2009年4月26日日曜日

韓国の「飛翔体」は迎撃しないのか

北朝鮮の「飛翔体」騒動があったばかりですが、韓国が今年 7月に自国製の 2段式ロケット KSLV-1(Korea Space Launch Vehicle 1)で人工衛星の打ち上げを予定しています:
今回韓国が予定している人工衛星打ち上げは、北朝鮮が 1998年に長距離弾道ミサイル「テポドン 1」を発射したことを受けて計画がスタートしたものです。当初 2005年までの打ち上げを目指していましたが、開発が難航し 2008年まで延期、さらに 1年延期して今年 7月の打ち上げ予定になったものです。公表されている人工衛星の機能は平和目的ですが、海外の専門家の中には、これを北朝鮮の動きに触発された東アジアでの軍拡競争の一環ととらえる向きもあるようです。以下は、『フィナンシャル・タイムズ』の記事です:
韓国は、1992年に打ち上げた KITSAT-1 以来、小型衛星の製造についてはすでに実績があり、他国への輸出もおこなっているようです。しかし、打ち上げについては、これまでフランスやロシアのロケットに依存し、打ち上げもフランスやロシアの領土からおこなってきました(フランスの場合は南米のフランス領ギアナ)。今回使われるロケット KSLV-1 は、1段目がロシアとの共同開発、2段目が韓国の独自開発で、打ち上げも初めて韓国領土内からおこないます。

打ち上げ場所は、韓国南西部の島に新たに造成された羅老宇宙センターです。北朝鮮が「飛翔体」を発射した舞水端里(ムスダンリ)は日本海をはさんで秋田市とは約 900km 離れた場所でしたが、羅老宇宙センターは狭い対馬海峡をはさんでわが国の九州に向かい合う場所で、福岡市とはわずか 280km、対馬にいたっては 160km しか離れていません。下記のグーグル・マップを参照してください:
今のところ、今回のロケットは南に向かって発射され、正常に飛行すれば九州南西部や沖縄の上空を通過することになるようです。日本政府は「韓国の場合、宇宙の平和利用であるのは明らかだ」として、発射を静観する方針だと上記の記事は伝えていますが、これは釈然としません。政府は、北朝鮮の「飛翔体」の場合には、国民の生命・財産を守るため、万が一の落下に備えるという名目で迎撃体勢を敷きました。平和利用であっても事故や故障が起きないという保証はありません。まして、今回予定されている打ち上げは、ロシアの技術が導入されているとはいえ、韓国初の国産ロケットです。南に向けて発射したつもりが、あらぬ方向にそれることもありえます。これまで何度も長距離ミサイルの発射やロケット技術の輸出をして実績を積んでいる北朝鮮より、むしろ落下の危険性が高いと考えるのが普通ではないでしょうか。日本も打ち上げ失敗を繰り返していた時期があったことは記憶に新しいところです。北朝鮮に対しては声高に迎撃を叫び、韓国の場合には音無の構え ―― ダブル・スタンダードの典型のように思われます。この落差を見ると、北朝鮮の「飛翔体」に対する日本政府のあの騒ぎぶりには、国民の生命・財産を守るという大義名分の裏に何か別の意図があったのではないか、との疑念を抱かざるを得ません。

今回打ち上げられる衛星は小型で重さ約 100kg、低軌道への投入を目指しています。今後、韓国が今回より大型で重い衛星を、より高い軌道にのせる場合には、地球の自転速度を利用するため、東や南東方向に向けてロケットを発射する必要が出てきます。羅老宇宙センターから東に向けて発射すれば、岡山・大阪・名古屋・東京など人口密集地帯の上空を通過することになります。また、南東の場合は、福岡・大分・宮崎など九州の主要都市上空を通過することになります。このような場合でも、日本政府は平和目的であるならば静観するのでしょうか。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency