上記は英語版と日本語版の『ナショナル・ジオグラフィック』誌の記事ですが、日本語版の記事は誤解を与えやすい翻訳になっています。
まずタイトルですが、英語版の “Close to”(~に近い) という状態を表す表現を、「大接近」という運動をイメージさせる文言に翻訳しています。これでは、これまで深いところにあったマグマ溜まりが地表近いところまで上昇してきているとの印象を読者は受けてしまいます。
次に、最初のパラグラフですが英語版では次のようになっています:
A giant magma chamber burning beneath the Hawaiian Islands is closer to the surface than any other magma chamber yet measured―as little as 1.9 to 2.5 miles (3 to 4 kilometers) below the surface, scientists say.
(ハワイ諸島の地下で煮えたぎっている巨大なマグマ溜まりは、これまで計測された他のマグマ溜まりのどれよりも地表に近いところにある ― 地表からわずかに 3km ないし 4km ほど、と科学者は語る。)
ところが、日本語版では:
新たな研究によると、ハワイ諸島の地下にある巨大なマグマ溜まりが、地表から約3~4キロ地点にまで接近していることがわかった。以前の測定距離を大幅に下回っている。
となっています。「接近している」、「以前の測定距離」などの表現から、件の巨大マグマ溜まりが時間的経過とともに上昇して地表に近づいているかのような翻訳結果になっています。
いずれにせよ、記事のタイトルに「?」がつけられていることに留意する必要があります。なぜなら、この研究結果は、先週、サンフランシスコでおこなわれた米国地球物理学連合の秋季大会で発表されたもので、ピア・レビュー(査読制度)のある学術雑誌に掲載されたものではないからです。
なお記事中に 「2008年、ハワイ島で地熱発電の試掘中の作業員から、キラウエア火山付近の浅いマグマ溜まりに偶然到達したと報告があった」 との記述がありますが、これについてはこのブログの 2008年12月18日付記事「マグマ溜まりに孔をあけてしまった男たち」をお読みください。
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