白野夏雲が著した『地災集覧』に載っている話です。現代文に直してみました:
安政乙卯江戸地震のとき、旗本に仕える一人の下士(低い身分の武士)が巣鴨(地図)に住んでいた。ある日、その庭にたくさんの蚯蚓(ミミズ)が出て死んでいた。その下士が言うには「これは大地震の徴(しるし)である」と。下士の親族はみな庭で寝起きして、家には入らなかった。近隣の人たちはこの様子を見て笑っていた。4~5日経って大地震が起きた。下士の家屋も倒壊したが、下士の親族は全員が無事であった。
安政江戸地震は旧暦・安政2年10月2日(西暦1855年11月11日)午後10時ごろに江戸を襲った直下型の大地震で、マグニチュードは6.9~7.4、震央は荒川河口付近(おおよそ現在の葛西臨海公園や東京ディズニーランドのあたり、他説あり)で、死者1万人、負傷者は数千人と推定されています。
気温の高い時期の雨上がりに、多数のミミズが地表に出て死んでいるのを見かけることはありますが、安政江戸地震が発生したのは現在の暦では11月で、寒い季節です。
下士の住んでいた巣鴨は安政江戸地震の震央から約20kmです。
『地災集覧』の原文は、『地震前兆現象 予知のためのデータ・ベース』(力武常次、東京大学出版会、1986)を参照しました。
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