2010年12月29日水曜日

宇宙の巨大リング (補足)

このブログの 12月 15日付記事「宇宙の巨大リング」で紹介したロジャー・ペンローズ博士らの研究成果について、『ナショナル・ジオグラフィック』誌の日本語版サイトがわかりやすい記事を掲載しています:

土星に異変!

以下の写真をご覧ください。土星探査機カッシーニが 12月 24日に撮影したものです:

以下のブログ(スペイン語)には、異なるフィルターで撮影された複数の写真を合成してカラー画像にしたものが多数掲載されています (写真をクリックすると拡大します):

まるでコーヒーに垂らしたミルクのようなパターンで、土星大気中の単なる渦巻きや、木星で何回か観測されたことがある彗星や小惑星の衝突痕とは思えません。上掲のブログの筆者も 「土星の噴火」 というタイトルをつけているように、土星の大気の下から何かが噴き上がってきているように見えます。白い楕円形の部分の内側には 2つの円形(あるいはリング状)の模様が見えています。海底火山の噴火で海面に現れた変色域に似ているように思います。

このパターンは、アマチュアが最初に発見したものです。12月 14日に撮影された写真には写っていますが、10日の写真には見あたらないので、12月 10日から 14日の間に出現したものと推定されます。


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2010年12月27日月曜日

マントル構成鉱物の超塑性を実験で確認

「地球内部のマントルと同じ組成を持つ鉱物が、溶けてもいないのに水あめのように変形」する超塑性(superplasticity)と呼ばれる現象が実験的に確認されました。固体のマントルがなぜ流動するのかについての理解が進むことが期待されます:
  1. 鉱物が水あめ状に変形 地球内部の「超塑性」初確認
  2. 地球の岩板、水アメ状に変形 東大など、地震解明に道
  3. Mantle superplasticity and its self-made demise (マントルの超塑性とその自律的停止)

『産経新聞』の記事(上掲 1)では 「地震予知に役立つ可能性もあるだろう」 としか書かれていませんが、『日本経済新聞』の記事(上掲 2)には以下のように記述されています:
地震が発生する際は、地下の断層でくっついていた硬い岩が割れてはがれ、揺れを引き起こす。このとき、断層より深い部分の岩石が超塑性で曲がると、ひずみを蓄積するため、地震の発生などに影響する可能性がある。超塑性を考慮して断層を調べれば、地震の発生時期や大きさなどの研究に役立つとしている。

超塑性による変形が進むと鉱物粒子が成長するため、変形が自律的にストップするとのことです。深発地震の謎の解明にも結びつくかも知れません。

12月初旬には、以下のようなニュースもありました。地球の外核とマントルの間に 「硫黄や酸素などの軽い元素を約5%含むと推定される」 層が存在することが、地震波の解析によって明らかになったという記事です:

地球の核から軽い元素が分離・上昇することは、地磁気を発生させているダイナモ作用の維持に関与している可能性があるとのことです。


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光柱現象 ― 岩手県大船渡市

12月 26日、岩手県大船渡市で光柱現象が見られました。幻想的な美しさです:

以下は先日の皆既月食の際に撮影された光柱です。撮影場所はカナダのノースウェスト準州トゥクトヤクトゥク(地図)で、オーロラも一緒に写っています:

2010年12月26日日曜日

イエローストーンは噴火するか? (その 2)

イエローストーンの噴火の可能性について、専門家はどのように考えているのでしょうか。以下はアメリカのニュースサイトに掲載された記事です。一般からの質問に専門の科学者が答えるコラムですが、「イエローストーン国立公園内のスーパーボルケーノは今後 100年以内に噴火することがあるのでしょうか?」という質問が取り上げられています(記事は今年の 10月 7日付ですが、すでに掲載期限が切れたらしく “Unfortunately, that page could not be found” とのメッセージが表示されます。しかし、情報の出典を明示するためにリンクは残しておきます):

以下は、答えの部分の意訳です:
これは重要な質問で、(イエローストーンに隣接している)ワイオミング州、モンタナ州、アイダホ州に住む多くの人たちが答えを聞きたいと思っている質問でもあります。イエローストーンは過去 210万年間に 3回のスーパー噴火をおこしています。その規模は、ワシントン州南西部を荒廃させた 1980年のセント・ヘレンズ山の噴火の 700倍から 6000倍とされています。

たった 3回の過去のスーパー噴火にもとづいて、正確な長期予知をするのはほとんど不可能です。イエローストーンの噴火が完全にランダムに発生し、平均 70万年の間隔でスーパー噴火が起きるのであれば、任意の 100年間にスーパー噴火が起きる確率は 7000分の 1です。イエローストーンの一番最近のスーパー噴火は今から 64万年前に起きましたが、それ以降に規模が小さい噴火が 80回起きています。この事実から、小規模な噴火は 8000年間隔で発生すると考えられます。一番最近の小規模噴火は 7万年前に起きています。したがって、小規模な噴火については、すでに期限切れでいつ噴火が起きてもおかしくない状態ともいえますし、イエローストーンの火山系が(小規模噴火すら起こさない)静穏期に入っているとも考えられます。

米国地質調査所(USGS)は、噴火につながるような火山活動の異変を監視するために、イエローストーンで火山監視プログラムを実施しています。イエローストーンは非常に活発な地域で、多くの小規模地震、微小な土地の隆起、温泉や間欠泉の変化が毎年起きています。今年も、1月 15日から 2月 7日にかけてイエローストーンの地下で 2350回の小規模地震からなる群発地震が発生しました。地震の観測データを分析した結果によると、地表からわずか数キロメートルのところにマグマが存在することがわかっていますが、幸いなことにこのマグマは一部が固化しており、噴火をおこす可能性はほとんどないものです。

イエローストーンのマグマ溜まりは、次の噴火が起こる前に地下深部から新しいマグマの補給を受ける必要がある、と科学者たちは考えています。噴火が起きる場合にはどの程度の前兆が現れるのでしょうか? この疑問に答えるのは簡単ではありません。しかし、現在の広範囲にわたる監視体制によって、小規模噴火の場合は数日から数ヶ月前に、スーパー噴火の場合は数ヶ月から数年前にその予兆を捉えられる可能性が高いと言えるでしょう。

冒頭のあなたの質問にもどりましょう。近い将来、スーパー噴火が起こることを示すような活動は現在のイエローストーンには見あたりません。今後 100年のうちにイエローストーンで大きな噴火が起きる可能性はきわめて低いと考えられます。30年前にセント・ヘレンズ山が噴火して以降、私たちは火山について多くのことを学んできました。しかし、それでもなお火山噴火予知は精密科学とは言えない状態にありますので、ここで私が述べた予測が正しいことを望むばかりです。

イエローストーンの最新火山情報と震央地図は以下にあります:

(完)


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イエローストーンは噴火するか? (その 1)

このブログのアクセス統計を見ていて気づいたのですが、今週、イエローストーン関連の過去記事へのアクセスが急増しました。どうやら、テレビ番組でイエローストーンの大噴火を取り上げたことが影響しているようです。

その番組とは、日本テレビ系で 12月 20日に放送された『不可思議探偵団』です。私は録画で流し見しましたが、イエローストーンの噴火が差し迫っているという印象を与える作為的な構成でした。現地に若手タレントを送り込み、間欠泉や温泉地帯のただの湯煙を指して「あれヤバクないですか」と言わせたり、琉球大学の木村政昭名誉教授を登場させて 2011年は危ないという結論に無理やり持っていったり ・・・。この種の民放番組製作者の浅薄さや節度のなさには、いつもながらあきれさせられます。

番組では、イエローストーンで今年の初めに発生した群発地震がマグマの大噴出に繋がる可能性も否定できない、としていました。群発地震があったのは事実です(このブログの 1月21日付「イエローストーンの群発地震」を参照してください)。「否定はできない」のも事実です。なぜなら、現在の火山学の水準では、100% 確実な噴火予知は困難ですから。しかし、ほとんどの専門家が、この群発地震がすぐに大きな噴火に結びつくことはない、としている事実も忘れてはなりません。

「否定はできない」、たとえば「万が一」、つまり 10000 に 1つの可能性があるからといって、その点ばかりを強調して残りの 9999 をなおざりにしたのでは、物事の正しい理解は得られません。そのようなバランスを欠いた手法で自分の望む結論の正当化を図ったところで、牽強付会のそしりを免れないのはいうまでもありません。

