2018年5月31日木曜日

マグマの通り道


以下は、米国地質調査所(USGS)がハワイ島での亀裂からの溶岩流出を説明するために使った図です。左側のマグマだまりから右に向かって伸びているマグマの支脈が薄い板状に描かれていることに気づかれたでしょうか:

マグマが地下を通って移動する場合、トンネルかチューブのような断面が円形や楕円形の通路を通っているとイメージしがちですが、マグマの貫入は地下の圧力の高いところで亀裂を押し広げながら進むことになるため、実際は上の図のように板状になることがほとんどです(注)。

キラウエア山のような現役の火山で地下のマグマの形状を直接見ることは不可能ですが、すでに活動をやめてしまった大昔の火山ではそれが可能です。浸食によって周囲の柔らかい岩石が取り除かれ、マグマだまりやそこから分岐したマグマの支脈が地表に露出するからです。

以下は、アメリカのニューメキシコ州にある火山の痕跡の写真です。特に上から3枚目の写真をご覧ください。画面右上にある岩山がかつてのマグマだまりで、そこから左下に向かっているのが貫入したマグマの名残です。垂直の板か壁のような形状をしています:
  • Patterns. (写真6葉あり、クリックで拡大)

そばで見るとまさに壁です。高さ約10mとのこと:

富士山の山体内部にも板状のマグマの通り道がたくさんできていると考えられています。以下のページの写真には、宝永火口に露出した複数の板状マグマの痕跡が写っています:


(注) 地表では溶岩チューブあるいは溶岩洞などと呼ばれるトンネル状の構造ができますが、これはマグマの貫入とは別の現象です。以下を参照してください:

2018年5月30日水曜日

溶岩流爆撃作戦とパットン将軍 (その3)



5月20日付「溶岩流爆撃作戦とパットン将軍 (その2)」からの続きです。

キラウエア山の溶岩流による被害が広がっている現在、溶岩流による破壊を阻止する方法はないのでしょうか。
ビッグ・アイランド(ハワイ島)でキラウエア山の溶岩流によって住宅地が破壊され続けている現在、人々は再び次のように思い始めています――破壊をくい止めるために何かできることはないのか、と。

現時点では、それに対する答えは「ない」です。人々にできる最善の方法は、今まさにやっているように避難することです。しかしそのような答えでは、人々はあれこれ憶測することをやめないでしょう。

「溶岩流を逸らす技術は非常にシンプルで、溶岩流の動きを観察しその結果を利用すれば可能です」と USGS は言っています。

「傾斜地に戦略的に障害物を配置すれば、理論上は、溶岩流を開発の進んだ地域からあまり開発の進んでいない地域へ逸らすことが可能です」と USGS は述べています。「溶岩流に向かって放水し冷却することでも、理論的には、進行する溶岩流の先頭部分を固めて、後続する溶岩の流れを他の経路に向かわせることができます。爆薬を使うことも理論上は可能です。溶岩洞(溶岩チューブ)や溶岩の流路、噴出口にできた障壁を爆破によって破壊し、溶岩の流れを別の方向に向かわせたり、脅威となる溶岩流の源を断つことができます。」

現代の、より強力な爆弾は、(マウナ・ロアに対して最初の爆撃が試みられた)1930年代に使われた非力な兵器よりも有効なのではないでしょうか?

「おそらく」というのが、米国地質調査所(USGS)の J.P. Lockwood と アメリカ空軍の F.A. Torgerson の答えです。「兵器や戦術、航空機の投下装置や発射装置は(マウナ・ロアに対して2度目の爆撃が試みられた)1942年以降、劇的に進歩しています」と彼らは指摘しています。

しかし、これまでに実施された真剣なテストはパットン将軍(当時は中佐)によるものだけだ、と指摘しているのは火山学者の Jess Phoenix です。そして最近のツイートで次のように述べています――パットン将軍は1935年にマウナ・ロア山の溶岩流に対する爆撃を本当に試みた。結果を先に言うと、爆撃は効果がなかった。溶岩はちっぽけな人間の使う爆弾を気にもとめなかった。そうなることはわかりきっていたのだ。火山の女神ペレに不敬を働いてはならない。

(完)


