イギリスのタブロイド紙は、自作・他作を問わず“トンデモ”系の話を躊躇することなく掲載するので、信用することはできませんが、上記記事には次のようなことが書かれています:
- Chris Hartnady 博士が最も地震が起こる可能性が高いと指摘した都市は、ケープタウン(地図)とダーバン(地図)。
- 「東アフリカ地溝帯が南方へゆっくりと拡大しており、アフリカ南部の広い範囲がその影響下にある。したがって、この地域(南アフリカ共和国)で大地震災害が起きるのは避けられない。」と博士は語っている。
- ケープタウンは 1890年に大地震に襲われた。Jan Biesjes Kraal 農場が震央だったが、そこはその後、アスコット競馬場になった。地震によって農場はほとんど壊滅状態となった。目撃者によれば、1インチ幅の地割れが、ほぼ 1マイルにわたって伸びていたとのことである。
ワールドカップの試合は、南アフリカ共和国内のヨハネスブルグ、ケープタウン、ダーバンなど 9都市 10会場でおこなわれることになっています。
南アフリカで大地震が起こりうるという指摘はよいとして、なぜワールドカップの開催期間中に発生するのかという点については、記事は全く触れていません。センセーショナリズムを事とする記事ではありがちなことです。
で、私のみるところ、上記の記事はオンライン科学雑誌『サイエンス・イン・アフリカ』に掲載された以下の記事を下敷きにして書かれたと思われます:
この記事は、元ケープタウン大学の准教授で、Umvoto Africa (地球科学分野のコンサルタント会社)のテクニカル・ディレクターである Chris Hartnady 博士の考えを紹介するもので、アフリカでの地震対策を呼びかける内容です。以下は記事からの抜粋です:
「アフリカに住む人びとは、災害に備えるためにもっと地震に注意を払うべきである。そのためには学校での教育から始めるのが最も良い」。Umvoto Africa のテクニカル・ディレクターである Chris Hartnady 博士は、Milnerton 地震の 200周年にあたってこう語った。
この地震の震央は、ケープタウンの中心部から北東に 20km のところで、Jan Biesjes Kraal に非常に近かったと考えられる。この 1809年(『デイリー・スター』の記事では 1890年になっていました)に起きた地震のマグニチュードは 6.2 と推定されている。発生したのは 1809年 12月 4日の夕方であった。
アフリカ大陸南部で発生する大地震の確率と被害を定量的に推し量るのは困難である。アフリカ大陸の歴史記録は限られており、1900年以降、マグニチュード 7以上の地震は 3~4件しか記録に残っていない。一方、地球全体でみれば、過去 30年間に限っても、同様の規模の地震が数百件記録されているのである。
(記録に残っている大地震は少ないが)この地域で大きな地震災害が発生するのは避けられない。アフリカ南部の広い範囲が、東アフリカ地溝帯の南方へのゆっくりとした拡大の影響下にあるので、この地域(南アフリカ共和国)で大地震災害が起きるのは避けられない。地震は、「もしも」ではなく「いつ」の問題である。
地震監視の科学を充実させるだけでは不十分である。災害リスクを軽減するには、人びとに対して自然に発生する地質学的災害への注意を喚起し、迅速で効果的な緊急対応を通じて人びとが地震に対応する能力を高めることが必要である。
大地震災害の頻度が低いということは、住民がそのような事態に関する歴史的な経験や伝承・神話の類を持っていないことを意味する。われわれは、地震に対する関心の欠如を是正し、長期的観点から災害に備える手段を講じなければならない。
人びとに地震が起こりうるということをわかってもらうには、頻繁に起こっている無感地震をみてもらうことが有効である。そのためには、学校にも地震観測装置を設ける必要がある。そうすれば、地域社会の人たちもそれを利用することができ、ひいては、より広い分野の数学や科学の教育レベル向上にも役立つことになる。
そっくりの文章がいくつも出てきます。どうやら、前者『デイリー・スター』の記事は後者『サイエンス・イン・アフリカ』の記事から都合の良いところだけを抜き出して、ワールドカップ云々の話を作り上げたもののようです。このようなことは、トンデモ系の話にしばしばみられます。