2011年2月14日月曜日

イエローストーンで地面が急激に隆起? (補足)


1月 20日付「イエローストーンで地面が急激に隆起?」で「詳しいことは後日追記します」と書いたまま時間が経過してしまいました。遅ればせながら、その時に書けなかったことをまとめます。以下で、英語版、日本語版とあるのはそれぞれ次の記事を指しています:

オリジナルである英語版の記事の主旨を私なりにまとめると以下のとおりです:
  • イエローストーン地域の地殻は過去 15000年以上にわたって隆起と沈降を繰り返していることを示す地質学的な証拠がある。今後も隆起と沈降が繰り返されるだろう。
  • どの隆起のタイミングで噴火が起こるかはわからない。
  • 隆起・沈降の原因についてはマグマ溜まりの膨張・収縮以外に、より浅いところの熱水系が関与している可能性もある。

以下に日本語版の問題点を列記します:

第1に、タイトルについて。英語版のタイトルは 「イエローストーンはマグマ溜まりの膨張にともなって隆起した」 と現在完了時制で書いているのに対して、日本語版は 「米イエローストーンで地面が急激に隆起」 と書き換えています。これでは、過去数十年にわたってイエローストーン地域で隆起や沈降の繰り返しが観測されていることや、少なくともここ数年、同地域での隆起がたびたび報道されていることを知らない読者は、イエローストーンで急激な隆起がつい最近始まった、大変な事態だ、と誤解しかねません。さらに日本語版では冒頭のパラグラフに 「“超巨大火山(スーパーボルケーノ)”の活動が活発化した影響との見方もある」 と英語版にはない文を加えています。センセーショナルなタイトルや見出しで読者を増やそうとしているのでしょうか。

第2に、日本語版では、英語版にある 3つの節のうちの 1つをほぼ完全に無視しています。英語版は以下の 3つの節から構成されています。3つはほぼ同じ分量があります:
  1. タイトルなし (概説を述べている部分)
  2. Yellowstone Takes Regular Breaths (イエローストーンは定期的な呼吸を繰り返している)
  3. Yellowstone Surge Also Linked to Geysers, Quakes? (イエローストーンの隆起は間欠泉や地震にも関係しているのか?)

日本語版では第 3節にある 11段落のうち主要部分の 9段落を完全に無視しています。このため、イエローストーンのさまざまな観光名所を形づくっている熱水系の活動が、同地域の隆起・沈降に関与している可能性や、より浅いところにマグマが存在している可能性について日本語版の読者は知ることができません。マグマ溜まりの膨張 ⇒ 地面の隆起 ⇒ スーパーボルケーノの巨大噴火というセンセーショナルなストーリー展開のじゃまになるから無視したのでしょうか。

熱水系と隆起の関係など、この部分について多くを語っているアメリカ地質調査所(USGS)カスケード火山観測所のイエローストーン専門家ダン・ズリシン(Dan Dzurisin)氏の発言はほとんどすべてカットされ、「イエローストーンで起きる地盤変動の仕組みは、調査技術が進歩すればするほど、その複雑さが浮き彫りになってきた」という「まとめ」のコメントだけが記事全体の「しめ」として流用されている印象になっています。

第3に、イエローストーン地域では隆起だけではなく沈降も起きているということを示す重要な観測事実を記述した以下のパラグラフ(第 2節内)も無視されています。「for example」とあるので重要ではないと翻訳者が判断したのかも知れませんが:
Surveys show, for example, that the caldera rose some 7 inches (18 centimeters) between 1976 and 1984 before dropping back about 5.5 inches (14 centimeters) over the next decade. 〔調査によればたとえば、(イエローストーン)カルデラは 1976年から 1984年にかけて 18cm 隆起したが、続く 10年間にはおおよそ 14cm 沈降した。〕

日本の読者にわかりやすくするために言葉や文を補ったり、字数や紙数の制約があって翻訳対象から外す部分があるのは致し方ないことなのかも知れません。しかし、少なくともタイトルにはもう少し配慮があってしかるべきだったと思っています。

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