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テングチョウ大量発生 ― 和歌山県南部


ここ2週間ほど、このブログのテングチョウ大量発生に関する記事(2014年6月7日付同6月14日付)へのアクセスが急増していました。どこかでテングチョウの大発生が起きているのではと思っていましたが、対応するような報道は見つかりませんでした。ようやく『紀伊民報』が5月29日付で記事にしています。

和歌山県南部の山間部でテングチョウが2014年以来の大発生。「14年の大発生の時は紀北でも見られたが、今回は紀南が中心という。数年に1度大発生しているが、理由は分かっていない」(県立自然博物館):

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2018年5月29日火曜日

イエローストーンの間欠泉が「異常」噴出 (続報-2)


5月6日付「イエローストーンの間欠泉が「異常」噴出 (続報)」の続報です。

5月27日、イエローストーン・カルデラ内にあるスティームボート間欠泉(Steamboat Geyser、地図)で、今期7度目となる熱水噴出がありました。同間欠泉は、世界最高の高さ(約90m)まで熱水を吹き上げることで有名ですが、2014年9月3日の噴出を最後に活動を休止していました。今年3月15日に活動を再開した後、4月19日、4月27日、5月4日、5月13日、5月19日に噴出が記録されています:


スティームボート間欠泉は、1911年から1961年までの半世紀間は全く噴出しなかった一方、1960年代と1980年代の初めには活発に噴出を繰り返していたとのことです。米国地質調査所(USGS)の火山担当部門は、それらの時期と同様の活動期に入ったとみています。同間欠泉の噴出が不定期となる理由はわかっていません。


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キラウエア山 17号亀裂から異常な溶岩


ハワイの火山から流れ出す溶岩は、黒色で流動性の高い玄武岩質というのが「常識」です。ところが、USGS(米国地質調査所)が17号亀裂から流れ出した溶岩を分析したところ、57重量パーセントのシリカ(二酸化ケイ素)を含んでおり、安山岩質であったとのこと:

USGSでは、マグマが地溝帯にかなり長期間(おそらく1924年の大噴火当時から)滞留していたために結晶分化作用が進んで、シリカ成分の比率が相対的に高くなったと説明しています。

以下は、火山学者 Erik Klemetti 氏のブログ記事ですが、亀裂から流れ出した溶岩が安山岩質であったことについて「サプライズ」と表現しています。そして、地溝帯に残っていた古いマグマが結晶分化してデイサイト質に変化していたところに、新しい玄武岩質のマグマが流入して混じり、安山岩質のマグマに変化したと推定し、その比率を玄武岩質60%、デイサイト質40%と概算しています:

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キラウエア山 溶岩流が地熱発電所敷地内に


5月27日、溶岩流が地熱発電所(Puna Geothermal Venture、PGV)の敷地内に流れ込みました。以下の地図で、黄色い線で囲まれた範囲がPGVの敷地です:

PGVでは11本ある蒸気採取用の井戸を封鎖して溶岩が流れ込まないようにしていますが、井戸に溶岩が流れ込んだ場合は水蒸気爆発や有毒ガス発生の恐れがあるとのこと。USGSの最新のSTATUS REPORT(日本時間29日午前5時32分付)によると、溶岩流の源である7号亀裂と21号亀裂が噴出活動をやめたため、溶岩流はPGVの敷地内でほぼ停止しています。報道によると、溶岩流は最も近い井戸まで約40mに迫っているとのことです。


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2018年5月28日月曜日

小惑星 2018 KY2 が月と地球に接近


5月26日、小惑星〝2018 KY2〟が月と地球に接近しました。

この小惑星は5月21日に発見されたもので、アポロ群に分類され、直径は 10~22m と推定されています。直径の小さい小惑星ほど発見が遅れ、地球接近(最悪の場合は衝突)の直前、あるいは接近・通過後になる傾向があります。

小惑星 推定直径
(m)
接近日時
(日本時間)
接近距離
(LD)
2018 KY210~22  (月)5月26日 06:33
(地球)5月26日 14:25
1.15
0.78
(1LD=地球から月までの平均距離) 

