2009年4月30日木曜日

「メキシコ風邪」と地震の名前

海外では豚インフルエンザを「swine influenza」あるいは「swine flu」("swine" は豚の意)と呼んでいますが、すでに複数の感染者が確認されているイスラエルの保健副大臣が、これを「Mexican influenza」(メキシコ風邪)に改めるべきだと発言しています。理由は、豚肉を不浄のものと見なして食用にしないイスラム教徒やユダヤ教徒の感情に配慮すべきだということです。
記事では、この発言について科学者の反応も記載しています:
科学者たちは、今回の新型豚インフルエンザが、元々どこで発生したものか解明できていない。彼らは、ウィルスがメキシコ由来のものであるという根拠は(現時点では)ないし、そのようなレッテルを貼ることは汚名を着せることになりかねない、と話している。
「スペイン風邪」、「ソ連風邪」などの前例はありますが、当然メキシコ政府は反発することでしょう。おそらく、国際社会も「メキシコ風邪」という名称を公式に使うことはないと思います。

この件に関連して思い出すのは、大地震の命名です。インフルエンザの場合とは逆に、各自治体が自分たちの名前を織り込もうと運動するようです。兵庫県南部地震(M7.3)も、最初のうちは「阪神大震災」だったものが、最終的には「淡路」が付くことになりました。1983年の日本海中部地震(M7.7)の場合は、当初「秋田沖地震」、「日本海秋田沖地震」などと報道されていたものが、被害を受けた他の県からの要求もあって、公式には日本海中部地震になりました。震央は、日本海中部というよりは、秋田県や青森県の沖合と呼んだ方が適切な場所だったのですが。このような現象が起きるのは、地震の名前が、各自治体への支援の優先度や義捐金の配分などに影響するからだそうです。

2009年4月29日水曜日

メキシコで地震

日本時間 4月28日午前 1時46分頃(現地時間 27日午前11時46分頃)、メキシコ南部を中心とした地震(M5.8、深さ 35km)があり、死者が 2人出ています。マグニチュードは当初 6.0 とされていましたが、その後 5.6 を経て、最終的には 5.8 で確定したようです:
被害は限定的なようですが、太平洋岸のリゾート地アカプルコでは家屋 4件が倒壊、67歳と 75歳の女性が心臓発作を起こして亡くなっています。上記 2番目の記事には、崩壊した壁に押しつぶされた乗用車の写真が掲載されています。首都メキシコ・シティでは、保健大臣が豚インフルエンザについての記者会見をおこなっている最中に大きな揺れがあったようです。ビルから走り出した人たちで道路がごった返す場面も見受けられたとのことです。

メキシコでは、豚インフルエンザが問題になる以前から、麻薬組織との「戦争」で年間 6000人以上が死亡する事態が続いています。見せしめのために非常に残虐な殺され方をする人も後を絶ちません。以下の記事は、犯罪・疫病・地震に悩まされる現在のメキシコについて書いています。記事タイトルにある “Fault” には、「失敗」という意味と「断層」という意味があります。麻薬組織の撲滅や豚インフルエンザ封じ込めに「失敗」し、さらに「断層」による地震に揺さぶられるメキシコを、皮肉っています。記事の内容はともかく、大きなソンブレロと小さなソンブレロを「かぶった」男性の写真が …… :
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月27日月曜日

アースクェイク・ウェザー

NWS(National Weather Service、アメリカ国立測候所)の筆頭予報官だった気象学者が、アースクェイク・ウェザーについて書いています。アースクェイク・ウェザーとは、明るい日差しのある暖かい天気のことで、こういう天気のときに地震が起きやすいとの迷信が流布しています:
記事では、まず気象と地震が関係するとの考えを以下のようにバッサリ切り捨てています:
すべての季節、あらゆる気象条件のもとで地震の揺れは起きている。地震は地下何マイルもの深さで進む地質学的プロセスに起因するものであるのに対して、風・雨・温度・気圧の変化などの気象要因は、地表面とそのすぐ下にしか影響しない。地震を引きおこす強大な力は、天候によってもたらされる相対的に弱い力がまったく届かない地下深くに集中している。
そして、アースクェイク・ウェザーの迷信は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの考えに起源があると述べています:
暖かい日をアースクェイク・ウェザーとみなす迷信は、アリストテレスに起源があると思われる。紀元前 350年に、この古代ギリシャの哲学者は著書『Meteorologica』(気象論)の中で、地震は地下の大洞窟に閉じこめられた暖かい風によって起こると理論づけた。アリストテレスは、弱い地震は(閉じこめられた)空気が洞窟の天井を押すことによって起こり、大地震は(閉じこめられていた)暖かい風が地表にまで吹きだすことによって起こると考えた。この考えは、『Meteorologica』に記述されている他の多くの概念と同様、科学的妥当性がないと見なされている。

ヘビが原因の停電 大分県と岡山県

ヘビが冬眠からさめて、活発に活動し始める時期だからだとは思いますが ……

4月 25日(土)、ヘビが送電線に登って感電したため、JR 日豊線が大分県の中津(中津市)―宇佐(宇佐市)駅間で運行不能に陥ったそうです:
22日(水)と23日(木)には、岡山県内で 2日連続してヘビが配電盤に入り込み、停電が発生しています:

2009年4月26日日曜日

リヒター・スケールの日

4月26日は「リヒター・スケールの日」(Richter Scale Day)です。1935年に「マグニチュード」という地震の尺度を考案したアメリカの地震学者 Charles F. Richter (1900-1985)の誕生日を記念して、この日に定められました。

日本では「マグニチュード xx の地震」という言い方が一般的で、リヒター博士の名前はあまり出てきませんが、欧米では “xx magnitude earthquake” という言い方とともに、“earthquake that measures xx on the Richter scale” という表現も多用され、リヒター博士は存在感を保っています。

リヒター博士の名前は、地震の規模と発生頻度の関係を示す計算式にも残っています(Gutenberg-Richterの関係式)。

日本の報道機関がマグニチュードと震度を混同することはまずありませんが、海外の記事の中には混同しているものをときおり見かけます。しかも、日本で使われる気象庁震度階級とは違う改正メルカリ震度階が使われているので、いっそうわかりにくく混乱させられます。

ラクイラ地震とプレートテクトニクス(補足)

4月21日付で「ラクイラ地震とプレートテクトニクス」という記事をこのブログに掲載しました。4月6日にイタリアで発生したラクイラ地震の発震機構をプレートテクトニクスの観点から説明する内容でしたが、その理解を深めるのに役立つと思われる解説を、コロンビア大学(アメリカ・ニューヨーク州)のサイトで見つけました。新生代に入ってからのイタリア半島の地史をわかりやすく解説しています:
4枚の図が掲載されていますが、説明の都合上、左から順番に図1、図2、図3、図4 と呼ぶことにします。

各図の上部に書かれているのは地質年代ですが、意味は以下のとおりです:
Miocene: 中新世(2350万年前~530万年前)
Pliocene: 鮮新世(530万年前~180万年前)
図中で使われる記号の凡例は以下のとおりです:
Arc magmatism: 島弧の火成活動
Active subduction: 活動的な沈み込み帯(海溝)
Thrust belt: 逆断層帯、衝上断層帯
Normal Faulting: 正断層
Newly formed oceanic crust: 新たに形成された海洋地殻
Mesozoic oceanic crust: 中生代に形成された海洋地殻
以下は、解説を意訳したものです:
カラブリア弧は、沈み込み帯を先頭に、伸張領域を背後にしながら、急速に南東方向へ移動した。この移動は、イオニア海を構成する古い中生代の海洋底が沈み込んでいる海溝が後退することによって起きたと考えられている。

図 1 (中新世早期) は、1500万年前の状態を示している。カラブリア弧(図の左側で太い赤線と太い黒線の間の部分)は、サルディニアと結合している。また、古い深い海洋が、今日ティレニア海がある場所に存在している。

