10月13日付の欧米各紙はいっせいに、カトラ山の大噴火が切迫しているという記事を掲載しました。刺激的なタイトルも目立ちました。大衆紙ほどセンセーショナルなタイトル、高級紙はやや抑えめのタイトルといったところです。たとえば:
- Iceland volcano Katla ready to erupt and cause air traffic chaos (イギリス、『デーリー・ミラー』、大衆紙、左派)
- Fears of new travel disruption as restless Icelandic volcano threatens to dwarf 2010 eruption (イギリス、『デーリー・メール』、大衆紙、右派)
- Fears Volcano will erupt in Iceland, causing more chaos (イギリス、『デーリー・テレグラフ』、高級紙、中道右派)
- Iceland’s scientists say activity at Katla volcano increasing, next eruption could be huge (アメリカ、『ワシントン・ポスト』)
- Iceland's Katla volcano is getting restless (アメリカ、『ボストン・グローブ』)
- Experts warning new Iceland volcano Katla eruption could be imminent (アイルランド、『インディペンデント』)
これは一大事と思ってアイスランド気象局のサイトを確認しても、カトラ山周辺の地震はふだんよりも少ない状態。地元アイスランドのニュース・サイトを見ても、それらしい記事は皆無。アイスランドの主要な英語ニュースサイトには、13日付で次のような記事が掲載されている始末です:
- Iceland volcano: media continues to play up possible Katla eruption (アイスランドの火山: メディアはカトラ山噴火の危険性を誇張し続ける)
- Foreign Media Speculate on “Imminent” Katla Eruption (海外メディアはカトラ山が〝今すぐに〟噴火すると憶測)
両サイトとも、イギリスの高級紙『ガーディアン』(中道左派)の記事を批判的に取り上げています。前者の冒頭部分を以下にテキトー訳します:
An article published in the national British newspaper, The Guardian, today, detailing the possible eruption of the Iceland volcano, Katla, is a prime example of the media over reacting, yet again.
イギリスの全国紙『ザ・ガーディアン』に本日付で掲載された記事は、アイスランドのカトラ火山の噴火の可能性について詳しく書いているが、メディアの示す過剰反応の最も良い事例である。それも 2度目の。
多くのメディアがいっせいにカトラ山の噴火の可能性について報じた背景には、どうやら、ある通信社が流した記事があるようです。各メディアの記事を比較すると、共通の文言や言い回しがでてきます。通信社の記事をそのまま、あるいは手直しして、センセーショナルなタイトルをつけたのでしょう。記事には、「火山学者」がこう言っているとか、「研究者」がこう述べているという記述があるのですが、その火山学者や研究者の具体的な名前や所属が明記されていないことが多いという特徴もあります。
カトラ山噴火についての一斉報道は、目前の不満、たとえばギリシャに端を発する経済危機や、「ウォール街を占拠せよ」という運動の高まりから市民の目をそらすための情報操作か、とも疑いたくなります。
案の定、フィアモンガー(fear-monger、恐怖の商人)の徒輩も、この件に食いついています。彼らは、他の人たちを不安がらせて喜ぶ手合いです。自分がフィアモンガーであるという自覚はないのかも知れませんが。掲示板などで「カトラ山がもうすぐ噴火する」などといった危機感をあおるような投稿を見かけても、反応しないようにしましょう。欧米報道のタイトルにだけ条件反射して、受け売りをしているに過ぎません。記事の中身を読んだり、記事内容の裏付けを確認するなどのことを彼らに期待するのは所詮無理な話です。
関連記事
- 氷河の下の火山に噴火の兆候 ― アイスランド (10年3月10日)
- 氷河の下の火山が噴火 ― アイスランド (10年3月23日)
- 噴火の連鎖を警戒 ― アイスランド (10年3月24日)
- 宇宙から見たアイスランドの噴火 (10年3月28日)
- アイスランドの噴火 弱まる (10年4月13日)
- アイスランドの噴火で 800人が避難 (10年4月14日)
- アイスランドの噴火激化 (10年4月15日)
- アイスランドの噴火激化 (続報) (10年4月16日)
- 「アイスランドの復讐」 (10年4月19日)
- 温暖化でアイスランドの火山が活発化 (10年4月19日)
- アイスランドの噴火と予言 (10年4月20日)
- 噴煙・火山灰・火山雷 ― アイスランド (10年4月20日)
- アイスラ ンドの火山上空にオーロラ出現 (10年4月23日)
- アイスランドで再び空港閉鎖 (10年4月28日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (10年4月29日)
- アイスランドの噴火で飛行制限、空港閉鎖始まる (10年5月4日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報) (10年5月4日)
- 新たなマグマ貫入、山体膨張 ― アイスランド (10年5月6日)
- 噴火と衝撃波 ― アイスランド (10年5月7日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 2) (10年5月18日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 3) (10年5月21日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 4) (10年05月21日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 5) (10年5月22日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 6) (10年5月25日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 7) (10年5月26日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 8) (10年6月2日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 9) (10年6月11日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 10) (10年6月13日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 11) (10年6月18日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 12) (10年6月26日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 13) (10年7月5日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 14) (10年7月13日)
- カトラ山はいつ噴火するか (10年7月16日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 15) (10年7月19日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 16) (10年7月27日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 17) (10年8月3日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 18) (10年8月10日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 19) (10年8月18日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 20) (10年8月28日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 21) (10年9月12日)
- 氷河の下で新たな噴火の可能性 ― アイスランド (10年9月29日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 22) (10年10月6日)
- カトラ山で地震 ― アイスランド (続報 23) (10年12月11日)
- アイスランド南部で地震急増 (11年1月7日)
- 大西洋北部の火山島近海で M6.1 (11年2月1日)
- 新たな火山噴火の兆候 ― アイスランド (11年2月9日)
- フロスト・アースクエイク (11年2月9日)
- レイキャネス半島で群発地震 ― アイスランド (11年3月1日)
- カトラ山が小規模噴火か ― アイスランド (11年7月10日)
- カトラ山の噴火についてわかっていること (11年8月21日)
- カトラ山のカルデラ内で地震増加 ― アイスランド (11年9月7日)
- カトラ山がジオパークに認定 ― アイスランド (11年9月21日)
- カトラ山で浅い群発地震 ― アイスランド (11年10月6日)