最接近時の地球との相対速度は秒速12.2km(時速約4万4000km)と計算されています。

このブログでは、原則として地球から2LD以内に近づく小惑星を記事にしています。2LDよりも離れたところを通過する小惑星まで含めると、毎日数個は地球に接近しています。直径が1kmを上まわる大きな小惑星は、概ね30LDよりも遠いところを通りすぎて行きます。白亜紀末に恐竜を絶滅に追いやったとされる小惑星(あるいは彗星)の直径は少なくとも10kmはあったと推定されています。


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2018年5月27日日曜日

クジラが定置網に入り込む ― 北海道白老町


北海道白老町虎杖浜地区(地図)の沖に設けられたサケマス定置網に、体長5m、重さ約1トンのミンククジラが入り込み、5月26日に水揚げされました。「珍しい。30年勤務しているが、これで2回目」(漁協職員):

記事によると、前回クジラが定置網に入ったのは2015年10月で、体長約3m、重さ700kgのミンククジラだったとのこと。この時は以下のような地震が後続しています:
  • 11月1日 青森県東方沖(浦河沖) M5.2 深さ約65km
  • 11月28日 根室半島南東沖 M5.6 深さ約70km
  • 1月11日 青森県三八上北地方 M4.6 深さ約10km 最大震度5弱
  • 1月14日 浦河沖 M6.7 深さ約50km 最大震度5弱
  • 1月21日 根室半島南東沖 M5.1 深さ約50km

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キラウエア山 地下のマグマの動き


米国地質調査所(USGS)が5月24日付でウェブサイトに掲載した説明です。GPSや傾斜計などの観測データにもとづいて、4月末のプウオオ火孔の崩落以降のマグマの動きを説明しています:

以下は上記記事の抜粋テキトー訳です:
  • 現在、キラウエア火山では2つの領域で噴火が起きている――

    • 頂上カルデラ内部のハレマウマウ火口
    • レイラニ・エステーツ(住宅地)やラニプナ地区の内部あるいは近傍の東部地溝帯低部(lower East Rift Zone、LERZ)。

  • キラウエア山頂で発生している小規模な爆発的噴火は、ハレマウマウ火口東縁の地下にある浅部マグマだまりから、マグマが他所へ移動したことに起因している(山体が収縮して火口壁が崩落することなどをきっかけとして噴火が起きる)。

  • LERZ沿いの亀裂で起きている噴火は、キラウエア山の東部地溝帯中部(middle East Rift Zone)の地下からマグマが東に向かって移動したことによって発生した。

  • GPSや傾斜計、人工衛星に搭載されたレーダー(InSAR)のデータは、2018年4月30日に起きたプウオオ火孔の崩落以降、キラウエア山の地表がどのように動いたかを捉えている。これらのデータを用いることによって、科学者たちは、どこでマグマが失われ、どこへ移動したのかを推定することができる。

  • プウオオ火孔の崩落以降の初期の段階では、データに見られる最大のシグナルは、東部地溝帯の高部から中部にかけての領域(upper and middle East Rift Zone)で収縮が起きていたことを示している――この領域からマグマが失われたことを示す証拠である。それに続いてLERZの領域で拡大が観測された――この領域でマグマの貫入が起きていたことの証拠である。マグマの貫入が起きたのは深さ約3kmより浅い部分であった。LERZでの強力な拡大作用は5月18日まで続き、その後、貫入場所の北側に設置されたGPSサイトは北西方向への動きをやめ、安定した。

  • 5月初め(プウオオ火孔の崩落から数日)、キラウエアの山頂域が急速に沈降するのにともなって、ハレマウマウ火口内の溶岩湖の水準も低下し始めた。5月10日ごろには、溶岩湖の表面はハレマウマウ火口底から325m以上深くなり、見えなくなった。

  • キラウエアの山頂域の沈降は継続している。5月1日から5月24日の間にカルデラ底は最大1.4m沈降した。カルデラの縁に設置されたGPS観測点(CRIM)は0.6m沈降した。山頂の沈降が継続していることは、深部から山頂のマグマだまりに供給されるマグマの量を上回る速さで、山頂のマグマだまりから東部地溝帯(East Rift Zone)に向かってマグマが移動していることを示している。

  • 噴出した溶岩の地球化学的分析の結果は、山頂から移動したマグマが、LERZに開いた23カ所の亀裂からまだ噴出していないことを示している。

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2018年5月26日土曜日

オクラホマ上空の赤いクラゲ


5月24日、オクラホマ・シティ(地図)の北西を通過中の激しい雷雨の上空に出現したレッド・スプライト。近い距離(約130km)から撮影されたので、細部がよくわかります:

スプライトは、多くの目撃情報があったにもかかわらず、1989年に初めて写真に撮られるまで、科学者の多くはその存在を信じようとはしなかったそうです。

スプライトの成因については、高エネルギーの宇宙線によって生じる空気シャワーと関連があるとする説があるそうです。そうだとすると、太陽活動が低下して地球の大気に突入する宇宙線が増えると、スプライトの出現頻度が高まることになります。現在、太陽は黒点が異常に少ない状態が続いており、第24活動周期の減衰期にあります。2020年かそれ以降に極小に到達するとみられていますが、それにともなってスプライトの出現が増えることになるかも知れません。


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2018年5月25日金曜日

富士山には「噴火警戒レベル2」がない


知りませんでした。富士山には噴火警戒レベル2(火口周辺規制)がなく、レベル1(活火山であることに留意)からレベル3(入山規制)に一気に引き上げることになっているそうです:

上記記事には、1987年8月に富士山頂で発生した4回の有感地震は、山頂火口の直下で陥没が進行したことが原因との推定も記されています。


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2018年5月24日木曜日

ハワイ島 流出溶岩の広がり


キラウエア山東方の複数の亀裂から流れ出した溶岩は、どのくらいの面積に広がっているのでしょうか。左は一般のイメージ、右が実際の面積:


ハワイ島(ビッグ・アイランド)は面積が1万平方kmを越える大きな島です。日本の岐阜県とほぼ同じ広さです。


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2018年5月23日水曜日

ヘビが原因の停電 ― 鳥取県大山町、日野町


5月23日早朝、中国電力の設備にヘビが接触したため、鳥取県大山町(地図)と日野町(地図)で約3時間にわたって停電が発生しました:

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小惑星 2018 KW1 が月と地球に接近


5月23日、小惑星〝2018 KW1〟が月と地球に接近します。

この小惑星は5月22日に発見されたもので、アポロ群に分類され、直径は 3~7m と推定されています。直径の小さい小惑星ほど発見が遅れ、地球接近(最悪の場合は衝突)の直前、あるいは接近・通過後になる傾向があります。

小惑星 推定直径
(m)
接近日時
(日本時間)
接近距離
(LD)
2018 KW13~7  (月)5月23日 11:40
(地球)5月23日 20:59
0.57
0.39
(1LD=地球から月までの平均距離) 

最接近時の地球との相対速度は秒速7.3km(時速約2万6000km)と計算されています。

このブログでは、原則として地球から2LD以内に近づく小惑星を記事にしています。2LDよりも離れたところを通過する小惑星まで含めると、毎日数個は地球に接近しています。直径が1kmを上まわる大きな小惑星は、概ね30LDよりも遠いところを通りすぎて行きます。白亜紀末に恐竜を絶滅に追いやったとされる小惑星(あるいは彗星)の直径は少なくとも10kmはあったと推定されています。


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2018年5月21日月曜日

定住イルカの群れが突如移動 ― 石川県七尾市、富山県氷見市 (続報)


4月20日付「定住イルカの群れが突如移動 ― 石川県七尾市、富山県氷見市」の続報です。

3月に石川県七尾市の能登島(地図)周辺から姿を消し、富山県氷見市(地図)沖に移動していたミナミハンドウイルカ(ミナミバンドウイルカ)の群れ13頭のうち、少なくとも7頭が能登島周辺に戻っていることが5月20日に確認されました:

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漁港にイルカ2頭が迷い込む ― 宮城県石巻市


5月20日、宮城県石巻市の福貴浦漁港(地図)に、2頭のイルカが迷い込んでいるのが目撃・撮影されました。スジイルカマイルカとみられています:

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2018年5月20日日曜日

小惑星 2018 KS が地球と月に接近


5月22日、小惑星〝2018 KS〟が地球と月に接近します。

この小惑星は5月17日に発見されたもので、アポロ群に分類され、直径は 7~16m と推定されています。直径の小さい小惑星ほど発見が遅れ、地球接近(最悪の場合は衝突)の直前、あるいは接近・通過後になる傾向があります。

小惑星 推定直径
(m)
接近日時
(日本時間)
接近距離
(LD)
2018 KS7~16 (地球)5月22日 13:02
 (月)5月22日 15:36
2.05
1.59
(1LD=地球から月までの平均距離) 

この小惑星が最接近した時の地球との相対速度は秒速7.7km(時速約2万8000km)と計算されています。

このブログでは、原則として地球から2LD以内に近づく小惑星を記事にしています。2LDよりも離れたところを通過する小惑星まで含めると、毎日数個は地球に接近しています。直径が1kmを上まわる大きな小惑星は、概ね30LDよりも遠いところを通りすぎて行きます。白亜紀末に恐竜を絶滅に追いやったとされる小惑星(あるいは彗星)の直径は少なくとも10kmはあったと推定されています。


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キラウエア山頂の爆発的噴火


キラウエア山の山頂では爆発的噴火が繰り返し発生していますが、マグニチュード 5.0 の地震に相当する規模のものが含まれています:

注目したいのは爆発的噴火の発震機構解です。通常の地震とはかなり異なっています。爆発現象と断層の運動では違いがあって当然ですが、以下のツイートもその点を指摘しています。ツイートしているのはカリフォルニア州立工科大学ポモナ校の地球物理学の教授です。「目玉焼き形のフォーカル・メカニズムに注目。一連のイベント(爆発的噴火)が断層面の単純な滑りとは合致しないことを示している」:



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溶岩流爆撃作戦とパットン将軍 (その2)


5月19日付「溶岩流爆撃作戦とパットン将軍 (その1)」からの続きです。

爆撃に対して、火山の女神ペレの「復讐」があったようです。
ハワイの地元民たちは爆撃に動揺したものの、それが成功であっても失敗であっても怒ることはありませんでした。彼らは、爆撃はハワイの火山の女神ペレに対する侮辱だと信じていました。

文化人類学者の H. Arlo Nimmo はその著書『ハワイの火山の女神ペレ: その歴史』(Pele, Volcano Goddess of Hawaii: A History)の中で、多くの人々は爆弾が「女神を怒らせ、さらなる破壊を招くだけだ」と恐れていた、と書いてます。

1か月も経たないうちに、伝説のごとくペレは復讐の刃を抜き放ちました。オアフ島上空で2機の飛行機が衝突し、爆撃作戦に参加した6人が死亡したのです。

それでもなお、人々はハワイや世界のあちこちで火山に対する挑戦をやめませんでした。Jaggar とパットンがマウナ・ロアに挑戦した時の前後にも、溶岩流をそらすためのバリケードから冷たい海水を使って灼熱した岩石を吹き飛ばすことまで、多岐にわたる方法が試みられました。

マウナ・ロアに対しては1942年に2度目の爆撃が試みられましたが、米国地質調査所(USGS)の J.P. Lockwood と アメリカ空軍の F.A. Torgersonは 「顕著な効果はなかった」と『火山学紀要』(Bulletin of Volcanology)の所載の記事に書いています。

(続く)


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普賢岳に仏の顔


雲仙・普賢岳(地図)の山頂に形成された溶岩ドームの一部が仏の顔のように見えることから、「仏岩」(ほとけいわ)と命名されました。「いつまでも山を見守ってほしい」(島原市長)、「熊本地震の揺れでも動きはなかったが、普賢岳直下で地震が起きれば崩落の恐れはある」(九州大地震火山観測研究センター准教授):

クジラ漂着 ― 沖縄県名護市


5月19日、沖縄県名護市の名護湾(地図)に面した海岸に、クジラが打ち上げられているのが見つかりました。体長 4.85m のコビレゴンドウで、けがをして血を流していましたが、約6時間後に元気な状態で海にもどされました:

5月6日には、沖縄県石垣市の漁港(地図)で、サメに襲われ深手を負ったとみられるイルカが目撃・撮影されています。「漁港内に捨てられた魚の血にサメが集まるといわれ、イルカは最悪の場所に逃げ込み、襲われた可能性がある」:

記事に書かれた状況の推移は次のようです:
  • 6日朝: 頭部を負傷したイルカが漁港東側に迷い込む。
  • 午前10時30分ごろ: 漁協付近で目撃される。
  • 午後2時ごろ: サメにかまれたとみられる深手を背びれ付近に負っていた。
  • 7日朝: 行方知れず

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2018年5月19日土曜日

溶岩流爆撃作戦とパットン将軍 (その1)


ワシントン・ポスト』紙の記事です:

キラウエア山の隣にそびえるマウナ・ロア山)は、世界最大の体積を持つ火山です(富士山の約54倍)。1935年12月、このマウナ・ロア山が噴火しました。噴出した溶岩が少なくとも5本の溶岩流となって流れ出し、そのうちの1本が急速にヒロ地図)の街に迫りました。ヒロは、オアフ島のホノルルに次ぐハワイ諸島第2の港湾都市で、当時の人口は約1万5000人でした。

以下は上記記事の概略です:
クリスマスの数日前、事態は深刻になりました。溶岩流が1日あたり1マイル(約1.6km)で進み、まもなくヒロの水源であるワイルク川に到達する恐れが出てきたからです。さらに、溶岩がヒロの市街に流れ込むまでに残された時間は20日未満と考えられました。

ハワイ火山観測所の創立者である火山学者 Thomas Jaggar は、ヒロを護るためには一つの方法しかないと悟ります。なんとしても溶岩の流れを阻止しなければならない。彼にはプランがありました ―― あの火山を爆撃する。

理論的にも、何ものにもとらわれないアメリカ人の想像力からしても、彼の考えは理にかなっていました。火山の中にある自然のチューブを吹き飛ばしてしまえば、その中を流れている溶岩の流れを止めることができる。

しかし、火山を爆撃することは、それまで試みられたことはありませんでした。Jaggar は、200マイル彼方のオアフ島に駐屯している米国陸軍航空隊に助けを求めました。そして、ジョージ・S・パットン中佐に史上初の火山への空爆作戦の指揮する任務が与えられました。中佐は、後に第2次世界大戦のヨーロッパ戦線で将軍として指揮を執り、ドイツをナチの支配から解放することになります。

1935年12月27日、10機の爆撃機が各々2発の600ポンド(約270kg)の破壊用爆弾を積んで、自然を打ち負かすために出撃しました。当時の爆撃機は、布製の翼を張った複葉機でした。

その日、爆撃機の編隊は20発の爆弾をマウナ・ロア山に投下し、5発が溶岩流を直撃しました。大きなクレーターができ、すぐに溶岩で満たされました。他の爆弾は目標を外れ、1発は不発でした。

約1週間後の1月2日、溶岩は止まりました。計画を発案した Jaggar は大喜びしました。「実験がこれほどうまくいくとは思わなかった。まさに期待したとおりの結果だ」と Jaggar は『ニューヨーク・タイムズ』紙に語っています。

Jaggar は計画が成功したと確信していましたが、他の科学者たちはそれほど自信を持っていませんでした。 政府の地質学者で、爆撃機に搭乗していた Harold Stearns は1983年の自伝で マウナ・ロア爆撃作戦とその成功について次のように書いています ―― あれは偶然だったと私は確信している。

Jaggar の当時の上司でハワイ国立公園の最高責任者であった E.G. Wingate も懐疑的でした。1935年12月の報告書で Wingate は次のように書いています ―― 溶岩流を阻止することにおいて、爆撃がどのような効果を及ぼしたのか、当職が言及するのは適当ではない。たしかに、溶岩流を阻止できたという事実はもっとも興味深いことである。そして、Jaggar 博士は実験が決定的な役割を果たしたと確信している。

後の時代の科学者たちも爆撃の効果については懐疑的です。1980年に火山学紀要(Bulletin of Volcanology)に掲載された学術論文では、爆撃には目立った成果はなかった、とされています。

(続く)


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キラウエア山大噴火 1924年5月18日


1924年5月18日におきたキラウエア山の爆発的噴火。写真は、山頂のハレマウマウ火口から約1kmの地点に飛来した巨岩。推定重量 8~10トン。着地点には衝撃で直径数メートルのクレーターができています:


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セント・ヘレンズ山大噴火 1980年5月18日


1980年5月18日に起きたセント・へレンズ山の大噴火と山体崩壊。この写真は今まで見たことがありませんでした:


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2018年5月17日木曜日

キラウエア山体崩壊と大津波?


キラウエア山の南斜面が太平洋に向かって大規模に崩落し、太平洋全域に壊滅的な被害をもたらす大津波が発生するのではないか、という憶測やうわさが広がっているようです。以下のツイート中の図は、米国地質調査所(USGS)がそのような憶測やうわさを打ち消すために公表した記事に使われている説明図です。破局的大津波や局地的津波の可能性云々は別にして、現在ハワイ島で起きている多数の亀裂からの噴火や、5月4日(日本時間では5日)に発生した M6.9 の地震について、地下で何が起きているのかを理解する上で参考になるので紹介します:



図は、東部地溝帯低部(lower East Rift Zone)から太平洋に至る地域の断面図です。図(画面)の手前側にキラウエア山の本体があり、そこから図(画面)の奥に向かってマグマが貫入しています。地下数kmのところで地震が多発しています(灰色の丸印)。貫入したマグマが地表に顔を出したところにレイラニ・エステーツ(住宅地)があります。

マグマの貫入によってキラウエア山の南斜面は南(太平洋)に向かう圧力を受けます。この力によって太平洋プレートとハワイ島の境界(デタッチメント断層)が滑ったのが5月4日の M6.9 の地震であると考えられています(滑った部分は紺色で示されています)。境界は地下 7~9km にあり、暫定的なモデルではこの境界が最大 2.5m 滑ったとされています。地表ではキラウエア山の南斜面が太平洋に向かって 0.5m 移動したことが GPS によって観測されています。 地震後も毎日数センチメートルの移動が観測されています(通常は1年あたり約8cm)。


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キラウエア・カルデラが沈降


警戒レベルが〝RED〟になったキラウエア山について、ハワイ火山観測所(HVO)の現地時間5月16日14時35分(日本時間17日09時35分)付 STATUS REPORT によると ――
  • キラウエア山頂では強い地震が頻発している。これは、継続している山体の収縮と溶岩柱(lava column、火口に通じる火道の中の溶岩)の低下に起因している。

  • 5月16日午後現在、キラウエア・カルデラの底面は 90cm 沈降している。この変動がキラウエア・カルデラ周辺の断層(複数)に圧力を及ぼし強い地震を発生させている。これまでの最大はマグニチュード 4.4。

  • HVOやハワイ火山国立公園の職員、近隣住民からは頻繁な揺れや、道路と建物の被害が報告されている。

  • ハワイ郡警察は、ハイウェイ11号線の標識28と29の間に亀裂が見つかった、と報告している。まだ、通行は可能であるが、運転者は注意するよう呼びかけられている。

  • 山体の収縮の継続にともなって、キラウエア火山の山頂周辺での強い地震の発生が続き、発生頻度も高まると予測される。

  • 多発している地震は震源が浅いため、震央の近くでは被害が大きくなる。各個人は揺れによる被害を最小にするために備える必要がある ―― 壁や棚から不安定な物品を取り除くなど。急な坂や斜面は強い地震によって不安定になるので近づかないように。

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2018年5月16日水曜日

ハワイ・キラウエア山の警戒レベルが〝RED〟に (続報)


米国地質調査所(USGS)の火山警戒レベルです。2種類の〝RED〟がありますが、現在のキラウエア山は〝Alert Level: WARNING, Color Code: RED〟です。「地上と上空(航空機)に被害をもたらす大噴火(major eruption)が差し迫っている、進行中である、あるいは可能性がある」場合に使われます:


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シカの大群が住宅街を疾走 ― 奈良県奈良市


5月13日早朝、奈良県奈良市の近鉄奈良駅(地図)近くの住宅街で、少なくとも30頭のシカの群れが疾走するのが目撃・撮影されました。「非常に珍しい光景。道に迷ったか、何か驚いた可能性がある」(奈良の鹿愛護会):

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ハワイ・キラウエア山の警戒レベルが〝RED〟に


5月14日付「ハワイ・キラウエア山が噴火、住宅地で溶岩噴出 (続報-5)」の続報です。

現地時間 5月15日13時23分(日本時間 16日08時23分)、キラウエア山の噴火警戒レベルが〝ORANGE〟から〝RED〟に引き上げられました。

15日早朝から、キラウエア山頂にあるハレマウマウ火口内のオーバールック火孔から立ち昇る噴煙が濃くなり、海面からの高さが10000~12000フィート(3000~3700m)に達している; 火山灰や vog(volcanic smog: 火山ガスなどによって空が白く濁ったようになる)が山頂から南西に約30kmまで達している; 火山活動が爆発的になり、火山灰の濃度が高まったり、火山弾が火口周辺に飛んだりする恐れがある:

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2018年5月15日火曜日

地震を3週間前に予知するシステムを中国が構築


深さ8kmから20kmの地下に埋設したセンサーのネットワークで地下の歪みやエネルギーを計測し、CTスキャナーのように地下の状態を画像化する「クラウド・イメージ・システム」によって、マグニチュード 5.0 以上の地震を最も早い場合で3週間前に予知する計画が中国で進行中です。すでに国家や省からの予算も確保され、2019年末までに四川省と雲南省に2000カ所の観測点を設置し、その後、中国全土に展開することになっているとのことです。計画の中心となっている科学者は、「システムが完成すればセンサーからのデータがリアルタイムで画像化され、気象衛星からの雲の画像で天気を予測するように、マグニチュード 5.0 以上の地震を予報できるようになる」と語っています:

近畿圏中心領域大型地震 (続報-184)


八ヶ岳南麓天文台の串田氏が一般に公開している更新情報は、3月20付を最後に長期間途絶えています。その最後の情報では、4月中の地震発生の可能性は否定、早い場合でも5月以降、とされていました。すでに5月も半ばに差し掛かっていますが、その後の状況はどうなっているのでしょうか。

以下は伝聞情報です。曖昧ですが悪しからず ・・・
2つの観測機器に現れている前兆を除いて、他の機器の前兆は断続的になったり、弱まったり、終息に近い状態になったりしている。今月中旬までに全部の前兆が終息すれば、5月末ごろに地震発生となる可能性が出てくる。

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2018年5月14日月曜日

ハワイ・キラウエア山が噴火、住宅地で溶岩噴出 (続報-5)


5月7日付「ハワイ・キラウエア山が噴火、住宅地で溶岩噴出 (続報-4)」と、5月8日付「溶岩流に飲み込まれる自動車」の続報です。

溶岩の噴出・飛散・流出が起きた、あるいは現に起きている亀裂は17カ所に増えています。新しい亀裂は、現地時間5月12日に開いた16号亀裂と17号亀裂です。16号亀裂は、これまでの亀裂の列の東端から北東に約1.5km離れたところに開き、17号亀裂はそこから北に約500m離れたところに開きました:

ハワイ火山観測所(HVO)の STATUS REPORT(現地時間5月13日20時28分、日本時間14日15時28分)によると ――
  • 現時点での主要な火山活動は、溶岩噴泉や火山弾の爆発的飛散、17号亀裂からの複数の溶岩流である。溶岩流はおおよそ北東方向に向かっている。

  • 午後7時現在、溶岩流の一つは約2mの高さがあり、ハイウェイ132号線とほぼ平行に進んでいる。

  • 上空からの観測では、17号亀裂から流れ出したもう一つの溶岩流がゆっくりと南東に進んでいる。

  • 火山ガスの濃度は高い状態が続いている。

  • 火山活動は進行中で、新たな亀裂から溶岩の噴出が起きる可能性がある。新しい亀裂が生じる可能性があるのは、既存の亀裂系の南西方向と北東方向である。既存の亀裂から再噴出が起きる可能性もある。

  • キラウエア山頂では、山体の収縮を示す傾斜変動が続いている。

  • ハレマウマウ火口内のオーバールック火孔からは、水蒸気と火山ガスからなる濃い噴煙が立ち上っている。時折、火山灰が混じることもある。

  • キラウエア山頂の地震活動は活発な状態が続いている。今日、観測所では強い揺れを数回感じた。これらの地震のほとんどは、現在進行中の山頂の沈降に関連するものと、山体の南斜面の地下で発生するものである。

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