図 2 (中新世中期)では、東方向への海溝の後退が、カラブリア弧とサルディニアを分離しようとしている。

図 3 (鮮新世早期)は、300万年前までの状況を示している。カラブリア弧の移動によって古い海洋底は消滅しつつある。カラブリア弧の背後では、島弧の火成活動が起こり、エオリア諸島という火山列島が形成されている。カラブリア弧とサルディニアの分離は新たな海洋地殻の形成をもたらした。沈み込み帯の北部はイタリア半島と衝突し、アペニン山脈を形成した。

図 4 は、現在の状況を示している。沈み込み帯の衝突は、イタリア半島を縦断する形でアペニン山脈を形成している。沈み込み帯の残存部分であるカラブリア海溝は、シチリア島とイタリア半島の間に押し込められている。イタリア半島との衝突によって、カラブリア弧の移動が停止したのか、それともカラブリア海溝あるいはその一部がさらにイオニア海に向かって移動を続けるのかは、はっきりしていない。
新聞記事などでは、「アフリカプレートとユーラシアプレートが衝突している」との一言で片づけられてしまいますが、実際は非常に複雑なテクトニクスがはたらいていることがわかって頂けると思います。この地域の地質学的研究の歴史は世界で最も古く、歴史に名を残す著名な研究者が多く携わってきましたが、それら先人の努力にもかかわらず、さまざまな謎が未解明のままになっていました。しかし現在では、プレートテクトニクスが登場したことによって、それらの多くが解明され、統一的な理解が可能になっています。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

土星系の写真集

これまで何度か紹介してきた『ボストン・グローブ』紙の “The Big Picture” ですが、土星探査機カッシーニが撮影した写真の特集をしています。
全部で 24枚の写真が掲載されていますが、その中から私の印象に残ったものをいくつか紹介します(1枚目を除く各写真には、左下に番号が表示されています):
[1] 土星の全景です。この写真を見ると「静謐」という言葉が頭に浮かんできます。グスタフ・ホルスト作曲の組曲《惑星》でも、第 5曲「土星 ―― 老年をもたらすもの」はそのようなイメージの曲です。日本では中越地震以降、第 4曲「木星 ―― 快楽をもたらすもの」が非常に有名になりました。「木星」と並んで私が好きなのは、第 2曲「金星 ―― 平和をもたらすもの」です。

[2] リングの隙間を周回する衛星パン。リングの映像が土星の上層大気によって屈折していることに注目。

[5] 大気をもつ衛星タイタンの前を横切るレア。キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」の一シーンにあったような映像です。

[6] 左側の輝点が衛星パン、右側がプロメテウス。両衛星の周辺でリングに乱れが生じています。

[7] 衛星イアペトゥスの中央山脈。この衛星はいろいろ謎めいた特徴を持っています。

[15] 土星のリングがいかに薄いか、いかに完璧な平面に近いか、を実感できる写真です。小さい衛星はエピメテウス、背後のオレンジ色の天体は大気を持つ衛星タイタンです。

[19] リングの上に投げかけられた衛星ミマスの影。リングの回転面がほとんど太陽の方向と一致しているため、長い影ができています。写真の左上から右下に中央部を走るリングの縁がギザギザになっていることに注目してください。まだ結論は出されていませんが、リングを構成する粒子のうち、リングの回転面より上にそれたものの影ではないかといわれています。
これまで “The Big Picture” に掲載された土星関連の写真は以下にあります:

韓国の「飛翔体」は迎撃しないのか

北朝鮮の「飛翔体」騒動があったばかりですが、韓国が今年 7月に自国製の 2段式ロケット KSLV-1(Korea Space Launch Vehicle 1)で人工衛星の打ち上げを予定しています:
今回韓国が予定している人工衛星打ち上げは、北朝鮮が 1998年に長距離弾道ミサイル「テポドン 1」を発射したことを受けて計画がスタートしたものです。当初 2005年までの打ち上げを目指していましたが、開発が難航し 2008年まで延期、さらに 1年延期して今年 7月の打ち上げ予定になったものです。公表されている人工衛星の機能は平和目的ですが、海外の専門家の中には、これを北朝鮮の動きに触発された東アジアでの軍拡競争の一環ととらえる向きもあるようです。以下は、『フィナンシャル・タイムズ』の記事です:
韓国は、1992年に打ち上げた KITSAT-1 以来、小型衛星の製造についてはすでに実績があり、他国への輸出もおこなっているようです。しかし、打ち上げについては、これまでフランスやロシアのロケットに依存し、打ち上げもフランスやロシアの領土からおこなってきました(フランスの場合は南米のフランス領ギアナ)。今回使われるロケット KSLV-1 は、1段目がロシアとの共同開発、2段目が韓国の独自開発で、打ち上げも初めて韓国領土内からおこないます。

打ち上げ場所は、韓国南西部の島に新たに造成された羅老宇宙センターです。北朝鮮が「飛翔体」を発射した舞水端里(ムスダンリ)は日本海をはさんで秋田市とは約 900km 離れた場所でしたが、羅老宇宙センターは狭い対馬海峡をはさんでわが国の九州に向かい合う場所で、福岡市とはわずか 280km、対馬にいたっては 160km しか離れていません。下記のグーグル・マップを参照してください:
今のところ、今回のロケットは南に向かって発射され、正常に飛行すれば九州南西部や沖縄の上空を通過することになるようです。日本政府は「韓国の場合、宇宙の平和利用であるのは明らかだ」として、発射を静観する方針だと上記の記事は伝えていますが、これは釈然としません。政府は、北朝鮮の「飛翔体」の場合には、国民の生命・財産を守るため、万が一の落下に備えるという名目で迎撃体勢を敷きました。平和利用であっても事故や故障が起きないという保証はありません。まして、今回予定されている打ち上げは、ロシアの技術が導入されているとはいえ、韓国初の国産ロケットです。南に向けて発射したつもりが、あらぬ方向にそれることもありえます。これまで何度も長距離ミサイルの発射やロケット技術の輸出をして実績を積んでいる北朝鮮より、むしろ落下の危険性が高いと考えるのが普通ではないでしょうか。日本も打ち上げ失敗を繰り返していた時期があったことは記憶に新しいところです。北朝鮮に対しては声高に迎撃を叫び、韓国の場合には音無の構え ―― ダブル・スタンダードの典型のように思われます。この落差を見ると、北朝鮮の「飛翔体」に対する日本政府のあの騒ぎぶりには、国民の生命・財産を守るという大義名分の裏に何か別の意図があったのではないか、との疑念を抱かざるを得ません。

今回打ち上げられる衛星は小型で重さ約 100kg、低軌道への投入を目指しています。今後、韓国が今回より大型で重い衛星を、より高い軌道にのせる場合には、地球の自転速度を利用するため、東や南東方向に向けてロケットを発射する必要が出てきます。羅老宇宙センターから東に向けて発射すれば、岡山・大阪・名古屋・東京など人口密集地帯の上空を通過することになります。また、南東の場合は、福岡・大分・宮崎など九州の主要都市上空を通過することになります。このような場合でも、日本政府は平和目的であるならば静観するのでしょうか。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月24日金曜日

ピタゴラスの地震予知

「三平方の定理」で有名な古代ギリシャのピタゴラスについて、『Pythagoras: his life, teaching, and influence』(Christoph Riedweg、Cornell University Press, 2005)に次のような記述があったので紹介します:
Once, when he felt thirsty in Metapontum and drank water drawn from a well, he predicted that three days hence an earthquake would occur. (かつて、彼はメタポンティオン(地名)で喉の渇きを感じ、井戸から引かれている水を飲んだとき、三日のうちに地震が起こるであろうと予言した。)

