4月1日付「数々の前兆を見過ごして地震に遭ってしまった医師」では、安政江戸地震当日の旧暦10月2日に布川(千葉県)で、井戸の中から何らかの音が繰り返し聞こえたとの『利根川図志』の記述を紹介しました。
同様の現象が同じ日に震央にさらに近い江戸の深川(震央から3km、地図)でも起きていたことが記録に残っています。『安政乙卯武江地動之記』に、旧暦10月2日昼、井戸掘り作業中に「地の底鳴りて仕事ならず、かかる事は是迄聞も及ばぬ事とて、其日仕事は止めて帰りしとぞ」(地底から音が響いてきて仕事にならない。こんなことはこれまで聞いたことがないので、その日は仕事は止めて帰ってしまった)との記述があります。
現在の東京では井戸の数が減ってしまいましたが、安政江戸地震のような直下型大地震の前には地下鉄の構内やビルの地下で異常な音が聞こえるかも知れません。また、鉄筋コンクリートの建造物では基礎の杭が地下の固い岩盤まで届いているはずなので、建物内の壁や柱にコンクリートマイクを取り付けてモニターしていると、異常な音で地震を予知できるかも知れません。
『海城地震 予知成功のレポート』(力武常次監修、杉充胤訳、共立出版株式会社)には、地中の音を監視して直前予知に成功したことが記載されています:
そのやり方は大きなかめを地面上に伏せ、密封し、かめの中に一枚の木板を置き、この板の上に送話器をのせ、かめ、送話器と地面を一体につらね、導線で外の受話器につなぎ、当直員が室内で受話器から聞こえる音に注意するという方法である。本震の2分前に当直員はこの受話器から突然に狂風がうなるような音を聞いたので、ただちに「地震がくる」と叫んだ。ビルの中にいた人びとはこの叫びを聞くや否や走ってビルからおりて外に駆け出し、そこで地震が発生した。
『安政乙卯武江地動之記』の原文は、『地震前兆現象 予知のためのデータ・ベース』(力武常次、東京大学出版会、1986)を参照しました。
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