2011年12月15日木曜日

ラブジョイ彗星が太陽接近 (続報-2)


【この記事は、12月14日付「ラブジョイ彗星が太陽接近 (続報)」に追記として書いたものに加筆して、単独の記事として独立させたものです。】

太陽に接近中のラブジョイ彗星(C/2011 W3)について、ブログ掲示板では「巨大な彗星」とか「とても大きな彗星」と書いているものがあります。おそらく、spaceweather.com の記事に〝SIGNIFICANT COMET〟とあるのを受け売りしたのでしょうが、〝significant〟という言葉に「巨大な」とか「とても大きな」という直接的な意味はありません。

ラブジョイ彗星は、クロイツ群に属する彗星としては比較的大きい部類に入るので significant な(重要な、意義深い)観測対象ですが、核の直径はわずか200m程度です。暗く微かで、肉眼では見ることができません。同じクロイツ群に属する彗星でも、池谷・関彗星(C/1965 S1)は長大な尾を引き、昼間でも見えた(最大光度はマイナス17等級)ということですが、その当時の核の直径は5kmと推定されています。

クロイツ群以外では、百武彗星の核は直径約2km、世間を騒がせたエレーニン(エレニン)彗星は3~5km、ハレー彗星は約15km、ヘール・ボップ彗星は約40kmという桁違いの大きさです。

1994年に木星に衝突しその表面にいくつもの黒い衝突痕を残したシューメーカー・レヴィ第9彗星(SL9、D/1993 F2)は、衝突前に木星の潮汐力によって少なくとも21個の小彗星に分裂したのですが、その一つ一つの小彗星の核の大きさは5km程度と推定されています。

彗星について上記のような規模感があれば、今回のラブジョイ彗星を「巨大な彗星」とか「とても大きな彗星」と表現することは誇大過ぎて普通ならためらわれると思うのですが、どうでしょうか。あえて誇大な表現を使って人の注意を引きたいとか、人を不安がらせたいという下心が働いているのでしょうか。

参考までに、以前紹介したことがある小惑星と彗星の大きさを比較した写真へのリンクを張っておきます。この比較写真には、2010年11月までに探査機が訪れたことのある小惑星と彗星の写真が、実際の大きさに比例した縮尺で貼り付けられています:
画面右下に、ハレー彗星やテンペル第1彗星など5つの彗星の核の写真がまとめられています。その他は小惑星です。画面内でいちばん大きい天体が小惑星ルテティア(21 Lutetia)ですが、その左側にあるわずか数ピクセルの白い点が、日本の探査機〝はやぶさ〟が訪れた小惑星イトカワです。このイトカワでも大きさが 500m×300m×200m です。ラブジョイ彗星の核は直径200mとされていますから、さらに小さいということを頭に入れて、画面右下の5つの彗星と比べてみてください。ラブジョイ彗星に対して「巨大な」とか「とても大きな」という形容詞を使うことが不適切であることが視覚的におわかりいただけると思います。


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