3月31日、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が以下のような報道機関向け発表を行いました。少なくとも中央海嶺の近くでは「マントルの流動によって地殻の底が中央海嶺から離れる方向に引きずられて」いることの証拠を見つけたというものです:
マントルの動因については、大きく分けて2つの説があります。(a)「プレートの下にある高温で粘性の低いマントル(アセノスフェア)の運動によって、その上のプレートが引きずられる」という説と、(b)「海溝から地球内部に沈み込むプレートが、プレートそのものの自重によって残りの部分を引っ張る」という説です。最近では、(b)の説が有力になっていましたが、今回発表された研究成果は(a)の説を支持するものです(少なくとも中央海嶺の近くでは)。
(b)の説が有力になっていたことは、最近出版された『図解・プレートテクトニクス入門 なぜ動くのか? 原理から学ぶ地球のからくり』(木村学・大木勇人、講談社ブルーバックス、2013)の記述からもうかがえます。以下、少し長くなりますが引用します:
プレートが運動する原因として、海嶺から近い順に見ていくと、次のことが考えられます。
結論を先に言うと、(中略) (2)と(4)がプレートを動かす主な原因です。
- 海嶺に上昇するマントルが押し出す
- 海嶺の斜面をプレートが滑り落ちる(リッジ押し)
- マントル対流の水平方向の動きが引きずる
- 沈み込んだプレートの重さが引き込む
また、同書には「近年わかってきたマントル対流の姿は、プレートの運動とぴったり一致しているわけではありません」、「プレートに接するマントルは、むしろプレートの運動に引きずられて、受動的に動くと考えられます」とも書かれています。
話を海洋研究開発機構の発表にもどすと、「新しい発見」とは、(1)海洋地殻下部に約2.5km間隔で一定に分布している構造不連続面(リーデル剪断)と(2)その直下の最上部マントルにある地震波伝搬速度の方位異方性です。これらは、「マントルの流動によって地殻の底が中央海嶺から離れる方向に引きずられていた」ことを示しており、「マントルの流動がプレート運動の原動力であることを示す有力な証拠」なのだそうです。
見つかった構造不連続面の成因が本当にリーデル剪断であるのかなど、議論を呼びそうです。
関連記事
- プレートの運動は40億年以上前に始まっていた (08年12月22日)
- 縮む環太平洋火山帯 (08年12月28日)
- 地球には内核が2つある !? (09年1月8日)
- 移動する海嶺、広がる南極プレート (09年1月10日)
- 移動する海嶺、広がる南極プレート(補足) (09年1月12日)
- フィリピン海プレートとウナギ (09年1月12日)
- 大西洋海底の地磁気の縞模様 (09年1月17日)
- ショック・ダイナミクス (09年1月21日)
- アンデス山脈は急激に高くなった (09年1月28日)
- 太平洋プレートとダイヤモンド (09年2月1日)
- 古代文明とプレート境界 (09年2月18日)
- 生命進化とプレートテクトニクス (09年2月23日)
- トンガの地震は津波を起こしにくい (09年3月3日)
- 海洋底で見つかった古い化石 (09年3月21日)
- 九州・パラオ海嶺 (09年4月7日)
- ラクイラ地震とプレートテクトニクス (09年4月21日)
- 新しいプレート誕生 (09年4月22日)
- ラクイラ地震とプレートテクトニクス(補足) (09年4月26日)
- プレートの「底」確認 (09年5月1日)
- マントルの粘性 (09年5月5日)
- 地震前後の海底変動を世界で初めて実測 (09年5月16日)
- マントルの流動速度は速い (10年5月20日)
- 「ちきゅう」が沖縄トラフを掘削へ (10年9月2日)
- マントル構成鉱物の超塑性を実験で確認 (10年12月27日)
- トルコ東部の地震とプレート・テクトニクス (11年11月1日)
- 大陸移動説発表から100年 (12年1月26日)
- プレートの沈み込みが加速! 加速! 加速! (12年5月30日)
- 南極大陸にピラミッド !? (12年9月7日)
- ブラジル沖に「大陸」の痕跡 (13年5月7日)
- 受動的拡大説に軍配 ― 中央海嶺の構造 (13年5月7日)
- ブラジル沖に「大陸」の痕跡 (続報) (13年5月7日)
- ブラジル沖に「大陸」の痕跡 (続報-2) (13年5月9日)
- ブラジル沖に「大陸」の痕跡 (続報-3) (13年5月10日)
- よくわかるプレートテクトニクスの始まりから発展まで (13年9月20日)
- 太平洋プレートの沈み込みが加速 (13年11月3日)