「その5」までは、米国地質調査所(USGS)が発表している世界の地震リストには、なぜ「10km ちょうど」の地震が多いのかについて述べてきました。手短に言うと、震源の深さが精度良く決定できなかった場合に「10km ちょうど」と見なしている、ということが理由でした。
今度は、日本の地震についてです。日本の場合にも、震源の深さを精度良く決定できなかったために「10km ちょうど」と見なすケースがあると思われますが、もっと大きな要因があります。それは、気象庁が作成・発表する地震情報の精度です。
気象庁は発生した地震の震源要素(発生時刻、緯度、経度、深さ、マグニチュード)を、速報値、暫定値、確定値の3段階で作成しています:
- 速報値 ― 地震発生の数分後までに、限られた数の観測点のデータを用いて作成された震源要素です。地震情報、津波警報/注意報など、地震発生直後に発表される情報に用いられます。
- 暫定値 ― 速報値よりも多くの観測点のデータにもとづいて計算した震源要素で、翌日に開かれる検討会で確認されたものです。大地震の場合などには例外的に地震発生から数時間で発表されることがあります。
- 確定値 ― 暫定値をさらに精査し、品質管理部門のチェックを受けた震源要素で、最終的にデータベースなどに収録されるものです。
速報値は、限られた数の観測点からのデータにもとづいて短時間で算出されるため精度が低く、震源の深さは 10km 単位、緯度と経度は 0.1度単位と、かなり大雑把です。一方、暫定値の精度は、震源の深さで最大 0.1km 単位まで、緯度と経度は 0.1分単位までです。つまり、暫定値は速報値に比べて、深さでは 100倍、経度と緯度では 60倍の精度になります。
速報値、暫定値、確定値の違いについては、以下の気象庁の資料がわかりやすいと思います。ただし、文末の表で速報値の最小精度が「緯度経度0.1分」となっているのは誤植で、本文に「緯度・経度は0.1゜刻み」とあるように、正しくは「緯度経度0.1度」です:
速報値、暫定値、確定値のうち、われわれが目にする機会が最も多いのは速報値です。地震が発生したとき、テレビの速報テロップ、気象庁のウェブサイトにある「地震情報(各地の震度に関する情報)」のページ、Yahoo の地震情報のページなどで目にする震源要素は原則として気象庁が発表する速報値です。
ここまで来れば、読者の多くはお気づきだと思います。「10km ちょうど」の地震が多いように見えるのは、速報値の震源の深さが 10km 刻みであるからだと。10km 単位であれば、浅いところでおきた地震のほとんどは「深さ 10km」となってしまいます (非常に浅い震源の場合には、数字を使わずに「ごく浅い」と記載されます)。
(続く)
関連記事
- 深さ 10km ちょうどの地震 (その1) (11年8月27日)
- 深さ 10km ちょうどの地震 (その2) (11年8月27日)
- 深さ 10km ちょうどの地震 (その3) (11年9月10日)
- 深さ 10km ちょうどの地震 (その4) (11年9月10日)
- 深さ 10km ちょうどの地震 (その5) (11年10月2日)