2013年4月20日土曜日

2014年末までに南海トラフで巨大地震発生 ― ロシアの科学者が予測 (補足-3)


4月16日付「2014年末までに南海トラフで巨大地震発生 ― ロシアの科学者が予測 (補足-2)」の補足です。

日本人の通念にある南海トラフ沿いの巨大地震とLyubushin氏が指摘している巨大地震は、どうも少し違うようです。われわれは四国沖の南海地震や紀伊半島沖の東南海地震を思い浮かべますが、Lyubushin氏のいう巨大地震の発生場所は東と南にずれています。だからといって駿河トラフ沿いの東海地震とも異なっているように見えます。

以下は、Lyubushin氏が今回のヨーロッパ地球科学連合(EGU: European Geosciences Union)の大会のために用意した発表要旨(1)とプレゼンテーション・パッケージ(2)です:
  1. Spots of Seismic Danger Extracted by Properties of Low-Frequency Seismic Noise (PDF形式)
  2. Spots of Seismic Danger Extracted by Properties of Low-Frequency Seismic Noise (PDF形式)

以下の図1、図2、図3は、上記(2)のパッケージに掲載されているものです。

Alexey Lyubushin “Spots of Seismic Danger Extracted by Properties of Low-Frequency Seismic Noise” より引用
図1 (クリックで拡大)

図1は、F-net(広帯域地震観測網)のデータから得られた Δα(multi-fractal singularity spectra support width)を地図上に表示したものです。この値が低い、すなわち、藤色や青色で表示されている領域ほど地震のリスクが高いことを示しています。

歪みが蓄積されて地殻内の小ブロックどうしが結合し、より大きな単位として活動するようになると、低周波地震ノイズのフラクタル性が低下し、シンプルな構造の波形に近づくためにΔαが低下すると解釈されています。たとえるならば、スポーツの応援で、個々の観客が勝手に私語を交わしてざわついている状態から、応援団やチアガールの動きに合わせて一斉にエールを送る状態に変化する時にΔαは低下するということです。

左の地図は、1997年から2003年9月25日に北海道で発生した Mw8.3(星印が震央、地震調査研究推進本部の資料では、9月26日、十勝沖深さ40km、M8.0、いずれも暫定値)までのΔαの値を示しています。藤色や青色で示された低Δα値の領域が一つにまとまっていることに注目してください。

中央の地図は、北海道の地震以降、東北地方太平洋沖地震(星印が震央)の前日までのΔαの値を示しています。藤色や青色の領域が南北に分裂しています。そして、この北側の領域で東北地方太平洋沖地震が発生します。

右の地図は、東北地方太平洋沖地震の3日後から2013年3月15日までのΔαの値を示しています。北の低Δα値の領域が消滅したものの、南は残っています。Lyubushin氏は、この南の領域で次の巨大地震がおきると推定しています。

Alexey Lyubushin “Spots of Seismic Danger Extracted by Properties of Low-Frequency Seismic Noise” より引用
図2 (クリックで拡大)

図2は、F-net(広帯域地震観測網)のデータから得られた En(low-frequency seismic noise wavelet-based normalized entropy)を地図上に表示したものです。この値が高い、すなわち、赤色やオレンジ色で表示されている領域ほど地震のリスクが高いと解釈されます。図1と同様に、東北地方太平洋沖地震以降も南側の領域は赤いまま残っています。Enは低周波地震ノイズのエントロピーを正規化したもので、値が高いほどノイズの波形が均質化していることを意味しています。

Alexey Lyubushin “Spots of Seismic Danger Extracted by Properties of Low-Frequency Seismic Noise” より引用
図3 (クリックで拡大)

図3は、巨大地震の発生時期を予測するためのグラフです。2012年初頭にある「谷」から2年間が巨大地震発生のリスクが高い期間となります。

Lyubushin氏の別の論文〝Low-Frequency Microseisms at Japan Islands: Before and After 11 March of 2011〟(PDF形式)には、次の巨大地震の発生場所として北緯30度から34度、東経137度から142度の矩形の領域と明記されています。この範囲だと、南海トラフの東部だけでなく、伊豆諸島に沿って南下する伊豆・小笠原海溝沿いの巨大地震も考える必要があるのではないでしょうか。

奇しくも、木村政昭・琉球大学名誉教授の最新の著書『東海地震も関東大地震も起きない! 地震予知はなぜ外れるのか』(2013、宝島社)には、東北地方太平洋沖地震後に現れた新たな「地震の目」として鳥島(地図)の南東海域が指摘されています。想定される地震の規模は M9.0、発生時期は2012年±3年となっています。場所、規模、時期ともにおおむねLyubushin氏の予測と一致するのではないでしょうか。

なお、(2)のパッケージは発表時間の制約のためか、簡略化されています。以下は、もう少し詳しい説明や図のあるパッケージです:

Lyubushin氏の略歴と論文のリストは以下にあります:

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