呼んでいる。

彼女は、Wells地域でM6.0の地震があった日に電子メールをガゼット・ジャーナル紙宛に送ってきた。「私は地震を予知します、今回の地震もなんとか予知していました」というのが最初のメールのタイトルだった。そして次のメールは「私は、リノ地域が揺れたM6.0の地震を予知していました」というタイトルだった。

Wells地域の地震に対応する単一の予知が、後にはMogul地域の群発地震の予知に拡張されている。「この一連の地震はWells地域で発生したまれな地震に引き続いておきたものです」とWells地域の地震とMogul近郊の地震は関連があると信じているOrey氏は言う。

Orey氏は、Mogul近郊でM2.9の地震が発生した後の5月14日に記者のインタビューを受けた。その席で、彼女はその日のうちにもう1回地震が起こるだろうと予知した。確かにM3.4の地震がおきたが、発生したのは翌朝の6時44分だった。Orey氏によれば、これも彼女の予知した範囲内とのことである。
記事には地震発生場所として3つの地名 ―― リノ(Reno)、Mogul、Wells ―― が出てきます。混乱する方もおられると思うので、少し解説します。3つともネバダ州内の地名です。リノは群発地震が発生している町の名前です。その群発地震のほとんどの震源が集中している場所がMogulと呼ばれる地域で、リノの中心部から10kmほどの場所です。リノもMogulも、タホー湖の北北東約30kmにあります。ネバダ州で発生している群発地震を語るときに、「リノの群発地震」とも「Mogulの群発地震」とも言います。一方、Wellsは、リノやMogulから東北東に約460km離れており、一連の群発地震とはあまり関係がない場所です。

記事の最後の方の段落では、このOreyという女性が地震の発生場所(Wells→Mogul)や発生時期(今日中→翌朝)を都合良く拡大解釈している点について、あからさまには書いていませんが、記者が懐疑的になっている雰囲気が伝わってきます。このような予知の拡大解釈は、日本でも、「自分は地震予知ができる」と言いはる、あるいはそう思いこんでいる人によく見られる現象です。

日本の地震予知関係の掲示板でも、いわゆる「体感」、耳鳴り、頭痛などで地震が予知できると思っている人(「宏観異常者」)の投稿をしばしば目にします。しかし、はっきり言って偶然以上の確率で地震が予知できている人はいないようです。マグニチュード3や4クラスの地震を引っ張り出してきて、自分の予知の結果だと言われても説得力はまったくありません。また、このような「宏観異常者」の常として、「当たりを数えて、外れを忘れる」という故カール・セーガン博士(疑似科学批判を積極的におこなった著名な宇宙科学者)の言葉も良く当てはまるようです。

記事中に登場するJim Berklandという「地質学者」は、これまで何回か大地震の予知を公表して騒ぎを起こしたことで有名な人物です。色々言われていますが、率直なところ私は良い印象を持っていません。

以下は参考資料です:

2009年1月3日土曜日

新しい地震予知の手法 (増補版)

昨年5月10日に『新しい地震予知の手法』と題した投稿を、「宏観休憩室 地震前兆研究村」という掲示板におこないました。さらに詳しい投稿をしようと原稿を準備していたところ、5月12日に中国で四川大地震が発生し、そちらに集中するため、用意していた原稿は投稿せずお蔵入りとなっていました。そのままにしておくのももったいないので、増補版としてこのブログに掲載することにしました。

昨年5月10日の投稿では“shear-wave splitting”(横波の分割)という英語をそのまま使いましたが、「S波異方性」あるいは「S波偏光異方性」という訳語があるようです。ここで言う「S波」は、P波・S波(primary wave / secondary wave)というときの後者を指していますが、たまたま“shear-wave”の省略形にもなっています。

イギリスと中国の地球物理学者のチームが、従来のアプローチとは異なる角度から地震波を分析することによって、地震予知を可能にする手法を発表した、と科学誌ネイチャーのサイトが伝えています:
上のURLにあるネイチャーの記事は、無料では冒頭の部分しか読めません。類似の記事で無料で読めるものは以下にあります:
以下は、上記ネイチャーの記事の概略です:
イギリスと中国の地球物理学者たちからなるチームが、地震観測に新しいアプローチを行っている。そのアプローチによれば、地震の発生時刻、規模、そして条件が整っていれば発生場所も予報することが可能になる。このチームが提示した証拠によると、小規模の地震では 1時間前に、大規模な地震であれば数ヶ月前に警報を出すことができる。

研究チームのリーダー(イギリス・エジンバラ大学 )は次のように述べている ―― 重要なポイントは、特定の断層に注目するのをやめて、より広い視野を持つことである。断層そのものは、正確な地震予報をするために必要な情報を提供してくれない。必要な情報は断層の周囲数百キロメートルの範囲の応力を観察することによって得られる。

地震予知の研究といえば、これまでは、地震発生源を調査するか、地震発生の統計的パターンを見つけようとすることだった。そのような研究が 120年間続けられてきたが、うまくいっていないことは明らかだ。「予知」といえばそれらの古いアプローチがイメージされてしまうので、研究チームでは彼らの新しい方法を「応力(ストレス)予報」と呼んでいる。

応力(ストレス)マッピング

新しい方法では「S波異方性(shear-wave splitting)」と呼ばれる現象を利用する。地震波のうち、横波である S波は、岩石を通過するときに 2つの成分、すなわち、岩石中の微小な亀裂に平行な成分と垂直な成分に分かれる。二つに分かれた波は伝搬速度が異なるため、地震計に到達するまでの時間に差が生じる。

岩石中の微小な亀裂の方向は、その岩石を含む地殻の応力(ストレス)を反映する。応力が増加するほど、亀裂の方向がそろい、それにともなって S波の 2成分の到達時間の差が大きくなる。

これまで、研究者は地震地帯の歪みの蓄積の度合いを、人工衛星から地表の動きを観測した地図で間接的に測ってきた。しかし、このような方法では地震が発生するような地下深くの場所の応力(ストレス)の変化については大ざっぱな情報しか得られなかった。応力については、断層で直接計測・監視することも行われてきたが、そのような局地的なデータでは、いつ、どこで断層の滑りが発生するのかわからなかった。局所効果はカオス的であり、予測できない。しかし、もっと広い範囲での応力の変化を監視すれば、このような予測不可能性は払拭できる。

パターンを見いだす

1999年10月、アイスランド南西部にある地震観測所が、S波異方性による時間差が増加していることを報告してきた。この変化はその 4か月前に発生した M5.1 の地震の前に観測されたものと類似していた。研究チームでは、同一規模の地震が間もなく発生するか、M6 規模の地震が 3か月以内に発生すると予報した。そして、3日後に M5 の地震が発生した。

この経験により、S波異方性が重要な情報を提供している可能性があるというヒントになった。さらに研究を続けた結果、S波異方性を詳細に監視すれば、発生時刻、規模、発生場所の 3要素をより精確に予報することが可能である、と断言できるようになった。

研究チームでは、震源の位置については他の要素から推定できると考えている。他の要素とは、地震発生の数時間から数週間前に、どこでどの程度のS波異方性による時間差の変化が急速に低下しているかという情報などである。
このような変化は、地震発生前に小さな亀裂がより大きな亀裂に成長していく際の歪みの解放によって起こっている可能性がある。

さらにデータが必要だ

カリフォルニア大学デービス校の地球物理学者で、過去に起こった地震の統計的パターンによって地震を予測する研究に携わっている John Rundle 氏は今回提示された新しい方法について次のようにコメントしている ―― どんな新しい方法も、その有効性が明らかになるまでもっと多くのテストが必要だ。

地震予知が不可能ではないと考えるに十分な理由がある。しかし、その研究を岩石の基本的な力学からスタートすると、大変な困難に遭遇する。地震に関与する岩石の性質についてはわずかしかわかっておらず、非常に多くの変数が存在する。これについて研究チームのリーダーは、自分たちの方法は岩石そのものの力学ではなく、地震に関わるシステム全体の力学を対象にしていることで回避できている、と述べている。

