2009年1月1日木曜日

2008年の天体写真 トップ5

2008年に公開された天体写真の中から、私が選んだトップ5をご紹介します。3位が2件あるので、4位はありません。

第5位 火星の雪崩
Caught in Action: Avalanches on North Polar Scarps

雪崩か崖崩れかはっきりしませんが、現象が起きているまさにその瞬間を捉えた貴重な写真です。火星の周囲を周回中のアメリカの Mars Reconnaissance Orbiter(MRO)に搭載されている High Resolution Imaging Science Experiment (HiRISE) カメラによって撮影されました。
第3位 画架座β星の惑星
Probably a Planet for Beta Pic

これまでも太陽系外惑星の発見報告がありましたが、いずれも主星の位置の微妙なゆらぎや、光度の周期的変化など間接的証拠にもとづくものでした。2008年になって、史上初めて太陽系外の惑星と考えられる天体が光学的に撮影されました。2件の撮影報告が相前後してなされたため、どちらが「史上初」の栄冠に輝くのかわかりません。

ここに紹介するのはそのうちの1件、画架座β星(距離50光年)の周囲を回る惑星と考えられる天体の写真です。チリのアタカマ砂漠に設けられた欧州南天天文台(ESO)が撮影しました。

画架座は馴染みの薄い星座名ですが、南半球で見ることができます。写真では、主星(画架座β星)の輝きを押さえるために、主星そのものはマスクで隠され、その位置だけがマークされています。主星の左上にぼんやりと白く写っているのが惑星と考えられる「画架座β星 b」(Beta Pictoris b)です。左上方向と右下方向に炎が噴き出しているように見えるのは、主星の周りをまわる塵の雲です。右上に描き込まれている点線の円は、比較のために同じスケールで描いた土星の軌道の大きさです。

画架座β星は、その周囲に塵の雲が存在し、さらにその雲の中心部に太陽系の大きさとほぼ同じ規模の塵のない空間があることから、惑星系が存在するのではと以前から注目されていました。中心部に塵がないのは、惑星が形成されるときにその材料となったためと考えられたからです。

「画架座β星 b」が本当に惑星であるかについては、時間が経過してから再度同じ天体を撮影し、その位置が主星の周囲をまわるような変化をしているか否かで確定されることになります。
第3位 南の魚座α星(フォーマルハウト)の惑星
Fomalhaut b

同じく3位。こちらはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した南の魚座α星(フォーマルハウト)とその周囲の塵のリングです。上と同じく主星は輝きを押さえるためにマスクされ、位置のみがマークされています。オレンジ色に特に強く輝いている部分が塵のリングです。主星のやや右下、塵のリングのすぐ内側に四角で囲って示されているのが、惑星「フォーマルハウト b」です。こちらは、2004年と2006年に撮影した写真で位置が変化していることが確認されています。

塵のリングの内側に塵の輝きが少ないのは、この惑星の重力によって塵が取り除かれたからだと考えられています。
「フォーマルハウト b」は木星の3倍の質量を持ち、主星から、太陽-木星間の距離の23倍離れたところを公転しているとのことです。

南の魚座は、星占いで有名なみずがめ座の南に隣接する星座です。フォーマルハウトは南の魚座で一番明るい1等星で、地球からの距離は25光年。南中時には南天の低い位置に肉眼で見ることができます。
第2位 地球の前を横切る月
31 Million Miles from Planet Earth (静止画)

EPOCh Observations: EPOXI's Spacecraft Observes the Earth-Moon System (動画)

ディープ・インパクトという名前の探査機を憶えておられるでしょうか。2005年にテンペル第1彗星に接近、銅製のインパクターを彗星の核に衝突させて、彗星核の内部構造や構成物質について貴重な情報をもたらしたアメリカの探査機です。同機はテンペル第1彗星を観測した後も、軌道修正用の燃料が十分に残っていたため、新たにEPOXI(Extrasolar Planet Observation and Deep Impact Extended Investigation)というミッションに転用されています。この新しいミッションの目的には、深宇宙との通信実験、太陽系外惑星の検出、別の彗星の観測などがあります。探査機は2010年にハートレイ第2彗星に接近し観測を行うことになっています。

私が第2位に選んだのは、このディープ・インパクト探査機が5000万キロメートル離れたところから撮影した地球と月の姿です。地球の前を横切っていく月の姿が連続して捉えられています。月の直径は地球の約4分の1という数字が頭に入っていても、これらの映像を初めて見たときには、地球と月の大きさのバランスに意外感がありました。
第1位 火星の極地に降下していくフェニックス探査機
Descent of the Phoenix Lander

火星の北極圏にパラシュートを開いて降下していくフェニックス探査機です。火星を周回中のアメリカの Mars Reconnaissance Orbiter(MRO)に搭載されている High Resolution Imaging Science Experiment (HiRISE) カメラが撮影しました。カメラをどの方向に向けて撮影すべきか、決定するには相当に複雑な計算が必要だったはずです。

四角で囲った部分にある小さな白い点二つがパラシュートと探査機本体です。コントラストを強めて拡大した写真が左下に付けられています。写真では遠近感が圧縮されているため、背後の大きなクレーターの中に着地してしまいそうな印象を受けますが、実際はクレーターから遠く離れた平原に軟着陸しています。他の惑星に降下していく探査機を別の探査機が撮影した映像というのは珍しいと思います。一目見て、背中がぞくぞくするような感動を覚えました。芥子粒のように小さな探査機と、背後の大きなクレーター ―― あらためて火星が一つの大きな別世界だとの印象を深くした一枚です。