2021年9月13日月曜日

非雲非霧 黒氣亙天 — 承和十年の宏観異常

 
『日本書紀』から『日本三代実録』に至る六国史の内容は、そのほとんどが朝廷の動向や天皇の詔勅、官人の叙位・任官についての記事ですが、吉祥や凶事、天象・気象・地象などの非日常的なできごとの記録も記載されています。地方からの報告もあれば、都の官人が直接見た現象の描写もあります。たとえ都であっても、現代と比べればはるかに豊かな自然に囲まれて暮らしていた人々の目から見ても珍しいできごとの中には、宏観異常といえる現象も含まれている可能性があると思います。

以下に紹介するのは、「雲に非ず、霧に非ず、黒気天を亙」り、太陽が暗くなった現象で、『続日本後紀』にある承和十年(西暦 843年)五月の記録です:
  • 五月己丑朔。日赤无光。終日不復。非雲非霧。黒氣亙天。至于午後。時々日見。其色黄赤。

    (五月己丑朔[5月1日]太陽に光がなく、終日回復しなかった。雲でも霧でもない黒い気体状のものが天に広がり、正午過ぎになって時々日が射したが、陽光は黄色がかった赤色であった。)

  • 辛卯。令神祇官陰陽寮解謝之。是日午剋。日色明潔也。

    (辛卯[5月3日]神祇官と陰陽寮に命じて、昨日の気体状のものに謝せしめた。本日正午ごろ陽光が明るさを取り戻した。)

  • 丙申。爲鎭内裏物恠并日異。屈百法師。限三ケ日。讀藥師經於清凉殿。修藥師法於常寧殿。轉大般若於大極殿。諸司酣食。兼禁殺生。

    (丙申[5月8日]内裏の物怪と太陽の異変を鎮めるため、百人の僧を喚んで、三日間、『薬師経』を清涼殿で読み、薬師法を常寧殿で修し、『大般若経』を大極殿で転読した。諸司では精進食をとり、併せて殺生を禁止した。)

  • 辛丑。地震。

    (辛丑[5月13日]地震があった。)
 
原文テキストは『續日本後紀』(荒山慶一氏入力)から、現代語訳は『続日本後紀(下)』(森田悌、講談社、2010)から引用しました。

ネットで検索すると、西暦843年(±20年)にアラスカのチャーチル山(地図)が噴火し、火山灰がカナダやドイツに降り積もったとの情報が見つかります。「黒氣」の正体は大気中に広がった火山灰だったのでしょうか:
 
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