小笠原諸島の地下には安山岩質の大陸性地殻があります。なぜ大陸から遠く離れた太平洋の中に安山岩質のマグマや大陸性の地殻があるのか、よくわかっていませんでした。定説では「地殻の薄い海洋底では玄武岩質マグマが噴出する」、「地殻の厚い大陸では安山岩質マグマが噴出する」とされています。しかしこれでは、太平洋の真ん中に安山岩質マグマや大陸性の地殻があることが説明できません。また、大陸でしか安山岩質マグマや大陸性地殻が形成されないのであれば、最初の大陸はどのようにして誕生したのかも謎のままです。
国立研究開発法人
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者が調査の結果導き出した新説は、これまでの常識・定説とは異なるもので、「地殻の厚い地域(厚さ30km以上)の火山は玄武岩質マグマを噴出する」、「地殻の薄い地域(厚さ30km未満)の火山は安山岩質マグマを噴出する」、「大陸は海から誕生した」というものです:
なぜ地殻の厚さによって生成されるマグマのタイプが違うのでしょうか。「従来多くの岩石学的実験が行われてきましたが、圧力が低い場合に、含水マントルにおいて安山岩質マグマが生成する可能性が大きいことが示唆されてきました」、「地殻の薄い(すなわち圧力が低い)海洋島弧でのみ、マントルで安山岩質マグマが生じて大陸を形成していく」、「逆に地殻が30kmを越える厚い場所では、地殻の下がすでに高圧のため、含水マントルで安山岩質マグマを生じることは不可能となり、玄武岩質マグマのみが生成されます」。
JAMSTECの報道発表では触れられていませんが、日本列島や大陸の火山で安山岩質の溶岩が噴出するのはなぜでしょうか。これについては、『マグマの地球科学』(鎌田弘毅著、中公新書1978、2008)から引用します:
(マントル内で誕生した)玄武岩マグマはさらに上昇して地殻へと向かうのだが、これも地殻の最下部でたまってしまう。このあたりでは、玄武岩マグマの密度が地殻の密度とほぼ等しくつりあうため、マグマは上昇をやめるのである。
次に、停滞している玄武岩マグマの熱は、地殻の基底部を溶かしはじめる。ここで熱を与えられた地殻は、マントルがしたのと同じように部分融解を起こして今度はデイサイトのマグマを作り出す。デイサイトとは流紋岩と安山岩の中間の化学組成をもつ火山岩である。
(中略)
できあがったばかりのデイサイトマグマと玄武岩マグマが混じって、安山岩のマグマができることがある。これがのちに地上まで持ち上がり、安山岩マグマの噴火を引きおこす。これは、日本列島で頻繁に見られる現象であるが、こうして日本には、安山岩の火山が数多くできあがるのである。