2009年5月31日日曜日

ヘビが原因の停電 再び京都府

5月 30日(土)午後 7時ごろ、京都府宇治市伊勢田町でヘビが原因と見られる停電が発生しています。ヘビは地上 12m にある開閉器に入り込んだとのことです。伊勢田町では今月 12日にも、ヘビが開閉器に入り込んで停電が発生しています:
過去の類似事象も参照してください:

2009年5月29日金曜日

ラドン予知の真相

4月 6日(月)にイタリア中部の都市ラクイラ(L'Aquila)とその周辺を襲った M6.3 の地震では、300人にせまる死者が出ました。その地震について、ジャンパオロ・ジョアッキーノ・ジュリアー二(Giampaolo Gioacchino Giuliani)という人物がラドン・ガスの量の増加から予知に成功し、そのことを当局に通報したが認められず、さらには一般市民に地震の発生を警告する行為も当局によって制止されていたという報道がなされました。その後のことは日本ではあまり報道されていませんが、欧米のメディアでは、多くの専門家がジュリアーニ氏のラドン予知について疑問を投げかけていることが伝えられています。当初は「当局に弾圧された」とアピールするジュリアーニ氏に同情的だったメディアも、専門家の意見を好意的に扱うようになっています。

私の見るところ、批判は 2つのポイントに集約されます ―― (1)過去 20年以上の研究によって、地震とラドン・ガスの濃度には明瞭な相関がなく、地震予知には使えないことが明らかになっていること、(2)ジュリアーニ氏の予知は、地震予知の 3要素のうち、少なくとも発生時期と場所が大きく外れており、同氏の予知どおりに当局が住民を避難させていたら被害がさらに大きくなっていた可能性があること。

以下は、そのような検証記事の代表例です(4月25日付の記事ですが、残念ながら現時点でリンク切れになっています):
以下に上記記事から抜粋・意訳します:
科学者たちは、ラドンが地震の警告シグナルである可能性があるとして 1970年代から研究してきた。地震の前にラドンの放出が認められたいくつかのケース ―― たとえば、1995年に日本の神戸で起きた地震の前には、地下水に含まれるラドンのレベルが通常の 10倍に跳ね上がった ―― が確認されたが、全体としては地震とラドン・ガスの相関は地震予知に使えるほど強くもなければ十分でもなかった。

1979年には、混乱を引きおこすようなラドン・シグナルの事例が発生した。カリフォルニア州南部に設置されたラドン検知器(互いに 30km 離れて設置)が、その年の夏の初め頃から異常に高いレベルのラドンを記録し始めた。ラドンのレベルは 10月になると低下し、そのすぐ後に 3つの地震が発生した。

一つ目の地震は M6.6 で、(検知器から?)南東に 290km 離れた場所が震源だった。残り 2つの地震は M4.1 と M4.2 で 65km 離れた場所で発生した。小さい方の地震の一つに近い位置にあったラドン検知器では、ラドンのレベルの上昇が認められなかったばかりか、地震の数日前には逆にラドン・レベルが通常より低下したことを記録していた。

この事例は科学者たちを困惑させた。ラドン・レベルの上昇と下降からどのような予知を引き出せば良いのだろうか。地震の前に検出されることがある二酸化炭素など他のガスや電磁気発生についてのデータも同様に困惑させるものであった。
さらにジュリアーニ氏の予知について記事は次のような見方を伝えています:
ジュリアーニの予知は地震の発生時期と場所が外れていた。彼は実際の地震よりも少なくとも 1週間早い時期に、実際の震央より 50km 離れた町(スルモナ Sulmona)で地震が起きると予測していた。もし当局がジュリアーニの予知を真に受けて対策を講じていたとしたら、間違った町の住民を間違った時期に避難させることになっただろう、とカリフォルニア大学バークレー校の地球物理学教授 リチャード・M・アレン(Richard M. Allen)氏は語っている。
上記のような見方はほとんどの専門家に共通しているようです。以下は、Kim Hannula という女性の地質学教授のブログ記事です:
このブログでは、ジュリアーニ氏の予知の不適切さについて次のように指摘しています(意訳しています):
地震予知の 3要素(時期、場所、規模)の情報は、緊急事態に際して避難指示を出す立場の責任者にとって非常に重要である。小さな地震は毎日世界のどこかで発生している。地震が人びとに影響を与えるのは、人びとが住んでいる場所の近くで地震が発生するか、地震の規模が大きい時だけである。もしあなたが避難指示を出す立場だったとしたら、地震が起きなかった場合には、いつ避難指示を解除できるかも知っていなければならない。

この最後のポイント、つまり地震の発生時期がジュリアーニ氏の地震予知の最大の問題点である。いくつかの報道によると、ジュリアーニ氏の予知は地震発生時期として 3月 29日の 24時間を指定していた。仮に、彼のラドン測定値が今回発生した地震と関係があったとしても、彼の予知技法は地震発生のタイミングを誤っていた。さらに加えて、地震発生場所も明らかに間違っていた。彼の予知した場所は、実際の震央から 50km(注 1) 離れたスルモナ(Sulmona)という町だった。米国地質調査所(USGS)の公開している今回の地震の震度分布地図では、ラクイラから 30km 離れた場所のメルカリ震度は "V"(注 2)であり、建物が壊れたり、死傷者が出る可能性は低かった。予知の 3要素のうちの 2つが間違っていた。もしスルモナの住民が、ジュリアーニ氏の(ラウド・スピーカーなどによる)警告にしたがって(震源により近い)ラクイラに避難していたら、どんな事態が生じていただろうか。
上記のような見方は多くの専門家に共通しているようです。地震予知に求められる厳しい条件を物語っています。

当局がジュリアーニ氏の警告を真に受けず、さらに同氏がインターネット上で公開していた警告を削除させたことは、結果的に妥当な判断だったということになりそうです。

過去の関連記事:
(注 1) ブログの原文では「30km」となっていますが、他の報道では 50km となっており、また私が実際に地図で測定したところでは約 54km でしたので、50km に改めました。
(注 2) USGS の記述によると、メルカリ震度階の "V" は「ほとんどの人が揺れを感じる。多くの人が目を覚ます。いくつかの皿や窓などが破損する。不安定なものが倒れる。振り子時計が止まる」となっています。建物の構造などが違うので単純には比較できませんが、日本の気象庁震度階級の震度 3 から 4 程度に相当するのではないでしょうか。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月27日水曜日