このように「否定はできない」ことを 100% の肯定にすり替えるのは、トンデモ説の論者がよく使う手口でもあります。


(続く)

2010年12月25日土曜日

ブロモ山の噴煙で観光産業が麻痺 ― インドネシア

ジャワ島東部のブロモ山(Bromo、地図)は 11月初めごろから活発化の兆候を見せ、同月 26日に噴火しました。その後、小康状態の時期もありましたが、ここに来て大量の噴煙を噴き上げるようになり、クリスマス・シーズンでにぎわうはずの定期航空路や観光産業に影響を与えています。オーストラリアから有名な観光地・バリ島に向かう航空便に欠航もでています:

以下は、ブロモ山の現状を捉えた写真集です:

今のところブロモ山の影響は局地的ですが、年末・年始にインドネシア方面、特にジャワ島やバリ島を訪れる方は、ブロモ山の動向を頭の片隅に入れておいた方が良いでしょう。


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驚くほど浅いところにあったマグマ溜まり ― ハワイ

『ナショナル・ジオグラフィック』誌の記事です。ハワイ諸島の地下にある巨大マグマ溜まりは、地表から 3~4km のところにあり、これまで計測された他のマグマ溜まりと比べて地表に近いことが、火山岩の化学成分の分析から推定される、という内容です:

上記は英語版と日本語版の『ナショナル・ジオグラフィック』誌の記事ですが、日本語版の記事は誤解を与えやすい翻訳になっています。

まずタイトルですが、英語版の “Close to”(~に近い) という状態を表す表現を、「大接近」という運動をイメージさせる文言に翻訳しています。これでは、これまで深いところにあったマグマ溜まりが地表近いところまで上昇してきているとの印象を読者は受けてしまいます。

次に、最初のパラグラフですが英語版では次のようになっています:
A giant magma chamber burning beneath the Hawaiian Islands is closer to the surface than any other magma chamber yet measured―as little as 1.9 to 2.5 miles (3 to 4 kilometers) below the surface, scientists say.

(ハワイ諸島の地下で煮えたぎっている巨大なマグマ溜まりは、これまで計測された他のマグマ溜まりのどれよりも地表に近いところにある ― 地表からわずかに 3km ないし 4km ほど、と科学者は語る。)

ところが、日本語版では:
新たな研究によると、ハワイ諸島の地下にある巨大なマグマ溜まりが、地表から約3~4キロ地点にまで接近していることがわかった。以前の測定距離を大幅に下回っている。

となっています。「接近している」、「以前の測定距離」などの表現から、件の巨大マグマ溜まりが時間的経過とともに上昇して地表に近づいているかのような翻訳結果になっています。

いずれにせよ、記事のタイトルに「?」がつけられていることに留意する必要があります。なぜなら、この研究結果は、先週、サンフランシスコでおこなわれた米国地球物理学連合の秋季大会で発表されたもので、ピア・レビュー(査読制度)のある学術雑誌に掲載されたものではないからです。

なお記事中に 「2008年、ハワイ島で地熱発電の試掘中の作業員から、キラウエア火山付近の浅いマグマ溜まりに偶然到達したと報告があった」 との記述がありますが、これについてはこのブログの 2008年12月18日付記事「マグマ溜まりに孔をあけてしまった男たち」をお読みください。


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赤鼻のトナカイ

イギリス・ニューカッスル大学の研究者たちが、脳の海馬領域を拡大撮影したときに現れた血管のパターンだそうです:

メリー・クリスマス!

