本日未明、エレーニン彗星(エレニン彗星)が地球に最も近づきました。しかし、何もおこりませんでした。当然のことですが。
この彗星の接近で地球上に大災害が起こるというデマを撒き散らし大騒ぎをしたフィアモンガー(fear-monger)やドゥームセイヤー(doomsayer)など、いわゆるトンデモ屋さんたちは、一部を除いて鳴りをひそめているようです。こういう人たちと、その人たちの言うことを真に受けてか、おもしろ半分にか、ネット上でデマの拡大再生産に加担した人たちに、反省の弁や謝罪の言葉はないのでしょうか。
天体の接近によって生じる地球上の大災害を描いた日本映画があります。1962年の東宝映画『妖星ゴラス』(あらすじ)です。地球に近づいてくる天体との衝突を避けるために、その天体の軌道を変えたり、アメリカ映画『ディープインパクト』や『アルマゲドン』のように爆破したりするのではなく、南極大陸に巨大なロケット群を建設して噴射し、地球の軌道を変えて接近してくる天体を回避するという珍しい発想の映画です。
エレーニン彗星の背後には大重力の黒色矮星が隠れているとか、エレーニン彗星自身が黒色矮星であると言うトンデモ屋さんがいましたが、この映画の「主役」であるゴラスも黒色矮星という設定です。黒色矮星は、理論的に想定されている天体ですが、実際に存在が確認されているわけではありません。映画では、ゴラスの質量は地球の質量の 6000倍とされていますから、換算すると木星の質量の約 19倍。これは、褐色矮星の範疇に入ります。
以下は、『妖星ゴラス』の予告編です:
上の予告編より、以下のショートカット・クリップの方が映画の内容がよくわかります:
冒頭は、計画を変更して急遽ゴラスの調査に向かった日本の土星探検隊のロケットが、ゴラスの重力に抗しきれずに吸い込まれてしまうシーンです。6分45秒から、ゴラスの接近による地球上の災害シーンが始まります。月がゴラスに吸い込まれてしまうシーンは、7分09秒以降です。ゴラスが地球に最接近するときの様子は、9分35秒からです。
月が吸い込まれるのになんで地球は無事なのかとか、吸い込まれる前に潮汐力によってばらばらになってしまうはずだ、あるいは、あんなにたくさんのロケットを南極で噴射したら大量の大気が宇宙空間に逃げてしまうなどなど、いろいろと突っ込みどころがありますが、広い心で(笑)見てやってください。
9分58秒あたりから短いですが、ロケット噴射中の地球の遠景が映ります。このシーンを見て思い出すのが、以下の写真です:
NASA の土星探査機カッシーニが撮影したもので、土星の衛星エンケラドスの南極付近から吹き出している水や氷のジェットをとらえています。映画『妖星ゴラス』では、最初の犠牲者は土星探検隊でした。また、地球の軌道を変えるためのロケット噴射をおこなったのは南極大陸でした。半世紀前に作られた映画と21世紀の現実との間の、不思議な符合点です。
映画『妖星ゴラス』は次のようなメッセージで終わります:
ただ今から、国連科学委員会のメッセージをお送りします。
皆さん、われわれは勝ちました。妖星ゴラスはすでに太陽系から離れようとしております。われわれは、全人類の平和への願いと協力によって勝ち得たこの勝利を、永遠のものにしようではありませんか。
われわれはトンデモ屋さんたちに勝ちました。トンデモ屋さんたちのおもちゃにされたエレーニン彗星は、すでに地球から離れようとしています。
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