二足歩行ロボットによる月面探査

「宇宙基本計画(案)」に盛り込まれた二足歩行ロボットによる月面探査に批判が集中したようです:
私も新聞報道で「宇宙基本計画(案)」の概略を知ったとき、「ん?」と思ったのが二足歩行ロボットの件でした。探査車ではなく二足歩行ロボットを送り込むことにどういう意味があるのか、技術的にまだまだ問題が多すぎる等々、はなはだ疑問に感じると同時に、ひょっとしたら意外に良いアイディアかもとも微かに思いました。元宇宙飛行士の毛利衛さんの提案だったことは今回の報道で初めて知りました。

計画案の詳細は以下にあります(pdf形式):

2009年5月26日火曜日

史上最大の竜巻観測プロジェクト

VORTEX2(Verification of the Origins of Rotation in Tornadoes EXperiment 2)と名付けられた史上最大規模の竜巻(トルネード)観測プロジェクトがアメリカで開始されています。このプロジェクトは、全米科学財団(NSF)と米国海洋大気庁(NOAA)から、合わせて 1200万ドルの資金提供を受けて、2009年と 2010年の竜巻多発シーズンにおこなわれます。今年の観測期間は 5月10日から 6月13日まで、来年は 5月1日から 6月15日までとなっています。アメリカだけでなく世界各国の研究者も参加しています。
プロジェクトの目的を手短に言うと、竜巻を発生させるサンダーストーム(激しい雷雨)とそうでないサンダーストームの違いを明らかにすることです。

前回の VORTEX プロジェクトは、1994年から 1995年にかけて実施されました。このときの観測で得られたスーパーセル(竜巻を発生させるような激しく長時間継続するサンダーストーム)についての貴重なデータによって、米国気象局(NWS)が、竜巻発生の遅くとも 13分前までには竜巻警報を出せるようになったと言われています。

今回の VORTEX2 は、前回よりも格段に進歩した観測機器を大量に投入して実施されるため、竜巻予報の精度向上に役立つ大きな成果が期待されています。

以下のページには、VORTEX2 の研究責任者であるロジャー・ワキモト博士(日系人?)のインタビュー・ビデオと、VORTEX2 の観測機器や観測態勢を説明したアニメーション・ビデオが掲載されています:
私もアメリカで何度か竜巻に遭遇したことがあります。一番恐怖を感じたのは、東海岸の出張先で夜 9時過ぎまでオフィスに残って仕事をしていたときのことです。いきなり、館内に警報サイレンが鳴り響き、竜巻がこちらに向かってきているので至急シェルターに避難せよという警備室からの放送が流れました。シェルターの場所などまったく知りません。夜 9時過ぎまで残っているようなアメリカ人がいるはずもなく、周りには誰もいません。窓から外を見ても真っ暗闇で何も見えません。広大な敷地にオフィスが点在しているので、警備室も自動車を使わないと行けないほど離れています。このときの恐怖感とその後の顛末については、長くなるので稿を改めて書こうと思います。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

気味の悪い動物の正体は?

長崎県雲仙市で捕獲された動物の写真が載っています。怖い顔をしています。夜道でこういう動物に遭遇したくありません:
今回は捕獲されたことで正体が判明したわけですが、もし捕獲されず目撃情報だけであったら、雲仙周辺には謎の肉食動物が棲息しているという「伝説」のもとになっていたかも知れません。

ヘビが原因の停電 新潟県

25日(月)夕方、新潟県でヘビが鉄塔に登り送電線に触れたことが原因で停電が発生しています:
感電死したと見られるヘビの死骸が見つかったのは、地上約 25m のところです。

過去の類似事象も参照してください:

2009年5月25日月曜日

北朝鮮の地下核実験

北朝鮮の地下核実験によると思われる震動波形を、Hi-net連続波形画像で見ることができます。ただし、場所によってまったく震動が記録されていないところと、明瞭に区別できる波形が記録されているところがあります。

米国地質調査所(USGS)の資料によると、爆発が起きたのが日本時間午前 9時 54分 43秒、北朝鮮国内の「震源」から P波が日本の各地に届くには、おおよそ 2分 15秒から 2分 30秒ほどかかるので、9時 57分前後には初動が到達していることになります。

以下は、核実験によると見られる波形が比較的識別しやすい地点の連続波形グラフです。各グラフの下の方、9時 56分から 57分のあたりに核実験のものと思われる波形が現れています:
(上記連続波形の公開期間は 2週間です。したがって 6月8日午前 9時以降は、上記のリンクは無効になります。)

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

ハッブルへの最終ミッション

日本時間 25日(月曜)午前 0時 40分、スペースシャトル・アトランティスが地球に帰還しました。着陸予定地のフロリダ州ケネディ宇宙センターが荒天のため、軌道上で 3日間待機しましたが天候が回復せず、機内の電気や空気が尽きかけたため、カリフォルニア州エドワーズ空軍基地に着陸しました。

アトランティスの機体は、着陸した西海岸のカリフォルニアから南東部のフロリダまで、特別仕様のボーイング 747 の背中に乗って空輸されることになります。この空輸の費用が 2億円近くかかるため、NASA は最後の最後までフロリダへの着陸に希望をつないでいました。

今回のアトランティスのミッションは、打ち上げから 19年が経過したハッブル宇宙望遠鏡の機能向上と保守です。宇宙飛行士による長時間の船外活動によって、新しい観測装置の取り付けや、古くなった装置の交換がおこなわれました。今回の作業によって、ハッブルは少なくとも 2014年までは運用が可能となりました。ハッブルへのスペースシャトルの飛行は、今回が 5度目で最後です。今後は、故障が起きても修理されることはありません。「歴史を通じておそらく最も重要な科学装置」と呼ばれるハッブル宇宙望遠鏡ですが、その最終的な運命は、2020年以降に無人のロケットによって大気圏まで曳航され燃え尽きることになっています。 その時のためのドッキング装置も今回の作業で取り付けられました。

すでに何度か紹介したことのある『ボストン・グローブ』紙の “The Big Picture” が今回の宇宙飛行の写真集を掲載しています:
私のお薦めの写真は次のとおりです(番号は各写真の左下に記されているものです):

6 工具の数々
ハッブル宇宙望遠鏡の機能向上や保守の作業で宇宙飛行士が使う工具の写真です。無重力状態でネジを回そうとすると、反作用で宇宙飛行士が逆向きに回転してしまいます。そこで、ドライバー(ネジ回し)には反作用を打ち消す機構が組み込まれています。

今回の船外作業では、ハッブルに取り付けられているネジの一つが固着していて、これらの工具ではどうしてもはずせないという事態が起こりました。このネジをはずさないと、ハッブルの外壁をあけて内部の作業がおこなえないということで、たった 1つのネジをはずすために 1時間以上の悪戦苦闘が続けられました。しかしネジは回らず、最終的に NASA が地上から宇宙飛行士に与えた指令は「力ずくで取り外せ」というものでした。具体的にどのようにしたのか、報道からはわかりませんが、“brutal force” ― つまり腕力をつかって部品をむりやり取り外したとのことです。
7 2機のシャトル
打ち上げ準備中のアトランティスです。奥にもう 1機、これも打ち上げ準備中のスペースシャトル・エンデバーが見えています。2機のシャトルの打ち上げ準備が同時におこなわれることはまれです。エンデバーはアトランティスの救助用に準備されています。

通常の国際宇宙ステーション(ISS)への飛行任務では、シャトルの機体に致命的な障害が発生しても、乗組員は ISS に避難して救助を待つことができます。ISS には空気や食料の備えが十分にあります。しかし、ISS よりも高い軌道を回るハッブル宇宙望遠鏡に接近するミッションでは、燃料の制約があり、非常時に ISS に避難することができません。非常事態が発生してから救助用のシャトルの打ち上げを準備していては、アトランティス船内の電力や空気が尽きてしまう恐れがあるため、あらかじめ救助用としてエンデバーを待機させることになっています。

アトランティス帰還後は、エンデバーは救助用待機のミッションを解かれ、次回のミッションに向けての準備がおこなわれます。次回のミッションでは ISS まで飛行し、物資を補給し、滞在している日本の若田宇宙飛行士や他の飛行士を地球に連れ帰る予定になっています。
18 太陽面を通過
太陽面を通過するアトランティスとハッブルを地上の望遠鏡で撮影した写真です。このような写真を撮影するには、撮影場所と時刻を周到に計算する必要があります。太陽の表面に黒点がまったく見られないことにも注目してください。同じ撮影者が公開している写真集が以下にあります:
22 捕まえた!

ハッブル宇宙望遠鏡をアトランティスの窓越しに撮影した写真です。アトランティスのアームがハッブル宇宙望遠鏡をつかんで、シャトルの船倉に引き込もうとしているところです。

26 ハッブルと飛行士
ハッブル宇宙望遠鏡の手すりにつかまる宇宙飛行士の姿です。ハッブル宇宙望遠鏡の大きさが実感できる 1枚です。
さらに別の写真集が以下にあります。最後の 1枚が特に印象的です。シャトルの窓越しに船内をのぞき込む宇宙飛行士を撮影したものです:

2009年5月22日金曜日

VAN 法で強震を予測 ― ギリシャ

久しぶりに VAN 法による地震予知のニュースが流れています:
記事によると、ギリシャの VAN 法の研究チームが、3月28日から現れ始めた観測データの異常にもとづき、コリント湾からエウヴォイア島にかけての地域(首都アテネを含む)で M6 級の強震を予測しているとのことです。

VAN 法については以下のサイトを参照してください:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月20日水曜日

サウジアラビアの地震が激化

サウジアラビアで群発地震」(5月4日付)と「サウジアラビアで群発地震続く」(5月18日付)の続報です。地震の頻度が高まり、規模も大きくなってきています。これまでは 17日(日曜)に発生した M4.6 が最大でしたが、19日(火曜)には USGS(米国地質調査所)のリストに載っているだけでも、M4.6 が 2回、M4.9 が 2回、M5.7 が 1回発生しています。

最大の M5.7 の地震については、USGS のサイトに発震機構解が掲載されています。それによると、この地震は正断層型で、断層の走向は紅海の拡大軸と平行です。紅海はもともと地溝帯で、そこに海水が流れ込んだものです。ですから、その周辺に並行する正断層があることは十分に考えられることです。

以下はロイターの報道です:
この記事ではサウジ地質調査所(SGS)のデータを使っているので、マグニチュードの数値が USGS のものとは若干異なっています。記事によると、当局は地震が多発している al-Ais 火山群から 20km の範囲内の住民を避難させている、マグマのレベルが地下 8km から 4km にまで上昇してきている、また、al-Ais 火山群で噴火が起きたのは今から 700年以上前のことで、溶岩の流出範囲は火口から 18km を超えることはなかった、とのことです。

18km も溶岩が広がるというのはすごいことで、安心材料にはならないと思いますが、狭い国土の日本と広大な砂漠の広がるサウジアラビアでは、距離に対する感覚が違っているのかも知れません。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月19日火曜日

火星の枕木(まくらぎ)

5月15日付の記事「火星人の頭蓋骨(?)」に関連して、火星探査車が撮影したおもしろい物体をもう一つ紹介します。「頭蓋骨」の方は探査車 "スピリット" が撮影したものでしたが、こちらはもう一方の探査車 "オポチュニティ" が、 "エンデュランス" と名付けられたクレーターの傍らで火星到着から 115日目に撮影したものです:
両端がスパッと直角に切りそろえられた枕木のようなものが、画面の左部分に写っています。また、薄黒く見えるオポチュニティの車輪の跡がこの「枕木」と交差しており、オポチュニティが「枕木」の上を通過したことがわかります。この「枕木」を右方向に延長したところに同じような色調と模様の岩石が地表に一部露出していることから、「枕木」も同類の岩石がたまたまこのような形になったものと推定されます。なお、地平線近くに白く輝いているものは、オポチュニティが火星大気圏突入時に使い、その後分離・落下した耐熱シールドです。

この「枕木」については、例によって陰謀説や隠蔽説を事とする人たちが好き勝手なことを書いています。以下はその例です:
冒頭のリンク "Press Release Images: Opportunity 24-May-2004 (NASA の報道発表)" でも明らかなように、これらの写真は NASA が報道機関向けに発表した資料に含まれているものです。また、この発表で使われた写真のオリジナル画像(つなぎ合わせてパノラマ写真にする前の未加工画像)は、火星から届くとほぼリアル・タイムで NASA のサイトで公開されています。それが、陰謀説・隠蔽説を事とする人たちにかかると、NASA が隠蔽していた画像が匿名の人物によってリークされたということにされてしまうわけです。まったく、こういう人たちには付ける薬がありません。

虚弱体質の人ほど危険な音を早く察知

『ナショナル・ジオグラフィック』誌の記事です。虚弱体質の人ほど、また男性より女性の方が、音で危険を察知する能力が高いという研究結果です:
この研究は、あくまでも音についての感覚の鋭敏さを調べたものですが、「体感」と称して体の感覚で地震を予知できると主張する宏観異常者にも、病気がちの人や女性が多いような印象があります。