(前略) he is supposed to have predicted a shipwreck and the conquest of a city (in his case, Messina), and also to have prophesied an earthquake after drinking from a well. (彼は船の難破や都市の征服(彼の場合はシチリア島のメッシーナ)を予見したと考えられている。また、井戸から引いてこられた水を飲んだ後に地震を予言したとも言われている。)
地震は実際に発生したようです。ピタゴラスは、井戸水の味か臭いで地震が来ることがわかったのでしょうか。そう言えば、中国には宏観前兆として「地味」や「地臭」という言葉がありますし、直前予知に成功したとされる海城地震(1975年2月、M7.3)について書かれた『海城地震 予知成功のレポート』(蒋凡、力武常次、共立出版)には、次のような記述があります:
海城地震前には地下水の異常が非常に多く現れ、その出現範囲も非常に広かった。遼寧省南部の 8地区の統計によれば地下水異常の現れた地点は合計 241ヶ所で、その中には水位の上昇、下降やその他の異常が見られた。水位上昇のはっきりと現れたのは 150ヶ所、渦巻き、発泡、混濁、変味(臭い)の現れたのは 157ヶ所、浅い溝、池、沼の水が空気をまじえ氷を破って噴出または湧出したのが 9ヶ所あった。
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月22日水曜日

ラドン・ガスは天気の前兆

イタリアで 4月6日に起きたラクイラ地震は、ラドン・ガスの放出によって予知されていたとの報道に対して、専門家の反応は冷ややかです。以下は、かつてラドン・ガスによる地震予知を調査したことがある研究者の見解を伝えるアメリカのニュースサイトの記事です:
以下は記事の抜粋・意訳です:
地震の前兆としてのラドン・ガスを認める地震学者はわずかしかいない。

ラドン・ガスによってイタリアの地震を予知していたとされる研究者は、人びとを不安に陥れるデマを流したとして警察に通報された。

カリフォルニア工科大学の Tom Heaton 博士は、1970年代にラドン理論を徹底的に調査したが、次のように語っている。「私たちが見いだしたのは、ラドンやそれに類するものが、地震の前兆であるというよりは、天気を予報しているらしいということだった。地下からラドンが放出される度合いは、大気圧に影響される。地震予知の方法を見いだそうとするときには、たくさんの要因が影響しあってしまう。どのようにして地震が発生するのかを私たちが理解しようとすればするほど、地震が予知可能であるとは考えられなくなってくる。」

Tom Heaton 博士は、単一の指標であろうと、複数の指標の組み合わせであろうと、信頼の置ける地震前兆としてうまくいったことはないと強調している。
地震予知関係のアマチュアのホームページや掲示板を見ていると、ラドン・ガスによる予知に対して冷淡に見える専門家に対して、批判的な声が多いように思います。しかし、批判するのであれば、アマチュアといえども、ラドン・ガスと地震の関係について過去にどのような研究がおこなわれ、どのような結論が得られたのかを、ある程度知った上でおこなうべきだと私は思います。今は、ネット上の検索で、過去の論文も容易に見つけることができるようになっているのですから。

新しいプレート誕生

報道しているニュースサイトが限られていますし、記者が研究者の見解をよく理解した上で記事にしているのか、疑問がのこりますので鵜呑みにすることはできませんが、2004年末にインド洋大津波を引きおこした大地震によって、スリランカ南方の海底に新たなプレートが形成され、それによってスリランカでは今後地震が増える可能性があると研究者が述べています。以下はスリランカのニュースサイトに掲載された記事です:
記事を抜粋・要約すると ――
スリランカの地質学者(Peradeniya 大学の C.B. Ratnayake 教授)が今日語ったところでは、スリランカの南方沖約 500km に新たなテクトニック・プレートが形成されたため、今後スリランカでは地震が増えると予想される。この新しいプレートは、2004年にインド洋大津波を引きおこしたスマトラ島沖大地震と直接的な関係があり、定期的に小規模の地震を発生させる。教授は、スリランカ島内の建設業者は、この新たな展開を考慮して地震に備える必要があると語っている。
―― とのことです。

以下は同じくスリランカのニュースサイトに掲載された記事ですが、こちらでは新たなプレートとは言わず、新たなプレート境界が形成されつつあると書いています:
いずれの記事も地図を掲載しておらず、また論文検索しても該当するものは見あたらないのではっきりしませんが、スリランカの南方海底(インド・オーストラリア・プレート)で、何らかのタイプのプレート境界が新たに形成されつつあるということだと思います。

新たなプレート境界に将来なりそうな地形は、世界各地で見つかっています。たとえば、トンガ・ケルマディック海溝の中央部では、海山列の衝突によって太平洋側の海底に亀裂が走っており、これが将来新しい海嶺に発展するかも知れない、と言われています。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月21日火曜日

ブルガリアで地震パニック

ブルガリアの都市ハスコヴォ(首都ソフィアの東南東約 200km)で 4月19日(日曜)にマグニチュード 6~7 の大地震が起きると星占い師が発表したため、パニックが発生しました。当日に地震は起こらず、事態は沈静化したようです。4月19日は、ブルガリアなどキリスト教東方教会の影響下にある地域では、イースター(復活祭)の日にあたっています。

以下は、この件に関する記事を時系列に並べたものです。最初の記事は、星占い師の地震予知を否定するものですが、あきれたことに、科学者と地震透視能力者(いわゆる「体感」で地震を予知する人)が同列で扱われています。星占いを否定するのに「体感」を持ち出されてもねぇ~と思うのは私だけではないと思います:
以下は、上記の一連の記事からの抜粋・意訳です:
ブルガリア南部の都市ハスコヴォはここ数日パニック状態になっている。原因は、地元の星占い師 Emil Leshtanski が、地震の発生場所のみならず、その発生時期と規模(マグニチュード 6 以上)までも発表したからである。

地震透視能力者 Maya Popova は、自分の体の中で起きる痛みによって、いつ・どこで地震が起きるかを感じ取ることができるとの評判である。彼女は、1999年にトルコでおきた壊滅的な地震や、昨年ギリシャで起きた地震を予知したと言われている。Popova は、ブルガリアで 4月19日に地震が起きることはないと断言している。

著名な地球物理学者 Iordan Georgiev は、ハスコヴォ一帯は地震多発地帯ではなく、マグニチュード 6 クラスの地震が起きるという主張は現実的ではないし根拠もないと語っている。

数十の家族がハスコヴォから他の地域に避難している。街に残った人びとは、街が壊滅するという予知を信じないし、星占い師を裁判にかけると息巻いている。地元の保険会社や代理店では収益が増加している。数千のテント、寝袋、毛布が売れた。

聖マリア教会の神父 Antoni Enev は、星占い師の言葉を信じず厳粛なイースターの拝礼式に参加するよう、人びとに呼びかけている。

パニックは、ハスコヴォから 45km 離れた Kardzhali にも広がっている。町民は町を脱出したり、親戚の低層住宅で寝泊まりしたりしている。
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

ラクイラ地震とプレートテクトニクス

【2016年8月28日追記】 この記事は執筆から時間が経ったため、文中のリンク先のほとんどがコンテンツの移動や削除によってリンク切れの状態になっています。それらの不具合を解消した改訂版の方をご覧ください。

4月 6日にイタリアで発生した M6.3 のラクイラ地震については、日本でもいろいろ報道されています。しかし、この地震がどのようなテクトニクスによって発生したのか、明確に説明した報道はなかったように思います。たとえば、私が購読している朝日新聞が 4月 7日朝刊に掲載した記事では、次のように書かれています:
北西-南東方向に延びる断層面を境に、地面が両側に引っ張られる正断層型とみられる。
 イタリア半島は、すぐ南の地中海で、アフリカプレート(岩板)が北上してユーラシアプレートに衝突し、内陸部にひずみが蓄積されている。
 さらに、この一帯では、より細分化された「マイクロプレート」と呼ばれる塊がひしめき合っている。このため、さまざまなタイプの地震が起きることが知られている。
アフリカプレートとユーラシアプレートが衝突し、互いに押し合っている地域で、内陸部にひずみが蓄積されているという点までは良いのですが、そのような場所で「地面が両側に引っ張られる正断層型」の地震が起きたのはなぜでしょうか。記事では、「『マイクロプレート』と呼ばれる塊がひしめき合っている」からだと説明していますが、これですんなり納得できる読者はどの程度いるのでしょうか。記事を書いた記者本人も、この地震の発震機構についてよくわかっていないのではないでしょうか。

