理化学研究所のチームが発見した113番元素(ウンウントリウム)の名称「案」が6月9日に公表されるそうです:
理化学研究所が IUPAC(国際純正・応用化学連合)から名称の提案権を得た当初は、日本にちなむ「ジャポニウム」あるいは「ジャパニウム」が有力と報道されていましたが、どうなることでしょうか(その他に仁科芳雄博士の名に由来する「ニシナニウム」、埼玉県和光市に由来する「ワコニウム」、日本の古名に由来する「ヤマトニウム」なども候補らしいです)。
元素の命名に関する IUPAC のルールは概略以下のとおりです:
新元素の発見者は、その元素の名称を提案する権利を得る(最終的な命名権を得るわけではない)。
- 最終的な名称は IUPAC の承認を得なければならない。IUPAC は発見者(の提案)を無視する権利を有する。
- IUPAC は名称案についての意見を一般公募し、集まった意見を検討した上で、元素の名称と元素記号を正式に決定する。
- 元素の名称は、異なる言語間での差異が可能な限り小さいことが望ましい。
- 従来の伝統を守るため、新元素の名称は次の範疇から選ぶ ―― 神話上の概念や登場人物(天体を含む)、鉱物あるいはそれに類似する物質、場所または地理的領域、元素の性質、科学者の名前。
- 新元素の名称は〝-ium〟で終わること。ただし、命名に関する2015年の提案では、117番元素は〝-ine〟、118番元素は〝-on〟で終わることを求めている[注]。
- 混乱を避けるため、特定の元素の名称として非公式に使われ、その後、異なる名称が最終的に選択された場合、最初の名前を別の元素に流用することはできない(かつて43番元素に対して付けられた「ニッポニウム」は113番元素の名前としては使えない)。
名称案に対する意見の一般公募は5ヶ月間おこなわれるということです。「ジャポニウム」や「ジャパニウム」という名前が提案された場合、この一般公募でアジアの特定の国々からIUPACも過去に例がないと驚くほど大量の反対意見が寄せられるのではないか、と危惧しています。欧米の企業が旭日旗に類似した放射状のデザインのある商品を発表したところ、大量の抗議が寄せられ、謝罪や商品の撤回に追い込まれたことが何度かありました。まして、どこの学校の教室の壁にでも貼ってあるような元素の周期律表に、憎くて憎くてしょうがない国の名前が登場するなど、かの国々の人たちにとってはあってはならないことでしょう。
理化学研究所としては、「日本の物理学の父」で理化学研究所とも縁の深い仁科芳雄博士の名前をつけたいのかも知れませんが、日本には個人の名前を共有物につける伝統がない上に、〝Nishinium〟や〝Nishinaium〟はどうも落ち着きが悪い。加えて、博士が日本の原子爆弾開発に関与したこともマイナス要因で、一般意見公募でもこの点を批判されるかも知れません(アメリカのマンハッタン計画に関わった科学者の名前がついた元素がある、と反論することは可能ですが)。
アジア圏初の命名ということで、私が予想するのは次のような名前です:
- アジア → Asium、Asiaium (元素記号で As と Am がすでに使われているのが難点)
- 東洋 → Orientalium
- 太平洋 → Pacificium
- 太平(平和) → Pacemium (ラテン語:pacemから)
- 富士山 → Fujisanium、Fujium
- 花綵列島 → Festoonium
- 武蔵(理化学研究所仁科加速器研究センターの所在地の旧国名) → Musashium
- 天照大神 → Amaterasium (海外の下馬評や賭けでは人気があるらしいが、元素記号で Am、Ar、As、At がすでに使われているのが難点)
[注] 117番元素はハロゲン族。同族は、フッ素(fluorine)、塩素(chlorine)、臭素(bromine)、ヨウ素(iodine)、アスタチン(astatine)で、すべて〝ine〟で終わっています。118番元素は希ガス(不活性ガス)のグループ。ヘリウム(helium)以外は、ネオン(neon)、アルゴン(argon)、クリプトン(krypton)、キセノン(xenon)、ラドン(radon)と、すべて〝-on〟で終わっています。