実用化するには

今回の新しい方法を実用化するにはいくつかの障害がある: 地震地帯で発生する小さな地震から得られるデータをより頻繁かつ一貫性をもって集める必要があること。油田の調査に使われる人工的な地震を発生させる装置は、そのようなデータを与えてくれるが、費用がかかる。地震の人工的発生源と観測装置の双方は地中に設置しなければならないが、そのための費用も必要である。

ある地点から 400km の範囲内の被害地震を監視するための応力監視サイトを設置するには 400万から1000万ドル必要である、確かに大がかりだが、それによって予知が可能になることは、多くの証拠が示している、と研究チームのリーダーは語っている。
この方法による予知を実施するに要する費用の問題については、日本では事情が異なると思います。日本では、世界に類を見ないほどの密度で高精度の地震計が設置されているので、上記の研究チームのリーダーが述べているほどの金額は必要ないのではないでしょうか。

S波異方性による地震予知については、日本でも以前から研究されているようです:

2009年1月2日金曜日

イエローストーンの群発地震(続報)

イエローストーン火山観測所(YVO)が1月1日づけでレポートを発表しています:
内容を以下にまとめてみました:
火山警戒レベル: 平常
航空カラー・コード: グリーン

地震についての概括

イエローストーンの地震活動は2008年12月に顕著に増加した。これは、12月26日に始まった活発な群発地震活動によるものである。この群発地震は、イエローストーン国立公園内にあるイエローストーン湖北部の地下でおきている。このレポート執筆時点までで、最大の地震は12月27日午後10時15分に発生したM3.9である(時刻はアメリカ山岳部標準時間、以下同じ)。12月31日午後5時までにM3.0~3.9の地震が12回、M2.5~2.9の地震が約20回、M1以上で震源を特定可能な地震が少なくとも400回発生している。

群発地震の震央は、南北方向にのびた長さ約7kmの帯状の地域に集中している。ほとんどの震源の深さは5kmより浅い。原因となる断層の特定は現時点では不可能。

今回の群発地震は、ここ数年内にこの地域で発生したものとしては、もっとも強力なものである。被害の報告はない。イエローストーンでは、類似の群発地震がこれまでにも発生しているが、水蒸気爆発や火山活動に結びついてはいない。今回の群発地震については、今後、熱水爆発(hydrothermal explosions)、地震活動の継続、地震規模の増大などの潜在的可能性があるが、火山活動の可能性はそれらに比べると非常に低い。

地盤変動についての概括

2008年12月までのGPSデータによる連続観測では、イエローストーン・カルデラの多くの場所は隆起を続けている。しかし、ここ数年と比べると隆起の速さは低下している。過去53ヶ月間で最大の隆起は、ホワイト・レーク観測点で記録された23cmである(観測データのグラフ)。

2009年1月1日木曜日

2008年の天体写真 トップ5

2008年に公開された天体写真の中から、私が選んだトップ5をご紹介します。3位が2件あるので、4位はありません。

第5位 火星の雪崩
Caught in Action: Avalanches on North Polar Scarps

雪崩か崖崩れかはっきりしませんが、現象が起きているまさにその瞬間を捉えた貴重な写真です。火星の周囲を周回中のアメリカの Mars Reconnaissance Orbiter(MRO)に搭載されている High Resolution Imaging Science Experiment (HiRISE) カメラによって撮影されました。
第3位 画架座β星の惑星
Probably a Planet for Beta Pic

これまでも太陽系外惑星の発見報告がありましたが、いずれも主星の位置の微妙なゆらぎや、光度の周期的変化など間接的証拠にもとづくものでした。2008年になって、史上初めて太陽系外の惑星と考えられる天体が光学的に撮影されました。2件の撮影報告が相前後してなされたため、どちらが「史上初」の栄冠に輝くのかわかりません。

ここに紹介するのはそのうちの1件、画架座β星(距離50光年)の周囲を回る惑星と考えられる天体の写真です。チリのアタカマ砂漠に設けられた欧州南天天文台(ESO)が撮影しました。