2010年12月24日金曜日

青い夕焼けと部分日食 ― 火星

NASA が公表した動画です。いずれの動画も、火星探査車オポチュニティが今年 11月に撮影した静止画をつないだものです。1本目が青い夕焼け、2本目が部分日食(衛星フォボスの日面経過)です:

フォボスは地球の月に比べると非常に小さい衛星ですが、火星面からの距離が近いので太陽面のかなりの部分を隠します。このような地球以外の天体での日食を見ると、地球の月の大きさと軌道半径が絶妙の関係にあることが分かります。太陽を完全に隠して皆既日食にしたり、わずかに太陽の縁を残して金環日食にしたり ・・・。


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地震がないはずの韓国で大きな地震が増えている

日経ビジネス』誌の記事です。 「1978年には5回しかなかった地震が2009年には80回以上に増えた。東海岸を中心に震度3.0以上の地震が5回以上起きている。韓国気象庁が観測を始めて以来、最大の震度記録は震度5.3である。1980年1月、北朝鮮の平安北道で発生した地震だ。これに次ぐものとして、2007年1月には北朝鮮に近い江原道で震度4.8、2004年5月には慶尚北道で震度5.2を記録している 」 :

記事の執筆者は、小学校から高校卒業まで東京で育った韓国人女性です。震度とマグニチュードを混同しているようですので、記事中の「震度」は「マグニチュード」に読み替える必要があります。『日経ビジネス』の校閲担当者は気づかなかったのでしょうか。たとえば「2007年1月には北朝鮮に近い江原道で震度4.8」とあるので当時の記録を調べてみると、この地震のマグニチュードは 4.8 でした。

中朝国境の白頭山(長白山)についても触れて、災害対策の分野での日本・中国・韓国の協力に言及しています。


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2010年12月23日木曜日

小笠原諸島 vs. ボニン諸島

小笠原諸島・父島近海で昨日発生した M7.4 の大地震。多くの海外メディアが伝えています。小笠原諸島の英語名は Ogasawara Islands と Bonin Islands の 2通りあります。後者は「無人島」の「無人(ぶにん)」が訛ったものだといわれています。

USGS の地震情報では Bonin が使われていますが、海外英語メディアはどちらを多く使っているのでしょうか。ちょっと気になったので調べてみました。使用したのは、今日 11:00 現在でグーグル・ニュース検索にヒットした記事の数です:
  • Ogasawara Islands: 79
  • Bonin Islands:199
  • 両者並記:136

「両者並記」とは、“the islands of Ogasawara (Bonin)”(『ボイス・オブ・ロシア』紙)のように括弧で補足しているもの、記事のタイトルでは “Japan's Bonin Islands” と書き、本文では “Ogasawara Islands”(中国・新華社通信)を使用しているもの、また “Bonin Islands, which are also known in Japan as the Ogasawara Islands”(Island Crisis 紙)のように注釈を加えているものなどを指します。

上記の数字には、同じ通信社から配信された記事をそのまま載せている “そっくり記事” が多数含まれているので、それらの重複を除くと以下のように小笠原とボニンはほぼ互角となります:
  • Ogasawara Islands: 22
  • Bonin Islands:24
  • 両者並記:25

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2010年12月22日水曜日

雌阿寒岳で火山性微動や地震

札幌管区気象台火山監視・情報センターが 12月 20日付で発表した下記資料によると、雌阿寒岳では 12月 17日に振幅の小さな火山性微動が発生し、その後、体に感じない振幅の小さな火山性地震がやや増加したとのことです。噴煙の状況や地殻変動のデータに特に変化はないとのことですが、微動発生後に一時的に白色噴煙の高さが 100mほど高くなったことが観測されています(気象の影響の可能性あり)。

皆既月食と冬至

昨日 12月 21日は皆既月食、今日 22日は冬至。日本ではこのように月食と冬至が 1日ずれていましたが、欧米では時差の関係で皆既月食が冬至と同じ 21日に起こりました。

月食が冬至または夏至の当日に起こるのはきわめて珍しいことなのだそうです。NASA の資料によると、米海軍天文台の研究者が調べたところ、西暦 1年以降の約 2000年間で、冬至または夏至の日に月食が起きたのはわずかに 1回 ―― 1638年 12月 21日 ―― しかないとのことです。また、次に同様の現象が起きるのは 2094年 12月 21日とのことです。

以下の記事には、占星術やキリスト教の観点では冬至の日の皆既月食が何を意味しているのかについて書かれています:

以下は上掲記事からの摘記・意訳です:
占星術師にとって、冬至と月食が重なることには重大な意味がある。このような現象は、我々の宇宙に存在するすべての力の統合を意味するからだ。

月食の起きている間は、月・地球・冬至の太陽・銀河の中心が完璧な整列状態になる。占星術師は今回の月食が、我々が共鳴・調和することのできるエネルギーに満ちあふれた期間の始まりになると考える。占星術の観点からいえば、今回の天体の整列は、われわれ自身を自分の目的やすべての潜在能力と整合性の取れた状態にもどし、進むべき道に回帰させる絶好のタイミングである。それゆえに、今回の月食は変化を実現する最適の時なのである。

キリスト教信仰では、赤い、もしくは血の色をした月はメシア(救世主)の再来を意味する。それは、この世の終末を告げる 7つの予兆のうちの第 6の封印にあたる。キリスト教徒はこの信仰を語るとき、『ヨハネの黙示録』の第 6章 12節と 13節を引き合いに出す。そこには次のように書かれている:  「また、見ていると、小羊が第六の封印を開いた。そのとき、大地震が起きて、太陽は毛の粗い布地のように暗くなり、月は全体が血のようになって、天の星は地上に落ちた。まるで、いちじくの青い実が、大風に揺さぶられて振り落とされるようだった。 」

この『ヨハネの黙示録』の記述は、2012年 12月 21日を世界の終わりの日とする陰謀説にとっては願ったりかなったりである。しかし、インターネット上では 2012年 12月ではなく、2010年 12月 21日が本当の終末の日であるとする新しい説が勢いを得ている。

もし明日(この記事は月食の前日、12月 20日付で掲載されたものです)、この世界がまだ存在していたら、寒波にひるまず屋外に出て、数世紀に 1度しかない記念すべき光景を眺めようではないか。

前回冬至の日に月食があった 1638年、日本は 3代将軍・徳川家光の治世でした。2月に島原の乱が鎮圧され、多数のキリシタンが虐殺されました。夏から翌春にかけて「お蔭参り」が流行しました。9月にはキリスト教が厳禁され、翌年には鎖国体制が完成します。


『ヨハネの黙示録』の第 6章 12節と 13節の日本語訳は、財団法人 日本聖書協会のウェブサイトにある 「聖書本文検索」から新共同訳を引用させて頂きました。


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2010年12月19日日曜日

緑色の霧

アメリカ・ニューヨーク州の州都オルバニー(Albany; オーバニの方が現地の発音に近い)。その北にあるコロニー(Colonie)という街のマクスウェル・ロード(Maxwell Road、地図)一帯に 12月 18日の午後、緑色の霧が漂いました。一帯は安全を確保するために封鎖されましたが、検査の結果、危険な化学物質やガスは検出されなかったため、間もなく封鎖は解除されました:

緑色の霧は、森林から漂ってきたとの目撃情報があります。子供がしばしば遊びで使う花火の一種 smoke bomb (発煙弾)が発生源ではないか、との推測がありますが確認されていません。


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2010年12月17日金曜日

ハッブルの天体写真 2010

『ボストン・グローブ』紙の “ザ・ビッグ・ピクチャー”が、今年もハッブル宇宙望遠鏡の写真集を始めています。12月 1日からクリスマスの 25日まで、毎日 1枚ずつ新しい写真が追加されていきます:

冒頭の渦巻きの写真については、このブログの 9月 7日付記事「宇宙の暗い渦巻き」を参照してください。

私が惹かれるのは 4番と 9番の写真です。無数の島宇宙が写っており、宇宙の広大無辺さを感じさせてくれます。子供のころ読んだ本にあった 「有限な人間の心は、無限の宇宙を理解できない」 という言葉が思い出されます。

4番の写真には、重力レンズの効果によって筋状に引き伸ばされた島宇宙の姿がいくつも見えています。

もう一つ、忘れてはならないのが 11番です。木星の上空に浮かぶ衛星イオと、木星の表面に映るイオの影です。スケールの大きさに圧倒されます。

同じような趣向の写真として以下もご覧ください。火星の衛星フォボスが火星の表面を背景に映っています。ハッブル宇宙望遠鏡ではなく、ESA(欧州宇宙機関)の火星探査機マーズ・エクスプレスが撮影したものですが、センス・オブ・ワンダーを感じさせるすばらしい写真です。

フォボスは、その奇妙な軌道と密度の低さから、中空の人工天体ではないかと考えられたり、薄い金属板で作られた人工物ではないかとの説が出されたりしたことがありました。詳しくは以下をお読みください:

ハッブルのウェブサイトでは、今年もクリスマスカードの素材を提供しています:

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2010年12月16日木曜日

黒い砂

「黒い砂」ってまるで松本清張の推理小説のタイトルにありそうですが、12月 15日に湘南地域などに降った黒い砂の正体は何なのでしょうか:
  1. 神奈川・湘南地域に黒い砂降る? 人体に影響はなし
  2. 湘南に謎の黒い砂降る 県西部含め13自治体に

砂粒の大きさはおおよそ 0.1mm ということで、黄砂などと比べると一桁から二桁ほど大きく、大気中にそれほど長期間漂っていたとは考えられません。比較的近距離から飛来したか、上空から落下してきたかでしょう。

12月 14日に出現の極大を迎えた「ふたご座α」流星群の火球がまき散らした流星塵かとも考えましたが、粒子の直径が大きすぎますし、何よりも量が多すぎます。また、そのような火球の目撃情報もありません。

報道によれば黄砂の飛来、火山の噴火、工場事故などはなかったということです。『朝日新聞』の記事(上掲 1)では、専門家が「成分を見ると、何かの焼却灰のようにも思える」と指摘しています。

『東京新聞』の記事(上掲 2)には、「(神奈川)県内では今年四月、北西部の山北町で黒い砂が降ったとの情報が県に寄せられたが、砂を採取できず、原因は分からなかった」との情報が載っています。山北町は、今回も黒い砂が降った地域に含まれています。

群馬大学の火山学者・早川由紀夫教授のブログには、「富士山の表面をつくっている黒い軽石(スコリア)の細粉が強風で飛ばされたものだろう」との見解が示されています:

関東ローム層は富士山の噴火のときに降り積もったと思い込んでいましたが、「噴火しなくても富士山から砂が巻き上げられて関東平野に降り積もる事例が日本社会の記憶に残るといい。これが何度も繰り返されれば、関東ロームが富士山の噴火で降り積もったと誤解する人はそのうちいなくなるだろう」とのことです。

2010年12月15日水曜日

宇宙の巨大リング

まず、以下の図を見てください。中心部の小さな円とそれを囲む 2つのリング。NASA の WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe、ウィルキンスン・マイクロ波非等方性探査衛星)が観測した宇宙マイクロ波背景放射のデータに現れた巨大なリング状のパターンです:

このパターンは、イギリスの高名な数学者・宇宙物理学者・理論物理学者であるロジャー・ペンローズ博士と、アルメニアのエレバン物理学研究所・エレバン国立大学の Vahe Gurzadyan 氏が 11月 16日に報告したものです。

以下は、上記の報告をかみ砕いて解説している記事です:

以下に、上記記事から摘記・意訳します:
ペンローズ博士たちが報告したリング状のパターンは、天球上の全方向からほぼ等方的に放射されていると考えられている宇宙マイクロ波背景放射の中に見いだされた。宇宙マイクロ波背景放射は、ビッグバンの名残であると考えられ、ビッグバン宇宙論の有力な証拠とされている。
リング状のパターンは、宇宙が始まりと終わりを繰り返していることを示している、とペンローズ博士たちは考えている。

リング状の領域は、宇宙マイクロ波背景放射にあるわずかな温度のばらつきが平均よりも小さい部分である。

このリング状のパターンは、現在定説化しているインフレーション宇宙論では説明できない。インフレーション宇宙論では、生まれたての宇宙が、その直後に原子のサイズからグレープフルーツのサイズに急激に膨張したとしている。このようなインフレーションが起きていたとすれば、今回発見されたリング状のパターンは消されてしまうであろうし、インフレーションによってリング状のパターンが生成されるとは考えられない。

プリンストン大学の宇宙論学者 David Spergel 氏は次のように語っている: 「このような形状の、巨大なスケールで一貫した特徴がマイクロ波背景放射に存在するということは、インフレーション・モデルと矛盾し、宇宙が誕生と死滅を周期的に繰り返すというペンローズ・モデルの非常に特徴的な証拠であると考えられる。しかし、ペンローズ博士たちが発表した論文には、このリング状のパターンが実際に存在するか否かを検証するための詳細情報が十分には記載されていない。

一番最近に起きたビッグバンの前に存在した宇宙(ペンローズ博士はビッグバンによって区切られる個々の宇宙を “aeon” と呼んでいる)の情報をこのリング状のパターンが見せていると解釈している。

このリング状のパターンはビッグバン以前の宇宙で発生した超巨大ブラックホールどうしの衝突によって形成されたのではないか、と博士は示唆している。衝突したブラックホールは重力波(巨大な質量の加速によって生起する時空のさざ波)の「不協和音」を発生させのではないか、というのである。発生した時空の波は球状で均一に分布していたはずである。

ペンローズ博士の計算によれば、均一に分布した重力波が一つ前の aeon から現在の aeon に入るとエネルギーのパルスに変貌する。このパルスは、この宇宙の全質量の 80% 以上を占めるとされる目に見えないダークマターに対して均一な力を及ぼす。これが、マイクロ波背景放射に見られるかなり均一なリング状のパターンとして観測される。

ペンローズ博士たちは、WMAP の観測データに加えて、気球によってマイクロ波背景放射を観測した BOOMERANG 実験 のデータも解析し、同様のパターンを見いだした。2つの異なる観測装置のデータに同様のパターンが見つかったことから、観測機器のノイズやその他の人為的な要因によってこのようなパターンが現れた可能性は低い、とペンローズ博士たちは考えている。
宇宙マイクロ波背景放射については、ESA(欧州宇宙機関)のプランク・ミッションによってさらに詳細な観測データが集められている。ペンローズ博士は、自分の理論がこのデータによってさらに決定的に検証されるであろうと考えている。

このペンローズ博士たちの報告については、すでに批判や反論が出ています。その一つは上記記事中にも少し書かれていますが、WMAP の観測方法がリング状のパターンの原因ではないか、とするものです。WMAP の観測では、天球上の観測場所によって観測時間に差があります。観測時間が長い場所ほどノイズの影響が小さくなり、観測データに現れるマイクロ波背景放射の温度のゆらぎが小さくなります。このようなゆらぎの少ない部分がリング状のパターンの原因ではないか、それをペンローズ博士たちは自分たちの「周期的な宇宙」論に牽強付会しているのではないか、というものです。


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2010年12月11日土曜日

カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 23)

エイヤフィヤトラヨークトル氷河(氷冠)周辺とカトラ山周辺では、現地時間 12月 5日 20:23 に M0.4 の地震が発生して以降、地震がまったく発生しない状態が続いています。今年 3月にエイヤフィヤトラヨークトル氷河の下で火山噴火が始まり、4月末に隣接するカトラ山で地震が起き始めて以降で、このように静穏な状態が 5日以上継続するのは初めてのことです。

このまま地震と火山の活動が終息に向かうのでしょうか。それとも、 「嵐の前の静けさ」なのでしょうか。


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2010年12月10日金曜日

ドラゴン宇宙船に極秘の積荷

アメリカのスペースX社が日本時間 12月 9日に商業用ロケット「ファルコン 9」で打ち上げた 7人乗り(今回は無人で打ち上げ)宇宙船「ドラゴン」は、地球を 2周したのち、大気圏に再突入して無事に太平洋に着水しました。民間企業としては初の快挙です:

このドラゴン宇宙船には「極秘」の積荷が載せられていたのですが、その中身が明らかになりました:

民間企業ならではというところでしょうか。この積荷の謂れは、往年のテレビ番組 「空飛ぶモンティ・パイソン」 まで溯るようです。


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東南海地震と最近の小地震パターン

今朝の『朝日新聞』科学面に 「東南海 最近の小地震パターン 1944年大地震前と似る」 と題する記事が掲載されていました。防災科学技術研究所の調査結果を紹介しているのですが、当該記事が現時点ではネット上に見つからないので、以下に紙面から抜粋します:
  • 東南海地震の震源域での小地震の発生パターンがこの 10年、1944年に起きた大地震の直前の 10年間に似てきた。
  • 前回の東南海地震までの 10年間に震源域で起こったマグニチュード 3.5 以上の地震の発生傾向を、最近の 10年間と比較した。その結果、双方とも 51~90年の 40年間に比べ、志摩半島南側などで地震が増え、逆に渥美半島先端などでは減少。最近の傾向は、前回の直前と似ていることが分かった。
  • 震源域には固着の強い部分と弱い部分があるが、弱い固着が徐々にはがれ、大地震の直前には強く固着した場所にエネルギーが偏ると考えられている。この偏りの影響で、大地震の前に震源域周辺で起こる小地震の発生パターンも変化するとみられる。

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2010年12月7日火曜日

カンピ・フレグレイに火山活動の兆候 ― イタリア

イタリアの有名な観光地・ナポリは 2つの火山にはさまれています。東に 15km ほど行ったところにはヴェスヴィオ山。西暦 79年に噴火し、ローマ帝国の都市ポンペイを火砕流で、またヘルクラネウム(現エルコラーノ)を土石流で埋め尽くしたことで有名です。一方、ナポリの西にはカンピ・フレグレイ(Campi Flegrei)と呼ばれる幅 13km のカルデラが広がり、多くのクレーターが分布しています(地図)。

このカルデラの西端にあるアヴェルヌス湖(Lake Avernus、地図)の地下で、12月 6日午前 7時 30分から 8時にかけて、マグニチュード 4.8、4.8、5.6、5.7 の地震が相次いで発生しました:

アヴェルヌス湖の内部には、火山爆発指数(VEI) 7 クラスの噴火をおこす可能性のある火口があり、今回の連続地震はその火山活動が始まったことを示しているのではないか、と上記記事は伝えています。1558年には、この湖の南東岸にある火口(Monte Nuovo)が噴火し、一つの集落が壊滅したとのことです。

2010年12月6日月曜日

X-37B が帰還

12月 3日 午前 1時 16分(現地時間)、アメリカ空軍の無人スペース・プレーン X-37B がカリフォルニア州にあるバンデンバーグ空軍基地に着陸しました。4月 22日に打ち上げられてから 225日(約 7ヶ月)ぶりの帰還です:

空軍の担当者は、軌道上で予定されていたすべての目的を達成した、と述べています。

以下の記事には、着陸時の動画(暗視カメラの映像)や、着陸後の様子を撮した写真が掲載されています:

動画には、X-37B が滑空しているところは含まれておらず、着陸後に滑走路上を移動しているところしか写っていません。目撃者の少ない深夜を選んで着陸したことと合わせて考えると、滑空する様子に何か秘密があるのかも知れません。

X-37B の機体のそばに人が写っている写真を見ると、同機のサイズがいかに小さいかわかると思います。貨物室は小形のピックアップ・トラックの荷台と同程度の大きさといわれており、そこに太陽電池パネルも収納していることを考えると、大きな積荷は搭載できないことがわかります。

作業をしている人が防護服を着ているのは、機体に残っている燃料が有毒であるためだとのことです。


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エルタアレ山から溶岩流出 ― エチオピア

エチオピアのエルタアレ山(Erta Ale、地図)の山頂クレーターにある溶岩湖は、今年初め頃から徐々に湖面が上昇していましたが、11月 21日から 23日にかけてストロンボリ式噴火とともに溶岩があふれ出したとのことです:

エルタアレ山は、粘性の低い溶岩によって形成された平たい盾状火山です。理科年表(丸善書店)には、「1967年より溶岩湖常在」との記載があります。

このブログの 11月 15日付記事 「紅海南端部-アデン湾最奥部で群発地震」 で記しましたが、エルタアレ山から南東に約 350km 離れたアデン湾では 11月 14日から数日にわたって浅い地震が多数発生しています。

また、アデン湾に面するソマリランドでは、11月 22日から 23日にかけての深夜に強い地震が発生しています。下記記事によれば、1980年代初頭以来最大級の地震であるとのことですが、同地域には地震観測計器が設置されていないので、マグニチュードなどは不明です:

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トゥングラワ山が噴火 ― エクアドル

エクアドル領のアンデス山中にあるトゥングラワ山(Tungurahua、地図)は、 11月 22日にいきなり噴煙を 7000m を超える高さまで噴き上げて人びとを驚かせましたが、12月 4日になって溶岩の流出をともなう本格的な噴火を始めました:

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