2009年1月17日土曜日

大西洋海底の地磁気の縞模様

先日このブログで提示した「移動する海嶺、広がる南極プレート」に関して、ある方が『新・地震学セミナー』(注1)の「[1543] アフリカプレートが拡大?」に次のように書かれているとの情報を送ってくれました(笑):
[1538] で提示した【疑問3:同じくアフリカ大陸では東西からプレートが誕生していますが、どこにも潜り込んでいく場所がありません。誕生したプレートはその後どうなるのでしょうか。】に関して、ある方が「グローバルテクトニクス地球変動学」(杉村新、東京大学出版会)に次のように書かれているとの情報を送ってくれました。
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アフリカプレートや南極プレートは一部を除きほとんど拡大軸(海嶺)で囲まれている。もし拡大軸が動かないとすると、アフリカも南極もどんどん隆起でもしないと説明がつかないが、そういうことは決してない。これらの拡大軸の位置は、外へ外へと動いてゆき、アフリカプレートも南極プレートも、面積を拡げつつあるのである。このことが理解できないと、プレートの概念のポイントを把握したことにならない。
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ということです。「プレートの概念のポイント」というのは、普通の頭では理解しがたい難解なものです。
これは、書籍からの引用ではなく、このブログからコピーしたことが歴然としています。なぜなら、「グローバルテクトニクス 地球変動学」の原文にはなく、引用に際して私が括弧をつけて補った文言を、括弧をはずして本文としたり、括弧付きのまま残したりしているからです(そのほかにもいくつか理由があります)。このブログからの引用だと書けなかった事情 ―― おそらく、プレートテクトニクスの初心者が陥りやすい疑問という文脈で取り上げていることが、不都合だったのだろうと推察しています。

ところで、「[1543] アフリカプレートが拡大?」には、非常に面白いことが書かれています。南米大陸とアフリカ大陸にはさまれた大西洋の地図が掲げられているのですが、その地図中で、大西洋中央海嶺のおおよそ北緯20度から南緯15度の範囲について、以下のような注釈がつけられています:
両大陸はこの位置でくっついていた
ここには縞模様がない
海底が若いことを意味する
同じサイトの別のところ、「9 大陸の移動は激変的に起きる」(注2)には、同じ図を掲げて、次のように書いてあります:
この図からわかるように、アフリカ大陸と南米大陸の間にある縞模様は南部では7000万年まで認められますが、それより北では、一単位(100万年)も観測されないことが分かります。これは、両大陸が分裂し、移動し始めたのが、100万年も経っていない新しい出来事であることを意味します。またプレートと称するものが、一つの剛体となって移動するのでもないことが明らかです。(中略 by Nemo) このように、大陸は移動することがあるのですが、つねに一定の速度で移動する(斉一説)わけではありません。地球大変動の時に、激変的に移動(激変説)することがあるのです。
本当にこの部分の海底には地磁気の縞模様が残っていないのでしょうか? 次の図を見てください:

たしかに、大西洋の赤道をはさんだ部分に縞模様のない部分があります。範囲も上のサイトの地図とほぼ一致しています。では、次の図を見てください:
こちらの図では、縞模様は途切れておらず、大西洋の全域でつながっています。

実は、(1)の図は1974年に作られたもので、当時はまだ調査が行われていない海域がたくさん残っていました。この未調査の範囲が、図では縞模様のない空白となっているのです。少し古いプレートテクトニクスの書籍には、この図をもとにしたものが載せられていることが多いようです。前出の「グローバルテクトニクス 地球変動学」(杉村新、東京大学出版会)もこの図を載せていますが、「その後、本図の空白部分は完全に埋められている」と注記しています。一方、(2)は、最新のもので、NOAA(米国海洋大気庁)のサイトに掲載されているものです。

以上をまとめると、『新・地震学セミナー』の執筆者は、意図的か否かは別として、データの欠落した古い資料にもとづいて、あるいはデータの欠落を現象の不存在と誤認して、激変説を称揚し、プレートテクトニクスを批判しているのではないか、ということです。

最後に私見ですが、『新・地震学セミナー』には次のような特徴が見られます:

  • プレートテクトニクスや地震学について、初歩的な教科書や通俗解説書に載っている、説明をわかりやすくするために簡単化した記述や模式図にもとづいて、プレートテクトニクス批判をおこなっている。現実はもっと複雑です。(たとえば、レンガの破壊実験と断層面の角度の話。)

  • 初期のプレートテクトニクスの理解のまま、現在のプレートテクトニクスを批判している。学問は日進月歩を続けています。(たとえば、ここに書いた地磁気の縞模様の件や、ホットスポットについての議論。ホットスポットが不動点か否かについては、いまだ議論がある。かりに不動点ではなかったとしても、プレートの移動を示す証拠は山積しており、そのことのみでプレートテクトニクスが否定されるものではない。)

  • プレートテクトニクスの用語について誤解したまま、批判をしている。(たとえば、「海洋底」の定義。これが食い違っているから、グランドキャニオンやロッコール海台の地質年代が古いことが、プレートテクトニクス破綻の「証拠」になってしまう。)
私は地球科学について一介の素人に過ぎませんが、その私の目から見ても、「新・地震学」には上記のようにおかしな言説がいろいろ見られます。私には、最新の地震学やプレートテクトニクスを否定して、古い地球観のアンシャン・レジームに戻そうとする復古運動のように思えます。「・地震学」という名前の方がふさわしいのではないでしょうか。

ところで、この記事についても、「ある方」が実在していて、ふたたびご注進におよぶのでしょうか(grin)。

(注1) www.ailab7.com/Cgi-bin/sunbbs2/index.html
(注2) www.ailab7.com/idou.html