2009年5月18日月曜日

サウジアラビアで群発地震続く

5月4日付の記事「サウジアラビアで群発地震」の続報です。サウジアラビア西部の群発地震はその後もおさまらず、建物に亀裂が入るなどの被害が出ています。これまでは最大でも M3.9 でしたが、17日(日曜)には M4.6 が発生しています。震源は、メディナの北西約 200km にある火山群に集中してきているようです。

揺れが激しい Al-Ais(Al-Eis)地区では、住民の 40% が家を捨てて近隣の都市に避難しています:
サウジアラビアに火山群があると言うと意外に思う方がいるかも知れません。以下の グーグルマップを見てください。マーク(吹き出し)が付いている地点は、17日に発生した M4.6 の地震の震央です。その地点の南側に黒い溶岩が流れた場所が広がっています。左上のスケールで倍率を上げると、その中に多数の小火口を見ることができます。


View Larger Map

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月16日土曜日

地震前後の海底変動を世界で初めて実測

5月 15日付の『朝日新聞』朝刊に、「地震前後の変動、海保が実測」と題する短い記事が掲載されています。この記事によると ―― 海上保安庁が、地震前後の海底の地殻変動を世界で初めて実測; 地震で消えたはずのひずみが 1 年後に再び蓄積され始める様子を数センチ単位でとらえた ―― とのことです。

短い記事からは詳しいことがわからないので、海上保安庁のサイトを見たところ、以下の広報資料(pdf形式)がありました:
以下は上記資料からの抜粋です:
海上保安庁では、東京大学生産技術研究所との共同研究により、海底に設置した基準点の位置をセンチメートルの精度で計測する海底地殻変動観測技術を開発し、東北から四国沖にかけての太平洋側に海底基準点を設置して観測を行っています。

この観測により、2005年8月に宮城県沖で発生した地震(M7.2)の際、震源のごく近傍(約10km)に設置した海底の基準点において、地震前後で東向きに約10cmの移動が検出されました。その後、さらに観測を継続したところ、2006年末頃まではほとんど動きがなく、2007年頃から、年間6.5cmの一定の速さで西北西に動き始めたことがわかりました。

これらの動きは、この地震を引き起こした原因である地殻ひずみの蓄積が、同地震の発生により解消され、一年程度の移行期間を経て、再びひずみの蓄積が開始される過程を、海底の動きとして捉えたものと考えられます。

これら一連の過程を海底で捉えたのは世界でも初めてであり、今後の宮城県沖地震の場所や大きさの予測に役立つと期待されます。
上記資料にはグラフや地図も載っていますので、ぜひご覧になってください。地図では、国土地理院がこの地震について想定した断層モデルと海底基準点の位置関係も示されています。

一つ疑問に思うのは、これらの海底基準点の動きが実際のプレートの動きを直接反映しているのかという点です。掲載されている「海底基準局の投入作業」という写真を見る限りでは、基準点は海底に置くだけのように見えます。海底の基盤まで杭を打ち込んでそこに固定するものではないようです。基準点の設置場所が堆積層に覆われていた場合は、プレートの動きを捉えているとは限らないのではないでしょうか。

海上保安庁というと、海難救助や不審船の取り締まりというイメージが先行しがちですが、海図の製作なども任務としてあり、海底地形などを調査するための最新装備と技術を持っています。

2009年5月15日金曜日

火星人の頭蓋骨(?)

着陸から 5年を過ぎてもなお活動を続けている火星探査車 "スピリット" のカメラが、火星の地面に転がっている「火星人の頭蓋骨」を捉えました:
形状だけから判断すると、火山弾が半分に割れたもののように見えます。これが頭蓋骨に見えてしまうのはパレイドリア(*)という現象だと思いますが、上記の記事には、想像力のたくましい人たちからのさまざまな意見が紹介されています:
「頭骨は 15cm で、両目の間隔は 5cm。頭蓋容量は約 1400cc。」

「小さくとがった口から判断して、この生き物は肉食性だ。」

「鼻は低く幅が広い。寒冷で風の強い環境に適応したものだ。」
記事によると、2006年にも火星で撮影された「頭蓋骨」が話題になったが、このときの写真は改ざんされたものと考えられているとのことです。

(*)パレイドリアについては、以下のページを参照してください:

ヘビが原因の停電 今度は京都府

5月 12日夜、京都府宇治市でヘビが原因の停電が発生しています。電柱上部にある開閉器にヘビが入り込んだためとのことです:
ヘビが活発に行動する時期でもあり、ヘビの行動と地震の関係は不明ですが、停電の翌日 13日 16時 48分頃に、宇治市から北西に約 30kmの場所を震央とする M3.0、最大震度 2 の地震が発生しています。震源の深さは約 10km でした。

5月 11日夜に岐阜県下呂温泉で発生したヘビが原因の停電(5月 13日付「ヘビが原因の停電 岐阜県」参照)については、2日後の 13日 16時 46分頃に下呂市から北北東に約 22km はなれた場所を震央とする M2.8 のごく浅い地震が発生し、最大震度 3 を記録しています。もちろん、ヘビの行動と地震の関係は不明ですが。

2009年5月13日水曜日

ヘビが原因の停電 岐阜県

5月11日夜、岐阜県下呂温泉郷で高さ13メートルの高圧電線にヘビが絡まり、停電が発生したとのことです:
この他、5月になってから、次のような停電が各地で発生しています:

7日午後 三重県四日市市、菰野町
8日午前 三重県名張市
9日午後 新潟県新潟市
10日午前 愛知県名古屋市
11日午後 大阪府大阪市
関連記事:

2009年5月12日火曜日

検証 「地震予報 4月末 イラン南部 M5.0~6.0」

4月17日付『地震予報 4月末 イラン南部 M5.0~6.0』のフォロー・アップです。4月末という期限から10日以上たちましたが、該当する地震は発生していません。

予報に最も近いと思われるのは、現地時間 4月30日午後1時34分(日本時間同日午後7時4分)に発生した M5.2(当初は M5.6 と発表)の地震ですが、震央は予報より約 500km 東にそれたパキスタンとの国境に近い場所でした。

やはり「地震雲」による予知というのはあてにならないようです。

上記地震についての USGS(米国地質調査所)の情報は以下にあります:
イランで発生した地震のリスト(テヘラン大学)は以下にあります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月8日金曜日

コンゴの 2火山で噴火切迫

コンゴ民主共和国(隣接するコンゴ共和国とは別の国家)東部、ルワンダやウガンダとの国境付近にそびえる 2つの活火山 ―― ニイラゴンゴ山とニアムラギラ山 ―― の活動が活発化し、数日のうちにも噴火する可能性があると、山麓の都市ゴマにある火山観測所が 5月7日(木)に発表しています:
記事をまとめると ――
山麓の都市ゴマの人口は 50万人を超えている。噴火が起これば、ニイラゴンゴ山から約 17km しか離れていないゴマの住民を含め、周辺一帯の約 130万人に影響が出る。ニイラゴンゴ山に近い村の住民は、すでに避難している。

