2010年7月30日金曜日

フィリピン海の範囲 (その 2)

引き続き 『宏観休憩室 地震前兆研究村』 掲示板からの転載です:
No.4261(No.4136への返信) 「九州や四国の太平洋側では…」(その2) 投稿者:Nemo 投稿日:2007/06/10(日) 15:00

Googleで検索した結果では、以下のページがこの疑問について最も詳細に答えているようです:

長い解説なので以下に要点をまとめます:

[ここから要点]
国際的な取り決めでは、フィリピン海の北端は日本に達している。伊豆半島の下田から大隅半島の南端までの海岸は、すべてフィリピン海の北岸である。つまり、東海地方から西は太平洋ではなくフィリピン海に面している

▼ 国際水路局が、フィリピン東方の縁海(*1)を太平洋から分離してフィリピン海と名付けるという決定を行ったのは、日本が米軍の占領下にあった時期。日本は国際水路局から事前に意見を求められ、(1)従来どおり太平洋とする、(2)フィリピン東方の縁海をどうしても太平洋から分離するのであれば、北緯20 度線で区切って北半分を「小笠原海」、南半分をフィリピン海とする、(3)南北分割も不可ならば、フィリピン海ではなく「マリアナ海」を名称とする、という提案を占領軍を通じて行ったが、いずれも採用されなかった。1953年、国際水路局が発行した『大洋と海洋の境界』にフィリピン海が明示された。

▼ 国際水路局の決定に対して、日本政府は教科書や海図などの資料にフィリピン海の名称を用いないという方針で対応。地球物理学や地理学の学者たちも、一般の出版社が発行する地図にフィリピン海が国際的取り決めにもとづいた範囲で記載されることに反対してきた。学校教育でもフィリピン海は教えない。
[ここまで要点]


国際的な取り決めにもかかわらず、日本国内では、日本周辺の海にフィリピン海の名称を使わないという方針でこれまで一貫してきました。気象情報などで「九州や四国の太平洋側では…」などの表現が使われ、高知県や静岡県がホームページに「太平洋に面し…」と書いているのはそのためです。気象庁も地震情報で用いる震央地名(*2)で、東日本のはるか東方の区域を「北西太平洋」と名付けているのに対して、西日本のはるか南方の区域は「本州南方沖」と呼んでフィリピン海の名称は使っていません。その一方で、地震報道やプレートテクトニクスの普及で「フィリピン海プレート」という言葉がしばしば登場するようになり、フィリピン海の知名度が上がってしまったのは皮肉なことです。

敗戦直後の日本の国力では、海図や教科書の記載変更に要する膨大な作業や費用が大変な負担であったことは想像に難くありません。したがって、上記(1)の「太平洋のままに」という要望は切実なものであったと思います。一方、上記(2)と(3)で、フィリピン海ではなく「小笠原海」や「マリアナ海」という名称を提案した背景には、島嶼の領有権や水産資源などへの悪影響の懸念から、海洋に他国の名前がつくことに抵抗感や警戒感があったからではないでしょうか(当時、北マリアナ連邦(北マリアナ諸島)は成立していませんでした)。


(*1) 縁海(marginal sea): 日本海やオホーツク海のように大陸と島弧の間にある海。海洋側から見て島弧の背後にあるので背弧海盆(back-arc basin)ともいう。縁海は海洋性の地殻を持ち、その多くが地磁気の縞模様をもつので、島弧が大陸から離れる過程で形成された海であることには疑いがない。プレートテクトニクス理論が成立してすぐに、フィリピン海プレートでそのことが示された。(木村学著、「プレート収束帯のテクトニクス学」、東京大学出版会)

(*2) 「地震情報で用いる震央地名

(続く)