2009年6月11日木曜日

台風が“スロー地震”の引き金となる

今朝から、各ニュースサイトが一斉に報じています。台風による気圧低下がスロー地震(スロー・アースクエイク、ゆっくり地震)を誘発していることが明らかになり、イギリスの科学誌『ネイチャー』最新号に論文が掲載されます。カーネギー研究所(アメリカ・ワシントン)の研究チームが、台湾の東海岸における 5年間の精密観測によって、スロー地震と台風の間の相関関係を見いだしたとのことです:
記事によると、研究チームは 5年間の観測期間で 20回のスロー地震を記録。スロー地震は、台風のない季節にはまったく発生せず、また、20回のうち 11回は台風と同期して発生。偶然このような相関が現れる確率は無視できるほど小さい。台風と同期して発生した 11回のスロー地震は、他の 9回と比べて規模が大きく、また波形も複雑であった、とのことです。

カーネギー研究所の発表にある説明図を拡大したものが下記にあります:
気になるのは、この図に斜めに書き込まれている “Small increase in likelihood of failure (i.e. small increase … of unclamping)” という文言です。「断層が動く確率がわずかに上昇する」という意味に受け取れます。だとすると、多くの記事が伝えている華々しい研究成果という雰囲気とは違っているように思えます。

注意したいのは、台風の影響が地下におよぶのは台風が陸域にあるときだけだという点です。台風が海域にあるときは、海水が周囲から集まって来て気圧低下を相殺してしまいます。一般の地震について台風や低気圧との関係を云々するアマチュアがいますが、この点を理解していないことが多いようです。以下にナショナル・ジオグラフィックの記事から引用します:
低気圧である台風が海上にある場合は、海面水位が局地的に変化することで海底にかかる圧力のバランスが保たれている。「しかし、台風が陸上にある場合はそのようなバランス保持が行われないため、陸にかかる圧力がわずかに低下することになる」とリンディ氏は解説する。
さらに、台風が来ればどこででも地震が起きるわけではありません:
「台風は最終的な引き金となるだけであり、その前の時点で断層運動の準備が整っていなければスロー地震は起こらない」