2010年8月15日日曜日

パキスタンで火山噴火? (続報 5)

間があいてしまったので、まず 7月 21日付「パキスタンで火山噴火? (続報 2)」の一部を再掲します:
1月 27日、バローチスターン州ジアーラト渓谷にある山岳地帯に近いサリ(Sari near a mountain in Ziarat Valley, Balochistan、注)で地震にともなって裂け目から溶岩、水蒸気、火花が噴出した。地震のマグニチュードは 3.9、震源の深さは 60km であった。

(中略)

溶岩の流出は小規模で、裂け目の周囲にとどまっている。溶岩は、小さなスコリア丘と 4つの裂け目から噴出していた。4つの裂け目はジアーラト近くのサリにある Tor Zawar山にあった。

溶岩は上部マントルから上昇してきたか、地殻内部に以前からあった火山岩がリサイクルされたものと考えられるが、地球化学的なデータからは後者であることが示された。

上記の現象が火山活動の範疇に入るのか否か、議論があると思います。仮にこれが火山活動だとしたら、これまで言われている火山のタイプのどれに属するのでしょうか。火山のタイプとは以下の 4つです:
  1. 島弧型火山 ― プレートの沈み込み帯の陸側にできる火山 (富士山、阿蘇山、桜島、セントヘレンズ山、タール山、エトナ山、チャイテン山など)
  2. 海嶺型火山 ― プレートが形成される中央海嶺などにある火山 (東太平洋中央海膨、大西洋中央海嶺、東アフリカ大地溝帯、アイスランドの火山など)
  3. ホットスポット型火山 ― マントル深部に生じる高温のマントル上昇流がマグマを形成してできる火山 (ハワイ諸島、天皇海山列、イエローストーンなど); なお、これまで不動と考えられていたホットスポットも移動することについては、このブログの 6月 7日付記事「連続噴火 10000日 ― ハワイ・キラウエア山 (その 2)」を参照してください。
  4. プチスポット型火山 ― 海洋プレートの沈み込み部分でプレートが曲げられる時、プレート内部に割れ目ができ、その割れ目を通ってプレート直下に存在するマグマが海底に染み出すことによってできる火山 (北西太平洋(三陸沖・鹿島沖)、日本海溝)

4つのタイプのうち、プチスポット型火山は 2006年に日本人研究者によって報告されたもので、まだ知名度が高くありません。詳しくは以下を参照してください:

1~3 のタイプの火山では、マグマの起源はマントル内部とされています。4 のタイプでは、「プレート下に広がるアセノスフェアから少量のマグマが噴出したもの」、「太平洋プレートの下のマントルから少量のマグマが浸み出すことにより噴火したもの」とされています。

一方、パキスタン地質調査所は、噴出した溶岩について「地殻内部に以前からあった火山岩がリサイクルされた」と結論づけています。これは、1~4 のタイプとは異なるメカニズムで溶岩が吹き出したということです。また、溶岩の噴出があった場所も 1~4 の類型には当てはまりません。したがって、第 5 のタイプの火山と言ってもよいのかも知れません。

なお上にリンクを張った 「太平洋プレートの屈曲に伴う新しいタイプの火山の発見」 には以下のような興味深い記述があります:
プレートテクトニクス説ではアセノスフェアは海洋プレートの下に地球的規模で広がる部分融解帯とされて来ましたが、最近の学説ではアセノスフェアが部分融解状態にあることが疑問視されています。既知の3つのタイプの火山のうち、今回発見された火山と同様にプレート内の火山活動であるホットスポットでは、マントルが地球深部からの上昇に伴い減圧されることによってマントル物質が融解しマグマを発生すると考えられ、1ヶ所に大規模な火山が形成されます。しかし、今回発見された火山では、太平洋プレートの屈曲部の幅400kmにわたり小規模な火山群が形成されています。これは、ホットスポットとは異なり、マントル上昇流は伴わず太平洋プレートが屈曲することによってできた亀裂に沿って、アセノスフェアから少量のマグマが浸み出すことにより形成された新しいタイプの火山であると考えられます。これは、アセノスフェアが部分融解していることを示すものとして極めて注目されます。

アセノスフェアの部分融解については、このブログの 「プレートの『底』確認」(09年5月1日)という記事を参照してください。


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