8月24日付「バゥルザルブンガ山で群発地震 ― アイスランド (続報-3)」の続報です。
8月29日、ヴァトナヨークトル氷河の北に広がるHoluhraun溶岩原で割れ目噴火が始まり、現在も続いています。
(前回の記事で「8月23日、ヴァトナヨークトル氷河北縁部の Dyngjujökull氷河の下で小規模な噴火が検知されました」と書きましたが、その後、アイスランド気象庁は噴火は発生していなかったと修正し、航空警戒コードも赤からオレンジに下げました。)
2014年9月4日早朝撮影 Credit: Ármann Höskuldsson, Icelandic Meteorological Office |
以下の図は、8月16日に今回の群発地震が始まってから9月7日02:05までの震源の分布を示しています。発生日によって色分けされており、青いほど古く、赤いほど新しい地震を示しています。白い部分はヴァトナヨークトル氷河。地図の中央左寄りがバゥルザルブンガ・カルデラです。同カルデラ東縁から北東に向かって細長く貫入していったマグマの先端部付近で割れ目噴火が発生しています。
8月16日から9月7日までの震源分布 発生日によって色分け ―― 青いほど古く、赤いほど最近の地震 Credit: Icelandic Meteorological Office |
前回の記事以降の事態の進展を以下に表にまとめました。地名がわかりにくいと思いますので、まず、地名の概略を説明します ―― ヴァトナヨークトル氷河(地図)はアイスランド最大の氷河(氷冠)です。その北西部の氷河の下に埋もれているのがバゥルザルブンガ・カルデラ(地図)、あるいはバゥルザルブンガ山です。 Dyngjujökull氷河(地図)はヴァトナヨークトル氷河の一部で、バゥルザルブンガの北東に位置しています。そして、ヴァトナヨークトル氷河の北縁から北に広がるのが、今回噴火が発生したHoluhraun溶岩原(地図)です。さらにその北には、アスキャ・カルデラ(地図)あるいはアスキャ山があります。バゥルザルブンガ・カルデラの南にはグリムスボトン・カルデラ(地図)があり、内部にグリムスボトン湖があります:
日付 | 現象 |
---|---|
8/24 | ヴァトナヨークトル氷河北西部の地震活動が非常に激しい ▼Dyngjujökull氷河下の地震は北方向に拡大し、ほぼ氷河の縁に到達 ▼Dyngjujökull氷河下へのマグマ貫入は長さ約30kmに達したと推定 ▼23日の「氷河下で噴火が発生」は噴火ではなかった ▼航空警戒コードは赤からオレンジに変更 |
8/25 | 激しい地震活動が継続 ▼震源は北に向かって移動。Dyngjujökull氷河の北端から5kmの地点まで到達 ▼Dyngjujökull氷河下のマグマ貫入は長さ35km、マグマの量は3億立方メートル |
8/26 | 激しい地震活動が継続。01:26にバゥルザルブンガ・カルデラでM5.7 ▼Dyngjujökull氷河下のマグマ貫入は長さ40kmに迫る。マグマが5千万立方メートル増加 |
8/27 | 激しい地震活動が継続。地震のほとんどはDyngjujökull氷河の北端を越えた部分で発生 ▼マグマ貫入は前日に比べてさらに北に1km進んだ ▼バゥルザルブンガ・カルデラでは、00:16にM5.3、02:50にM5.2が発生 ▼アスキャ・カルデラで01:52にM4.5発生 ▼Dyngjujökull氷河下のマグマ貫入は40kmに到達。マグマは過去24時間で2千万立方メートル増加 ▼バゥルザルブンガ・カルデラ南東部で、氷河の表面に長さ6~4kmにわたって直径10~15mの陥没孔が並んでいるのが見つかる。氷河の下で噴火が発生した可能性。この付近の氷の厚さは400~600m |
8/28 | グリムスボトン湖の水位が数日で5~10m上昇、1千万~3千万立方メートルの増水に相当 ▼周辺河川で電気伝導度がわずかに上昇 ▼氷河の陥没孔由来の水が湖や河川に流れ込んだもよう ▼Dyngjujökull氷河下のマグマ貫入は前日から1~1.5km北に延伸、アスキャ火山の亀裂系に到達 |
8/29 | 0時過ぎ、噴火発生。場所は、Dyngjujökull氷河の端から北に約5kmのHoluhraun溶岩原にある古い亀裂。亀裂の長さは約600m ▼04:00、溶岩流出止まる |
8/30 | 活発な地震活動が継続中。マグマが貫入した15kmの範囲(Dyngjujökull氷河とその端から北の部分)で特に顕著。過去2日間、北方向への震源の移動はない |
8/31 | 午前4時すぎ、Holuhraun溶岩原で割れ目噴火。亀裂の長さは1.5km ▼溶岩が北方向に幅1km、長さ3kmにわたって流出。流出量は約1000立方メートル ▼悪天候のため、詳細な観測不能 ▼航空警戒コードは朝、赤に上げられたものの、火山灰の噴出がないことから、午後にはオレンジにもどされた |
9/01 | Holuhraun溶岩原での噴火は継続中。溶岩は北に向かって流出。流出面積は4平方km。平均流出量は毎秒100立方メートルのオーダー。流出総量は2000万~3000万立方メートル ▼亀裂の長さは1.5km。その中心部の長さ600~800mの範囲で噴火が起きている ▼溶岩の噴出は最も活発なときには高さ数十メートルに達している ▼噴火による降灰は起きていない ▼マグマの貫入にともなう水平方向の地殻変動が継続中 ▼地震活動は、31日に噴火が始まったときには若干弱まったものの、依然として活発。ほとんどの地震はマグマ貫入の北端部(Dyngjujökull氷河下と氷河の端から北に至る長さ15kmの範囲)で発生 |
9/02 | 地震活動が顕著に減少、ここ数日の半分程度 ▼マグマ貫入地域の地殻変動も減少、マグマ流入と噴火地点での溶岩流出が均衡か ▼噴火は前日に比べて若干弱まったが継続中 ▼火山灰の降下なし ▼Holuhraun溶岩原の噴火地点では、白色の水蒸気の噴煙が上空4500mに到達、北北東に60kmたなびく |
9/03 | 地震活動は継続中、ほとんどの地震はDyngjujökull氷河の北縁部で発生。03:08にバゥルザルブンガ・カルデラ北部でM5.5発生 ▼マグマ貫入による地殻変動は停滞気味 ▼現在継続中の噴火がDyngjujökull氷河の下で南方向に拡大する可能性。同氷河の前面で突発的洪水が起きる危険性あり ▼溶岩の流出域は7.2平方kmに拡大 ▼降灰なし |
9/04 | Holuhraun溶岩原の噴火は継続中。溶岩は東北東に流れ、流出域は10.8平方kmに拡大 ▼陥入したマグマの北端部と噴火地点で地震が多数発生。さらに、Dyngjujökull氷河下で南に向かって震源域が拡大 ▼同氷河の下で噴火が発生している兆候はない ▼過去24時間、地殻変動は減速しているが、ヴァトナヨークトル氷河北部の変動パターンは貫入マグマの容積が依然として増加していることを示している ▼バゥルザルブンガ・カルデラ周辺では顕著な地殻変動の兆候はない ▼噴火地点から離れた場所では降灰は観測されていない |
9/05 | Holuhraun溶岩原での噴火が衰える兆候はない ▼これまでの噴火場所の南に新たに2つの亀裂ができ噴火が始まった ▼Dyngjujökull氷河上の陥没はさらに深くなっている |
9/06 | バゥルザルブンガ・カルデラ中央部で氷河が最大15m沈下している。この規模の沈下は、20世紀中頃にアイスランドで地殻変動の観測が始まって以来、初めて ▼同カルデラに噴火の兆候や地熱活動の増加は見られない ▼カルデラから北東方向に貫入していってHoluhraun溶岩原で噴火をおこしたマグマの容積のかなりの部分が、カルデラの沈下容積と符合 ▼Dyngjujökull氷河上の陥没も拡大し、深さが35mに達している。氷河の下で小規模で短期間の噴火が起きている可能性がある ▼Holuhraun溶岩原で起きている噴火に変化はない |
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