画架座は馴染みの薄い星座名ですが、南半球で見ることができます。写真では、主星(画架座β星)の輝きを押さえるために、主星そのものはマスクで隠され、その位置だけがマークされています。主星の左上にぼんやりと白く写っているのが惑星と考えられる「画架座β星 b」(Beta Pictoris b)です。左上方向と右下方向に炎が噴き出しているように見えるのは、主星の周りをまわる塵の雲です。右上に描き込まれている点線の円は、比較のために同じスケールで描いた土星の軌道の大きさです。

画架座β星は、その周囲に塵の雲が存在し、さらにその雲の中心部に太陽系の大きさとほぼ同じ規模の塵のない空間があることから、惑星系が存在するのではと以前から注目されていました。中心部に塵がないのは、惑星が形成されるときにその材料となったためと考えられたからです。

「画架座β星 b」が本当に惑星であるかについては、時間が経過してから再度同じ天体を撮影し、その位置が主星の周囲をまわるような変化をしているか否かで確定されることになります。
第3位 南の魚座α星(フォーマルハウト)の惑星
Fomalhaut b

同じく3位。こちらはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した南の魚座α星(フォーマルハウト)とその周囲の塵のリングです。上と同じく主星は輝きを押さえるためにマスクされ、位置のみがマークされています。オレンジ色に特に強く輝いている部分が塵のリングです。主星のやや右下、塵のリングのすぐ内側に四角で囲って示されているのが、惑星「フォーマルハウト b」です。こちらは、2004年と2006年に撮影した写真で位置が変化していることが確認されています。

塵のリングの内側に塵の輝きが少ないのは、この惑星の重力によって塵が取り除かれたからだと考えられています。
「フォーマルハウト b」は木星の3倍の質量を持ち、主星から、太陽-木星間の距離の23倍離れたところを公転しているとのことです。

南の魚座は、星占いで有名なみずがめ座の南に隣接する星座です。フォーマルハウトは南の魚座で一番明るい1等星で、地球からの距離は25光年。南中時には南天の低い位置に肉眼で見ることができます。
第2位 地球の前を横切る月
31 Million Miles from Planet Earth (静止画)

EPOCh Observations: EPOXI's Spacecraft Observes the Earth-Moon System (動画)

ディープ・インパクトという名前の探査機を憶えておられるでしょうか。2005年にテンペル第1彗星に接近、銅製のインパクターを彗星の核に衝突させて、彗星核の内部構造や構成物質について貴重な情報をもたらしたアメリカの探査機です。同機はテンペル第1彗星を観測した後も、軌道修正用の燃料が十分に残っていたため、新たにEPOXI(Extrasolar Planet Observation and Deep Impact Extended Investigation)というミッションに転用されています。この新しいミッションの目的には、深宇宙との通信実験、太陽系外惑星の検出、別の彗星の観測などがあります。探査機は2010年にハートレイ第2彗星に接近し観測を行うことになっています。

私が第2位に選んだのは、このディープ・インパクト探査機が5000万キロメートル離れたところから撮影した地球と月の姿です。地球の前を横切っていく月の姿が連続して捉えられています。月の直径は地球の約4分の1という数字が頭に入っていても、これらの映像を初めて見たときには、地球と月の大きさのバランスに意外感がありました。
第1位 火星の極地に降下していくフェニックス探査機
Descent of the Phoenix Lander

火星の北極圏にパラシュートを開いて降下していくフェニックス探査機です。火星を周回中のアメリカの Mars Reconnaissance Orbiter(MRO)に搭載されている High Resolution Imaging Science Experiment (HiRISE) カメラが撮影しました。カメラをどの方向に向けて撮影すべきか、決定するには相当に複雑な計算が必要だったはずです。

四角で囲った部分にある小さな白い点二つがパラシュートと探査機本体です。コントラストを強めて拡大した写真が左下に付けられています。写真では遠近感が圧縮されているため、背後の大きなクレーターの中に着地してしまいそうな印象を受けますが、実際はクレーターから遠く離れた平原に軟着陸しています。他の惑星に降下していく探査機を別の探査機が撮影した映像というのは珍しいと思います。一目見て、背中がぞくぞくするような感動を覚えました。芥子粒のように小さな探査機と、背後の大きなクレーター ―― あらためて火星が一つの大きな別世界だとの印象を深くした一枚です。