少し詳しいプレートテクトニクスの教科書などで地中海地域のテクトニクスを調べると、ユーラシアプレートとアフリカプレートの間の非常に込み入った境界を示す図や、この地震の発震機構につながる説明があるのですが、ネット上でわかりやすい説明はなかなか見つかりません。そんな中で、エジンバラ大学の地質学者が自身のブログに簡潔な説明を載せていますので紹介します:
上記ブログ記事の内容を説明する前に、イタリア周辺の基本的な地名について書いておきます。長靴の形をしているイタリア半島ですが、その付け根を取り囲むように屹立しているのがアルプス山脈、イタリア半島の中央部を北西から南東に向かって貫いているのがアペニン山脈です。今回の地震はこのアペニン山脈で発生しました。長靴(イタリア半島)のつま先で蹴飛ばされている小石のように見えるのがシチリア島、長靴の脛(すね)に向かい合っている2つの大きな島は、南側がイタリア領のサルデーニア島、北側がフランス領のコルシカ島です。これら 3つの島とイタリア半島に取り囲まれている海がティレニア海、長靴の底に面しているのがイオニア海、そして、長靴のふくらはぎ側に面しているのがアドリア海です。

上記ブログ記事には 3つの図が掲載されています。これらを上から順番に図1、図2、図3と呼ぶことにします。

図1 は、1981年から2002年の間に発生した地震の分布図です。記事によれば、ほとんどがアペニン山脈沿いで発生する震源の浅い小規模地震で、マグニチュードは最大でも 5、しかし過去 100年間では マグニチュード 6以上の地震が 9件発生しているとのことです。米国地質調査所(USGS)版の分布図は以下にあります:
図2 は、今回の地震の発震機構を示す震源球を簡略化して描いたものです。実際の発震機構を描いた図は以下にあります。計算に使う観測データや計算方法によって微妙な差がありますが、本質的な差はありません。
いずれの図を使うにせよ、これらの図からわかることは、今回の地震が正断層型であり、断層の走向はおおよそ北西-南東の方向、断層を動かした力はそれと直交する北東-南西方向の張力ということです。この張力はアペニン山脈と直交する方向に働いています。

発震機構を示す図の見方については、以下の気象庁のページにわかりやすい説明があります:
いよいよ本題の図3 の説明になります。記事から引用・意訳します:
なぜアペニン山脈で伸張応力による拡張が起きているのだろうか。地中海西部のテクトニックな歴史は、実のところ非常に込み入っている。アフリカとヨーロッパのプレートが動くことによって、その間にあった大きな海洋の最後の部分は、沈み込みによってほとんど破壊されてしまった。現在この地域にある海洋地殻は、最近 4000万年程度の間に背弧海盆の拡大によって新たに形成されたものである。現在の両プレート間の衝突境界(衝上断層と海溝)は、図3に赤い線で示されているように、イタリア半島の東岸と南東岸からシチリア島を経て、北アフリカまで延びている。この衝突境界は、赤い矢印で示してあるように、ヨーロッパから離れるように南方向と東方向に移動している。この移動によって上盤側(ヨーロッパ側、つまりイタリア半島)の地殻は引き伸ばすような力を受けている。

地理的に広い範囲で見れば、2つのプレートは衝突している。しかし、局地的なレベルでは、ティレニア海という背弧海盆が南西方向に拡大しており、この拡大がイタリアのテクトニクスの主要な原動力となっている。このため、アペニン山脈を形成した衝上断層は、現在では伸張応力に駆動される正断層として再活性化されている。この衝上断層から正断層への転換は、残念ながら、地震をより被害の少ないものにすることはない。
図3と同じようなプレート境界線は、日本で出版されたプレートテクトニクスの書籍でも見かけますので、大方の支持を得ている定説とみなして差しつかえないと思います。もちろん、研究者によって多少の差異はあります(たとえば、境界線がシチリア島の北岸を通るのか、南岸を通るのか、あるいはシチリア島を横断しているのか、など)。

背弧海盆とは、日本海やオホーツク海のように島弧と大陸の間にある(海溝側から見て島弧の背後にある)海のことです。背弧海盆は海洋性の地殻をもっています。また、多くの背弧海盆は、海嶺の両側で見られるような地磁気の縞模様をもっているので、拡大しているか、かつて拡大した時期があると考えられています。

長くなりましたので、背弧海盆はなぜ拡大するのか、海溝のそばでなぜ正断層ができるのか、海溝はなぜ後退するのか、地中海東部と西部のテクトニクスの違い、などについては別途書こうと思っています。また、地中海地域のテクトニクスを造山帯の崩壊過程ととらえる考え方もできれば紹介したいと思っています。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月17日金曜日

地震予報 4月末 イラン南部 M5.0~6.0

イギリスの科学誌『ニューサイエンティスト』のサイトに 4月 16日付で掲載されているブログ形式の記事です:
著名な科学誌のサイトが、この種の日時や場所を指定した「予報」記事を載せることはあまりないと思います。それも「地震雲」が根拠となっている「予報」です。先日のイタリア・ラクイラ地震でラドン・ガスによる予知がなされていた云々という「ラドンゲート事件」があったばかりだからなのでしょうか。

記事によると ――
予報を送ってきたのは、中国・南京師範大学リモート・センシング・センターの研究者。この研究者のチームは、イラン上空に地震特有の異常な雲を検知。これにもとづいて、イラン南部で 4月末に M5.0~6.0 の規模の地震が起こると予測。地震前に岩盤に歪みが蓄積すると、電磁気的な撹乱が発生し、上空の雲の形成に影響する。このような地震特有の形状をした雲は衛星写真で見つけることができ、テクトニックな応力の早期警戒シグナルとなる。しかし、「この方法は、地震発生の場所とマグニチュードを予報することには使えるが、地震の日付を予報するのは困難だ」と研究者は書いている。
―― とのことです。

予想されている震央の位置は以下のグーグル・マップにマークされています:
なお、この中国の研究チームの雲を使った予報技術については、『ニューサイエンティスト』が昨年 4月 11日付で記事を掲載しています:
中国の研究チームによる「予報」どおりにイラン南部で地震が発生したとしても、その事実だけで「予報」が成功したとは言えないと私は思います。なぜなら、イラン南部では、M5.0~6.0 クラスの地震がかなりの頻度で発生しているからです。4月末に発生しなくても、少し期間をずらせば、かなりの確率で発生するでしょう。研究チームも「日付を予報するのは困難だ」と予防線を張っているようです。私ですらこのように考えるのですから、専門の地震学者がこの「予報」を認めることはまずないと言ってよいでしょう。

2009年4月15日水曜日

隕石の断面にキリストの顔

約 100年前にロシア極東に落下した隕石の断面にキリストの顔が現れていると、ロシアのプラウダが伝えています。この隕石の落下は付近の住民に目撃されており、落下の衝撃で 2つに割れてしまいました。その割れた断面にキリストの顔のようなものが見えることに、最近になって研究者が気づいたとのことです。キリストの顔は、有名な「トリノの聖骸布」に焼き付いているキリストの顔によく似ているとのことです:
わかりにくいと思うので、以下の拡大した写真を見てください。左がトリノの聖骸布のキリスト、右が隕石の断面に現れたキリストです。典型的なパレイドリアだと思われます:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

イランが再び人工衛星打ち上げへ

このブログの 2月 4日付「イランの人工衛星打ち上げ」の関連情報です。

北朝鮮の人工衛星/ミサイル発射を非難する国連安保理議長声明が 13日に採択されたばかりですが、それを意識しての発言なのでしょうか。北朝鮮と同じく核開発で西欧諸国と鋭く対立しているイランの大統領が、新たな人工衛星打ち上げ計画について発言しています:
上記記事によると、この発言はアフマディネジャド大統領が、イランの国外居住者の会合に出席した際になされたものです。イランは、今年 2月 2日に初の国産人工衛星を自国のロケットで打ち上げたばかりですが、それよりもさらに高い軌道にさらに重い衛星を投入し、米国と同等の偵察能力を保有することを目指しているようです。2月に打ち上げられた同国最初の国産衛星は、北朝鮮の場合とは違って、約 40日間、軌道を周回したことが確認されています。なお、イランには、今後 10年以内に有人宇宙飛行も実現させる計画があると報道されています。

イランの前回の衛星打ち上げに対して、国連安保理は非難声明などは出していません。北朝鮮の立場からすれば、なぜ自分たちだけがという思いが募るのではないでしょうか。イランの新たな衛星打ち上げに対して、国際社会はダブル・スタンダード(二重基準)の対応を続けるのでしょうか。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月13日月曜日

イタリアの地震は予知されていたのか

このブログの 7日付の記事「イタリアの地震は予知されていた」の続報です。今回のイタリアの地震がラドン・ガスの観測によって予知されていたという報道に対して、AAAS(米国科学振興協会)が発行する科学誌『サイエンス』のサイトが、専門家の反応を集めた記事を掲載しています:
記事のタイトルにある “Radongate” は、地震前に増加したとされるラドン・ガスと、米国のニクソン元大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件をからめて、今回の予知騒ぎが何かうさんくさい疑わしさを秘めていることを暗示しているのだと思われます。

以下は記事からの抜粋です
(ラドン・ガスによって地震を予知し警告を発したとされる)ジャンパオロ・ジョアッキーノ・ジュリアー二(Giampaolo Gioacchino Giuliani)とは何者なのか。彼は、グラン・サッソ(アペニン山脈の最高峰)にある国立研究所で働いている。メディアは、イタリア国立原子核物理学研究所の地震学者、物理学者、技師などと伝えているが、同研究所の所長は科学誌『ネイチャー』に対して次のように語っている。「彼は技師(テクニシャン)であって、地震については彼が個人の趣味としておこなっていることである。研究所のプロジェクトとはまったく関係がない。研究所としては報道にいささか困惑している。」

イタリアの報道では、ジュリアーニ氏は過去数年にわたって CAEN(物理研究用の実験装置を製造・販売する企業)の研究者と共同で、ラドン検知器/地震予知器を開発してきたとのことである。

イタリアの他の報道や、ジュリアーニ氏を知るイタリア人研究者の話によると、ジュリアーニ氏は地殻から放出されるラドン・ガスと地震との関係を以前から研究してきた。また、報道によると、ジュリアーニ氏は、地震発生の詳細な場所と規模を数時間以上前に知らせるラドン監視装置を開発したと主張しているらしい。そのような装置の 1台がグラン・サッソに、もう 1台が今回の地震が発生したアブルッツォの近くに設置されているとのことである。

ラドンと地震予知の研究には数十年の歴史がある。研究は特に日本でさかんだった。しかし、地震の前兆とされる手がかり、それも疑わしいものが多すぎたため、この分野への関心は薄れてしまった。

ワシントンにあるカーネギー研究所の地震学者で “review on earthquake prediction”(地震予知の再検討)という論文を 1976年に共同執筆した Paul G. Silver 氏は、イタリアの地震とジュリアーニ氏について次のように語っている。「実際に地震予知をおこなうさいの根拠としてラドンが使える段階まで、ラドンについての研究が進んだということはまったくありえない。われわれは、いかにして地震を予知するかをいまだに知らない。したがって、ジュリアーニ氏の警告は(当局によって)適切に取り扱われたと思う。いくつかの報道機関は、過去数週間にわたって被災地域で地震活動が活発化していたと伝えている。これが真実であるならば、われわれの現在の知識レベルに鑑みて、まだ警報を出す機は熟していなかった(これらの地震活動によってラドンガスが増加したことが考えられるから)。私の知るかぎりでは、ラドンにしろ他の観測にしろ[ただし前震の観測は例外]、地震前兆として信頼できるものであるとは実証されていない。もちろん、それらの観測結果を見ることは有益だが。」

10年ほど前に地震予知は可能か否かという大きな影響力をもった討論がおこなわれたが、その議長をつとめたエジンバラ大学の地震学者 Ian Main 氏は、「ラドンは地震前兆として合否ラインすれすれとみなされてきた。ラドンは統計的な検証において有意性を立証できなかった」と語る。

グラン・サッソの研究所で働いているペルージャ大学の Paolo Diodati 氏は、ジュリアーニ氏は地震予知は可能であるとの考えを支持している点ですでに間違っていると考えている。しかし、 Diodati 氏はジュリアーニ氏が見いだしたことは科学界の注目を集めるに値するとも考えている。また、Diodati 氏は、地方当局がジュリアーニ氏の警告に対してとった態度には批判的である。「自分が集めたデータが物語っていると考えるものを公衆に知らせることによって、研究者が捜査対象とされるようなことがあると、科学者は萎縮し、ふたたび警報を鳴らすリスクを冒すことをためらうようになってしまう。」

これとは対照的に、ボローニャ大学の地震学者で、地震予知について多くの著作がある Francesco Mulargia 氏はさらに否定的で、e-メールで次のような見解を寄せている:

「地震前兆としてのラドンは過去 30 年間にわたって徹底的に研究されてきたが、科学的な方法による検証に耐えられなかった。その結果、ラドンは信頼できる地震前兆として使うことはできないという結論が広く受け入れられている。今回、予知をおこなった人物は地震学会ではまったく無名である。彼の分析方法やデータはピア・レビュー(同分野の科学者による事前査読)のある専門誌に掲載されたこともなければ、科学分野の会議において発表されたこともない。このような状態では、彼の分析方法やデータが真剣に検討されることはないと思う。」

今回のイタリアの地震は、停滞している地震予知の研究を再活性化するのだろうか。そう考える人はわずかである。「一つの事例から結論を引き出すのは困難である」と前出の Ian Main 氏は言う。

今回の地震やラドン・ガスによる予知についての一次報道がイタリア語でなされており、欧米の英語圏メディアも混乱しています。たとえば、ラドン・ガスの観測によって地震を予知していた人物の所属や職種についても記事によって大きな違いがありますし、一つの記事の中でも敬称に “Mr.” をつけている部分と “Dr.” をつけている部分があるなど、首尾一貫していないものもあります。それを受けて日本の報道にも各社各様の違いが出ています。たとえば、朝日新聞では「震源に近いラクイラを拠点に研究する物理学者ジャンパウロ・ジュリアーニ氏」、毎日新聞では「この学者は震源地のラクイラ在住の元国家原子力研究所職員、ジャンパオロ・ジュリアーニ氏」、CNN の日本語版では「グラン・サッソ国立研究所のジョアッキーノ・ジュリアーニさん」となっています。

グラン・サッソにあるイタリア国立原子核物理学研究所では、ニュートリノ振動と呼ばれる現象を捉えるための OPERA と名付けられた実験が行われています。これは、スイス・ジュネーブ郊外にある CERN(欧州原子核研究機構)の粒子加速器で発生させた素粒子を、アルプス山脈やアペニン山脈を貫通させて、730km 離れたグラン・サッソの地下にある装置で検出・分析しようとするものです。案の定というべきか、今回の地震の原因はこの実験だったと言い出すおバカさんが出てきているようです。

OPERA 実験については、下記を参照してください:
今回の予知騒動の顛末について、簡潔な解説が下記ページの「ジュリアーニ技師による予報」という項目にあります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

ガラパゴス諸島で噴火

エクアドルのガラパゴス諸島で噴火があり、陸イグアナ、海イグアナ、アシカなどの貴重な動物相が、海に流れ込む溶岩流によって影響を受ける可能性があるとのことです:
上記記事によると ―― 噴火したのはガラパゴス諸島西部のフェルナンディナ島にある La Cumbre 火山。4月 11日(土)から噴火が始まった。同火山が噴火したのは 2005年5月以来 4年ぶり。フェルナンディナ島には人間は居住しておらず、人間への危険はない ―― とのことです。

記事に添付されている写真を見ると割れ目噴火のように見えるのですが、通常の火口から流れ出た溶岩流の縁が帯状に赤く見えているのかも知れません。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月12日日曜日

イタリアの地震への支援

イタリア政府の求めに応じて、EU(欧州連合)やロシアから専門家が緊急に派遣されています。いずれも、被災地の建物の安全性を確認するための専門家です:
先日の朝日新聞の報道によると、イタリアでは今回の地震後、地震対策先進国である日本に学べとの声が高まっているとのことですが、イタリア政府から日本に対して同様の派遣要請があったとの報道はありません。被災地での再建や建築基準の見直しなどの分野で、今後、協力要請があるのかも知れません。

イタリア・ラクイラ地震についてのこれまでの記事:

リダウト山はドーム形成段階

このブログの 3月 31日付の記事「リダウト山の噴火パターンが変化」の続報です。

アラスカ火山観測所(AVO)が 4月 11日付で出した “Information Statement” や、下記のニュース記事によると ――
リダウト山は 4月4日に大きな噴火をおこして以降も活発な火山活動を続けており、周辺での地震も継続している。同山は現在、山頂の火口内に溶岩ドームを形成中であり、このドームが崩壊するときに大きな噴火が起きる見込みである。このようなドーム形成とその崩壊にともなう大きな噴火発生、というサイクルが当面は続く見込みである。
―― とのことです。

地殻は予想以上に融けやすい

地殻を構成する岩石は、これまで科学者が想定していた以上に融けやすい、という内容の論文がイギリスの科学誌『Nature』に掲載されています。以下は、『Nature』のサイトにある要旨です:
この要旨を読んでもよくわかりません。しかし、この研究に資金を提供していた国立科学財団(NSF、全米科学財団)のサイトに、研究内容をかみ砕いた紹介記事があります:
こちらだと、何とか理解することができます。以下は、上記紹介記事の抜粋です:
地球の地殻は、これまで考えられていたよりも簡単に融けることを科学者が発見した。

地殻を構成する岩石が熱を伝える度合いは、温度が上昇するにしたがって低下する。温度が上昇すると伝導率が低下し、岩石は断熱材のようにふるまうようになる。

この発見は、マグマがいかに形成されるか、大陸どうしの衝突や造山帯が形成されるときにどのようなことがおきるのか、についての理解を促進する。

(研究資金を提供した)国立科学財団・地球科学部門のプログラム・ディレクターである Sonia Esperanca 氏は、「今回の研究成果は、地殻内でどの程度の大きさの花崗岩質マグマが形成されうるかという疑問を解くための重要な糸口となる」と語る。

研究チームの一人でミズーリ大学の Alan Whittington 氏は次のように語る。「今日のヒマラヤ山脈や太古のサウス・ダコタ州ブラック・ヒルズのような造山帯の内部で、加熱された岩石に何が起こるのかを、今回の成果を織り込んだコンピューター・モデルで検討した。すると、造山活動にともなう岩石の変形歪みによって生じる熱によって、地殻の溶融が容易におこることがわかった。」

高温の岩石やマグマの熱拡散性は、これまで想定されていた値の半分であった。

同じく研究チームの一員でミズーリ大学の地質学者 Peter Nabelek 氏は次のように語る。「地殻の溶融のほとんどは、マントルから上昇してきた玄武岩質のマグマの貫入によっておこる。問題は、大陸が衝突するさいには、玄武岩質マグマの大陸地殻への貫入が見られない点である。今回の実験は、熱拡散率の低下によって、岩石の変形歪みによる加熱がより早くより効率的におきることを示している。岩石は、ひとたび加熱されれば長い時間高温のままでいる。」
今ひとつわかりにくいかも知れませんが、手短に言うと、地殻内では、上部マントルからの玄武岩質マグマの貫入がなくても、造山運動などにともなう地殻の変形によって生じる熱だけで、岩石の溶融が生じうることがわかった、ということではないかと思います。

2009年4月10日金曜日

イタリア・ラクイラ地震の写真

このブログの7日付の記事「イタリアの地震は予知されていた」の関連情報です。『ボストン・グローブ』紙の “The Big Picture” が、6日にイタリアで発生したラクイラ(L'Aquila)地震の大判写真 32枚を掲載しています:
背景に雪を頂いた山が写っている写真があります。ラクイラの街がどのような場所にあるのか、よくわかります。

私が強い印象をうけたのは 2番目と 6番目の写真です(番号は、各写真の左下に表示されています。各写真は、説明文の末尾にある「#」をクリックすると拡大します):
2番目の写真: 崩壊した家屋は原形をとどめず粉々になっているのに対して、残った家屋には大きな損傷がないように見えます。この差の大きさには驚かされます。

6番目の写真: 救助された 6歳の少女とその母親です。少女の姿が大変痛々しく、父親は無事なのだろうかと心配になってしまいます。
以下は、イギリスの大衆紙の記事ですが、こちらの少年の写真も涙を誘います:
記事によると、この少年の母親は瓦礫の下敷きになっており、生存の見込みはほとんどない、また父親は行方不明、とのことです。

<余談 on> なお、街の名前の “L'Aquila”ですが、冠詞を取り除いた“Aquila”はラテン語で「鷲」を意味します。「鷲」を含む日本の地名と言えば、私がすぐに思いつくのは尾鷲。辞書を検索すると、鷲宮、鷲敷、鷲羽山、鷲尾山、鷲ヶ岳、鷲別岳、鷲が巣山、など。また、“Aquila”を繰り返し音読していると、いつしか「アキラ」→「アキタ」→秋田。(“l”と“t”では、有声音と無声音というちがいがありますが、舌先を上の歯茎や上の歯の内側につける点で似通っています。)<余談 off>

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月8日水曜日

リダウト山の最新の写真

このブログの 3月 31日付の記事「リダウト山の噴火パターンが変化」の関連情報です。このブログでもすでに何回か紹介している『ボストン・グローブ』紙の “The Big Picture” に、アラスカ・リダウト山の最近の写真が集められています:
全部で 27枚の写真が掲載されていますが、私の印象に残ったものを紹介します(番号は、各写真の左下に表示されているものです):

<3> 噴煙が雲海(?)の上に立ちのぼっています。噴煙の柱の太さが噴火の激しさを物語っています。

<4> <6> 積もった雪の表面に、鋭い縁をもった三日月形の亀裂が多数できています。

<11> 降灰の様子です。薄いベールのようなものが森林の上空に降り注いでいます。

<17> 積もった雪の断面です。火山灰の層と雪の層が交互に重なっています。

<19> 最も印象的な写真です。人工衛星から撮影された噴煙ですが、リダウト山が地平線近くにあるため、噴煙を横から眺めるような位置関係になっています。噴煙の頂上が大気圏の上層部まで到達していることがわかります。(ライト・ブルーの線は、アラスカの海岸線を示すために後から描き加えられたものです。)

<20> <21> <22> 噴煙のなかで発生した火山雷が写っています。以前紹介したチリのチャイテン山の火山雷は、この世の終わりを思わせるすさまじさでしたが、それに比べると少しおとなしい感じです。なお、火山雷に関連して、下記の『ナショナル・ジオグラフィック』誌の記事を参照してください。火山の噴煙の中でメソ・サイクロンが発生しており、その結果として火山雷も発生しうるとの最新の研究が紹介されています:

2009年4月7日火曜日

九州・パラオ海嶺

第1回の「襟裳海山」、第2回の「第一鹿島海山」に続き、「グーグル・マップを使ったプレートテクトニクス名所巡り」シリーズの第3回目です。今回は九州・パラオ海嶺をとりあげます。

九州・パラオ海嶺は、ニューギニア島北西端のドベライ半島(通称「鶏の頭」)付近から出発して、パラオ諸島を通り、九州の南東で南海トラフに沈み込んでいる長大な海底山脈です。

第1回でとりあげた襟裳海山は裾野が海溝軸に到達して崩れ始めた段階、第2回の第一鹿島海山はさらに海溝軸に近づいて山体の半分が海溝に崩落、海溝の陸側斜面に一部が付加し始めている段階でした。今回の九州・パラオ海嶺の北端部では、さらに段階が進んで、すでに複数の海山が南海トラフからユーラシア・プレートの下に完全に沈み込んでおり、トラフの陸側にU字形に凹んだ痕跡が残るだけになっています。


大きな地図で見る

上に掲げたグーグル・マップで、マークがつけてある地点は、4月5日18時36分頃に発生した地震(M5.6、深さ約30km、最大震度4)の震央です。南東方向からこの震央に向かって延びているのが九州・パラオ海嶺です(地図が小さい状態の場合、九州・パラオ海嶺が範囲外になってしまうので、「大きな地図で見る」をクリックするか、地図をスクロールさせて南東(右下)部分が地図の範囲内に入るようにしてください)。この海嶺が陸側プレートに沈み込む地点がU字形に凹んでいる点と、海嶺の延長方向に日向灘の地震の震央がある点に留意してください。沈み込んだ九州・パラオ海嶺の海山が、アスペリティとして地震の発生場所になっていることが想像できると思います。

今回紹介したようなU字形の地形は、世界の海溝でいくつも見つかっており、プレート移動の証拠となっています。代表的な例は、中米コスタリカ沖の中米海溝の陸側斜面に見られる海山群と海台の沈み込みにともなう地形です。これについては、別の機会に紹介したいと思っています。

グーグル・マップの操作法はご存知の方が多いと思いますが、念のために書いておきます:
  • マップの左下にある「大きな地図で見る」をクリックして、広い範囲を表示することをおすすめします。
  • マップ上でマウス・ポインターが「手」の形になっているときに、左クリックしたままマウスを動かすことによって、マップを任意の方向にずらすことができます。
  • マップの左上部にある「+」か「-」を左クリックすることによって、マップの縮尺を変えることができます。
  • 拡大率をあまり大きくすると「この地域の詳細画像は表示できません」などのメッセージや空白がマップに表示されることがあります。
  • マップ上の任意の地点をダブル・クリックすると、その地点を画面の中央に持ってくることができます。
  • 「日向灘 深さ 約 30km M5.6」と書かれた震央を示す吹きだしは、その右上にある「×」をクリックすれば消えます。再度表示するには、震央につけられたピン形のマークをクリックします。

地震と禅僧

インドのサイトに掲載されている話です。タイトルの “Presence In The Present” は禅問答的で、どう訳したらいいのかわかりませんが、しいて直訳するならば「今現在の存在」といったところでしょうか:
話の内容は以下のとおりです:
強い地震があり、ある禅寺では建物のあちこちが崩れ落ちた。恐怖にかられた修行僧たちは、禅の指導者の指示にしたがって、調理場に避難した。

揺れがおさまったとき、その指導者は弟子たちに向かって言った。「さて、君たちは、私のように禅を体得したものが危機にさいしてどのようにふるまうかを実際に見たわけだ。私は、君たち全員を調理場に避難させた。そこは、この寺の中でも最も頑丈に作られている場所だ。われわれ全員が怪我をしなかったことから考えて、それは賢明な判断であったと思う。」

「しかしながら」と、その指導者は続けた。「私が大きなコップ一杯の水を飲み干したことを、君たちがどのように受け止めているか、いささか気になっている。ふつうの状況では、私はそのようなことをしないのでね。」

指導者の言葉を聞いて、一人の弟子がほほえんだが、何も言わなかった。

それを見て、指導者はその弟子に尋ねた。「何がおかしいのかね。」

その弟子は答えた。「先生がお飲みになったのは水ではありません。大きなコップ一杯の醤油です。」
大きな地震に遭遇したとき、気が動転してしまい、後から考えると何であんなことをしてしまったのだろうと不思議に思うことがあります。私は、出勤直前に大きな揺れがあったときに、大失敗をしたことがあります。しかし、それはここには書きますまい。とても恥ずかしいことなので。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

イタリアの地震は予知されていた

現地時間 4月 6日(月)午前 3時 32分(日本時間 午前 10時 32分)にイタリア中部の街 L'Aquila とその周辺を襲った M6.3の地震は、震源が浅かったためか大きな被害が出ています。この原稿を書いている時点で死者の数は 100 にせまっています。

下記の記事は、この地震が Gioacchino Giuliani という地震学者によって予知されていたと伝えています:
記事をまとめると ―― この地震学者はラドン・ガスの濃度上昇にもとづいて地震を予知、地震発生の 1か月前にラウド・スピーカーを載せた自動車で街の住民に避難を呼びかけた。しかし、この行為が市長の怒りを買い、不安を煽っているとして警察に通報された。この地震学者がインターネット上に掲載した地震予知情報は、当局によって強制的に削除された。イタリアの防災当局は科学者によるリスク評価の会議を 3月 31日に L'Aquila でひらき、 L'Aquila 周辺の地震活動に警戒すべき異常はないとの結論で街の住民を安心させたばかりだった ―― とのことです。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月6日月曜日

銀山とゴキブリ(補足)

先の記事「銀山とゴキブリ」に関連して、ゴキブリに関する地震前兆事例を調べてみました。ただし、銀山の坑内と地震とでは、ゴキブリが出現した場所から、岩石のなかで圧力が変化する場所までの距離がまったく違うので同列に扱うわけにはいかない点に留意してください。

以下の事例は、阪神淡路大震災(兵庫県南部地震、1995 年 1 月 17 日午前 5 時 46 分発生)について、『前兆証言 1519!』(弘原海清、東京出版)から抜き書きしたものです:

地震の前にゴキブリが現れたという事例
  • 約 6 時間前、宝塚市: 1 月 16 日午後 11 時 30 分頃、突然ガス警報機が鳴り出した。その時ガスは使っておらず驚いて見たところ、警報機のなかからゴキブリが数匹はい出して来た。普段ゴキブリを見ることはない。
  • 約 10 時間前、門真市: 門真市に住む知人の話によりますと、地震前夜(16 日夜)帰宅すると階段の昇り口に、ゴキブリとナメクジが数匹はいまわっていたそうです。そこはコンクリートの地肌剥き出しの場所。暖房はいれてませんし、近くに熱源もなく大変冷たい所です。今まで、1 月に彼等を見かけた経験など全くありません。「おかしいな」と思っていたら、その夜阪神大震災!
  • 1 日前/ 2 日前、松原市: 前日か前々日か確かではありませんが、この真冬に出るはずの無い「ゴキブリ」がノロノロと 1 匹はい出してきていました(1 階)。動きは鈍く、簡単に捕まえることが出来ました。大きさは成虫でした。
  • 3 日前、奈良市: 3 日前からゴキブリが部屋の中央へヨタヨタと出て来て完全な冬眠状態で、あのすばしこい昆虫が動こうとしませんでした。3 匹も 4 匹も毎夜出てきます。ハエタタキでバタバタたたきましたが、全く逃げる気配がなく簡単にとれました。不思議なこともあるものだと、首をかしげていた所です。今は、ほとんど顔を見せません。また出て来ましても、サッと逃げ、もう平常通りに戻っております。
  • 約 1 週間前、大阪市: 私の友人の家は、大阪京橋の近くのマンションですが、地震の起こる 1 週間ほど前、冬には姿を見せないゴキブリが、部屋の中に 3 ~ 4 匹よたよたと顔を見せたそうです。
  • 約 2 週間前、神戸市: 団地の 3 階でゴキブリを全然見なかったのに 1 月に入ってから何匹も出て来てビックリしました。
地震の前にゴキブリがいなくなったという事例
  • 2 ~ 3 日前から、摂津市: この夏ぐらいにはじめてゴキブリの赤ちゃんが出るようになりました。夜台所の電気を消してしばらくしてまた電気を付けると、赤丸印の所に置いていた台所用スポンジの辺りに 5 ミリぐらいのが数匹いつもウロウロしていました。(略)ところが(地震の)2 ~ 3 日(はっきりしませんが 1 週間もの間はありません)前からバッタリそれこそ 1 匹も見かけなくなったのです。全部つぶしていなくなったと思いきや 10 日以上たった頃、成長したと思われる 1 センチぐらいのがいたので隠れていたのだと思います。
  • 前年から、神戸市: 去年頃からネズミも見なくなり、ゴキブリも激減していた、(略)
  • 不詳、池田市: (略)またゴキブリも全く姿を隠したように思います。最近は出て来ました。
なお、『地震前兆現象 予知のためのデータ・ベース』(力武常次、東京大学出版)には、安政東海地震、関東地震、東南海地震、伊豆大島近海地震などについて非常に多くの前兆事例が集められていますが、私が探した限りではゴキブリに関する事例の記載はありませんでした。

2009年4月5日日曜日

銀山とゴキブリ

3月21日付の記事「海洋底で見つかった古い化石」で触れた『地球 46 億年全史』(リチャード・フォーティ、草思社、2009年)という書物に、ゴキブリについておもしろい記述があったので紹介します。

ゴキブリの話は、チェコ共和国北西部にあるヤーヒモフという鉱山町について述べている節にあります。銀山の坑道で落盤が発生する前にゴキブリが姿を現すので、鉱夫たちが災難を避けることができるのだそうです:
ヤーヒモフで豊かな銀鉱が発見されたのは 1516年のことで、数年後には 800 もの銀鉱山が開かれていた。(中略)銀の鉱脈は、その土地のもろくなった線に沿って広がっており、しばしば断層沿いに走っている。(中略)欲にかられた人間が地下世界へ這うように進んでいく所では、その眠りを乱された地殻が、人間たちの無礼な所業を帳消しにしようと押しつぶすことも珍しくなかった。これに関連して、世界で唯一、ヨーロッパ中央部のこの地域では、ゴキブリが好意的に見られているそうだ。ゴキブリは、岩石のなかの圧力の変化にとりわけ敏感なのだ。ハワイでマグマ溜まりの活動を検知するのに使う圧力計のようなものか。落石の前兆を察知すると、隠れていた場所から姿をあらわし、導管や通路からいちはやく逃げだす。カナリアが炭鉱の友であるように、ゴキブリは銀鉱の友とされ、叩き潰すと悪運に見舞われるといわれていた。
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月4日土曜日

アヒル地震予知?

下記は米国サンフランシスコのニュースサイト『SFist』の記事です。記事のタイトルは、「“Quake Quack”が L.A.(ロサンゼルス)で M6.0 の地震が起こると予知している」と読めます。“Quake”は地震、“Quack”は、アヒルの鳴き声を意味する名詞、あるいは、「ガーガー」、「クワックワッ」に相当する擬音語です。このタイトルを見てすぐに思い浮かべたのは、地震予知系の某掲示板で「アヒルセンサー反応しました」とか「ガーコちゃん鳴きました」などといまだにやっているアレです。とうとう、アメリカ西海岸にまで飛び火した!?
記事は、YouTube 上で Luke Thomas という人物が、これまで 2年間にわたって、週に 2回のペースでサンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ地域の地震予知情報を流していることを紹介するものです。この人物が地震予知の根拠としているのは、温度の変化と動物の行動です。記事はこの人物に対して非常に辛辣で、“crackpot”(狂人、変人)という言葉を使い、“schizophrenic”(統合失調症患者)の可能性が非常に高いと書いています。この人物は自分の予知の精度に対して非常に甘く、地震が発生すると予報した地点から 200マイル(約 320km)も離れたところで微小な地震がおきた場合ですら、90% 精確だったと言うだろうとも指摘しています。

日本にも、某有名サイトを筆頭に、予知の的中率に関して大甘な自己評価をしている、と言うよりは、こじつけに終始している予知サイトがいっぱいあるのはご存知のことと思います。

というわけでアヒルセンサー予知がアメリカまで伝染したわけではなかったようです。ちなみに“Quack”には、いんちき、いかさま、はったり、山師、ほら吹き、にせ医者、やぶ医者、などの意味があります。

アヒルセンサーをご存じない方は、以下をご覧になってください。写真もあります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月3日金曜日

アラブ首長国連邦で地震(?)パニック

アラブ首長国連邦北部の都市フジャイラ(Fujairah)などで、31日(火)午前 6時 21分と 9時 35分に有感地震がありました。規模は M2.9 と M3.5 で大したことはなかったのですが、ビルが傾いて一部が地中に沈み込んだり、建設中のビルの天井が崩落して負傷者が出たり、といった「被害」が出ています。
上の段落でカッコ付きで「被害」と書いたのは、地震発生当時、アラブ首長国連邦では悪天候が続いており、建物への被害の原因が地震なのか強い雨なのかは、あるいは建物自体の欠陥なのか、はっきりしていないからです。首都アブ・ダビにある国立気象学・地震学センターの広報担当者は、「建物の崩壊と悪天候とは関係がない。粗悪な建築資材が原因で発生した可能性が高い」と語っています。

原因が大雨にしろ地震にしろ欠陥建築にしろ、簡単に建物が傾いたり崩落したりするのでは住民は安心して生活できません。旅行社もホテルの安全性に不安を覚えるでしょう。アラブ首長国連邦は、アラビア・プレートとユーラシア・プレートの境界近くに位置しており、ペルシャ湾やオマーン湾をはさんだ対岸のイランでは大きな地震が多発しています。アラブ首長国連邦は、ドバイ沖の巨大人工島群や、豪華な高層建築物を多数建設していることで有名(過去の記事「ピサの斜塔も真っ青」を参照してください)ですが、建築基準法に類するきちんとした規制があるのでしょうか。人工島上の低層住宅などはペルシャ湾で津波が発生すればひとたまりもないと思います

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年4月1日水曜日

北朝鮮・舞水端里の衛星写真

グローバル・セキュリティ社のサイトから、北朝鮮の舞水端里(ムスダンリ)にある人工衛星/ミサイル発射基地の様子を撮した偵察衛星の写真を紹介します(個々の写真や図は、クリックすると拡大します)。

以下のディジタル・グローブの写真では、白く光ったロケットが 3段式であることがはっきりわかります。3段目が非常に長い点が気になります:
以下のジオ・アイの写真には、衛星ではなく航空機から写したのではないかと思われるほど解像度の高いものがあります。上から 3列目右側の写真で“Minibus”と表示されている自動車は、一つ一つの窓が識別できます:
以下のページには、北朝鮮のロケットの諸元を示した表があります。下の方にある図(クリックで拡大)は、北朝鮮とイランのロケットを比較していますが、両者に共通点が多いことがわかります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

大量妊娠でフライトが遅延・キャンセル

パプア・ニューギニア最大の航空会社 Air Nuigini で、客室乗務員の半数近くが妊娠のために乗務できなくなり、国内線フライトの遅延やキャンセルが大量に発生しているそうです:
同航空会社では、客室乗務員を新たに採用してこの事態に対応しようとしていますが、新規採用者が乗務できるようになるには 3か月かかると見込んでいるとのことです。「3か月」というのは短い気がしますが、客室乗務員の訓練期間として普通なのでしょうか。

記事では、客室乗務員の多くが同じ時期に妊娠した理由については言及していません。まさか、大きな災害の前兆ということはないと思いますが。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency