4月 12日朝、調査捕鯨船団の母船「日新丸」が南極海から東京に帰ってきました。舷側にはシー・シェパードが発射した赤いカラーボールの痕跡が生々しく残っていました:
各種の報道をまとめると ―― 捕獲枠は年間 865~1035頭あるが、実際に捕獲した鯨の頭数は、シー・シェパードによる妨害行為の影響で、07年度は 551頭、08年度は 680頭、そして妨害が激化した今季は、5年前に今の調査が始まって以来最も少ない 507頭にとどまった。調査は 09年12月から 10年3月にかけて 97日間実施。このうち妨害のため 31日間にわたり捕獲ができず、計画海域の約 3分 1を調査できなかった。
今季の調査捕鯨では、日本の捕鯨船とシー・シェパードのアディ・ギル号が衝突し、後者が沈没するという事件がありました。アディ・ギル号は、シー・シェパードが今季から妨害活動に投入した高速船ですが、もともとはモーターボートによる世界一周最速航海記録を樹立するために建造された船で、「
アースレース」という船名でした。この高速船を購入する費用をシー・シェパードに提供したのが、アメリカ在住の富豪、アディ・ギル氏でした。
アディ・ギル氏とはアディ・ギル氏については、名前以外聞いたことがない方がほとんどではないでしょうか。以下は、オーストラリアの 『
Courier Mail』 紙のサイトに掲載されている記事です。アディ・ギル氏の写真とインタビュー内容が掲載されています:
同氏の人となりや信条を知るには好適な記事だと思いますので、以下に抜粋・意訳します:
イスラエル生まれ。イスラエル空軍に 4年勤務した。体格が小さく軍務をこなすには体力が十分ではなかったため、パイロットにはなれなかった。
両親は(ナチス・ドイツ支配下の)ヨーロッパを 1936年に脱出。ギル氏は 1983年にイスラエルからアメリカに移住。アメリカに到着したときの所持金はわずか 200ドル(約 2万円)。ニューヨークで自動車整備工として働いたが、ニューヨークの気候になじめなかったため、ロサンゼルスに移動。99セントのパスタで 4食分をまかない、後は水だけという赤貧の生活を経験した。
大型スクリーンを使ったビデオ投影を専門とする会社に就職し、仕事を学ぶ。1992年に “American Hi Definition” という自分の会社を設立。(この会社の名前を出したときに、記者に対してスペルを間違わないように求め、「私は物事が正確でないと気が済まないのだ」と語った。)
その後は、ハリウッドのサクセス・ストーリーを地でいく展開。最初の大仕事は、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画『トゥルーライズ』の中で使われた大型スクリーンを提供したこと。“American Hi Definition”社は、現在、アカデミー賞、グラミー賞を含むほとんどの授賞式に大型スクリーンを提供している。
1997年には、もう一つ別の会社を設立。TV番組製作システムを備えた大型トラックを提供。屋外で番組の収録・制作ができ、ジェイ・レノ・ショーでも使われた。
「私は、自分が持つ経済的な強みを自分のため以外に使いたかった。人間というのは利己的なものだ。金を手にしたとき、人は『何ができるだろう? 新しい時計か靴を変えるかも知れない』と考えるものだ。」
ギル氏は手首を出して、使い古したステンレス製の腕時計を見せてくれた。「見てくれ。これはバル・ミツバー(ユダヤ教の成人式)のときにもらったものだ。私は 12歳半だった。まだちゃんと動く。私の祖母がくれたものだ。ロレックスを買える身分なのに、なんでそんな腕時計をしているんだと、よく人に訊かれる。そんなときは、私にはロレックスは必要ない、と答える。」
そんなギル氏にも、自ら認める弱みがある。高級外車に夢中になっているのだ。「私はフェラーリを所有している。自分で整備するために中古で買ったものだ。でも、私が運転している時間の 98% は、ミニ・バンを使っている。」
「ポルシェ・カレラ GT を 60万ドル(約 6000万円)で買おうとしているときだった。非常に美しい外観の車だった。しかし、その車を買うことを考えれば考えるほど、それが利己的な行いに思えてきた。私には本当にその車が必要なのだろうか。もしその金を自分が心底から敬服できる人物、たとえばシー・シェパードのポール・ワトソン氏のような人物、に贈ったとしたらどうなるだろうか、と考えた。」
「取引は簡単だった。私は彼に 100万ドル(約 1億円)を寄贈すると申し入れ、彼は船を購入して、それに私の名前をつける。」
ギル氏は、アディ・ギル号が衝突に巻き込まれたというテキスト・メッセージを受けとったとき、それほど心配しなかった。「私は、その衝突がどれほど深刻なものかわかっていなかった。衝突の第一義的な責任が誰にあるのかも知らなかった。しかし、さまざまなアングルから撮影されたビデオを見て、私には状況が飲み込めた。日本人の攻撃性を最も端的に示しているのは、それが当て逃げだったことだ。(車を運転していて)誰かをはねてしまったとき ― それがシカでもカンガルーでも同じだ ― 人は車を止め現場にとどまるものだ。」
「もし事故現場から逃げたとしたら、そのこと自体が(運転者の)意図を物語っている。(日本側の)船長は、他の船に衝突しておきながら、停止せず前進を続けた。彼を刑務所に送るには、その事実だけで十分だ。」
「もし私の知能指数が 60 であったら、私は日本人がクジラを殺しているのは研究のためだと信じるかも知れない。“RESEARCH”(研究)という文字を舷側に大きく書いたとしても、そんなことを誰が信じるというのか。」
「アフリカのケニアでは、象牙を目的とした密猟者を射殺してもかまわないことになっている。密猟者は、象を殺してはならないと告げられているにもかかわらず、象を殺し続けている。密猟者は、象を殺すことをやめないならば、お前たちを射殺するとも警告されている。そして、そのとおりに(密猟者の射殺が)実行されている。(クジラの密漁をやめさせるための)次のステップは、現場に赴いて日本人を撃ち殺すことなのだろか。それが捕鯨をやめさせるために必要な手段の到達点なのだろうか」とギル氏は問いかける。
「もし、ここで私がナイフを取り出して金銭を要求したとしたら、銃を持った警官がかけつけてくるだろう。銃は、実力で法律を守らせる手段だ。」
「もう一隻のアディ・ギル号を建造するには 500万ドル(約 5億円)が必要だろう。もし私が 6隻からなる艦隊を持っていたら、捕鯨は一切できなくなるだろう。」
『
ロサンゼルス・タイムズ』の
記事によると、ギル氏は、捕鯨を阻止するために、「アディ・ギル 2世号」ともいうべき、より大きく、より速い船の建造を目指しているそうです。一方、シー・シェパードの幹部は、法律上および税制上の理由から、既存の高速船を購入することも選択肢として残っていると語っています。(こちらの記事にも、今月の初めごろまでは、アディ・ギル氏の写真が掲載されていたのですが、いつの間にか写真だけ削除されています。)
なお、“American Hi Definition”社のサイトにも、アディ・ギル氏の
紹介と写真が掲載されています。
(続く)
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