2009年11月30日月曜日

2010年はイースター島で皆既日食

11月下旬になると、書店に翌年用の『天文年鑑』や、少し遅れて『理科年表』が並びます。それを見ると、毎年「あ~、今年もうすぐ終わりだ」と、気ぜわしい気分になってきます。

で、2010年版の『天文年鑑』(誠文堂新光社)を買ってきました。『天文年鑑』を買って、毎年最初に調べるのは、自分や家族の誕生日が何曜日で、なにか珍しい、あるいは、イメージ的に幸運につながりそうな天文現象(たとえば金星の最大光輝とか金星と木星の会合など)が予報されてないか、という点です。2010年の私の誕生日には、地味な現象しか起こりません。残念。

ところで、今年の 7月 22日に、日本の一部で皆既日食が見られたことは、記憶に新しいところです。その最中に覚醒剤を吸引していたタレント夫婦がいたわけですが。2010年版『天文年鑑』によると、来年は 7月 12日に南太平洋で皆既日食が見られます。皆既帯はほとんど海の上を通過しますが、皆既帯の中心線がイースター島の近くを通り、同島では 5分弱の間、皆既状態が継続します。皆既状態の間は空が暗くなり、惑星や季節外れの星座が見られるはずです。『天文年鑑』の予報によると、東から南の空にかけて土星、火星、金星、水星が並び、南東の空、仰角約 45度付近には「南十字」が見えるようです。

黒い太陽と広がるコロナや、南十字を背景にしたモアイ像の写真が撮れるかもしれません。ぜひイースター島に行きたいと思うのですが、あまりに遠い。小さな島のことゆえ、宿泊施設はすでに予約で一杯でしょう。それに、7月上旬は、多分休めないはず。

なお、来年 1月 15日には、アフリカからアジアにかけて、金環日食が見られますが、日本では部分日食になります。

チリのラドン・ガス研究

以下は、チリの英字紙『サンティアゴ・タイムズ』の記事です。チリの大学(Universidad Tecnica Federico Santa Maria)とスペインの大学(Universidad de Extremadura)が共同して、ラドン・ガスと地震活動の関係を研究していることを伝えています:
チリは、観測史上最大級の M9.5 を記録したチリ地震(1960年)や、すさまじい火山雷の写真が印象的だったチャイテン山の大噴火(2008年)などを筆頭に、日本と並んで地震・火山災害が多い国です。

記事をまとめると次のとおりです:
ラドン・ガスは、地中から一定のパターンで放出される。しかし、地震に先行して起こるプレート間の動きにともなって、放出が変化することがある。このような変化を検出することによって、地震や火山活動を事前に警告することができる。

ラドン・ガスの放出は、地震計で察知可能な範囲よりさらに深いところの動きも反映するので、より長い予告期間をとることができる。イタリアとインドネシアでおこなわれたこれまでの研究では、大地震の数週間前に大気中のラドン濃度が非常に高くなることが明らかになっている。

チリでは、水中のラドン濃度を測定する方法も開発されている。これによって、火山を取り巻く熱水に同様の技術が応用できると期待されている。
日本でも、ラドン・ガスによる地震予知が熱心に研究された時期がありましたが、急速に廃れてしまいました。原因は、ランド・ガスの濃度が、気象条件など地震以外の要因に大きく左右されること、同じような地震であってもラドン・ガスの濃度に変化がある場合とない場合があり再現性に欠けること、などです。そのため、実用的な地震予知には使えないという見方が大勢となりました。

今年 4月におきたイタリア・ラクイラ地震は、ラドン・ガスによって予知されていたという報道がありました。しかしその後、専門家が否定的な見解を示し、さらに予知情報が広まるのを抑えようとした地元当局の姿勢の是非も議論となって、「ラドン・ゲート事件」(ニクソン前米国大統領を失脚に追い込んだウォーターゲート事件のもじり)と呼ばれるに到りました。

上記の記事で目新しいのは、火山噴火の予知にもラドン・ガスを使おうとしている点です。

なお、記事の末尾の 2段落では、ラドン・ガスの健康への影響について言及しています:
同じ大学(Universidad Tecnica Federico Santa Maria)の環境工学科では、ラドンと肺ガンの関係を調べている。ラドンは、タバコに次いで肺ガン原因の第 2位と考えられている。閉ざされた空間に集積した高濃度のラドンは、深刻な健康問題を引きおこす。
従来の日本建築は木造で通気性が良いため、ラドンのリスクはほとんど問題にならず、日本ではラドン・ガスの危険性が注目を集めることはあまりありませんでした。しかし、密閉度の高い最近の建築物では、予想外に高い濃度のラドン・ガスが検出されることがまれにあるそうです。また、マンションなどのコンクリートからも極微量ながらラドン・ガスが放出されているそうです。こまめに換気をせよということだと思います。


過去の関連記事

2009年11月29日日曜日

モーニング・グローリーを TV 番組で見て

驚きました。これをシンクロニシティと言うのでしょうか。昨夜 9時からの TBS 「世界ふしぎ発見」でモーニング・グローリーが取り上げられるということで待ちかまえていたのですが、その 1時間前の 8時から NHK の「ワンダー×ワンダー」でも、やはりモーニング・グローリーをテーマに据えていました。NHK の方はまったくノー・マークだったのですが、たまたま夕食どきだったため、見逃さずに済みました。

番組の性格が違うので比較するのは酷な面もありますが、映像的には NHK の方が見事でした。TBS の方は、逆光気味の映像が多く、また、モーニング・グローリーの全体像がはっきりと捉えられていなかったように思います。取材期間、予算、持ち込んだ撮影機材、撮影スタッフの技量などの差が現れているのかも知れません。モーニング・グローリーが発生する仕組みの説明も NHK の方がより詳しく、またわかりやすかったと思います。内陸の砂漠地帯までモーニング・グローリーを追跡して、その消滅する過程まで撮影していたのは秀逸でした。受信料を払いたくなる番組だったと思います。

両放送局とも、現地での取材は 9月下旬から 10月上旬にかけてと推察されます。また、取材の中心はカーペンタリア湾に面するバークタウン(地図)という人口 200人ほどの集落だったので、両局の取材クルーが現地で出会っていたのではないでしょうか。

NHK の番組を見逃した方は、以下の番組資料をご覧ください。「予告動画」には、見事なモーニング・グローリーの姿がおさめられています:
なお、再放送は:
総合テレビ 2009年12月10日 木曜日 午前1時10分~1時54分(水曜日深夜) ※中国地方は除く
だそうです。

ところで、このブログでモーニング・グローリーをとりあげたのは、8月 29日。両放送局とも現地での取材は 9月下旬頃から。ひょっとして、このブログの記事が企画のきっかけになった? … 考えすぎですね。


過去の関連記事

「月が赤いです」という投稿

件(くだん)の『異常現象に気付いたらお知らせください。』という掲示板に、以下のような投稿がありました:
No.107206 大阪淀川から月が赤いです 投稿者:淀川ママ 投稿日:2009/11/28(Sat) 01:17

今現在の角度は45度位ですが、こんな角度の色は見たことがないです。(以下略)
「淀川ママ」という投稿者は、28日午前 1時 17分の投稿で、「今現在の角度は45度位ですが」と書いています。しかし、28日の大阪での月没時刻は 午前 2時 9分ですので、午前 1時前後の月の仰角が 45度もあるとは考えられません。実際の高度は、かなり低かったと言わざるをえません。(月没時刻は、『天文年鑑 2009年版』(誠文堂新光社)による。)

「淀川ママ」という人が、うその報告をしたとは思いません。天体の高度(仰角)は錯覚しやすいも のです。腕をいっぱいに伸ばしたときの握り拳や指の幅を基準にして、地平線からその拳何個分、あるいは指何本分の高さというような報告であれば客観性が増すと思います。拳や指の幅を基準にした仰角の測定法は、以下のページの一番下に図入りで解説されています:
上記の「月が赤いです」といういささか不得要領な投稿を受けて、「多摩人」という人物(以下 T氏)が、自身が運営する掲示板ともブログともつかない『地震の掲示板ブログ』というところで、次のような議論を展開しています:
大阪の淀川から「月が赤い報告」、島根県東部のM3.6、芸予地震の前と同じ様な現象が出ています。瀬戸内海でしょうか?・気になります(汗)。
(中略)
午前1時に近い位置で月がかなり赤い状態ならば、すでに真上付近に上がっている事になり、非常に兵庫県南部地震の前と同じ被害地震の可能性がどこかで有るかもしれませんので、要注意でしょうか。芸予に限らず、他の地域の可能性も考慮に入れておく必要が有るでしょう。
(以下略)

前兆かもしれません?!」(投稿日:2009年11月28日(土)09時11分26秒)より引用
これを書いた T氏は、月の見かけの運動が理解できていないのではないでしょうか。「午前1時に近い位置で月がかなり赤い状態ならば、すでに真上付近に上がっている事になり」と言っていますが、時刻だけで月の位置が決まるものではありません。同じ時刻であっても、月齢などによって月の位置は大きく変わります。

また、T氏は、報告者が「45度位です」と述べているにもかかわらず、「すでに真上付近に上がっている」と書いています。同氏にとっては、仰角 45度は真上なのでしょうか。だとしたら、こちらがびっくり仰天です。

2009年11月28日土曜日

福島県が全国霊柩自動車協会と協定

「備えよ常に」のスローガンどおり、事前に準備をしておくのは良いことですが、このニュースはちょっと暗い気分になります:

モーニング・グローリーが TV 番組で… 今夜です

放送は TBS 系列で、今夜 9時からです。お見逃しなく。

朝日新聞の番組欄から:
世界・ふしぎ発見!
泣いた!感動!地球の奇跡
モーニンググローリーって何?
全長 1000キロ 神秘の雲

過去の関連記事

盗用疑惑

「UHF」という投稿者名の人物が、このブログの記載内容を、他の掲示板に出所を明示せずに転載するなどの行為を繰り返しています。気づいていないとでも思っているのでしょうか。

たとえば以下は、『異常現象に気付いたらお知らせください。』という掲示板(通称 KS 掲示板)に昨夜投稿されたものです:
No.107208 シッキムで謎の発光体の目撃続く 投稿者:UHF 投稿日:2009/11/28(Sat) 01:35

http://voiceofsikkim.com/2009/11/25/strange-objects-been-sighted-in-sikkim-skies-since-past-few-weeks/

インド・シッキム州で、過去数週間にわたって正体不明の発光体の目撃が続いています

目撃者によれば、発光体は大きな音と後方にたなびく煙をともなっていたとのこと

シッキムは北は中国、東はブータン、西はネパールに境を接するヒマラヤ山中の州

シッキムの位置するヒマラヤ山脈東部は、インド洋大津波引きおこしたスマトラ沖大地震や、四川大地震に引き続いて大地震がおこる可能性の高い場所にあげられています
明らかに、私のブログ記事「シッキムで発光体の目撃続く」(11月 28日 0:04 付)の文章をつぎはぎしています。

私自身、他のサイトの記事を引用することがありますので(もちろん著作権法の許容範囲内で)、拙文の著作権についてあまり厳格なことを言う気はありません。むしろ、引用や転載をして頂けるのはありがたいことだと考えています。しかし、法律以前の投稿マナーの観点から、文章の改変や引用・転載をする際には、その出所を明示してほしいものです。

なお、私は上記の掲示板に投稿したことは一切ありません。以前から、当該掲示板の管理者の首尾一貫しない削除や、自分の考えと相容れない内容の投稿に対する、上から目線の「お説教」じみた非難・指弾に辟易していますので。

シッキムで発光体の目撃続く

インド・シッキム州で、過去数週間にわたって正体不明の発光体の目撃が続いています:
上記は、『ボイス・オブ・シッキム』(シッキムの声)というニュースサイトに掲載されているものです。目撃者によれば、発光体は大きな音と後方にたなびく煙をともなっていたとのことです。住民からの問い合わせに対して、警察は軍の定期的な訓練、天体物理学者は彗星の破片が大気圏に突入したものと答えていますが、住民にとってあまり説得力はないようです。(エーリアンの乗り物としての) UFO 説、神あるいは女神の引きおこした超自然現象説、世界の終末説などが飛び交っています。

以下のグーグル・マップでもわかるように、シッキムは北は中国、東はブータン、西はネパールに境を接するヒマラヤ山中の州です:
シッキムの位置するヒマラヤ山脈東部は、インド洋大津波引きおこしたスマトラ沖大地震や、四川大地震に引き続いて大地震がおこる可能性の高い場所にあげられています。ひょっとしたら地震の前兆としての発光現象かも、とも思うのですが、可能性は低そうです。

ちなみに、シッキムは私の愛してやまないダージリン紅茶の産地であり、世界遺産に指定され、一度は乗ってみたいと思っているダージリン・ヒマラヤ鉄道が走っている場所でもあります。

2009年11月27日金曜日

渡り鳥の「放射」

以下は、イギリスの『Daily Mail』紙のサイトに載っている記事です。ハクガン(snow goose)と呼ばれる渡り鳥が、繁殖地である北極圏のツンドラ地帯から、越冬地であるメキシコ湾沿岸まで渡る途中で、アメリカ・ミズーリ州の Squaw Creek 国定鳥獣保護区に大量集結した様子を、写真入りで伝えています:
上から 2枚目の写真をご覧ください。たくさんのハクガンが写っていますが、鳥の分布や一羽一羽の翼の向きなどに注目すると、全体として、画面下部の水平線の中央部あたりを中心にして「放射」しているように見えます。また、背後の雲にも同様の「放射」が見られます。

このように見えるのは、基本的には遠近法の効果によるものです。さらに、撮影に使用されたレンズが広角系であるため、いっそう遠近感や「放射」が強調されています。

広角系(焦点距離が短い)のレンズは遠近感を強調し、望遠系(焦点距離が長い)のレンズは遠近感を圧縮します。一般のデジタル・カメラについているレンズは広角系であるため、地平線から広がる雲を撮影すると、実際よりも遠近感が強く表れ、「放射」が誇張されます。地震前兆をあつかう掲示板などに投稿されている「放射状雲」の写真を見るときには、このような効果があることを考慮に入れる必要があります。

ちなみに、上記の写真が撮影された鳥獣保護区は、以前は私有の猟場だったのだそうです。アメリカはスケールが大きいです。ハクガンは、一時は個体数が減少していたのですが、現在は年率 5%超で増加し続けており、他の種を圧迫する恐れがでているとのことです。

こちらは、中国で撮影された渡り鳥の大群です。掲載されている写真はすべて、望遠系のレンズで撮影されたように思われます:

2009年11月26日木曜日

太陽津波

ほぼ真円に近い形で太陽面を広がっていく“太陽津波”(solar tsunami)。波高 10万 km 以上、時速 90万 km 以上、エネルギー量は TNT火薬換算で 2400メガトンと、桁違いです:

台風 22号 (ニーダ) は日本に向かうか?

季節外れの台風 22号は、『デジタル台風』のサイトによると、 「24日 21時から 25日 21時までの 24時間に 80hPaも中心気圧が低下(台風としては発達)しました。これは歴代 7位タイの記録で、台風 198310号の 24時間で -90hPaという記録以来、ほぼ 25年ぶりの歴史的な急発達」 とのことです。現在の中心気圧は、最低だった 905 hPa から少し上昇して 910hPa となっています(気象庁の 26日 15時実況)。

5日後までの中心位置の予報円をみると、ほとんど同心円となっており、今後どの方向に進むかわからない状態となっています。TV番組の気象予報士の話では、今後、北上して日本列島に近づく可能性は低く、東か西に向かうだろうとのことです。この季節の日本列島は、西から東に向かう強風域になっているので、台風が近づいて来られないのだそうです。

台風 22号の現在位置は 東経 140度、北緯 15度です。過去の台風(1951年 ~ 2009年)の中で、11月中にこの位置付近を通過したもの 47件の進路を、『デジタル台風』のサイトで描いてみました(50件を指定して検索したのですが、条件に合致したものが 47件でした):
たしかに、北上して日本列島に近づくものは少ないようです。47件のうち、日本列島に上陸したのは、1990年の 台風 28号だけです。以下は同台風の進路、中心気圧の変化などの情報です:

桜島、徐々に活発化へ

鹿児島地方気象台が、桜島の活動見通しを発表しています:
桜島の現状は、東側の 2集落が溶岩で埋まった 1946年の「昭和の大噴火」の活動推移に類似しているとのことです。

過去の関連記事

世界でいちばん勇敢なネズミ

ヒョウのおりの中に突然現れたネズミが、ヒョウの餌を横取り。ヒョウが近づいて鼻先で押しのけようとしても、動じる気配がまったくなく、ヒョウの餌を食べ続けます。ネズミが勇敢すぎるのか、ヒョウがおっとりしすぎているのか:
餌があれば無益な殺生はしないよというヒョウのポリシーなのでしょうか。

2009年11月25日水曜日

アコーディオンの表現力と「超絶技巧」

何はともあれ、以下のページの動画をご覧ください:
少年がアコーディオンでビバルディの「四季」を演奏しているのですが、アコーディオンの表現力を再認識するとともに、この少年の「超絶技巧」に舌を巻きました。ただ、アコーディオンの蛇腹部分がほとんど伸縮していないにも関わらず長時間音が出続けている等、不審な点もあります。CD か何かの再生音に合わせて手指を動かしているだけかも、という一抹の疑念が残ります。

海底地震と「ポセイドンの車」と UFO

《 ご注意: この記事では、アーサー・C・クラークの小説『メデューサとの出会い』の内容に言及します。これから同小説を読む方は、先にこの記事を読むことによって、興味がそがれる恐れがあります。 》

このブログの 11月 18日付記事「木星の衛星エウロパに魚が生息?」の中で、『メデューサとの出会い』というアーサー・C・クラークの小説のことに触れました。この小説は、核融合炉を熱源とする熱気球につり下げられた宇宙船に搭乗する主人公が、木星の大気圏内で体験・目撃する驚異の現象や生物との遭遇を描いています。

主人公が目撃したさまざまな現象の中に、移動する複数の光の帯があります。光の帯は、くっきりとした輪郭を持ち、それぞれ 100km ほどの間隔と平行を保って、サーチライトの光が雲の下を走っているように移動していきます。この未知の現象についての主人公からの問い合わせに対して、衛星ガニメデにある基地から、以下のような調査結果が送られてきます:
「(略) きみが目撃したのは、生物発光だ――地球の熱帯の海で見られる微生物の発光現象にきわめて近いものと考えていい。もちろん、ここでは海ではなく大気中でおこるわけだが、理屈は同じだ」

(略)

「(略) これとそっくりのものがインド洋とペルシャ湾で目撃されている――ただし数千分の一というミニチュアだけれども。これを聞いてくれ。英領インド会社所属パトナ号、ペルシャ湾、1880年 5月午後 11時 30分――“光り輝く巨大な車輪が回転しつつあり、そのスポークは船体をなぎはらうかのごとく通過。スポークは全長 200 ないし 300 ヤード……車輪はそれぞれ 16本のスポークを有し……” もう一つは、オーマン湾での記録だ。日づけは、1906年 5月 23日――“まばゆい光輝はみるまにわれわれに接近すると、さながら戦艦のサーチライト・ビームを思わせる、明瞭な輪郭を持った光の柱をやつぎばやに西にくりだしはじめた……われわれの左側に、どこからともなく巨大な炎の車が現れた。そのスポークは、目のとどくかぎりのかなたまでのびていた。車の回転していた時間は、2分ないし 3分であろう”  (略)」

(略)

「(略) これが完全に解き明かされたのは、20世紀後半なんだ。光る車輪はどうやら海底地震の結果として生じるらしい。しかも浅い海に限られている。衝撃波が反射し、規格化された波形ができるところだ。縞になることもあるし、回転する車輪になることもある――“ポセイドンの車”という名で呼ばれている。海底で爆発をおこし、その結果を人工衛星から写真撮影して、はじめてこの理論が証明された。(略)」

『メデューサとの出会い』(アーサー・C・クラーク、ハヤカワ文庫 SF1730、早川書房)から引用
この“ポセイドンの車”(Wheels of Poseidon)は、実在の現象なのか、クラークの創作なのか。ずいぶん昔に初めてこの小説を読んだときには、わかりませんでした。しかし、インターネットでの検索が使えるようになって、この現象が実際に存在するものであることがわかりました。ただし、情報はきわめて限られており、類似の記述があちこちで見られるため、出所は一つではないかと思われます。上の引用でクラークがあげている目撃事例は、残念ながら確認することはできませんでした:
小説の中で主人公が目撃した光の帯は、この“ポセイドンの車”のスポークだったようです。地球の海中でおきる“車”と比べて、木星の大気中の“車”はあまりにも巨大なため、その一部しか見えない主人公からはスポークどうしが平行に見えたということです。

インド洋では、アメリカ海軍の艦船が海中の発光現象について多くの目撃報告をおこなっています。この中には、“ポセイドンの車”もあったようです。以下は、アメリカの海軍研究所が 1981 年に出した調査報告書の複写です:
  • Analysis of Fleet Reports of Bioluminescence in the Indian Ocean (インド洋における生物発光についての艦隊報告の分析、pdf形式、URL は http://www.dtic.mil/cgi-bin/GetTRDoc?AD=ADA109133&Location=U2&doc=GetTRDoc.pdf)
海中の発光現象は UFO と結びつけられることもありました。以下は、アルゼンチンのサイトで見つけた資料です。スペイン語で書かれていますが、図が多いのでおおよその内容は推しはかれます。空中から海中に、あるいは逆に、海中から空中に移動する UFO については、生物発光では説明できないと述べています:
“ポセイドンの車”と直接の関係はありませんが、以下のような記事もあります:

2009年11月23日月曜日

内陸直下型地震と断層

内陸直下型大地震の予測では、予測の有力な手がかりは地表に現れた地震断層です。しかし、地下の震源断層のずれが地表に断層となって現れないことがあり、危険な活断層の半数近くを見逃す(見逃している)恐れがある、と京都大学防災研究所の研究チームが指摘しています:
過去の内陸直下型地震78件を分析したところ、「地下で地震を発生させた震源断層と地表に現れた地震断層の長さがほぼ同じで、地震断層が地震の規模を反映していたのは、M7以上の9件の大地震でも4件しかなかった。M6~7未満では、69件のうち1件だった」とのことです。

富山湾にクジラの大群

22日(日)午後、富山湾で 100頭を上回るとみられるクジラの大群が見つかったとのことです:
大群を発見した第9管区海上保安本部の担当者は「これだけの群れが湾内で見つかるのは珍しい」と話しています。


過去の関連記事

2009年11月22日日曜日

火星の奇妙な地形

『ボストン・グローブ』紙の「The Big Picture」が、火星の周回軌道上にある Mars Reconnaissance Orbiter (MRO)搭載の HiRISE(High Resolution Imaging Science Experiment)高解像度カメラが撮影した火星表面の写真を特集しています:
冒頭の写真は、入れ墨をした人の皮膚を接写したように見えますが、実は、肌色をした火星の砂丘の上に、無数のダスト・デビル(塵旋風、小規模の竜巻)が通過した形跡が残ったものです。

4番の写真は、火星の南極冠で撮影されたものです。何らかの液体がくぼ地に溜まっているように見えます。でも、実際はそうではないとのことです。

6番の写真は、このブログでも以前紹介したことがあります。北極冠で撮影された、雪崩あるいは崖崩れ発生の瞬間です。崩落している部分は、幅 180m、長さ 190m と見積もられています。

9番の写真は、ビクトリア・クレーターの縁に残された火星探査車オポチュニティの轍(わだち)です。HiRISE の解像度の高さが如実に現れています。

17番の写真は、南極地域の直径 330m のクレーター。荒れた乾燥肌か、爬虫類の鱗のような地表が印象的です。

21番の写真では、左上に木のようなもの生え、地表にその影がうつっています。木のように見えるのは、ダスト・デビルです。


過去の関連記事

インフルエンザ・パンデミック

『ボストン・グローブ』紙の「The Big Picture」が、インフルエンザに関連する写真を世界中から集めています:
世界が注目しているウクライナで撮影されたものは、6番13番36番です。

写真として私が気に入っているのは、11番です。中国・四川省で撮影されたものです。周りから何本もの腕で押さえ込まれて、注射をされている少女。その絶叫ぶりが何とも…。また、画面左端に写っている別の少女(注射をされている子の姉?)の表情も。

2009年11月21日土曜日

ココノホシギンザメ捕獲 ― 北海道・函館市

19日(木)に、北海道・函館市の沖合で、ギンザメ科の深海魚ココノホシギンザメが捕獲されています:
北海道大学・臼尻水産実験所でも「ここ 15年は臼尻で見掛けたことはなく非常に珍しい」と話しているとのことです。

ココノホシギンザメの姿形は以下のページで見られます:
北海道南部では、下の「過去の関連記事」にあるように、9月には登別温泉で湯柱噴出、10月には白老町でサケガシラ捕獲がありました。

また、火山噴火予知連絡会が 10月 5日付で発表した「第 114回火山噴火予知連絡会 全国の火山活動の評価」(pdf形式)では、北海道南部の火山の中で、支笏湖畔の樽前山について以下のような記述があります:
  • A火口及びB噴気孔群では高温の状態が続いています。また、山頂溶岩ドーム付近の局所的な膨張を示す地殻変動が、2006年以降継続しています。
  • 地震活動や噴煙活動は低調な状態ですが、今後の活動の推移に注意が必要です。

過去の関連記事

リュウグウノツカイ捕獲 ― 島根県

20日(金)、島根県松江市美保関町の境水道で、体長 4.3m のリュウグウノツカイが捕獲されています:
7月下旬に続き今年 2度目で、鳥取県水産試験場では「珍しい魚が年に 2度も」と驚いているとのことです(7月は、境水道を挟んで対岸の鳥取県境港市潮見町で釣り上げられたものです)。


過去の関連記事

2009年11月20日金曜日

高層建築で火災に遭遇したとき

高層建築で火災が発生、逃げ遅れて部屋に閉じこめられたとき、充満する煙や有毒ガスから身を守るには:
一目瞭然の図があるので、詳しくは書きません。「新鮮」な空気が確保できると説明書きが添えられています。

日本の国際緊急援助隊が国連の能力評価試験に挑戦

このブログの 11月 15日付の記事「中国国際救援隊が国連から資格認証取得」の末尾で、「日本のチームがこのような資格認証を受けたという報道を私は見た記憶がないのですが、日本も何らかの認証を受けているのでしょうか」と書いたばかりですが、まだ受けていなかったようです:
こんなところでも中国の後塵を拝してしまって…。「ハンガリー、米、独など11か国の援助隊が既に認定されている」とのことです。本番の試験は来年 3月ですが、不合格だったら国際的に非常にみっともないことになります。災害救助技術に関しては、日本は世界でもトップ・レベルにあると自負してきたのですから。

経済破綻危機がささやかれる日本

主要国の株価が軒並み上昇しているのに、なぜ日本だけが低迷を続けるのか、TV 東京の経済番組でも、さまざまな要因の中に「民主党政権誕生による不透明感」を挙げていましたが……、以下は中国系ニュースサイトの記事です:
「民主党が圧勝し、日本の経済成長を阻害する方針・政策が面白いように連発され、日本を含む世界の株式投資家がドン引きして日本を見捨てた」、「2009年、世界の主要国のなかで、株価がマイナスなのは、経済破綻危機がささやかれる日本と、もうひとつは、本当に経済が破綻してしまったアイスランド。この2カ国だけ」だそうです。

日本の経済破綻に備えて、アイスランドがどうなったのか、勉強してみようと思っています。

大声で泣き叫ばない日本人

14日に発生した韓国・釜山市の室内射撃場の火災では、日本人観光客を含む 16人が死傷しましたが、それに関連して『朝鮮日報』紙が以下のコラム記事を載せています:
習慣や文化の違いなのでしょうが、日本人の目から見ると、葬儀に際して大声で慟哭するのは奇異に感じます。祖父母から聞いた話で、満州(中国東北部)の話か朝鮮の話かはっきりしないのですが、雇われて葬儀に参列し、大声で泣き叫んで報酬を得る「泣き女」と呼ばれる職業があったとのこと。今もそういうことがおこなわれているのかは、知りませんが。

葬儀のときの号泣もそうですが、反日デモのときの参加者の激高ぶりも、私にはかなり衝撃的です。感情を、われわれ日本人から見るとかなりオーバーなレベルで表に出すという点で、いつもイタリア人を連想してしまいます。イタリアも半島、朝鮮も半島、という点で何か共通の因子があるのかもしれません。

イタリア半島がとりついている大陸側にはフランス、朝鮮半島に対しては中国。私のステレオタイプな見方では、フランス人と中国人にも共通点があるような…。ともに理屈っぽくて、大声で議論し合う、というか、ののしり罵倒し合う。

ところで、室内射撃場の火災の件では、現地警察の記者会見が何度かおこなわれています。その映像を見ていて、日本の警察とは違うなと思った点が一つあります。それは、会見に現れる警察側の人数。日本では、通常 3~4人が報道関係者たちの前に着席して、そのうちの一人が主にしゃべるという形式です。残りは、返答に窮したときの助け船要員ということなのでしょう。そして、それらの警察官の中に、その警察署の最高幹部が入っていることは、まずありません。それに対して、今回の釜山の件では、報道関係者たちの前に現れたのは一人。それも、肩章に 4つの星があることから、少なくともその警察署の最高幹部の一人であろうと推察されます(間違っていたらごめんなさい)。最高幹部が一人で捜査の進捗を説明し、記者の質問にもテキパキ答えるというのは、見ていて痛快です。日本の警察のエライさんには、まねできないのではないでしょうか。

モーニング・グローリーが TV 番組で…

このブログで紹介したことがある「モーニング・グローリー」と呼ばれる雄大なロール状の雲が、TV 番組で取り上げられます。11月 28日(土)午後 9時からの『日立世界ふしぎ発見!』です:
番組のホームページから一部引用します:
それはまるで台風のように
凄まじい風を巻き起こしながらやってくる雲
モーニング・グローリー!
一直線に伸びたパイプ状の巨大な雲が
長さ 1000km 時速 60km で迫ってくるといいます

しかし気象学的にも非常に珍しい
奇跡の自然現象モーニング・グローリー
その発生に必要な気温 湿度 風
全ての条件が揃う瞬間は一体いつ訪れるのか…!?
ぜひお見逃しなく!

過去の関連記事

2009年11月19日木曜日

グーグル検索と「地震」

「地震」というキーワードでグーグル検索をおこなうと、日本独自の機能が働くようになっているそうです:
上記記事から「地震」の部分を引用します:
公開済み機能のうち日本独自のものとして、「地震」というキーワードに対して地震速報を表示する機能なども取り上げた。地震発生後の1時間に入力されるキーワードを調べると、「20%かそれ以上を“地震”というキーワードが占める。ユーザーが求める情報をすぐに見られるようにするために速報を検索できるようにした」。

今年の獅子座流星群

11月 18日(水)早朝にピークを迎えた今年の獅子座流星群ですが、流星の出現数は全体的に見て「普通」のレベルだったようです。アメリカ・ユタ州を中心とした地域では、大火球が出現したことが報じられています:
こちらの記事には、上記の大火球が残したと思われる長大な「流星痕」の写真があります:
典型的な流星痕の写真が以下にあります。獅子座流星群が大量出現した 2001年に撮影されたものです。流星痕は、初めは流星の軌跡に沿って出現しますが、時間の経過とともに上空の風に流され、変形していきます。この写真の流星痕でも、高度によって風の速度や方向が違っていることがよくわかります:
以下は、20世紀最大の出現といわれた 1966年の獅子座流星群の写真です。獅子座にある輻射点(放射点)から放射状に無数の流星が飛んでいることがわかります。流星のもととなる微小天体は、並行して地球大気圏に突入してくるのですが、遠近法の効果でこのように一点から広がって飛び散るように見えます。鉄道のレールを見たとき、本来は平行な 2本のレールが、遠方では一点に収束し、自分に近づくにつれて開いているように見えるのと同じです。地震前兆関係の掲示板やブログでは、しばしば「放射状雲」なるものの報告を目にしますが、そのほとんどは遠近法の原理で説明がつくものです。
輻射点から自分の方に向かってくる流星があったとしたら、どのように見えるでしょうか。この場合、普通の流星のように線状に流れるのではなく、輻射点近くの一点がパッと光り、さっと消えるだけです。そのため、静止流星と呼ばれます。私は、学生時代の流星観測会で 1度見たことがあります。パッと光った後、さっと消えなかった場合は、…… わかりますよね。

静止流星については、以下のページの中ほどに説明があります:

余談: 『地震の掲示板ブログ』というところの「現在の情報」(2009年11月18日(水)12時34分39秒)というタイトルの記事で、以下の新聞記事に掲載されている獅子座流星群の写真に対して「まあ~、沢山w」とコメントしています。誤解する方があるかもしれませんが、たくさん写っているのは実は流星ではなく、恒星です。固定カメラで撮影したために、日周運動によって移動し、線状に写っています。流星は、画面上部に 1本ひっかき傷のように写っているのが目立つ程度です:

過去の関連記事

反重力ヘリコプター !?

メイン・ローター(回転翼)が止まっているのに、自由自在に空中を飛び回るロシア製軍用ヘリコプターの動画です:
音声からもわかるように、実際には回転翼は回っています。回転翼の回転と、動画の一コマ一コマを撮影するタイミングを無線で同期しているために、映像では止まって見えています。なんでこのような映像を撮影するのかというと、回転中のメイン・ローターの各ブレード(この機種では 5枚)の変形を調べるためなのだそうです。

川が突然、断層の中に消えた

現場は、南米コロンビア北東部、サン・アンドレスという町から約 800m 離れたところです:
川と断層の位置関係(直交、並行など)はわかりません。「突然」と書かれているのですが、具体的にはどの程度の時間(数分、数時間、数日?)がかかったのか、また、きっかけとなる地震などがあったのかも不明です。サン・アンドレスの位置と周辺の地形は、以下のグーグル・マップで確認できます:
このニュースで思い出したのは、以前、天平時代の大地震とその前兆かもしれない現象をリストアップしていたときに目にした以下の記事です。コロンビアの件とは様相が異なりますが … :
天平 15年 6月 26日 山背(やましろ)国司が次のように言上した。今月 24日の酉の刻から戌の刻(午後6時頃から8時頃)の間、宇治川の水が枯れてしまって、通行する人は歩いて渡りました。

『続日本紀(中) 全現代語訳』(宇治谷 孟、講談社学術文庫)
前月の 5月に雨乞いをした旨の記録があるので、干ばつが原因とも考えられます。しかし、2時間だけ水がなくなり、その後は元のように水が流れたというのは、いささか不思議です。この前後 1~2年、さまざまな天変地異が記録されており、天平 17年 4月 27日(西暦 745年 6月 5日)に、伊吹山地の南東麓、関ヶ原古戦場の北東 4キロ付近で M7.9 の内陸大地震が発生しています。『理科年表』の「日本付近のおもな被害地震年代表」には、「美濃: 櫓館・正倉・仏寺・堂塔・民家が多く倒潰し、摂津では余震が 20日間止まなかった」との記載があります。

2009年11月18日水曜日

木星の衛星エウロパに魚が生息?

以前から、木星の衛星エウロパには、その氷で覆われた表面の下に、広大で深い海があることが推定されていました。その海に「従来モデルで想定されていた値の100倍の酸素が含まれているという画期的な研究結果が発表され大きな論争を呼んでいる」とのことです:
SF 作家たちは早い時期から木星系に地球外生命の存在を託してきました。太陽系内で地球以外に生命が存在するとしたらそれはどこかとの問に、アイザック・アシモフは 1960年代に出されたエッセイ集の中で「もちろん木星だとも」と答え、アーサー・C・クラークも『メデューサとの出会い』という作品の中で、木星の大気中を浮遊する巨大な生命体を描いています。木星の衛星エウロパについては、クラークが早くから注目していて、『2001年宇宙の旅』の続編・『2010年宇宙の旅』には、エウロパに着陸した中国の宇宙船が、エウロパの藻類(?)のような生物に遭遇・全滅する場面が描かれています。

『2010年宇宙の旅』で何よりも印象に残っているのは、その最終章近くで、宇宙船ディスカバリー号の船内コンピューター HAL9000 が人類に繰り返し伝えた、モノリスに象徴される超越的な存在からのメッセージです:
これらの世界はすべて、あなたたちのものだ。
ただしエウロパは除く。決して着陸してはならない。
現在、NASA は ESA(欧州宇宙機関)と共同で、エウロパを周回する探査機の計画を進めているようです。エウロパに着陸し、氷の表面を掘り進んで、その下の海洋を調査するのは遠い先の話になりそうです。探査機を完全に滅菌して、調査対象の天体が地球の微生物によって汚染されるのを防ぐのは、容易なことではありません。上記の記事には、以下のような記述があります:
探査機ガリレオは非常に興味深い調査結果をもたらした。特に、エウロパの表面下に塩分を含んだ海が広がっていることがわかり、生命が存在する可能性を見出した。万が一ガリレオがエウロパに墜落すると環境汚染の恐れがあったため、2003年、NASAはガリレオを意図的に木星に衝突させた。
この場合の環境汚染とは、地球の微生物をエウロパに持ち込むことですが、ガリレオがエネルギー源として搭載していた原子力電池のプルトニウムが飛散することも懸念されたのかもしれません。

固定カメラによる星野写真

三脚に固定したカメラで撮影した星空の写真集です。各写真はクリックすると拡大します。私は、上から 7枚目の廃棄されたトラックが写っている写真の雰囲気が好きです。なんだか、UFO が着陸してきそうな ……。

2009年11月17日火曜日

獅子座流星群と宗教

日本時間の今夜半から明日早朝にかけて、獅子座流星群が出現のピークを迎えます:
今年の出現数については平凡という予測と、かなり期待できるという予測があります。『天文年鑑』(誠文堂新光社)に掲載されている予報では、18日午前 0時と 7時に出現のピークがあり、出現規模は「B」(ピーク時に安定して 1時間あたり 10~30の出現をみせる)とされています。昨日が新月だったので、月の明かりに妨げられることがなく、観測条件としては最良です。しかし、関東地方は雨か曇りの予報で、観測は難しそうです。

この流星群は、2001年に北米で 1~2秒に 1個の割合で流星が飛ぶというすばらしい天体ショーを見せています。さらに遡ると、1833年に 1時間あたり推計 10万(毎秒 30)の流星や火球が飛び交うという「流星雨」あるいは「流星嵐」をおこしたという記録が残っています。

この 1833年におきた獅子座流星群の大出現は、キリスト教の一派である「Seventh-day Adventist Church」(セブンスデー・アドベンチスト教会、アドベンチスト派、キリスト再臨派)が生まれる契機となったことを、以下の記事は紹介しています:
以下に記事の一部を意訳します(完全な逐語訳ではありません):
数万個の星が空から落ちてくる光景を目撃したとしたら、あなたは何を考えるだろうか。おそらく、この世の終わりが来たと考えるに違いない。多くの人びとがそう考えた。

1833年 11月 12日から 13日にかけての夜に現れた獅子座流星雨は非常に壮観であったため、アドベンチスト派教会の設立につながった。同教会は、今日では世界中に約 1700万人の信者をかかえ、特にアメリカ内陸部では大きな存在感をもっている。

1833年の獅子座流星群は、当時の多くの人びとと同じように「流れ星は気象現象だ」と考えていた科学者たちが、それは天文現象なのではないかと考え始める契機となった。

(1833年の)流星雨を観察した人びとは、当日午前 3時の空は白昼と同様に明るくなったと書き残している。

獅子座流星群に関する NASA の歴史資料によると、「流星の大嵐が地球に押し寄せてきた…」と 19世紀の天文学著述家 Agnes Clerke は書いている。「空は、あらゆる方向に流星の輝く軌跡が刻みつけられ、壮大な火球によって照らし出されていた。」Clerke は、この夜は 9時間で 総計 24万個の流星が出現したと推定している。

他の人びとも、この神聖な出来事について書き残している。1888年のアドベンチスト派の書物『ホーム・サークルのための聖書講読』には、「天のすべてが動き、聖書の黙示録に書かれている恐ろしい光景を想起させた」と書かれている。この本では、この世が終末を迎えキリストが再臨する前に、「星が天から落ちる」と預言する新約聖書のいくつかの節に言及している。

1833年当時、多くのキリスト教徒は、キリストの再臨の予兆に注意を払っていた、とアドベンチスト派の施設の一つである Loma Linda 大学宗教学部の学部長 Jon Paulien 氏は語る。

聖書は、大地震、太陽が暗くなる日、そして月が赤くなるときも(キリスト再臨の予兆として)預言している。これらの現象は、すべて 1833年に先立つ数十年の間にすでに起こっていた。

「あとはもう一つの予兆、すなわち天から星が落ちてくることだけが残っており、それがおきたときには(キリストの再臨の)確証となる、と人びとは言っていた」と Paulien 氏は語る。「当時としては妥当な想定でした。科学が普及していない時代にあっては、このような現象に対して、より宗教的な解釈を施しがちになるものです。」

1833年の獅子座流星群を契機に、キリスト教徒の中には、キリストの再臨に対する準備を始めるものが出た。しかし、1840年代になっても、預言されたようにはキリストの再臨が起こらなかったため、一部の人たちは、(1833年の)流星雨やその他の予兆は、キリストの再臨について人びとがより高い理解を探し求めるようにし向ける神の意思によるものである、と結論づけた、アドベンチスト派教会を 1863年に設立したのは、1833年の流星雨をこの世の終わりの予兆と見なした人たちだった ―― と Paulien 氏は語る。
アドベンチスト派については以下の資料を参照してください:

2009年11月16日月曜日

スーパー・インフルエンザ

11月 8日付「ウクライナのインフルエンザ流行」の続報です。ウクライナでは、その後も感染者や死者の増加が続いています。ユーシェンコ大統領は、軍の移動病院を各地に展開するように命じたとのことです。今のところ、WHO(世界保健機関)は、H1N1 型のインフルエンザが原因との見方を変えていないようです。

人びとの不安と情報不足があるところでは常にそうですが、巷ではさまざまな噂が流れています。“super flu”(スーパー・インフルエンザ)という言葉も使われています:
上記記事の一部を以下に意訳します:
このウィルスは、世界中で流行している H1N1 株が突然変異によって非常に毒性が強まったものか、あるいは、ウクライナで現在蔓延している 3つの異なるインフルエンザ・ウィルスの株が混ざり合ったもののように見える。ある観察者は、この新しい「スーパー・インフルエンザ」は、インフルエンザというよりは「ウィルス性出血性肺炎」と名付けた方が良いのではないか、と考えている(ウィルス性出血性肺炎では、肺の組織が破壊され、肺の中で多量の出血がおき、患者は自分の血液によって呼吸が阻害され「溺れ」死ぬ)。しかし、このような見方は、われわれが関知しているいかなる公式の情報源によっても確認されていない。

ユーシェンコ大統領は、「わが国は 2種類の季節性インフルエンザと H1N1 型インフルエンザに同時に襲われている」と発表し、さらに、これら 3つのウィルスが混ざり合って、致死率の高いウクライナ・スーパー・インフルエンザとなった可能性があるとほのめかした。

(イギリスの)『デイリー・メール』紙が伝えるところによると、同大統領は次のように述べたとのことである。「他の国々で流行っている類似の伝染病とちがって、ウクライナでは 3つの深刻なウィルス感染が同時に広がっている。2種類の季節性インフルエンザと、カリフォルニア型インフルエンザである。ウィルス学者たちは、混合感染によってさらに攻撃的な新種のウィルスが突然変異の結果として生まれる恐れがある、と判断している。」
陰謀説大好きな人たちに「餌」を与えることになるといけませんので、今回はこの辺で留めておきます。

緊急地震速報機

「電源をON状態にするとFM放送を消音状態で受信します。緊急地震速報のチャイム音を感知すると自動で起動し、最大85dBの音量でスピーカーからラジオの緊急地震速報を流します」という「緊急地震速報機」(アイリスオーヤマ製)のレビュー記事です:
全体的に好意的な評価ですが、「水平な場所にタテ・ヨコどちらでも設置可能だが、壁にかけるようにもなっていてほしい」とのコメントがあります。

以下は、アイリスオーヤマのサイトにある製品紹介のページです。地元の FM 局に受信周波数を合わせておくだけなので、電気代(月額約 9円)以外、「契約料、月額使用料、管理費などのランニングコストは一切かかりません」とのことです:

2009年11月15日日曜日

中国国際救援隊が国連から資格認証取得

国連にこのような資格認証制度があるとは、まったく知りませんでした:
調べてみると国連の組織は複雑怪奇、似たようなことをおこなう組織がいくつもあり、どこかの国と同じように官僚機構がどんどん自己増殖しているように思えます。それはさておき、この認証制度を仕切っているのは OCHA(国連人道問題調整事務所)の下に設けられた INSARAG(国際捜索救助諮問機関)です。

この INSARAG の設置された経緯について、「国際緊急援助における UNOCHA の援助調整と日本の取り組み」(沖田陽介、JICA四国支部業務チーム/元JICA国際緊急援助隊事務局オペレーションチーム; pdf形式)という文書から引用させていただきます:
1988年にアルメニアを襲った大地震、通称スピタク地震が国際緊急援助における援助調整が叫ばれる発端であった。この地震災害に対し、日本を含めた世界各国は救助チームを派遣した。同国に派遣された救助チームは相当の数に上り、すでに救助活動のニーズはなくなり、アルメニアが求めていないにもかかわらず、続々と各国からの救助チームが押しかけるという事態が発生した。その結果、災害援助活動の展開全体が滞ることとなり、この反省を受けて 1991年に国際捜索救助チームの援助活動調整を行う INSARAG(International Search and Rescue Advisory Group:国際捜索救助諮問機関)が、UNOCHA(当時UNDRO:Office of the United Nations Disaster Relief Coordinator)を事務局として発足した。

INSARAGの目的は、国際 USAR(Urban Search and Rescue:都市域における捜索救助)チーム間の情報交換等の連携を図り、国際的に広く受け入れられる捜索救助の方法とシステムの開発を通じて救助活動の効率を高めることである。

組織体制としてはアフリカ・欧州グループ、アメリカグループ、アジア・太平洋グループの3つの地域グループに分かれ、各グループの代表とUNOCHAが参加する運営委員会、定期的地域会合、リーダー会合、必要に応じて地域ごとまたは地域横断的に開催されるワーキンググループなどが設置され、また訓練や研修も実施される。
そして、今回中国の救援隊が取得したという「重型救援隊」(Heavy Rescue Team)については、上記の文書に次のような記述があります:
軽中重分類とは米国が提案しているもので、各国チームをその人員、装備、能力等によって軽(Light)・中(Medium)・重(Heavy)に分類し、能力を十分に有しているチームとそうでない任意の団体とを区別し、受け入れ側の被災国の負担を可能な限り少なくするという動きである。各救助チームがさらに上のレベルを目指すことを促すのだという意見がある反面で、NGO などの小規模のチームが国際捜索救助活動の現場から排斥される恐れも併せ持つ動きでもあり、これまで日本も導入については慎重な発言をしてきた。
引用した文書は、2006年発行の『国際協力研究』に載っているものです。その時点では、軽・中・重という分類は米国が「提案」している段階だったようです。その後、日本のチームがこのような資格認証を受けたという報道を私は見た記憶がないのですが、日本も何らかの認証を受けているのでしょうか。

2009年11月14日土曜日

月面に大量の氷

セントール・ロケットと LCROSS による月面衝突の結果、月の南極付近に存在する「永久影」の地下には、大量の氷が眠っていることが判明しました:
以下は、NASA の発表文です:
以下のページには、衝突によってできたクレーターや、舞い上がった粉塵の写真、観測データのグラフなどがあります。写真やグラフは、クリックすると拡大します:
先月下旬には、以下のような残念な報道もありました:

過去の関連記事

ロシア極東の領土拡大

ロシアの領土が、極東地域で 4.5km² ほど拡大したとのことです:
13日に、ロシア科学アカデミー極東支部傘下の海洋地質学・地球物理学研究所の所長 Boris Levin 氏がテレビ番組で語ったところによると、4.5km² の内訳は:
  1. 2007年 8月 2日に樺太南部ネヴェリスク付近で発生したマグニチュード 6.8 の地震による海底の隆起で 3km²
  2. 今年 6月に始まった千島列島内 Matua 島(日本名:松輪島)にあるサリチェフ峰(日本名:芙蓉山、松輪富士)の大噴火で流出した溶岩流で島が成長したことによる 1.5km²
とのことです。

過去の関連記事

2009年11月13日金曜日

小惑星「2009 VA」が地球を掠めた

11月 6日に、「2009 VA」と命名された小惑星が、地球表面から 14000km のところを通過していきました。気象衛星「ひまわり」や通信衛星などの静止衛星の軌道よりも内側に入ってきたことになります。以下は、NASA の Near-Earth Object Program Office(地球近傍天体プログラム室)の発表資料です:
上記記事を翻訳してみました(厳密な逐語訳ではありません)。地球に接近あるいは衝突する可能性のある天体が発見された場合の、情報の流れがわかります。映画や小説では、軍や大統領が介入して、情報を隠蔽するという筋書きがしばしば見られますが、少なくとも今回のようなサイズの天体では、そのようなことがあり得ないことがわかります:
新たに発見され「2009 VA」と命名された直径約 7m の小惑星が、アメリカ東部標準時 11月 6日 16:30 頃に、地球表面から地球の半径の約 2倍分(14000km)のところを通過していった。これは、カタログに掲載された小惑星としては、地球に衝突してしまったものを除いて、歴代第 3位の接近記録である。歴代 1位は、直径 1m の小惑星「2008 TS26」で、2008年 10月 9日に地表から 6150km のところを通過した。2位は、直径 7m の小惑星「2004 FU162」で、2004年 3月 31日に地表から 6535km のところを通過した。今回接近した「2009 VA」と同じようなサイズの小惑星は、平均して 1年に 2回程度、今回の距離ぐらいのところを通過し、5年に 1回程度は地球に衝突する。

小惑星「2009 VA」は、Catalina Sky Survey(カタリナ掃天観測所、アリゾナ州)によって最接近の約 15時間前に発見され、マサチューセッツ州ケンブリッジにある(国際天文学連合の)Minor Planet Center(小規模惑星センター)によって、地球の非常に近くを通過する天体であると確認された。NASA の JPL(ジェット推進研究所)にある Near-Earth Object Program Office(地球近傍天体プログラム室)でもこの天体の軌道が計算され、地球に衝突する軌道ではないことが確認された。

わずか 13か月前には、今回のものより幾分小さめの天体「2008 TC3」が似たような状況で発見された。「2008 TC3」が地球への衝突コースに乗っていることが判明したのは、実際に衝突が起きるわずか 11時間前のことだった。
なお、小惑星「2008 TC3」は、アフリカのスーダン上空で大気圏に突入、バラバラに分解し、一部が地表に落下しました。自然の天体が大気圏突入前に発見されたのは、このときが最初とのことです。

過去の関連記事

マヨン山周辺で避難開始

フィリピンのマヨン火山では、今年の夏頃から、蒸気や火山灰の噴出、周辺での地震、山頂での溶岩ドーム形成などがしきりに報道されてきました。ここに来て大規模な噴火の可能性が高まってきたようです:
記事によると、火口から 6km の範囲内にある 2村の住民 3550人の避難が木曜日に完了、現在の警戒レベル 2が 3に引き上げられた時点で、さらに避難範囲を拡げて 26000家族の避難がおこなわれるとのことです。

マヨン山は、最近では 2001年と 2006年に大規模な噴火をおこしています。同火山の位置は以下の地図で確認できます:
マヨン山の東にはフィリピン海溝があり、東から西に向かってフィリピン海プレートが沈み込んでいます。一方、フィリピンの西側には、マニラ海溝を初めとする細切れの海溝がいくつかあり、そこから南シナ海の海底(ユーラシア・プレートの一部)が、逆に西から東に向かってフィリピンの下に沈み込んでいます。この両方向からの沈み込みのよって、フィリピンの中央部には南北に走るマニラ中央断層という左横ずれ断層が形成されています。マヨン山は、このマニラ中央断層とフィリピン海溝の間に挟まれた火山です。

マヨン山は、日本の富士山よりも形の整った成層火山です。写真などの資料は以下のページにあります:

マグマはたまり続けている ― 桜島

以下は『読売新聞』の記事です:
記事の前半は頻発する爆発的噴火による被害についての話題ですが、後半は桜島の現状について伝えています。それによると、「桜島の地下には毎月約100万トンのマグマが流入していると見られ、爆発によって流出しているのは毎月50万トン程度に過ぎず、マグマはたまり続けている」と、京都大学・防災研究所の石原和弘教授が指摘しているとのことです。

巨大地震でも死者なし ― 名古屋城下

名古屋大学災害対策室の市民向け講座で、同大学の溝口常俊教授(歴史地理学)がおこなった講演の内容が、『読売新聞』に紹介されています:
鸚鵡籠中記』という尾張藩御畳奉行の日記を分析した結果、「全国で 3万人以上の死者が出た宝永地震(注)では、名古屋城下に限れば死者はなく、地震に強い町だったと言えそうだ」とのことです。だからといって、次の大地震でも大丈夫だという保証はありませんが。
(注)1707年、M8.6
この講座も、大学がおこなうアウトリーチ活動の一例です。

なお、『鸚鵡籠中記』を紹介した『元禄御畳奉行の日記』の一部を以下で読むことができます:

電磁バリアを張った自動車

自動車の周りに電磁バリアを張れば、衝突しても自動車本体には損害がない(笑)。作った人は、究極の自動車泥棒除けのつもりだそうです:
自動車の屋根にテスラ・コイルを置き、それに取り付けた竿を回転させて撮影しています。動画が、以下のページにあります:

2009年11月12日木曜日

大気圧の変動が地滑りのきっかけに

大気圧の変動が、地震、地滑り、火山噴火、氷河の移動などのきっかけになりうるとの研究成果が発表された、と『USA トゥデイ』紙の記事が伝えています:
以下は記事の抄訳です:
どのようなタイプの気象がきっかけとなるのか?

研究の中心人物で米国地質調査所(USGS)に所属する William Schulz 氏は次のように語る。それは地震が起きやすい地域の周辺を通る気象システムのスピードに依存する。急速に移動する低気圧―嵐―は、ある種の地滑りや地震を引きおこす。低気圧が通過しているときには、地面に加わる力が減少し、土壌に含まれる空気や水の分子が上に向かって移動する。この移動によって、ふだんは土壌や岩石を支えている摩擦が減少し、地滑りや地震を起こす潜在的な要因となる。

一方、異常に高い気圧が長期間続く場合、穏やかで静かな天候になるが、これも地滑りや地震のきっかけとなりうる。高い気圧は大地の不安定化をもたらすからだ。

Schulz 氏とその同僚たちは、コロラド州南西部で起きている大規模できわめてゆっくりと移動する地滑りを、9ヶ月間にわたって分析し、「大気潮汐」(atmospheric tides)が地滑りにどのように影響するのかを調べた。この大気潮汐とは、太陽が大気を暖めることによって生じる 1日サイクルの大気圧の上下である。

この研究は、地震と気象の間の関係について提出されたピア・レビュー済みの研究報告としては 2番目のものである。『ネイチャー』誌の 6月号では、台湾の ChiChung Liu 氏の研究チームによって、アジアにおける地震の幾ばくかは台風に伴う気圧低下によって起きている可能性があると報告されている。

この研究について、コロラド州ボールダーにある国立大気研究センター(NCAR)の研究主幹である Maura Hagen 氏は次のように語っている――これは非常に興味深い論文で注目すべき結論だ。この研究は「大気の変動と地滑りの移動の間に強い相関がある」ことを示している。さらにこの研究報告は、大気から地表面にいたる全地球システムが一体であり、相互接続されたシステムであると指摘するすばらしい業績である。
上記記事のもとになった研究報告は、『ネイチャー・ジオサイエンス』誌に最近掲載されたもので、以下にそれを伝える『ネイチャー』誌のニュース記事があります。記事の全体を読むのは有料で登録が必要です。無料では、残念ながらほんの一部分しか読めません:
『USA トゥデイ』紙は、「大気圧の変動が、地震、地滑り、火山噴火、さらには氷河の移動までも、のきっかけになりうる」と書き、地滑りと、それ以外の地震、火山噴火、氷河の移動を同列に扱っています。しかし、発表された研究そのものは地滑りについてのものです。この点について、『ネイチャー』の記事(有料版)では次のようになっています:
Schulz and his team go one step further. They suspect that atmospheric tides could be involved in other phenomena that involve sliding surfaces, including earthquakes, volcanic eruptions and glacier movement.

シュルツ氏とその研究チームは、(地滑りだけではなく)もう一歩先を考えている。彼らは、大気潮汐が摺動面(滑り面)をもつ他の現象、すなわち地震、火山噴火、および氷河の移動、にも関与しているのではないかと思って(suspect)いる。
つまり、地滑り以外の現象については、大気潮汐の影響があるのか否か、まだ実際には調べられていないのです。その点で、『USA トゥデイ』紙の記事は、やや勇み足であり、ミスリーディングであると思います。

研究対象となった地滑りは、“Slumgullion landslide”(スランガリアン地滑り)あるいは“Slumgullion Earthflow”(スランガリアン土流)と呼ばれる現象で、コロラド州南西部にあるサン・フアン山脈で発生しているものです。約 700年前に始まった地滑りで、全長 4km。現在もゆっくりと、1時間あたり平均 0.5mm のスピードで土砂が移動しているのだそうです。日本で大雨の時などに発生する土砂崩れとは、地理的にも時間的にもスケールが違っているようです。
「スランガリアン」とは、シチュー料理の名前だそうです。地滑りの土砂の黄色っぽい色やゴチャゴチャな状態が、その料理の見かけに似ていることから、初期の植民者によってそう呼ばれるようになったとのことです。どんな料理なんでしょうか。

2009年11月11日水曜日

科学と国防

一昨日の記事「カール・セーガン・デー」の末尾で、セーガン博士の著書『カール・セーガン 科学と悪霊を語る』(新潮社)から私の好きな逸話を一つ紹介しました。実はその記事を書いたとき、もう一つ紹介したい逸話が頭の中にあったのですが、出典がわからないので控えていました。

私の記憶では、セーガン博士のいずれかの著書に載っていたはずなのですが、どうも記憶違いだったようです。『破局のシンメトリー』(ポール・プロイス、早川書房)が出所です。以下に引用します:
フェルミ国立加速器研究所の 1974年 5月の開研式典(デディケイション)のとき、招かれてここを訪れた某上院議員が、「この高価な施設はアメリカの国防にどれほど役に立つのか?」という皮肉な質問をしたところ、ウィルスン所長(初代研究所長 ロバート・R・ウィルスン博士)は即座に「何も。そのかわりこれは、アメリカを守る価値のある国とするために役に立つ」と答えたという。
民主党政権は科学技術分野の予算を削減しようとしているようです。科学技術については、短期間での成果の多寡や効用の有無といった近視眼的な評価基準で予算を削ると、後で必ず、減らした額以上のしっぺ返しを国や国民が受けることになると、私は思います。評価に際しては、どうか長期的な視点や世界的な視野(中国やインド、その他の国々との生存競争など)を忘れないで頂きたいものです。

けなげ

写真がすべてを語っているので、特にコメントはしません。私は、こういう動物のけなげな姿を見ると、涙ぐんでしまいます:

雪だるまの自殺

イギリス『テレグラフ』紙の書評記事です。本文はともかく、掲載されている書籍の表紙の絵がおもしろかったので。雪だるまが手にしているのは、ヘアドライヤーです:

どこかで見た顔

今月 5日、アメリカ・テキサス州のフォートフッド陸軍基地で、精神科医の陸軍軍医少佐が兵士など 13人を射殺し、数十人を負傷させた事件は、オバマ大統領の訪日日程にも影響を与えました。以下は、事件を伝えるイギリス『テレグラフ』紙の記事です:
記事には犯人の顔写真が大きく掲載されています。この写真を見たとき、「どこかで見た顔」という印象はあったのですが、どこで見たのか思い出せずにいました。そして、今朝ベッドのなかでウトウトしているときに、突然思い出しました。「あの顔だ!」と。

「あの顔」とは、以下の記事にでている顔です:
あまり似ていない?

この多くの人の夢に現れたという『This Man』にもっと似ている人が、日本にいます。犯罪者でもないし、それほど有名人というわけでもないので、あいにく写真がありません。5~6年前に仕事の関係で数回お目にかかったことのある、外資系コンピューター・メーカーの部長さんです。Web 関係の統合ソフトウェアを担当されていました。今も同じポジションにおられるのかは、存じませんが。

東海地震が切迫?

以下のような記事が『東京新聞』に掲載されていました:
駿河湾で 8月に起きたマグニチュード 6.5 の地震によって、「東海地震で動くとされる固着域(アスペリティー)のほとんどで、地震発生を促進する方向に力が及んでいた」が、「断層の滑りを促進する方向に働いた力は約 0.001 メガパスカル。月が地球を引っ張る潮汐力と同程度で非常に微弱なため、東海地震を誘発する要因にはなっていない」とのことです。詳しくは上記記事をお読みください。

2009年11月10日火曜日

アポロ 11号の着陸地点の最新画像 (その 2)

LRO に関連して、おもしろい写真が以下にあります。陰謀説好きの人たちは、この写真を見て、アメリカが秘密兵器のテストをしていると妄想を膨らませるかも知れません:
2枚の写真は、いずれもクリックすると拡大します。

ドー ム状の建物からレーザー光線が月に向かって照射されています。実際には月ではなく、月の周囲を回っている LRO(大きさは、ほぼミニバンに匹敵)に向けて、毎秒 28回のパルス状のレーザー光線を送っているものです。LRO からの反射を計測することによって、LRO の位置を 10cm 以内の誤差で求めることができるそうです(マイクロ波を使った場合は 誤差が 約 20m)。

LRO は、将来の有人月探査に備えて、月面の詳細な地図を作ることを目的としています。月面の地形を詳細に計測するには、計測する LRO 自身の位置が精確にわかっている必要があります。そのため、レーザーを使った LRO の位置計測がおこなわれているわけです。

LRO の位置を厳密に把握することによって、月の重力異常もわかります。重力異常がわかれば月の内部構造も推定することができます。日本の月探査衛星「かぐや」でも、月の重力異常の計測がおこなわれました:
ち なみに、重力異常という言葉の「異常」は、空間的な平均値との差という意味で使われています。宏観異常などの「異常」とは意味が異なります。地震前兆関係 の掲示板やブログなどで「ブーゲー異常」あるいは「ブーゲ異常」という言葉を振り回している人を見かけますが、この言葉の意味を誤解しているようです。

(完)

アポロ 11号の着陸地点の最新画像 (その 1)

人類初の月面着陸をなしとげたアポロ 11号の着陸地点「静かの海の基地」の高解像度画像が公開されました:
月を周回中の LRO(Lunar Reconnaissance Orbiter: 月偵察衛星)が撮影しました。この地点の映像は以前にも公開されていますが、今回公開されたものは LRO が高度を 50km まで下げた後に撮影されたもので、解像度が非常に高くなっています。着陸船の 4本の脚や、アームストロング船長とオルドリン飛行士の足跡、周囲に設置したレーザー反射鏡や地震計などの観測装置も識別可能です。

太陽光線がほぼ真上(画面に対してやや左上方)から射しているため、クレーターの縁などははっきりしませんが、着陸船や観測装置類は反射で強く輝いています。

2枚の写真の間にある“> Larger image”と書かれた部分をクリックすると、さらに見事な画像を見ることができます。画面の右側中央にある“West Crater”はかなり新しいクレーターで、隕石の衝突によって周囲に投げ出された角張った岩石が見分けられます。

アポロは月に行ってい なかったと主張する人たちは、これらの画像をどう受け止めるのでしょうか。NASA のねつ造と言いはるのは、もはや無理であると思います。インドや中国などは、今後、さらに解像度の高い映像が撮影可能な月周回衛星を打ち上げる予定です し、中国は有人宇宙船を月に着陸させる計画を進めています。そのような状況で、NASA がねつ造した写真を公開しても、すぐに真実が露見してしまうでしょう。

(続く)

秋田駒ヶ岳の高温域が拡大

10月 28日付「秋田駒ヶ岳に噴火予報・警報」の続報です。仙台管区気象台では「高温域の拡大が確認されたが直ちに噴火する兆候は認められず、今後も火山活動の推移に注意する必要がある」と話しているとのことです:

2009年11月9日月曜日

カール・セーガン・デー

宇宙科学の分野や、科学についての啓蒙活動で大きな業績を残した故カール・セーガン博士を記念して、今年から「カール・セーガン・デー」が設けられ、11月 7日(土)に最初の催しが行われました。本来は、セーガン博士の誕生日である 11月 9日がその日なのですが、曜日の関係で今年は 7日になったようです:
宇宙における人類の役割についてのセーガン博士の深い思索は、世界中に大きな影響を与えたと思います。博士が残した有名な言葉には、核戦争後の環境を表した「核の冬」や、ボイジャー探査機が 60億キロ離れた地点から撮影した地球の姿を表した「the pale blue dot(青白い小さなシミ)」などがあります。

セーガン博士の業績の大きさは、その名前が太陽系内の 3つの場所に付けられていることからもうかがわれます:
  1. カール・セーガン記念基地(1997年、火星に着陸した NASAの探査機マーズ・パスファインダーの着陸地点)
  2. 小惑星セーガン(=小惑星 2709)
  3. カール・セーガン・クレーター(火星の赤道近くにある直径 9600km のクレーター)
3か所に名を残した科学者は、他にはいないのではないでしょうか。

セーガン博士は、社会の反科学的な動きや、占星術、心霊、オーラ、超能力などのオカルト、UFO 宇宙人乗り物説などなど、数えだしたらきりがない似非(えせ)科学や疑似科学に対する批判にも、多くの時間を割きました。博士の晩年の著作で、博士の遺言とも言える『カール・セーガン 科学と悪霊を語る』(カール・セーガン、新潮社)から、博士の言葉をいくつか紹介したいと思います。なお、この書物の原題は“The Demon-Haunted World : Science as a Candle in the Dark”で、直訳すると「悪霊に取り憑かれた世界:暗闇のなかのロウソクとしての科学」です。「Demon(悪霊)」とは反科学・非科学的な思考や風潮を指しているのですが、邦題は原著者の意図といささか乖離しているように私は思っています。

科学について:
知識を得るための道具という点では、科学はとうてい完璧などと言えた代物ではない。ただ、人間が手にしている道具のなかでは、いちばん“まし”だというだけのことだ

科学的な思考法は想像力を必要とすると同時に、訓練によって鍛えられたものでもある。そして、まさにその点こそが、科学が成功している理由なのだ。科学は、たとえ予想に反していても、事実は事実として受け入れるようにわれわれを励ます。また、仮説はいくつも用意しておいて、事実にいちばん合うのはどれかを見きわめなさいと教えている。 (中略) 科学が成功したもう一つの理由は、その核心部分にエラー修正機能が組み込まれていることだ。エラーがあれば修正するというのは、なにも科学だけの特徴ではあるまい、と思う人もいるかも知れない。しかし、私に言わせれば、自己批判に努めたり、自分の考えを外界と照らし合わせたりするとき、人は科学しているのである。逆に、ご都合主義にはまり込んで批判精神をなくし、願望と事実を取りちがえているようなとき、われわれは似非科学と迷信の世界にすべり落ちているのだ。
科学者について:
科学によって解明されていないことはたくさんあるし、未解決の謎も多い。何百億光年もの広がりをもち、百億年ないし百五十億年の時を経た宇宙にあっては、すべての謎が解き明かされる日は永遠に来ないのかもしれない。われわれ科学者は毎日のように、予想もしなかった驚くべき事実にぶつかっている。ところが、ニューエイジ思想や宗教の本のなかには、「科学者という連中は、この世には自分たちの発見したものしか存在しないと信じ込んでいる」などと書かれたものがある。たしかに科学者は、神秘的な啓示を否定するかもしれないが、それは、啓示を受けたという本人の申し立て以外には、何の証拠もないからにすぎない。だからといって科学者は、自然界についての自分たちの知識が完璧だなどと思ってはいないのである。
似非(えせ)科学について:
科学を大衆に伝えるのが下手だったり、伝える機会が少なかったりすると、すぐに似非科学がはびこり始める。「きちんとした証拠がなければ知識とはいえない」と考える人たちが増えれば、似非科学のはびこる余地はなくなるはずだ。あいにく大衆文化では、「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則がまかり通っている。つまり、悪い科学は良い科学を駆逐してしまうのだ。
「科学を大衆に伝える」こと、すなわち、科学分野の研究成果などを一般社会に還元するアウトリーチ活動が重要であることは、上にセーガン博士が述べているとおりです。ところが最近は、まともな専門教育を受けたことのない似非科学の徒までが、「自分はアウトリーチをやっているのだ」と言い出すので始末が悪い。

ネット上の地震予知関係の掲示板やブログなどを見ていると、非常に頻繁に似非科学的主張や、反科学的な意見に出くわします。また、そのような場所に正当な指摘や批判が投稿されると、「荒らし」と断罪されたり、削除の憂き目にあったりということが繰り返されています。まさに、「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則が成立していると言えるでしょう。

最後に、私の好きな逸話を同書から引用します:
私はときどき、宇宙人と「コンタクト」しているという人から手紙をもらうことがある。「宇宙人に何でも質問してください」と言われるので、ここ数年はあらかじめ短い質問リストを用意している。聞くところによると、宇宙人はとても進歩しているそうだ。そこでこんな質問をしてみる――「フェルマーの最終定理を簡単に証明してください」。あるいは、ゴルトバッハの予想でもいい。もちろん宇宙人は、「フェルマーの最終定理」という呼び方はしないだろうから、その内容を説明しなければならない。そこで例の、羃指数つきのごく簡単な数式を書いておくのだが、返事をもらったことはただの一度もない。ところが、「私たちは善良であるべきでしょうか?」といった質問をすると、ほぼまちがいなく答えが返ってくる。漠然とした質問には(とりわけ道徳にからむ陳腐な質問には)、宇宙人は喜んで答えてくれるのに、地球人より進んでいる宇宙人なら知っていてもよさそうな専門的な質問をすると、とたんに口を閉ざしてしまうのだ。この落差は何を物語っているのだろうか。

かけ算の新しいやり方

乗数と被乗数の各桁の数値に応じた本数の直線を引いて、その交点の数を数えるという方法です。九九を知らなくても、複数桁の数値どうしのかけ算が行えます。言葉で説明されてもわからないと思いますので、何はともあれ以下の動画による説明をご覧ください:
「999 × 999」のように、必要な線の本数が増えると、けっこう面倒です。

2009年11月8日日曜日

ウクライナのインフルエンザ流行

ウクライナでインフルエンザの感染が急拡大し、混乱が起きています。大統領選挙が来年 1月に迫っていることも混乱に拍車をかけているようです。現大統領の再選は見込み薄で、親欧米派の現首相と親ロシア派の前首相が有力候補と目されていますが、今のところ後者が優勢だと伝えられています:
感染の急拡大と死者の急増のため、新型インフルエンザに紛れて肺ペストが流行しているのではないか、との噂も流れています。WHO(世界保健機関)も調査団を派遣しています:
WHO は新型インフルエンザのウィルスを確認したようです:
こういう状況では、人びとの不安につけ込んで怪しい情報を流すサイトが増えます。真に受けないようにしたいものです。以下はそのような例です:
以下のような情報もあります:

人工ブラックホール

ブラックホール関連の話題を 3つ。初めは、中国の科学者が人工ブラックホールを作ったという記事です:
記事を読むとわかるのですが、大質量による強い重力であらゆる物質やエネルギーを吸い込むという本物のブラックホールではなく、デスクトップ(卓上)・ブラックホールといって、別の手段で光などの電磁波を吸い込み、最終的には熱エネルギーに変えてしまう装置のようです。

2つ目は、日本・中国・韓国の共同研究チームが模擬ブラックホールを作ったという記事です:
こちらも、「ブラックホール周辺の環境を地上につくり出すことができた。高出力レーザーを使うことで、将来はブラックホールそのものをつくれる可能性が出てきた」ということで、本物のブラックホールを作り出したわけではありません。新聞記事のタイトルには、ミスリーディングなものが多いと思います。

3つ目は、宇宙誕生直後の状態を再現する実験過程で、偶然マイクロ・ブラックホールができてしまい、地球に大災厄をもたらすかも知れないとうわさされた CERN(欧州原子核研究機構)LHC(ラージ・ハドロン・コライダー、大型ハドロン衝突型加速器)に、ふたたび不具合が生じたという情報です:
まるで「見えざる手」が実験を阻止しようとしているようです。LHC でマイクロ・ブラックホールが生成される危険性については、その可能性がきわめて低く、仮にブラックホールが生成されても瞬時に蒸発(崩壊)してしまうとのことです。しかし、ヨーロッパでは、実験の差し止めを求めた訴訟が起こされています。

なお、ブラックホールの「蒸発」については以下を参照してください:

2009年11月6日金曜日

桜島の爆発的噴火

今年になって起きた桜島の爆発的噴火の回数が、400回を超えたそうです:
京大防災研究所の井口正人准教授は、「昭和噴火の前兆と似た状態」、「今は活発化していく途中の段階で、来年以降、さらに爆発は増えるはず。数年以内には昭和噴火レベルの噴火が起きる可能性がある」とコメントしています。

桜島の「昭和噴火」については以下の資料を参照してください。気象庁の資料では「大噴火」となっています:

阿蘇山が活発化 ? (続報)

4日付「阿蘇山が活発化 ?」の続報です。福岡管区気象台が 6日付で以下の資料を発表しています:
観測データのグラフや写真が貼付されています。以下に一部を引用します:
2日 05時 30分頃から火山性微動の振幅が次第に大きくなり、9時から 16時 30分頃にかけてさらに大きくなりました。その後消長を繰り返しながら次第に小さくなっていますが、振幅増大前よりもやや大きい状態が続いています。孤立型微動は一日あたり 200回を超える多い状態が続いています。火山性地震は少ない状態で経過しています。
中岳第一火口では、噴湯現象、火炎現象、赤熱現象が見られるが、いずれも従来から発生しているもので、火口内で発生している局所的な活動であるとのことです。詳しくは上記資料をご覧ください。

2009年11月5日木曜日

長野県南部で地震多発

毎日、地震発生の動向をチェックしている人にとっては、周知の事実ですが:
「木曽町を中心とした県南部で (中略) 震度1以上の地震は県内震源のもので8月は3回、9月は4回だったが、10月は14回発生、最大震度4を同町で観測」、無感も含めると、通常は 1か月あたり 100~150回であるものが、10月は 527回だった、御嶽山の火山活動とは関係ない、とのことです。

月の誕生とフィリピン海プレート

地球の衛星・月がどのようにして形作られたのかについては諸説ありますが、現在有力なのはジャイアント・インパクト説です。

それに対して Peter Coleman という人物が新説(explosive fission theory; 爆発分離説)を唱えています ―― 月は、マントル深部でおきた爆発によって地球から飛び出した。フィリピン海プレートは月が飛び出した後に残った巨大な穴だった。この説によれば、これまで説明できなかったテクタイトの分布を説明できる ―― というものです:
非常に長い記事で、多くの証拠をあげています。すべてを紹介することはできませんので、以下に一部だけつまみ食いします:
月は、弾性体でできた大砲の弾丸のように、回転しながら地球から飛び出した。飛び出した場所は、現在、フィリピン海プレートで覆われている。回転の軸は、フィリピン海プレートの南北方向の直径と一致していた。

フィリピン海プレートの北端と南端には三重会合点(3本のプレート境界が交わるところ)があり、その 2点間の距離は、月の直径 4376km と驚くほど近い。このプレートは完全に沈み込み帯に囲まれており、その起源は謎に包まれている。このプレートを、標準的なプレートテクトニクスの枠組みにむりやり当てはめようとする試みが続けられてきた。研究者の中には、このプレートは現在の位置に回転することによってはまり込んだと考える向きもある。 (注: 月の直径は、天文年鑑によれば、4376km ではなく 3476km です。フィリピン海プレートの北端と南端の間の距離は約 3600km です。)

Coleman は、フィリピン海プレートはかつて、月が飛び出した後に残された巨大な穴だった、と推測している。月が飛び出した後の穴は、ジクジクと膿がしみ出す傷口のようなもので、莫大な量の玄武岩質マグマが湧きだした。このことによって、約 2億年前に北西太平洋のこの場所で太平洋が誕生したという科学者たちの考えを説明できる。

月を飛び出させた爆発が、同時にプレート・システムと沈み込みの起こる海溝を作り出したとしたらどうだろうか。プレート・テクトニクス理論は、日に日に疑わしさが増している。この理論において定説となっている沈み込みの概念に反することになるが、月が飛び出したという仮説によれば次のように考えられる: すなわち、月を飛び出させた全地球的爆発によって生じたリソスフェアのひび割れは、海洋性のスラブによって充填される。これの意味するところは、ウィルソン・サイクルとよばれるような過程で、海洋性のスラブが連続的に大陸の下に沈み込んでいく必要はないということである。もし、海洋底のリサイクルがなかったとしたら、現在海底に横たわっているのは、原初の海洋底ということになる。よって、この論理は、北西太平洋における最古の海底がわずか 2億年前のものであるという事実と密接に関連している。

月の創成の原因となった爆発は、ヒマラヤやチベット高原の大規模な隆起、インドとユーラシアの衝突なども引きおこした。この仮説はさらに多くの地形 ―― インドを中心とする世界最大の負のジオイド異常、インド由来の玄武岩が西フィリピン・プレートに存在すること、背弧海盆の存在、東南アジアの地形など ―― の成因を説明できる可能性がある。もし、フィリピン海プレート方向へ向かう爆発の力が弱かったならば、月を軌道まで飛び出させることはなく、かわりに小さな大陸が形成されていたであろう。

月が地球深部から飛び出したのだとしたら、その痕には深い穴が残る。その穴はマグマによって埋められることになるが、マグマが冷えて固まるので、完全に埋め尽くされることはなく傷跡(フィリピン海プレート)として残る。現在でも、その傷跡の近くではプレートの移動が速く、かつての深い凹み向かって滑っていく傾向がある。

この仮説は、地震予知理論にヒントを与える。また、地震の専門家は否定するが、離れた場所で起こる地震の間に関係があるように見えることの理由も説明できる。
このほかにも、飛び出した月が、なぜ地球の潮汐力によってばらばらに破壊されなかったのかについての説明、(アポロ計画で持ち帰られた岩石によって判明した)月の高地の地質や環太平洋火山帯の存在もこの説ではうまく説明できるとしています。

抜粋ではわかりにくいとと思われる方は、ぜひ原文にチャレンジしてください。

この説がトンデモであることは、月やフィリピン海プレートの年齢を考えれば、すぐにわかります。この説を唱えている本人もこの点には気づいているようで、長~い文章の最後の段落で「One major hurdle(大きなハードル)」であると認めています。そして、このハードルを克服するには、今のところ、(月を飛び出させた)地球規模の爆発が、(放射性同位元素の比率などによって計測される)地質学的な時計をリセットしたと考えるしかない、と吐露しています。

上記の記事は、メディアの記者が取材したものではなく、Coleman という人物が自分で執筆し投稿したものです。Coleman とはどういう人物なのか、どうもよくわかりません。ニュージーランド在住の研究者とのことですが、サイエンス・ライターのようでもあります。以下のページは同じ人物の研究を紹介しています(ありがちな名前なので同姓同名の可能性もありますが):

2009年11月4日水曜日

テスラ・ロードスター

10月25日に放映された NHK スペシャル『自動車革命 第2回スモール・ハンドレッド 新たな挑戦者たち』に衝撃を受けた方は多いと思います。電気自動車など、エコロジーを重視した自動車の開発で、日本は世界の先頭を走っていると多くの日本人は信じているのに、実は、すでに中国やアメリカの後塵を拝するようになりつつあることが、あからさまになっていました。中国の電気自動車に試乗したトヨタ自動車の幹部が、その予想外の完成度の高さに愕然とする様子も印象的でした。中国やアメリカでの電気自動車分野へ新規参入や起業、投資意欲のすさまじさには圧倒されるばかりです。ひるがえって日本はと考えると、「沈滞」という言葉しか出てきません。

このような番組は、自動車メーカーから広告料を受けとっていない公共放送 NHK だからこそ製作・放送できるのではないでしょうか。われわれが支払っている受信料に見合う内容だったと思います。

ずいぶん昔、私は直接視聴したわけではないのですが、やはり NHK で、日本メーカーが国内で販売している自動車の安全性が、同じ車種の輸出仕様のものとくらべて数段劣っているという内容のスペシャル番組がありました。国内向けの自動車の安全装備を手抜きした差額で、輸出仕様車のコスト高を吸収するという面もあったようです。その放送がきっかけになって、世論が高まり、規制当局やメーカーの対応も変化して、国内で販売される自動車の安全性が格段に高まったそうです。これも、NHK という公共放送 の有用性を示した番組だと思います。受信料の支払いを拒んでいる人たちの中にも、この番組があったおかげで運転中に命拾いをした人がたくさんいるのではないでしょうか。

同じ 25日にオーストラリアで始まったソーラーカー・レースでは、日本の東海大学が 2位以下を大きく引き離して優勝しています:
このレースは、オーストラリア北部ダーウィンから南部のアデレードまで、オーストラリア大陸を約 3000キロにわたって縦断するもので、世界最大級で世界一過酷といわれます。東海大学の優勝は喜ばしいことですが、このソーラーカーの技術が、将来市販されるであろう自動車の開発にそれほど役立つとは思えません。

上記のレースは、これまでは「ワールド・ソーラー・チャレンジ」という名称でした。今年から、「グローバル・グリーン・チャレンジ」と改称され、ソーラーカーだけでなく、ハイブリッド、電気、低排出、代替燃料の分野の車も参加するようになりました。早速参加したテスラ・モーターズ社の電気自動車「テスラ・ロードスター」が、無充電で 501km を走行するという記録を樹立しています。これまでの記録は 387km だったとのことです:
テスラ・ロードスターは、上記の NHK の番組にも登場して、颯爽とアメリカの道路を走っていました。いわゆるエコ・フレンドリーな車というと、どことなく無骨というか野暮ったいデザインのものが多いように感じます。しかし、テスラ・モーターズの電気自動車は、皆、スーパー・カーを彷彿とさせる流麗な姿をしています。写真で見る限りでは、記録を樹立した車も、レース用ではなく市販車と同じ車体のようです。価格は高級外国車なみとのことですが、アメリカにはこういう車を積極的に購入する気風と資力を持った富豪がたくさんいて、それがこういう新しい技術の進展を支えて好循環をもたらしているのだと思います。

V

1980年代に日本でも放映された「V」のリメイク版(というより新シリーズ)の放映がアメリカでは 3日から始まったようです。「V」は宇宙からの来訪者(ビジター)の頭文字であると同時に、来訪者に対する人類の抵抗運動の勝利(ビクトリー)の頭文字でもあります。以下の記事に、新シリーズの冒頭 8分間の映像があります:
旧シリーズをリアルタイムで見たのか(この可能性は低い)、再放送で見たのか、あるいはビデオで見たのかまったく思い出せないのですが、唯一鮮明に記憶しているシーンがあります。それは、美しい女性の姿(人類を警戒させないための仮の姿で、実体は爬虫類に似ている)をしたエーリアンのリーダーが、ネズミを生きたまま丸飲みにする場面です。飲み込んだ後に喉の部分がふくれ、それが徐々に下に下りていく……とてもショッキングで強く印象に残っています。

新シリーズはどこの局が放送するのでしょうか。有料のチャンネルにならないよう祈ります。

イランの地震で負傷者 700人以上

イラン南部の港湾都市バンダル・アッバース(ペルシャ湾の難所ホルムズ海峡に面しており、オマーンやアラブ首長国連邦の対岸)を中心とする地域で、4日午前 3時ごろ(日本時間同日午前 8時30分頃)、M4.9(USGS の資料では M4.8)の地震があり、死者はいないものの、負傷者が 700人を超えています。停電がおこり港湾機能も一次的に麻痺したようです:
イランでは、この規模の地震は毎日のようにおきていますが、これほど多くの負傷者が出るのは珍しいことです。震源が浅いところにあればこの規模でも大きな揺れになることはありえますが、USGS の資料によれば震源の深さは 70km を超えています。なぜこのように多数の負傷者が出たのか、不思議です。

過去の関連記事

阿蘇山が活発化 ?

11月 2日朝から、阿蘇中岳第 1火口付近で、振幅のやや大きな火山性微動が断続的に発生、2005年 12月以来 4年ぶりとのことです:

2009年11月3日火曜日

イブン

先日、岩波新書を一冊買ったのですが、その本に挟まっていたしおりの裏に、次のようなことが書かれていました:
イブン    『広辞苑を散歩する』 13

アラビア語の人名で、「イブン = A」と言えば「A の息子」。世界史で習うイブン=バットゥータやイブン=ハルドゥーンはその例。A が父親の名前とは限らず、「イブン = マルヤム」は「マリアの子」すなわちイエス=キリストを指す。反対に、「B の父」は「アブー = B」。憶えにくい人名も、こうした用法を知れば親しみやすくなるのでは。
イブン・バットゥータは世界史の授業で習った記憶があります。ただし、私の記憶している表記はイブン・バトゥータですけれど。彼は、14世紀のモロッコ出身のイスラム法学者にして大旅行家。人生の大半を旅行に費やして世界各地をめぐり、中国にまで到達しています。

もう一人思い出すのは、イブン・ファドラン。こちらは世界史の授業ではなく、マイケル・クライトンの小説『北人伝説』の主人公です。10世紀に実在した人物で旅行記を残しています。マイケル・クライトンはこの旅行記をもとに、小説の構想を膨らませたようです。小説では、イブン・ファドランはアッバース朝の都バグダッドから、使節として遠方の王国に派遣されます。その旅の途中で、北欧のバイキングの一団と行動をともにすることになり、北方の食人部族との戦いなど、さまざまな冒険をするという筋書きです。おもしろいと思ったのは、この食人部族がわれわれと同じホモ・サピエンスではなく、ネアンデルタール人の末裔であると暗示されている点です。小説のタイトルにある「北人」はこの食人部族を指していると思っていたのですが、今ネットで検索して調べてみるとバイキングの方を指しているようです。

「イブン」と同じような働きをする言葉は英語にもあります ―― 「Mac(Mc)」、「O'」、「Fitz」などです。たとえば、マクドナルド(Macdonald, McDonald)=ドナルドの息子ですし、シカゴ国際空港の名前になっているオヘア(O'Hare)や、故ケネディ大統領(John Fitzgerald Kennedy)のミドル・ネームであるフィッツジェラルドも同様です。

日本語でこのような「~の息子」を意味するような言葉は思い当たりません。しいて言えば、「田原(俵)藤太」や「悪源太」などが似ているでしょうか。前者は、田原を本拠とする藤原家の長子(嫡男)を意味し、平安時代の武将・藤原秀郷を指しています。平将門の反乱を鎮圧したことで有名です。後者の「源太」は、源家の長子(嫡男)を意味し、源義平を指しています。鎌倉幕府を開いた源頼朝の兄です。「悪」にはものすごく強いという意味があるそうです。

息子ではありませんが、「~の女(娘)」や「~の母」という言い方がありました。昔は女性の名前を表に出さなかったため、このような表記になったのだと思います。たとえば、『更級日記』の著者は「菅原孝標女」、『蜻蛉日記』の著者は「藤原道綱母」です。

2009年11月2日月曜日

「7人のこびと」は地震除けのお守り?

ディズニー映画『白雪姫』に登場する 7人のこびとたちの石像が、1994年におきたノースリッジ地震の際に、ディズニー・プロダクションの本社社屋を守ったといわれているそうです:
7人のこびとたちのフィギュアを買ってきて、寝室に置いておきたくなりました。

イランが首都移転計画をスタート

人口が密集した世界の大都市の中で、特に地震に対して脆弱だといわれるのは東京ですが、イランの首都テヘランや、トルコのイスタンブールもしばしば名前が挙げられます。11月 1日付の英国『ガーディアン』紙などの報道によると、イランが首都テヘランの移転計画をスタートさせたとのことです:
計画は最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師によって発議され、最高評議会(expediency council、公益判別会議)で承認されたとのことです。

テヘランが首都となったのは、東京より古く 1795年(江戸時代、寛政年間、第 11代将軍・徳川家斉の治世)のことです。20世紀初頭には人口 25万人だったものが、急激に膨張して現在は 1200万人。そのため、都市基盤の整備が追いつかず、無秩序な開発によって交通渋滞や環境汚染が深刻化しています。ほとんどの建物の耐震性はないに等しく、大地震が発生すれば 100万人を超える犠牲者が出るといわれています。

イランは日本と並ぶ地震大国です。中規模の地震が毎日のように発生しています。2003年には、南東部の都市バムで大地震が発生し、約 4万人が犠牲になっています。首都テヘランの地下には少なくとも 100本の断層が走っており、そのうちの 1本は総延長約 100km。地震学者によると、テヘラン北東部では、近い将来に M8 の大地震が起きる可能性があるということです。

まったく新たに都市を建設して新首都とするのか、既存の都市を改造して首都機能を移転するのかは決まっていないとのことです。いずれにせよ、新首都の位置は、テヘランの南方にある 2つの都市、コムとデリージャーンの間になりそうだということです。両都市の間の地域では、過去 2000年間、まったく地震が発生していないということが、理由になっています。

地図で調べた限り、上記 2つの都市はテヘランからあまり離れていません。大丈夫なのでしょうか。それに過去 2000年間地震がおきてないから、逆に、地下に歪みが蓄積しているということも考えられます。

イランで、首都移転計画が持ち上がったのは 20年前のことだそうです。しかし、当局が真剣に移転を検討しだしたのは、2003年のバム大地震で多くの犠牲者が出て以降のことだそうです。日本の東京の場合も同様で、首都機能移転は、これまで何度も話題になっては立ち消えになっています。政権交代があったことですし、日本も首都(機能)移転を真剣に考えた方が良いのではないでしょうか。

シュメル神話の中の地震

今、『シュメル神話の世界』(岡田明子・小林登志子、中公新書)を読んでいるところです。多数の神名・人名・地名が出てくるので、巻末の索引を何度も引きながら少しずつ読み進んでいます。そのため、読み始めてからかなり日数が経っているのに、まだ全体の 4割程度のところまでしか、読めていません。

神話というものは、昔から伝わっているもので、作者の名前が明らかになっているものというのは少ないと思います。しかし、驚いたことに世界最古の神話ともいわれるシュメル神話の中に、作者の名前や素性が推定できるものがあるのだそうです。『イナンナ女神とエビフ山』の物語がそれで、愛と豊饒の女神、天の女王、王権の守護神とされるイナンナ女神の「武勇」を記述し賛美する内容です。

この物語の作者として推定されているのは、アッカド王朝の創始者サルゴン大王(紀元前 2334~2279年)の娘・エンヘドゥアンナです。彼女は「史上最古の名の知られた詩人」で、アッカド語に加えてシュメル語も堪能な教養ある女性だったそうです。父親の意向でシュメルの中心都市ウルの初代大神官に就任し、『シュメル神殿賛歌集』を編纂し、イナンナ女神を賛美する多くの詩を残しています。
ここでちょっと世界史の復習: メソポタミア文明はティグリス・ユーフラテス川の流域に栄えた文明で、おおよそ現代のイラクの領土に相当する地域に多くの都市が分布していました。この地域は大きく分けて、北部のシリアに近い地域がアッシリア、南部のペルシャ湾に近い地域がバビロニアと呼ばれます。そのバビロニアの中で、北部(現在のバグダッドのあたり)がアッカド、南部がシュメルです。
話をもとにもどして、『イナンナ女神とエビフ山』の物語の一部を上記書物から引用します:
女神イナンナは山の端を一歩一歩進んでいくと、エビフ山の首根っこをむんずと掴んで、その体内深く刃を突き立て、雷鳴のごとく咆哮した。エビフ山を形成していた岩々が崩れ落ち、そのあらゆる割れ目から恐ろしい蛇たちが毒液を吐き出す。女神イナンナは森をののしり、木々を呪った。旱魃で樹木を殺し、火を放ち、もうもうたる煙で包んでしまった。
(中略)
女神は崩れ落ちたエビフ山に近寄り、「お前があまりにも天に近づきすぎ、あまりにも魅力的で美しく、聖なる衣装をまとったがゆえに、そして私に恭順の意を示さなかったがゆえに、身を滅ぼしたのだ」と勝利を宣言した。
この描写が大地震の記憶を反映しているのではないかとの説があるそうです。エビフ山は実在した山で、現在の名前はジェベル・ハムリン。イラン南部からトルコに向かって北西に伸びるザグロス山脈の一角です。そこに、紀元前 9500年頃の大地震によって崩れた痕跡(断層崖?)が数百キロメートルにわたって残っているとのことです。物語の中の「雷鳴のごとく咆哮」は地鳴り、「あらゆる割れ目」は地割れ、「恐ろしい蛇たちが毒液を吐き出す」は噴砂現象といったところでしょうか。かつて、この山の周辺に火山があったのかどうか。もしあったとすれば、「森をののしり、……火を放ち、もうもうたる煙で包んでしまった」は、火山災害を描写しているのかも知れません。

ザグロス山脈では、アフリカ-アラビア・プレートとユーラシア・プレートが衝突しています。どちらのプレートも大陸性の地殻を持っているため、海溝のような単純な沈み込みとはなっていませんが、どちらかというと前者が後者の下に潜り込む形になっています。