ニイラゴンゴ山は、世界で最も危険な 8つの火山の一つとしてリストアップされている。この火山の溶岩は(粘性が低く)、最大時速 40km で流れる。最後の噴火は 2002年。このときは、ゴマ市の居住地区の 5 分の 1 が破壊され、市の一部は深さ 3m の溶岩に覆われて、約 100人が死亡した。

ニアムラギラ山も同じ年に噴火し、溶岩の柱を約 90m の高さまで吹き上げた。
―― とのことです。

2つの火山があるのはアフリカ大地溝帯で、マントル・プリュームの上昇によって、アフリカ大陸が東西に引き裂かれつつある現場です。ニイラゴンゴ山は標高 3470m で富士山と同じ成層火山に分類されています。一方、ニアムラギラ山は、標高 3058m の盾状火山です。

コンゴ民主共和国の火山の略地図が以下にあります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月7日木曜日

パンダが山猫をかみ殺す

中国・四川省のパンダ保護区で、8歳のオスのジャイアント・パンダ Cheng Gong (成功)が山猫をかみ殺した疑いがあるとのことです:
Cheng Gong はおとなしい性格のパンダだそうでが、研究者によると、パンダは縄張り意識が強く、テリトリーに侵入するものに対しては手段を選ばずに攻撃を加えることがあるそうです。今回の件では、パンダが山猫の肉を食べた形跡はない、また、パンダが山猫を殺したとすれば、1987年に同保護区が設立されて以降初めてとのことです。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

クジラ座礁の原因はエサ不足

2月10日付の記事「フィリピンでイルカの大群が座礁」のフォロー・アップです。この現象の原因はエサ不足にあった、と世界自然保護基金(WWF)フィリピン支部の副議長兼 CEO の Jose Lorenzo Tan 氏が発表しています:
記事から Tan 氏の発言をまとめてみました:
座礁したクジラの大群は、エサ不足のため、新たな獲物を求めて浅い水域に入り込み身動きできなくなってしまった。

クジラのエサとなる魚が減ってしまった理由は:
  • (魚群探知機などの)新たなテクノロジーの導入によって地元漁業の効率が上がり、漁獲量が増えたこと
  • サンゴ礁やマングローブの減少によって魚の生息場所が減ってしまったこと (数年前の統計では、サンゴ礁の 90%、マングローブの 60% がすでに破壊されている)
フィリピンとアメリカの合同軍事演習で使われたソナーか海底地震が、クジラの聴覚器官に悪い影響を与えたとの説が取りざたされたが、その可能性はない。
関連記事として以下も参照してください:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月6日水曜日

インドネシアで火山が相次いで活発化

先月下旬から、インドネシアの火山が相次いで活動を活発化させています:
上記の記事で活発化が報じられている火山は以下のとおりです:
  • Kerinci 山 (スマトラ島)
  • Slamet 山 (ジャワ島中部)
  • Rokatenda 山 (小スンダ列島西部)
  • Rinjani 山 (小スンダ列島西部)
  • (Anak) Krakatau 山 (スマトラ島-ジャワ島間のスンダ海峡)
いずれの火山でも、噴煙の上昇、地震の増加、小規模噴火の増加などがみられ、周辺への立ち入り禁止、警戒レベルの上昇、火山灰の健康被害を防ぐためのマスク着用、避難準備などの処置がとられています。

上記以外の火山で、以前から活発な活動を続けている火山は以下のとおりです:
  • Semeru 山 (ジャワ島東部)
  • Karangetang 山 (スラウェシ(セレベス)島北部)
  • Ibu 山 (マルク(モルッカ)諸島)
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

「ブルガリアで地震パニック」のその後

4月21日付の記事「ブルガリアで地震パニック」の続報です。地震パニックを引きおこした占星術師は捜査当局の取り調べをうけたようです。しかし、どのような処分が下されたのかは不明です:
その後ブルガリア北部で強めの揺れがありましたが、日時も規模も場所も占星術師のご託宣とは大きくずれていました:
イタリアのラクイラ地震をラドン・ガスの観測から「予知」していたとされる人物も警察の取り調べを受けました。科学的根拠がない予言や「予知」を流して多くの人に迷惑をかけるような行為に対しては、司直の毅然とした対応が求められます。もっとも、そのような科学的根拠のない情報に右往左往する側にも問題があるとは思いますが。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

騒音でウナギが大量死

韓国の報道です。トンネル工事の発破の振動が、1km も離れた養殖場の魚類に予想以上のストレスを与えていたとのことです:
魚類の大量死があると、まず疑われるのは酸欠か毒物の流入ですが、振動も原因になる可能性があるというニュースです。

リダウト山に爆発的噴火の兆候

4月12日付「リダウト山はドーム形成段階」の続報です。4月4日の噴火を最後に、ここ 1か月ほどは大きな動きのなかった米国アラスカ州のリダウト山ですが、今後数日以内に大きな噴火をおこす恐れが出てきた、とアラスカ火山観測所の科学者が警告しています:
リダウト山では、先月初めの噴火以降、山頂の溶岩ドームが成長を続けていましたが、最近になって溶岩ドームが不安定になり、またドーム直下で地震が増えていることから、数日以内に爆発的な噴火が起こる可能性があるとのことです。

北朝鮮・ロシア沖で深発地震

日本時間 5月6日 10時12分頃、北朝鮮とロシアの国境の沖合で深発地震が発生しました。マグニチュード 3.5、深さ 548 km です。ヨーロッパの観測網が捉えていますが、気象庁や USGS(米国地質調査所)の Web サイトには記載がありませんので、誤報の可能性もあります。

データは以下にあります:
震央の地図は以下にあります:

豚インフルエンザと陰謀説

UFO、HAARP、鳥インフルエンザ、金融危機など、テーマを問わずさまざまな陰謀説が語られています。なぜ、いい歳をした大人が幼稚でたわいもない陰謀説に入れ込むのか、常々不思議に思っています。今回の豚インフルエンザについても、さまざまな陰謀説や隠蔽説が流布しています。下記の記事は、それらを批判的に紹介しています:
上記記事には、次のような豚インフルエンザについての陰謀説が集約されています:
  • バイオ・テロ攻撃があったが、政府(普通はアメリカ政府とされる)が混乱を恐れて隠蔽し、豚インフルエンザとして処理しようとした
  • 軍の生物兵器のテストが失敗しウィルスが流出した
  • 巨大製薬企業の卑劣な策略
  • オバマ民主党政権がパンデミック対策費を削減したことに対する共和党の報復
  • メキシコの麻薬カルテルがウィルスを解き放った(メキシコでは、政府と麻薬組織の間で「戦争状態」になっており、年間 6000人を超える死者が出ています)
  • アルカイダによる攻撃
  • 牛肉・鶏肉業界が、競合する豚肉の危険性をアピールすることで豚肉の消費を減らそうと企んだ
  • アンチ・ヒスパニック勢力によって仕掛けられた細菌戦争(豚インフルエンザによる死者の大半がメキシコ人であることと、オバマ大統領がメキシコから帰国した直後に感染が広まったことが根拠)
  • 実際は豚インフルエンザの感染拡大は起きていない。経済危機や気候変動から人びとの注意をそらすために企まれた騒動。あるいは、ブッシュ政権下でおこなわれた軍や CIA によるテロ容疑者にたいする拷問についての論争から人びとの目をそらすために企まれた騒動。
記事では、最近急速に普及しているトゥイッター(Twitter)が陰謀説や流言飛語の流布を加速しているとして、関係者の注意を呼びかけています。トゥイッターでは、メッセージがアルファベットで 140文字に制限されているため、誇張や誇大表現が多くなりがちで、理性的で根拠にもとづいた情報が減る傾向があるとのことです。

地震予知や宏観異常を扱うホームページやブログにも、今回の豚インフルエンザの感染拡大について、出所の怪しい情報や薄弱な根拠にもとづいて陰謀説を唱えているところがあります。これらのサイトはふだんから、さしたる根拠もなしに何らかの現象を地震の前兆と決めつける傾向があります。キジの鳴き声や PC の誤作動を海外の地震の前兆と即断したり、鉄道の運行障害を地電流と安易に関連づけたりなどなど、例をあげだしたらきりがありません。そのようなことを書いている当人の精神状態を推し量ることは困難ですが、少なくとも外観上は、決めつけや思いこみが非常に強く、確証バイアス(*)のループに陥っているように見えます。このような決めつけ・思いこみ・確証バイアスなどの要素が、陰謀説に対する肯定的な態度の背景にもあるように思います。地震予知サイトが陰謀説をサポートするような言辞を並べることは、そのサイトの地震予知が思いこみや確証バイアスによる信用ならない予知であることを自ら宣言しているようなものです。

冒頭にも述べましたが、なぜ人は陰謀説に入れ込むのか、なぜ陰謀説は廃れないのか、私は長年、不思議に思ってきました。最近、ようやくその理由について、私なりの仮説が固まりつつあるのですが、長くなるので別の機会に書くことにします。

(*)確証バイアスについては以下のサイトを参照してください:

2009年5月5日火曜日

惑星の内部は透明?

紹介しそびれていた少し古い記事です。高い圧力の下でナトリウムが透明になるとの実験結果が報告されています:
アメリカと中国の科学者が理論的に予言していたものの、他の科学者は懐疑的であった現象を、ドイツのマックス・プランク化学研究所が実験で確認したということです。

われわれが実験室などで目にするナトリウムは次のような性質を持っています:
銀白色の軟らかい金属。酸素と化合しやすく、湿った空気中では、その表面に水酸化ナトリウムを生成して光沢を失う。また、水と激しく反応して水素を発生するから、石油中に貯える。(『広辞苑』岩波書店)
ところが、同じナトリウムに高い圧力をかけると最終的には無色透明になるのだそうです。上記の記事に写真が掲載されていますが、約 150万気圧で黒くなり、約 190万気圧で赤みを帯びた透明になっています。理論的には約 300万気圧で完全に無色透明になるとのことです。

金属が不透明なのは、内部に自由に動き回る電子があり、これが光と相互作用して不透明な金属光沢を作り出しているからです。記事によると、非常に高い圧力の下では、ナトリウムの結晶構造が変わり、電子がナトリウム原子間にできた「孔」にはまりこんで、疑似原子のようにふるまうようになり自由に移動できなくなるので、光が透過するようになるのだそうです。

他の元素についても同じ現象が起きるのか否かはわかりません。しかし、起きると仮定して想像を膨らませると、どうでしょうか。ご存知のように木星や土星の中心部は超高圧で金属水素の核があるといわれています。これが透明だということもあり得るのではないか、もしそうだととすると、惑星の中心部で発生した熱は伝導や対流だけではなく放射によっても惑星の外殻に伝わるのではないか、地球の内核はどうなのだろうか、地球の内部は意外に見晴らしがいいのではないか、などなど。

マントルの粘性

3月21日付の「海洋底で見つかった古い化石」という記事で紹介した『地球 46 億年全史』(リチャード・フォーティ、草思社、2009年)に、マントルの粘性を推定する話が載っています。氷河期に氷河の重みで沈下した土地が、氷河期が終わって氷河の重みから開放され隆起する際の上昇率から、地下のマントルの粘性を推定できるという内容です。マントルは固体であるにもかかわらず、粘性をもった液体としてもふるまうことを、たとえ話で説明しています:
地球は蜂蜜がいっぱい詰まった風船だと想像しよう。風船の膜は、地球のリソスフェアに相当する。風船を指で押すと、窪みが残る。蜂蜜がゆっくりとそのへこみをなかから埋めるため、膜は一定の速度で弾力的に跳ね返る。反応が進む速さから、蜂蜜の粘性はわりと簡単に計算できる。それはマントルの場合も同じだ。マントルは、水の 10 の 23 乗倍の粘性がある液体と考えられる。
マントルの粘性率(粘性係数)については、さまざまな推定値がありますが、『図解入門 最新 地球史がよくわかる本』(川上紳一、秀和システム、2006)には、上部マントルで 1020 Pa・s、下部マントルは 1021 Pa・s 程度との記述があります(Pa・s は「パスカル・秒」と読み、粘性率の単位)。一方、水の粘性率は理科年表(丸善書店)によると、摂氏 20 度、1 気圧で 0.001 Pa・s 程度ですから、これと比べて、上部マントルは 1023 倍も粘り気のある「液体」であるわけです。

マントルが固体でありながら液体のように流動することについて、『地球 46 億年全史』は次のような事例をあげて説明しています:
中世の教会の窓ガラスは人の目を惑わす。ガラスを通して見える世界は、ゆがんでいる。渦を巻き、屈折し、ぼやけている。 …(略)… 何百年にもわたって重力を受けつづけたガラス窓の表面は、本来の形がゆがみ、しわがより、垂れ下がって起伏が生じ、ついにガラス越しに見るものすべてが奇怪にゆがむようになってしまう。それでも私たちはガラスが壊れやすい硬い固体だということを知っている。ガラスは粘り気のある液体のように、固体であると同時に流体でもあるらしい。
私もヨーロッパでこのような状態になった古いガラスを見たことがあります。ガラスは短時間に作用する力に対しては「割れる」という固体としての姿を見せますが、長期間継続して作用する力に対しては上記の教会のガラスのように「流れる」という液体としての姿を見せます。かつて、NHK 教育テレビの高校講座「地学」では、硬めに作った水飴を使って実験をしていました。この硬めの水飴を傾いた板の上に置くと、非常にゆっくりとですが液体のように低い方に流れていきます。ところが、この水飴をハンマーで叩くと、ガラスのように砕けて破片が飛び散ります。マントルの性質を直感的に理解できる非常に説得力のある実験で、強く印象に残っています。

プレートテクトニクスで「マントル対流」などという言葉を聞くと、マントルは完全に溶融した液体とイメージしがちです。しかし、本質的にマントルは固体です。マントルが個体であることの証拠としては、地震波の S波(横波、ねじれ波)が伝わることがしばしばあげられます。しかし、それだけではありません。マントルを構成するかんらん石などが完全に溶融していたとすると、密度的に現実と合いません。また、上記のような高い粘性率を示すことはないと考えられます。

書名は忘れましたが、以前読んだ本に、もし地球という天体の内部で最大の容積を持つマントルが液体だったとすると、月が及ぼす起潮力による地殻の変位(特に上下方向)は現実よりも非常に大きくなるはずで、そうであればわれわれの住む大地はひび割れでずたずたの状態になっているだろう、さらには、地球の自転は現実よりもずっと遅くなっているはずだ、という主旨の記述を見たことがあります。生卵とゆで卵の見分け方として、テーブルの上で回転させてみるというやり方があります。内部に流動体の部分がある生卵は、その流動体の内部摩擦のため、すぐに回転がとまり倒れてしまいます。それと同じことだということです。

2009年5月4日月曜日

サウジアラビアで群発地震

地震の少ないサウジアラビアですが、西部の都市メディナの周辺で、4月18日から群発地震が続いています。地震の回数は 1200回を超え、最大はマグニチュード 3.7。有感地震も含まれています。メディナは、アラビア・プレートとアフリカ・プレートの境界である紅海に近いところに位置しています。
メディナについて『世界大百科事典』(平凡社)と『広辞苑』(岩波書店)からまとめます:
アラビア半島の西側にある都市。メッカとともに,イスラムの〈二聖都〉と称される。現在はサウジアラビアの同名州の州都。イスラム教の祖マホメット(預言者ムハンマド)が 622年にメッカから聖遷し、その後 632年に没した地。現在でも彼の墓廟があり、巡礼者が多い。その墓廟は預言者のモスクと呼ばれる豪壮な建造物の一隅にあり、モスク自体は生前のムハンマドの住居兼モスクの位置にあたる。
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月3日日曜日

エレバン放送

一つ前の記事「アルメニア上空の白い十字架」に関連して、エレバン放送のことを書きます。旧ソビエト連邦をはじめとする社会主義諸国に流布したジョークに、「エレバン放送もの」というジャンルがあります。エレバン放送とは、アルメニアの首都エレバンにあるとされた架空の放送局です。このエレバン放送局が聴取者の質問に答えるという設定の短めのジョークが「エレバン放送もの」です。

アルメニアは、かつては「アルメニア・ソビエト社会主義共和国」として、ソビエト連邦を構成する共和国の一つでしたが、なぜアルメニアの架空放送局がジョークの題材とされたのかはよくわかっていません。

以下に、「エレバン放送もの」のジョークをいくつか紹介します。出典は『スターリン・ジョーク』(平井吉夫編、河出書房新社)です:
ソ連には、自由な意見の交換が存在するのでしょうか? ―― 原則的には存在する。たとえば独自の意見を持って党会議に出席し、かわりに党書記の意見を持って帰る。

いまやソ連は共産主義に向かって行進しているのに、なぜ相変わらず食料が欠乏しているのでしょうか? ―― 行進中に、ものを食ったりはしない。

戦車とは、なんですか? ―― 戦車とは交通手段であり、ソ連兵士が兄弟諸国への友好的訪問に利用するものである。
3番目のジョークにある「兄弟諸国への友好的訪問」とは、ハンガリー、チェコスロバキア(当時)、アフガニスタンなどの衛星国(*)への軍事的介入を指しています。1956年に起きたハンガリー動乱では、スターリン主義に反対して起きた反ソ・デモにソ連が軍事介入しました。チェコスロバキアでは、1968年、「プラハの春」と呼ばれる知識人らを中心とした自由化・民主化運動が活発となり、共産党政権もこれに応じたため、ソ連軍と東欧 5ヵ国の軍隊からなるワルシャワ条約機構軍がチェコスロバキアに侵攻、同国での民主化運動を鎮圧しました。アフガニスタンに対しては、1979年に発生したクーデターをきっかけに、ソ連が友好協力善隣条約に基づいて内戦に軍事介入しています。西側諸国はこの軍事介入に抗議して、翌年のモスクワ・オリンピックをボイコットしました。


(*)衛星国: 最近あまり耳にしなくなった言葉です。世界大百科事典(平凡社)には以下のように解説されています:
satellite states 主権国家でありながら軍事・政治・経済・外交その他の政策決定、さらに政治体制の性格そのものについてまで、国際社会で支配的な影響力を持つ大国の拘束を受け従属的地位にあって常に追随した行動をとるとみなされる国々を批判的に指す語。語源は王朝時代のフランスだが、 …(略)… 第 2次大戦後は米ソを極とする自由主義陣営と共産主義陣営の対立による冷戦構造の編成が、米ソ超大国の周辺に位置したりそれらの勢力圏と色分けされる地域に相手側陣営から衛星国と呼ばれる国々を生んだ。ソ連の下にある東欧諸国、アメリカの下にあるラテン・アメリカ諸国は、しばしばその例とされる。 …(略)…
認めたくはありませんが、日本は「アメリカの同盟国というよりは衛星国である」と言われてもしようがない面があります。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年5月2日土曜日

アルメニア上空の白い十字架

アルメニア(黒海とカスピ海の間の山岳地帯にある国家)北西部の都市ギュムリに現れた白く光る十字架のビデオ映像です:
記事によると ——
イースター(復活祭)から 1週間経った日の午前 12時14分頃(現地時間)から約 30分間、民家の上空にこの白い十字架が見られた。初めは単なる白い光だったが、徐々に十字架の形になった。原因は不明。(記者としては)この映像の信憑性を確認できていないが、伝える価値があると判断。

(この映像が撮影された)ギュムリは 1988年に大地震に襲われ、25000人が死亡した。この大地震の数日前から地震当日まで、アルメニア各地に聖母マリアの幻影が現れたとの複数の報告が残っている。

アルメニアは、西暦 301年、世界で初めてキリスト教を唯一の国教と定めた。ローマ帝国のコンスタンティヌス大帝(と リキニウス帝)が(〈ミラノ勅令〉によって)キリスト教を公認したのは、その 12年後の 西暦 313年のことである。
—— とのことです。

映像の前半では、民家の上空に見えていた白い十字架が、後半では民家の手前に写っています。この距離感のなさや「移動」の不自然さが、この映像の信憑性を下げているように思います。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

気象庁がひずみ計を増設へ

散発的にしか報道されていませんが、東海地震を予知するために設置されているひずみ計が、新たに 6か所 新設されることになりました:
以前から、旧型ひずみ計の更新の必要性が叫ばれていますが、予算がついたのは新設分だけで、既存の旧型ひずみ計の更新はありません。以下の記事は、その問題点を指摘しています:
記事をまとめると ――
  • 旧型ひずみ計は地殻のひずみの量しかわからないが、新型は力が加わる向きもわかる「多成分ひずみ計」
  • ひずみ計の耐用年数は 10~20年程度
  • 気象庁が予知情報を出す際に基準とするひずみ計は、今回の新設分を除いて 21か所; そのうち 5か所だけが新型で、16か所は旧型のまま
  • 旧型 16か所のうち、8か所が設置から 30年近く経過して老朽化; 残り 8か所は 91~95年に更新されたものの旧型
  • 2000年を最後にひずみ計の新設は途絶えていた
  • ひずみ計は地下水の影響を避けるため最低 200m の深さに埋設する必要があるが、未更新の旧型の大半は深さ 100m 前後に埋設
  • ひずみ計の設置には、地中に穴を掘って計器を埋設、地上にもデータ処理・伝送機器を設置する必要があり、1か所で億単位の費用が必要
―― とのことです。

4番目の記事(中日新聞)には、判定会長を務めた経験のある溝上恵・東大名誉教授のコメントが載っています:
技術が進んで新型機器があるのに使えていない。データに変化が出ても(前兆か、老朽化の障害かと)不安がある。一定時期がたったら更新すべきだ。ただ、気象庁は衛星(ひまわり)を抱え、海底地震計も予算の額が大きい。ひずみ計の更新を言うと、庁内の別の何かを削れと財務当局から言われ、1カ所分の予算獲得も至難の業だろう。

2009年5月1日金曜日

プレートの「底」確認

4月28日付『朝日新聞』の科学面に「プレートの『底』確認」という記事が掲載されています。東京大学地震研究所の川勝均教授のチームが、アメリカの科学誌『サイエンス』に発表した論文を解説するものです。同教授は地震波トモグラフィーで多くの業績を上げている方です。以下は記事からの抜粋です:
 川勝教授らは、沖の鳥島近海と北海道東方約 2000キロの水深 5600メートル付近の海底に、深さ 500メートル前後の穴を掘って設置された地震計を利用。各 2年分、地下構造を調べるのに適した延べ約 80 の地震のデータを集め、従来よりも地下で地震波が伝わる速度が精密にわかる方法で解析した。

(略)

 地震波は地下の軟らかい部分で速度が遅くなる。川勝教授らは、地震波の速度が遅い層は岩石が溶けた物質が混ざって軟らかくなっており、上部の硬いプレートは地下 80キロ付近が「底」だとした。

 軟らかい「アセノスフェア」と呼ばれる部分は高温で、部分的に溶けたマントルが水平方向に引き伸ばされたミリ単位以下の薄い層が多数ある、と考えられるという。
川勝教授が『サイエンス』に発表した論文(英語)の要旨は以下にあります:
この発表のポイントは 二つあると思います。一つ目は、これまでは漸移する(徐々に変化する)とイメージされていたリソスフェアとアセノスフェアの間には、実はシャープな境界があるとわかったこと; 二つ目は、プレート(リソスフェア)の底に接するアセノスフェアに「部分的に溶けたマントルが水平方向に引き伸ばされたミリ単位以下の薄い層が多数ある」と推定されたことです。この水平方向に伸びた多数の薄い層が、海洋プレートの移動を容易にしているのかも知れません(「鶏と卵」的ですが、プレートが移動した結果、薄く引き伸ばされたとも考えられます)。


プレート、マントル、リソスフェア、アセノスフェアの関係については以下の説明を参照してください:
また、以下の図は、これらの混同しがちな概念を視覚的にわかりやすくまとめてあると思います:
なお、マントルの内部が部分的に溶ける現象(部分融解)については、われわれがその言葉からイメージするものとは違っているようです。以下に『マグマの地球科学』(鎌田浩毅、中公新書)から部分融解についての説明を引用します:
 マントルが溶け始めるとき、鉱物の粒子の表面には液体の薄い膜が現れる。鉱物の表面だけがわずかに溶けるのである。これを部分融解(partial melting)という。鉱物と鉱物の間に細かい水路ができたようになり、液体のマグマが網の目のように連結してくる。この溶けた領域がしだいに増えてくると、鉱物の粒子そのものが液体に覆われるようになる。液体のネットワークに固体の鉱物が囲まれるような状態だ。(略)

 このように、岩石が部分的に溶け始めるのだが、全部が液体になったわけではない。全体としてはまだ固体の姿を保っている。ちょうど粘土のようなイメージであり、少しだけ軟らかくなった固体といってもよいだろう。(地震波の)低速度層の中では、このような部分融解した岩石の塊全体が、あちこちにでき始めるのである。

 なお、低速度層に起きている部分融解では、岩石が溶けている割合は 1 パーセント程度でしかない。
Image Credit: U.S. Geological Survey

「メキシコ風邪」と地震の名前(続報)

昨日の記事(「メキシコ風邪」と地震の名前)で、イスラエルの副大臣が「豚インフルエンザ」を「メキシコ風邪」(Mexican influenza)に改めるべきだと発言したことを取り上げました。これは豚を不浄と見なすイスラム教徒やユダヤ教徒に配慮したものでしたが、ヨーロッパでは、養豚・食肉業者への風評被害を防ぐために「豚インフルエンザ」の呼称をやめるべきだとの提案がなされています:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency