プレート境界の造山運動は、これまで考えられてきたよりもかなり急速に進行するとの説が、数年前から注目を集めています。これまでプレートテクトニクスで考えられてきた造山運動のメカニズムでは説明が困難なため、新たに「デラミネーション」あるいは「デブロッビング」と呼ばれる過程が提唱されています。多くのサイトがこの件を掲載しています。以下はその例です:
このような説が提唱されるようになった背景には、堆積物に残る同位元素の比率などによって、過去の山の高さを定量的に推定する新しい手法が開発されたことがあります。
以下は、各サイトの記事を私なりにまとめたものです:
これまでの方法
過去のある時点で、山の高さがどのくらいあったのか? これを推定する従来の方法は、植物の葉の化石を調べ、その植物がどのくらいの標高のところに生えるかによって山の高さを推定するか、ある種の鉱物がいつ急に地表に現れ始めるかという点にもとづく年代決定などによって、標高を推定していた。しかし残念ながら、数百万年という時間の間には植物の性質は大きく変化する。また、気候の変化も浸食を引き起こすし山の高さに影響する。このため、従来の方法による推定値には大きな疑問符がつく。
新しい方法(1)
山が浸食されるにつれて、山体の堆積物は斜面を流れ下り、山麓に集積する。山が隆起すると、高度の変化によって異なった大気条件にさらされる。たとえば、気温、降水量や雨水の成分などは山腹の異なる標高の地表に堆積する鉱物に記録される。このような堆積物から過去の大気の情報を採取し、年代を決定することによって、山岳地帯の隆起の履歴を再構築することができる。
炭酸塩は地表の水から沈殿する。したがって炭酸塩の成分は降水の良い指標となる。標高によって雨水の成分は変わる。水に含まれる酸素の99%以上は「酸素16」で、残りは「酸素18」である。水蒸気が雲を形成しながら上昇するにつれて、重い酸素18は雨となって雲から取り除かれ、雲は次第に酸素18が少なくなる。この変化は、山腹で雨水から作られる炭酸塩などの鉱物の中に記録される。これを採取して酸素16と酸素18の比率を分析すれば、当時の山の高さが推定できる。
新しい方法(2)
第2の方法は、炭酸塩が形成された温度に注目する。大気の温度は、標高が高くなるにつれて低下する。炭酸塩に含まれる「酸素18」と「炭素13」の結合体の多寡が指標となる。気温が高いところでは、個々の原子は激しく振動し、原子間の結合は壊れやすくなる。重い同位体原子どうしの結合ほど壊れにくい。低温で振動が穏やかなときには、軽い同位体の結合の方がより壊れやすい。この原理を応用して、炭酸塩が形成された当時の温度を推定することができる。温度が推定できれば、その炭酸塩が沈殿した場所の標高がわかる。
2つの方法の結果が一致
2つの方法による計測結果は非常によく一致した。過去の標高の記録は、山岳地帯が数千万年にわたってゆっくりと隆起した後、突然「一般に認められているテクトニックな過程よりも速いスピード」で隆起したことを示している。
停滞と急速な隆起
造山活動では、山が数千万年間もほとんど同じ高さに留まる時期と、その後に続く数百万年間で1キロメートル以上も急速に成長する時期からなる。
アンデス山脈の成長
アンデス山脈中央部は、100万年ほどの短期間で少なくとも1500メートルも隆起した。この急速隆起は、今から1000万年前から700万年前(記事によっては600万年前)の間におこった。
反対意見
土壌の中に残された同位元素は、地域の気象パターンによって大きく変化する。今回の研究には、現在の気象パターンと数百万年前のパターンが大差なかったという大前提がある。しかし、実際のところは、当時の気候は現在とは大きく異なっていたはずだ。暫定的な気候モデルの研究では、当時の降水は南米大陸の太平洋側からやって来たが、現在は大西洋側からだ。太平洋側からの降水は、異なった同位元素の痕跡を残す。この違いを考慮に入れれば、アンデス山脈の隆起は急速なものではなく、ゆっくりと持続するという解釈がありうる。
デラミネーション説
現行のプレートテクトニクス説は、デラミネーション(またはデブロッビング)と呼ばれる過程を考慮に入れたものに修正されるだろう。NSF(National Science Foundation;米国科学財団)の指摘によると、デラミネーション説は1980年代初頭に提唱されていたが、造山運動を再現するモデルの構築が困難であり、さらに、今回の新しい手法が出現するまでは、過去の山脈の高さを定量的に推定する信頼できる方法がなかったため、検証が困難で賛否両論があった。
デラミネーション説では、海洋プレートと大陸プレートが衝突すると、衝突によって褶曲した大陸地殻の下に密度が高く重い「根」が形成されるが、その根が突然はがれ、反動で山脈が急速に隆起する、と考える。
我々は、地殻上部でおこる褶曲と断層が高い山岳地帯を形成したと考えてきた。しかし今、我々は、それ以外の原因が山脈の隆起をもたらしたことを示すデータを手にしている。
「デブロッビング」はあまり科学的な用語のようには響かない。しかし、この術語は、地殻の下に延びている密度の高い「根」(ブロブ)が不安定になり、自重によってマントルの内部に沈んでいき、最終的には地殻から分離してしまう現象を表している。
2つのプレートが衝突すると、通常は大陸プレートの方が屈曲し始める。たとえば、太平洋南部のナスカ海洋プレートと南アメリカ大陸プレートの衝突。マントルの上に漂いながら、2枚のプレートは互いに押し合い、その結果、屈曲した部分は山脈の最初の隆起部分となる。一方、地殻の下でも、上部マントルで屈曲が進行する。これによって形成された密度の高いマントルの「根」は地殻の下側に粘着し、地上で成長する山脈と歩調を合わせて成長する。この高密度の「根」はアンカー(錨、いかり)の役割を果たす。つまり、山脈を下向きに引っ張り、山脈の隆起を抑制する。釣りのときに使う錘(おもり)が、浮子(うき)を水面下に引き込むのと非常に似ている。アンデス山脈の場合、マントル上部の「根」が剥がれ分離するまでに、約1000メートルの高さまで隆起していた。その後、釣りの錘を切り離したときと同様、山脈は急激に「浮上」した。300万年以下の期間で、1000メートルの高さから、約4000メートルの標高に急成長した。
科学者は、チベットや中央アンデスのような標高の高い高原地帯を形成するテクトニックな過程を考え直さなければならない。
他の山脈でも
ノルウェー西部の山脈では、造山活動のサイクルがこれまで考えられていた 4000万年より大幅に短く、1300万年であった、との研究報告がなされている:
また、米国カリフォルニア州南部のシエラ・ネバダ山脈では、デラミネーションが現在進行中であると考える研究者もいる。