ネアンデルタール人の子どもの顎骨に残る調理痕(石器の傷跡)から、人類がこの子どもを食べたことは間違いないようです。しかし、狩猟の結果としてこの子どもを殺したのか、他の動物に襲われるなどしてすでに死んでいた子どもの体を持ち帰ったのかは不明です。
ネアンデルタール人がなぜ絶滅したのかはいまだによくわかっていません。生態学的地位が近い現生人類の祖先によって絶滅に追いやられた、現生人類の祖先と交雑して現生人類の系統に「吸収合併」されたなど、諸説があります。後者の説は、最近の遺伝子分析によって可能性が低くなったようですが。
また、次のような考えもあるようです ―― がっしりとした体と高い知能(脳の容積は現代人と同等以上)を持ったネアンデルタール人は大型動物を狩りの対象としていたのに対し、比較的きゃしゃな体格であった現生人類の祖先は小型の動物を捕らえて食料としていた。気候など環境の変化によって大型動物が激減しネアンデルタール人は衰退、一方、変化の影響をあまり受けなかった現生人類の祖先は生息範囲を拡げ今日の繁栄に至った。
話が少しそれますが、上記のような、ネアンデルタール人と後に大繁栄することになる現生人類の祖先との関係を考えるとき、さまざまな周辺民族と後に大帝国を築くことになる古代ローマ人との関係を私は想起してしまいます。以下は、「ローマ人の物語 Ⅰ ローマは一日にして成らず」(塩野七生、新潮社)からの引用です:
知力では、ギリシア人に劣り、周りの人がみな自分より立派に見えるようなときや、落ち込んだときに読むと多少なりとも元気の出る言葉です。
体力では、ケルト(ガリア)人やゲルマン人に劣り、
技術力では、エトルリア人に劣り、
経済力では、カルタゴ人に劣るのが、
自分たちローマ人であると、少なくない資料が示すように、ローマ人自らが認めていた。