2023年5月31日水曜日

コネチカット州史上最大の地震とそれを予告したドクター・スティールの伝説 (その 3)

 
 
私がドクター・スティールの物語に出会ったのは、1791年5月16日の地震について調べているときだった。 そして、物語の出現時期と震災のタイミングに気づき、私は不思議に思わずにはいられなかった —— ドクター・スティールの物語は、地震を予言していたのだろうか?
 
簡単に言ってしまえば、ほぼ確実に否である。とは言うものの、そのタイミングが不気味であることは間違いない。ドクター・スティールの物語はフィクションであり、おそらくより重要なことは、コネチカット州で以前から語られていた民間伝承のモチーフに依拠しているということだ。 「川、山、または地下室に入り、宝物(多くの場合ざくろ石)を発見する博識な男の物語は、ヨーロッパでは中世のころからよく知られた民話であった。 それは探検と植民地化の時代までずっと続いていた」とマサチューセッツ大学アマースト校民俗学教授スティーブン・ジェンカレラ氏は著書『Spooky Trails and Tall Tales Connecticut』の中で書いている。 「ドクター・スティールの伝説は、おそらく船乗りや移民たちによって新大陸に伝えられたのだろう。ざくろ石の伝説はアイルランドでは非常によく知られていた。これらのモチーフは地域の言い伝えと混ざり合い、地元の雰囲気を取り入れたバリエーションを生み出したのだ。」
 
ムーダス・ノイズはドクター・スティールの物語が登場する以前から語られていた。 しかし、ムーダス・ノイズは、ヨーロッパからの入植者が描いたほど明確に先住民文化と結びついているわけではない。 「1600年代後半の考古学的証拠と土地権利書は、この地域がワンガンク族、モヒガン族、ピクォート族、ナイアンティック族を含む多くの先住民族の季節的な宿営地や狩猟場であったことを示唆している」とジェンカレラ氏は書いている。 「これらの人々がムーダス・ノイズについてどのような物語を伝えていたのか確かなことはわからないが、モヒガンの女性呪医グラディス・タンタキジョンは文化的英雄モッシュアップがその役割を果たしたのではないかとかつて推測していた。」
 
 ムーダス・ノイズにかかわる先住民の伝統についての確かなことを知らぬまま、ヨーロッパからの入植者たちが何世代にもわたって、しばしば植民地的で人種差別的なニュアンスを含む、先住民の伝説とされるものを作り上げることとなった。

ムーダスにおけるドクター・スティールと彼の謎めいた行動の物語は、ジョン・ガーディナー・カルキンス・ブレイナードによる 1819年の詩を含め、長年にわたって何度も繰り返され、新しい形になっていった。 ムーダス・ノイズも、2011年と 2015 年の地震の際も含め、何年にもわたってくり返し聞こえたのである。ドクター・スティールの話は単なる物語にすぎないが、謎めいた見知らぬ人物がムーダスにやって来て、サーモン川とムーダス川が合流する場所の近くで石を掘り出したという話を聞くことがあったら、頑丈な戸口に避難するときかも知れない[注:欧米では地震の際はドアのそばに身を寄せるよう推奨されています]。

(完)
 
 
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