2008年12月31日水曜日

写真でふり返る2008年

アメリカ『ボストン・グローブ』紙のサイトで、今やすっかり「名物」となった感のある“The Big Picture”が、2008年を写真でふり返る特集“The year 2008 in photographs”を組んでいます。名前のとおりに大判の写真が多数掲載されています。枚数が多いので、パート1からパート3まで、全体を3部に分けています(なぜかパートごとにタイトルが微妙に変わっています)。

各パートの2枚目以降の写真には、左下に番号が付けられています。以下の私のコメントもその番号を使っています。なお、写真のなかには、初めは黒塗りで表示されるものがあります。これは、自爆テロの凄惨な現場写真など、読者によってはショックを受ける恐れがあるものに対してとられた処置です。黒塗りの部分をクリックすれば写真が表示されますが、自己責任でお願いします。

The year 2008 in photographs (part 1)
(1) チリのチャイテン山が噴火した際の噴煙と火山雷です。5月の出来事でしたが、自然の猛威のすさまじさが視覚的に迫ってきて、強く印象に残りました。
(5) アメリカの海兵隊員が、タリバン兵から頭部直近の土塁に銃撃を受けた瞬間です。この兵士は無事だったとのことです。
(6) 5月に起きた中国・四川大地震で、崩壊した建物のそばに横たわる遺体。
(12) 貯水池の水質を守るために、40万個のプラスチック製ボールを水面に浮かせる作業。
(16) メキシコで銃撃戦の最中、子供を救出した瞬間。
(19) カリフォルニア州のユニバーサル・スタジオの火災。手前に、墜落した旅客機の残骸が散乱していますが、スティーブン・スピルバーグ監督の映画「宇宙戦争」のセットで、火災の原因ではありません。
(20) ジェット・マン。
(22) イスラエル兵が発射した催涙弾が、ユダヤ人の平和活動家とパレスチナ人に降り注いでいます。
(26) イスラエルの放ったミサイルが報道車両に命中。
(28) 警棒を持った警察官に怯える少年の表情。
2008 in photographs (part 2)
(5) NASAが開発中の月面トラック。
(6) 自転車競走ツール・ド・フランスでの不思議な光景。
(8) 中国の武装警察官がテロ対策訓練。屈強な男たちが全員内股なのが何とも……。
(10) 真正面からまともにパンチを浴びています。この後、テクニカル・ノックアウトになったとのこと。
(11) ラージ・ハドロン・コライダー。運転開始後すぐに故障。思いの外、損傷が大きく、現在も修理が続行中です。ひょっとして本当にマイクロ・ブラックホールができたしまったのかも?
(14) カフカス山脈を越えてグルジアに向かうロシア軍の車列。
(20) ハリケーン・アイクによって破壊された街並み。
(21) 写真を撮っている場合なんでしょうか。
(24) 自爆テロの現場。見ない方が良いかも知れません。
(27) これも見る人が見れば、地震の前兆「地震霧」ということにされてしまうのでしょうか。
(29) 機械仕掛けの蜘蛛。高さ15メートル、重さ37トン。
(31) インドネシアの女性イスラム教徒の礼拝。なぜか和みます。
2008, the year in photographs (part 3)
(1)(23) オバマ氏とマケイン氏。表情がすべてを物語っています。
(3) 国際宇宙ステーションの舷窓から地球を眺める女性飛行士。これまでの宇宙飛行士はほとんどが髪を短くしていました。長い髪が無重力で漂う様子は動画で見てみたい気がします。髪の毛はからまないのでしょうか。無重力状態で他人の長い抜け毛が漂ってきて、顔にまとわりついたりしたら、さぞかし不快だろうな、とも思います。
(6) ロンドンのリーマン・ブラザーズのオフィス。上司から「残念なお知らせ」を聞かされているところでしょうか。
(12) 2人のパレスチナ民兵の遺体。イスラエルを迫撃砲で攻撃中にイスラエル軍機に反撃されたとのことです。
(15) ムンバイのテロリスト。
(19) 四川大地震で1つの町と5つの村が埋没した現場。
(21) ケニヤの部族間衝突で、少年の痛々しい姿。
(25) 駅に集まった群衆を規制する中国軍兵士。今年2月、寒さと大雪で何日間も鉄道がストップしました。これに比べると、この年末に相次いだ新幹線の運行障害は……。
(27) 土星探査機カッシーニが衛星エンケラドスに接近。写真をつなぎ合わせて作成した動画です。AGU(米国地球物理学連合)の秋季大会では、このエンケラドスの氷でできた「地殻」に、地球のプレート・テクトニクスと類似した現象が起きているとの研究発表がありました。
(31) まだ生きている? パキスタンの地震で。
(32) 中国人の宇宙飛行士を指す“taikonaut”という言葉に注目です。欧米のメディアも使うようになってきました。これまで欧米のメディアでは、“astronaut”(アメリカ人宇宙飛行士)と“cosmonaut”(旧ソ連・ロシア人宇宙飛行士)が使い分けられてきましたが、第3勢力の登場です。日本人は、スペースシャトルに乗るときはastronaut、ソユーズに乗るときはcosmonautになります。
(38) エベレスト(チョモランマ)と夜空。南斗六星(射手座の一部)が見えています。

2008年12月30日火曜日

イエローストーンで異常な群発地震


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米国ワイオミング州にあるイエローストーン国立公園やその周辺で、地震や群発地震があったとの報道はしばしば目にしますが、今回は異常なようです:
週末から29日の月曜日にかけて、250回を越える小規模地震がイエローストーンで発生しています。最大のマグニチュードは3.8。この地域では小規模な地震がおこることは珍しいことではありませんが、短期間にこれだけ多数の地震が起きたのは異常とのことです。記事の中で科学者は「They're certainly not normal. We haven't had earthquakes in this energy or extent in many years」と述べています。今回の異常な群発地震が、同地域の地熱活動の激化につながるのか、大きな地震に結びつくのか、そのまま何事もなかったかのように収束するのか……。イエローストーン国立公園の西では、1959年にマグニチュード7.5の地震が発生し、28名が亡くなっています。

イエローストーンの地下にはハワイと同じようなホットスポットがある、あるいは、太平洋岸から沈み込んだ海嶺がイエローストーンの地下でまだ活動を続けている、といった説があります。イエローストーンは世界最大とも言われるカルデラを持つ活火山であり、ひとたび本格的な噴火を始めれば世界中に影響がおよぶと考えられています。最後の噴火は7万年前とのことです。

2008年12月29日月曜日

メッシーナ地震と地震発光、予言

今から100年前の1908年12月28日に発生したメッシーナ地震について、マルタ島(マルタ共和国)のニュースサイトが伝えています:
100 years ago today: lights in the sky foretold Europe’s worst earthquake (100年前の今日: 空の光がヨーロッパ最悪の地震を予告していた)
メッシーナ地震は、
記事のタイトルにもあるように「ヨーロッパ最悪の地震」とも言われ、強い揺れと津波で多くの死者を出しました。マグニチュードや死者数については、資料によってばらつきがありますが、USGS(米国地質調査所)の資料では、マグニチュード7.2、死者7万2000人としています。イタリアのニュースサイトでは、マグニチュード7.5、死者20万人としているものもあります。震源は、イタリア本土とシチリア島の間のメッシーナ海峡です。なお、マルタ島は、シチリア島の南約100kmにある小島です。


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記事の概略は以下のとおりです:
100年前の今日、夜明けの数時間前、マルタ島の住民は北の水平線上に奇妙な光を目撃した。数分後、メッシーナ地震が発生した。メルカリ震度階で震度10("破滅的")、マグニチュード7.1であった。大地は32秒間にわたって揺れ、メッシーナの街と、メッシーナ海峡をはさんで対岸にあるレッジョ・ディ・カラブリアの街が破壊された。メッシーナでは90%の建物が倒壊した。

地震の後も数時間にわたって建物の崩壊が続き、道路に避難した人びとが死傷した。安全を求めて港に避難した人たちには、不意に高さ10メートルの津波が襲いかかり、約2000人が死亡した。

メッシーナ地震は、(救援活動で)汎ヨーロッパ的な連帯が示された最初の機会としても記憶されている。マルタ島からも支援が送られた。

奇妙な話をジャーナリストが伝えている ―― メッシーナ地震の2日前、ジローラモ・ブルーノという若い男が窃盗の罪で法廷に召喚された。短い審理の後、彼は有罪とされ、懲役2年の刑を言いわたされた。突然、その男の母親が法廷に乱入してきた。恐ろしい形相で、目は怒りに燃え、あたかも悪魔に取り憑かれた女のようであった。そして彼女は叫んだ。「お前たちを呪ってやる。目を持った地震が起こって、お前たち盗人(裁判官や検事たち)全員とメッシーナのすべてを殺すだろう」と。
記事の中にある「an earthquake with eyes」には特別な意味があるのかもしれませんが、とりあえず直訳して「目を持った地震」としました。記事には母親が叫んだ内容が現地の言葉でも記載されています ―― 「avia a veniri un tirrimotu cu li occhi e v’avi a ‘mmazzari a vui birbanti e a tutta Missina」。雰囲気はイタリア語的ですが、単語の綴りは異なっています。おそらくシチリアの言葉だろうと思います。イタリア語では、「terremoto」が地震、「occhi」が目ですので、「un tirrimotu cu li occhi」が「an earthquake with eyes」に相当しているのでしょう。

マルタ島の住民が目撃した北の水平線上の光は、地震発光の可能性があります。
兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の際にも同様の現象が目撃されていました。しかし、メッシーナ地震当時は、すでにガスの配管がある程度普及していて、それが地震で破損し燃え上がったとの記録もあるので、その火炎が見えたとも考えられます。震源からマルタ島までの距離約280km、S波の速度が毎秒3~4kmとすれば、マルタ島に強い揺れが伝わるまで70~90秒。目撃談にある発光と地震の間隔「数分」というのは時計で計ったものではなく、人間の感覚にもとづくものと考えられますので、それほど矛盾はしていないように思います。

窃盗犯の母親が叫んだ呪いの言葉に「地震」が含まれていたのは偶然の産物と考えるのが妥当でしょう。イタリアでは地震が多く、たくさんの人間に害悪を及ぼしてやると呪うときに、地震を持ち出しても不思議ではないと思います。

メッシーナ地震は、アメリカでも揺れを観測しています。このように遠方で、当時の地震計で揺れを検知したということは、震源での揺れの激しさを物語っています。この地震の後、被災地のシチリア島やイタリア南部からアメリカへの移民が急増しました。マーロン・ブランドの「ゴッドファーザー」やチャールス・ブロンソンの「バラキ」の世界は、このメッシーナ地震とあながち無縁ではないといえます。

2008年12月28日日曜日

縮む環太平洋火山帯

沈み込み帯はを描く

オーストラリアの大学(モナッシュ大学とオーストラリア国立大学)の研究チームが、昨年3月にイギリスの科学誌『Nature』に発表した研究ですが、その紹介記事が下記に掲載されています:
上記記事の内容をまとめてみます:
  • オーストラリアの科学者が、太平洋をぐるりと取り囲む火山の連鎖、すなわち環太平洋火山帯(リング・オブ・ファイア)の形が、なぜその名のとおりの環状ではないか、なぜ縮みつつあるのかを解明した。
  • モナッシュ大学とオーストラリア国立大学の研究者たちは、一つのプレートがもう一つのプレートの下に沈み込むときに何が起こるのかについて研究。二つのプレートの境界が、プレート自体の移動と同じ速さで(逆方向に)移動することを見いだした。このほどイギリスの科学誌『Nature』に掲載された新しい理論は、プレート境界が世界各地で見られる「弧」(arc)の形に数百万年の年月をかけて進化する原因を説明している。
  • 環太平洋火山帯の限られた部分しか、環太平洋火山帯と同じ方向に凸の弧を描いていない。なぜ、ほとんどの部分が、環太平洋火山帯のリングとは逆の方向に凸の弧を描くのか、解明されていなかった。研究チームの発見によると、プレート境界の長さが、どちらの方向に凸の弧を描くかを決める要因になっている。地球上に存在するプレート境界の多く ―― その多くは環太平洋火山帯を形成している ―― は全長3000km未満であり、凹んだ形状(環太平洋火山帯のリングとは逆方向に凸)を示す傾向がある。
  • プレートの沈み込みを理解する鍵は、マントル内に沈み込んでいるプレートが、そのプレートの幅に応じた有限の長さを持っているという点である。沈み込みは、本質的に3次元の現象である。一つのプレートがマントルの中に沈み込んでいくと、周囲のマントル物質がプレートの縁を回り込むように流れる。
  • プレートが地球内部に深く沈み込んでいくにつれて、その縁を回り込むようにマントル物質が流動するため、プレート(の左右の縁)はめくれ上がる(カールする)ような形状になる。このカールが地表まで波及して沈み込み帯の湾曲となり、ひいては弧の形をしたプレート境界を形成する。そして、この弧は沈み込むプレートとは逆方向に移動する。
  • この研究成果がもっとも大きな意味を持つのは、世界最長の沈み込み帯に位置する南米・アンデス山脈である。通常、山脈は大陸どうしの衝突によって形成される。しかし、アンデス山脈は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む場所にある。南米大陸の下に沈み込んでいる海洋プレートは幅が非常に広いため、沈み込んだプレートとマントルとの関係は、他の場所とは大きく異なっている。その結果として、アンデス山脈は沈み込むプレートの両端からもっとも遠いプレートの中央付近(ボリビアのあたり)で最も高く隆起している。
上記の記事で「弧」といっているのは、上に掲げた地図内に赤色で示した部分が代表的な例です。太平洋プレートかフィリピン海プレートが沈み込むプレート境界ですが、いずれも太平洋の中央部に向かって凸、あるいは、プレート移動の上流方向に凸の形状をしています。

ポイントは三つです:
  1. 沈み込んだプレート(スラブ)がマントルの流動によってカールし、その影響でプレート境界が弧の形状となる。
  2. 沈み込み帯のプレート境界は、プレート移動と同じ速さで逆方向に移動する。
  3. 環太平洋火山帯は、プレート境界が太平洋の中央部に向かって移動するために、収縮する(リングの直径が短縮する)。
花綵列島(かさいれっとう)という美しい言葉があります。広辞苑によると「円弧状または弓形に排列され、花綵(はなづな)のような形をなしている列島。弧状列島の別称」で、特に千島列島・日本列島・琉球列島を指す呼称です。また、花綵(はなづな)とは「花を編んで作ったつな。西洋で、祭の装飾などに用いる」とあります。この花綵の円弧あるいは弓形の形状は、地下深くのマントルの流動がプレートをカールさせた結果が地上に現れたものということになります。

マントルの沈み込みは、しばしばテーブル・クロスがテーブルから落ちることに例えられます。この例えでは、テーブルの縁(海溝軸に相当)は動きませんが、上述の研究が示す実際の沈み込み帯の動きを反映させるとすれば、テーブル・クロスが動くのとは逆の方向にテーブルを移動させなければなりません。

ナイアガラの滝
Credit: Courtesy NASA, Visible Earth

Image source: Earth Science World Image Bank


私はこれまで、沈み込み帯の形が弧を描くことと、沈み込み帯が海嶺方向に移動することは、滝のアナロジーで理解していました。滝を流れ落ちる水流が沈み込む海洋プレート、滝を形成する岩盤がプレートの下のマントルに相当します。上の写真はナイアガラの滝を上空から撮影したものです(写真をクリックすると拡大します)。中央やや左下に「Canadian Horseshoe Falls」と書かれている部分に着目してください。プレートの沈み込みと同じように上流に向かって凸の弧を描いています。「Horseshoe」とは馬蹄のことで、まさに弧の形状を表しています。幅の広い滝がこのような形状になるのは一般的な現象で、滝の落下口が水流の侵食によって上流側に後退することが原因です。川の流れは、岸よりは中央部分が速いので、特に中央部分の侵食が速く進み、馬蹄型あるいは弧の形となります。ちなみに、ナイアガラの滝が形成されたのは、現在位置よりも11km下流の地点で、年に約1~1.5mずつ後退して現在の場所まで移動したとのことです。

2008年12月27日土曜日

オレゴン州の群発地震


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オレゴン州 Maupin の位置

米国オレゴン州北部で群発地震が2年間にわたって続いています。下記は、オレゴン州のニュースサイトに掲載された記事です:
上記記事の内容をまとめてみます:
  • オレゴン州北部の町Maupinの近郊で、過去2年間で350回を越える地震が発生。科学者たちは地震の原因について解明できずにいる。オレゴン州立大学の研究者がサンフランシスコで開かれたAGU(American Geophysical Union、米国地球物理学連合)の年次大会で発表。
  • 群発地震は2006年12月に始まった。多数の地震のうち、マグニチュード3を超えるものは十数回だけ。震源は非常に狭い地域に限られている
  • オレゴン州の(太平洋岸の地域はともかく)東部では地震が比較的少ないが、発生するときには群発する傾向がある。一般的な地震の発生のパターンは、本震があって、その後にいくつかの余震が続く。しかし、今回の群発地震には本震と呼べるものがなく、小規模な地震が連続している
  • 小規模の地震が平均して2日に1回程度の頻度で発生している。1日に2回か3回の地震がまとめて発生することがあるが、1日に4回以上発生したことはない。地震のない日が2~3日間続くことはめったにない。
  • 最大の地震は今年7月14日に発生したM3.9。昨年3月1日に発生したM3.8がそれに続く。そのほか、11回の地震がM3.0以上だった。
  • 地震が集中して発生している場所の近くには、小規模な断層が一本通っている。しかし、その断層の走向と地震のパターン(発震機構)は必ずしも一致しない。地震の原因を正確につきとめることは困難。
  • 科学者によって説明は異なっている ―― 小規模のマグマが関連した活動であるとするもの。地殻内部の流体が移動することがトリガーとなっているとするもの。東部カリフォルニア剪断帯の活動が原因である可能性を指摘するもの。この剪断帯はサン・アンドレアス断層とほぼ並行して走っている。サンアンドレアス断層は、北の方向に剪断帯よりも速いレートでずれている。これが地質学的な圧力をオレゴンにまで及ぼしている、と考えている。
  • 類似の群発地震がネバダ州Renoでおきている。こちらの方は規模の大きい地震が多い。ここも東カリフォルニア剪断帯にそった場所である。こちらの地震は深さ数キロだが、Maupinの地震は深さ十数キロ。
  • 過去にMaupinで発生した最大の地震は1976年のマグニチュード4.6。同地域では1987年にも群発地震が起きている。1970年代に地震観測装置が設置される以前の地震活動については、情報が限られている。Maupinの群発地震について、もっとも詳しいデータが残っているのは2007年以降である。2007年に全米科学財団がオレゴン州全域に仮設の地震観測網を展開した。しかし、その後、観測機器はアメリカ全体の地震を調査するために他の場所に移された。
  • ある時点で群発地震は収まるかも知れない。しかし、地殻の歪みは地下で亀裂を作り続けている。Maupinの群発地震に引き続いて大きな地震が起こる可能性は低いが、可能性はゼロではない。

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ネバダ州 Reno の位置

記事で紹介された2つの地点、すなわちオレゴン州Maupinとネバダ州Renoは、ともに太平洋岸から内陸にほぼ同じ距離内陸に入った所にあり、サンアンドレアス断層との相対的な位置も同じような場所です。サンアンドレアス断層の西側地盤が北に移動するにつれて東側も北に引きずられ、その東側の地盤とさらに東側の地盤との間でズレを解消するためにおきているのが、上記二つの群発地震の正体のように思います。

なお、Maupinの群発地震について、詳しい情報は以下にあります:

2008年12月26日金曜日

ヴァチカンは三千光年の先だ

毎年、クリスマス・シーズンになると思い出す小説があります。映画『2001年宇宙の旅』の原作者として有名な、故アーサー・C・クラークの『星』という短編小説で、1955年に発表されたものです。現在入手可能な文庫本などに収録されているのか否かは、わかりません。私が持っているのは、早川書房の世界SF全集第32巻『世界のSF(短篇集)現代篇』(1975年再版)というハードカバーに収められているものです。

『星』という日本語のタイトルは、一般名詞的で漠然としていますが、英語の原題は“The Star”。定冠詞の“the”がついていることで、「あの星」とか「例の星」といったニュアンスになります。キリスト教文化圏の人たちには、うすうすどんな星なのか推測できるのではないかと思います。

これからこの短篇を読む方もおられると思うので詳しい内容は書きませんが、「ヴァチカンは三千光年の先だ」という文章でこの短編小説は始まります。あるガス状星雲(散光星雲)を調べるために調査隊が派遣されます。そのガス状星雲は、銀河系内では数百年に1回程度の頻度でおこる超新星爆発の残滓なのですが、調査隊はそこでまったく予想していなかったものを発見します。この発見が、調査隊の主任天体物理学者にしてイエズス会の神父である主人公の、神への信仰を激しく揺さぶります。神の所業への疑問に悩み動揺する主人公が、地球への帰還途上で述懐する内容が、そのままこの『星』という短篇の内容になっています。

恒星間飛行が実現している時代に、キリスト教のような啓示宗教が残存し、ましてやイエズス会が存続しているとはとうてい思えません。しかし、印象深い小説です。

写真はNGC6751 Image credit: NASA and STScI

2008年12月25日木曜日

アポロ8号から40年

今から40年前の1968年12月21日、アポロ8号は3人の宇宙飛行士を乗せてフロリダ州ケープ・カナベラルから打ち上げらました。そして、月のまわりを10周したのち、同月27日に無事地球に帰還しました。有人宇宙船が月の周囲を飛行したのは、これが最初です。このとき撮影された"Earthrise"(地球の出)の写真は、20世紀のもっとも有名な写真の一つとなり、多くの人びとの宇宙観、地球観、人類観に大きな影響を与えました。

月を周回中にクリスマスを迎えたアポロ8号の乗組員は、地球に向かってメッセージを送ってきました。それは、旧約聖書創世記の冒頭、神による天地創造を記述した最初の10節を交互に朗読するというものでした:
In the beginning God created the heaven and the earth. And the earth was without form, and void; and darkness was upon the face of the deep. And the Spirit of God moved upon the face of the waters.

And God said, Let there be light: and there was light. And God saw the light, that it was good: and God divided the light from the darkness. And God called the light Day, and the darkness he called Night. And the evening and the morning were the first day.

And God said, Let there be a firmament in the midst of the waters, and let it divide the waters from the waters. And God made the firmament, and divided the waters which were under the firmament from the waters which were above the firmament: and it was so. And God called the firmament Heaven. And the evening and the morning were the second day.

And God said, Let the waters under the heaven be gathered together unto one place, and let the dry land appear: and it was so. And God called the dry land Earth; and the gathering together of the waters called he Seas: and God saw that it was good.
最後にフランク・ボーマン船長が次のように付け加えました:
And from the crew of Apollo 8, we pause with good night, good luck, a Merry Christmas, and God bless all of you, all of you on the good earth.
アポロ8号の飛行士たちは、月のそばから遥か彼方の地球を眺めて、地球が荒涼とした宇宙の中でオアシスのように貴重な存在であるという実感を、聖書の文言に託したのだと思います。搭乗員の一人であったジェームズ・ラベル飛行士は、ヒューストンの管制センターとの交信で次のように話しています:
The vast loneliness up here on the moon is awe-inspiring. It makes you realize just what you have back there on earth. The earth from here is a grand oasis through the great vastness of space.
アポロ8号が打ち上げられた1968年はアメリカにとって非常に困難な年でした。4月4日にキング牧師、6月6日にはロバート・ケネディ司法長官が暗殺され、ソビエト連邦との冷戦は激化、ベトナム戦争は泥沼化し、アメリカ国内では暴動が頻発するという状況でした。そんな状況の中、アポロ8号がもたらした写真とメッセージは、アメリカ国民に大きな感動を与えました。

アポロ8号は、当初の計画では地球の周りの軌道で10日間、月着陸船のテストを行うことになっていました。しかし、ソビエト連邦がアメリカに先んじて有人月着陸を敢行するかも知れないという危機感と、故ケネディ大統領が宣言した「1960年代の終わりまでに人間を月に送り、無事に地球に帰還させる」という国家目標の期限が迫っていたことから、計画を変更して月周回軌道に送り込まれることになりました。かなりの冒険であったことは間違いありません。しかし、このアポロ8号の飛行が成功したことによって、翌年のアポロ11号の月面着陸への地ならしが大きく進んだことは言うまでもありません。

故ケネディ大統領が1961年におこなった有名な宣言は次のとおりです:
I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the moon and returning him back safely to the earth.
英語の授業でこの文章を暗唱させられたおかげで、私は"commit"や"decade"という単語を覚えました。

アポロ8号に搭乗していたジェームズ・ラベル飛行士は、のちにアポロ13号の船長として、爆発事故を起こした宇宙船で再び月の周囲をまわって地球に帰ってくることになりました。ジェミニ7号、同12号、アポロ8号に搭乗して宇宙を飛行し、アポロ11号が初めて月着陸を果たした際にはニール・アームストロング船長の交代要員でもあったラベル飛行士は、2度も月を目前にしながら、とうとう最後まで月に足跡を印すことができませんでした。

なお、アポロ8号のもう一人の搭乗員は月着陸船のパイロットであったウィリアム・アンダーズ飛行士です。

Image credit: NASA

2008年12月24日水曜日

サンタの岩

米国アイダホ州にある花こう岩でできた自然の岩山です:
見る角度によってサンタクロースに見えたり、ノーム(地の精、伝説上の小人)に見えたりするそうです。私には、豊かなひげを蓄えたアイヌの酋長のように見えます。写真は、クリックすると拡大します。

なお、偶然の造形が人の顔のように見えてしまう現象をパレイドリアと言います。私たち人類の脳には、そのような認識回路が生まれつき組み込まれているとのことです。記念写真に写った茂みの中に人の顔が見えたりするいわゆる「心霊写真」や、寝床から見上げる天井板の木目や節穴が人の顔に見えたりするのも、パレイドリアの一種です。

クリスマスと無神論

カリフォルニア州のニュースサイトに掲載された記事です:
記事の執筆者は、政治的公正さ(ポリティカル・コレクトネス)や宗教的多様性是認の流れによってキリスト教離れが進むアメリカを嘆き、神の怒りに触れると警告しています。この記事を書くことになったきっかけは、ワシントン州の知事が、州議会の議事堂内に展示されていたキリストの誕生を示す飾り付けの隣に、次のようなプラカードを掲げさせたことのようです:
"There are no gods, no devils, no angels, no heaven or hell. There is only the natural world. Religion is but a myth, and superstition that hardens hearts and enslaves minds." (神も悪魔も天使も天国も地獄も存在しない。あるのは自然の世界だけ。宗教は作り事であり、心を頑なにし、精神を奴隷にする迷信に過ぎない。)
無神論を是とする人たちに配慮し、バランスをとるために上記のプラカードを設置したのだろうと思いますが、キリスト教徒にとっては腹の虫が治まらないようです。記事の筆者は、最近は「メリー・クリスマス」という挨拶の言葉さえすたれ気味で、代わって宗教的色彩のない「ハッピー・ホリデイズ」という挨拶が増えてきていると嘆いています。確かに、欧米の友人から受け取るクリスマス・カードも「ハッピー・ホリデイズ」と書かれたものが増えているように思います。

日本人は宗教に対して、よく言えば寛容・フレキシブル、悪く言えば無節操・ルーズということになっています。もし、初詣でにぎわう明治神宮の鳥居前に上記と同じ内容の看板を設けたら、どのような反応を示すでしょうか。

2008年12月23日火曜日

ワースト・ドレッサー 2008

いつもとは若干趣向が異なりますが、アメリカの放送局 ABC のサイトが掲載した今年の有名人ワースト・ドレッサー15人です:
私の趣味から言うと、そこまで酷評されなくても……と思う気の毒な人も入っています。

2008年12月22日月曜日

プレートの運動は40億年以上前に始まっていた

原始太陽系で、太陽の周囲をまわる塵の雲から地球が形成されたのは約45億年前とされています。この45億年の歴史のどの時点で、プレートの運動が始まったのでしょうか。まだ、はっきりしたことは分からず、諸説があるようです。現在、地球上で発見されている最古の堆積岩は38億年前のものです。この岩が堆積した38億年前には海と陸が存在し、現在と同じように陸地が侵食され海底で地層が堆積する現象が起きていたと考えらます。このことから、遅くともこの38億年前の時点までには、プレートテクトニクスが働き始めていたと考えることが可能です。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、40億年以上前に、プレートテクトニクスにともなう海洋底の沈み込みがおこっていた証拠を見つけた、と報告しています。以下は、UCLAのプレス・リリースです:
上記の内容をまとめると次のようになります:
  • プレートテクトニクスは、これまで科学者が考えてきたよりはるかに早く、40億年以上前に始まっていた。UCLAの研究チームの論文が、科学誌『Nature』の11月27日号に掲載される。
  • 地球史の最初の5億年間に、プレートテクトニクスがすでに始まっていたという証拠が、西オーストラリアで採取された溶岩やマグマの中に含まれるジルコンの粒を精密に分析することによって得られた。
  • 初期の地球は、乾燥し荒涼として大陸の存在しない環境だった、あるいは、赤く融けた溶岩で覆われた地獄のような場所だったというイメージは間違いだった。地球は誕生したのち比較的短期間で、現在も続いている力学的な状態になった。大陸、水、青い空、青い海などは、これまでわれわれが考えてきたよりはるかに早くから存在していた。
  • 地球の年齢は45億歳。一部の科学者は、プレートテクトニクスは35億年前に始まったと考えてきた。他の科学者はもっと後の時代になって始まったと考えていた。
  • 研究チームは、西オーストラリアで採取された約30億年前の溶岩やマグマの中に含まれるジルコンの粒を分析した。ジルコンは重く耐久力のある鉱物で、ダイヤモンドの代用品やアクセサリーとして使われる合成キュービック・ジルコニウムと類似の鉱物。資料とされたジルコンの粒は、髪の毛の太さの2倍ほどの大きさ。
  • 高解像度のイオン・マイクロプローブをつかって、ジルコンの粒の年代と組成を高精度で測定。その結果、ジルコンは40~42億年前のもので、当時の地球全体の平均と比べて非常に低い地殻熱流量の場所で形成されたことが判明。
  • 地球の初期5億年の平均的熱流量は1平方メートルあたり200~300ミリワット。一方、試料のジルコンは1平方メートルあたりわずか75ミリワットの熱流量の場所で形成されていた。75ミリワットの熱流量はプレートの沈み込み帯の数値。
  • 間接的ではあるが、強力な証拠である。プレートテクトニクスなしに、75ミリワットという低い熱流量の場所でマグマが形成されるシナリオをいくつも検討。その結果、それらのシナリオでは、ジルコンの化学組成や花こう岩の低い溶融温度を説明することができなかった。
  • 地球最初の5億年に水が存在していた証拠は多数見つかっている。プレートテクトニクスは水のない惑星では成立しない。43億年前の地球表面、またはその近くに液体の水が存在していたことを示す強力な証拠は、同じ研究チームが見つけ、2001年1月11日号の科学誌『Nature』のカバー・ストーリーとなっている。
  • 別々の方向からの5つの独立した証拠が、かつては急進的すぎると思われた仮説を支持している ―― 調査したジルコンの含有成分は、ジルコンが水を十分に含んだマグマの中で成長したことを示している。さらにその環境は、驚くほど低い地熱増温率(地球内部で深さに応じて温度が上昇する率)だった。これらのジルコンが形成された環境条件すべてと矛盾しないメカニズムは、プレートの境界だけである。ジルコンの含有成分の化学的性質は、ジルコンが今日プレート境界で見られる2種類のマグマが存在する場所で形成されたことを示している。
「条件に合うのはプレート境界しか残らない」という消去法で結論を出している点について、まったく想定外のシナリオがありえるのでは、と一抹の不安を覚えます。しかし、興味深い研究結果だと思います。初期の地球は、たくさんの隕石が降り注ぐマグマ・オーシャンだったというイメージがすり込まれてしまっていますが、その期間はかなり短かったのかも知れません。

写真はジルコンの結晶 Image: Copyright Dr. Richard Busch; Image source: Earth Science World Image Bank

2008年12月21日日曜日

リアルタイム世界災害情報

ハンガリーのサイトが提供している世界災害情報です。天災、人災を問わず、ありとあらゆる種類の災害が地図上にプロットされています:
掲載されている災害は、地震、津波、火山噴火、磁気嵐、洪水、ハリケーン、サイクロン、台風、熱波、寒波、火災、感染拡大、バイオハザード、大規模交通事故、墜落事故、などなど。情報は、数分おきに自動的に更新されます。様々なウェッブ・サイトの情報を収集・総合して表示するマッシュアップの技術が使われているためか、表示が完了するまでに時間がかかる場合があります。

地図上のマークにマウスポインターを合わせると、簡潔な災害情報がポップアップ、さらにマークをクリックすると詳細情報のページが表示されます。地図上にマウスポインターを載せたまま、マウスのスクロール・ダイヤルを回すと地図の縮小・拡大ができます。また、地図を拡大した状態で、マウスを左クリックしたまま動かすと地図を任意の方向にスクロールすることができます。

地図の下には、災害情報をまとめた表が用意されています。表の各行の右端にある"Read"あるいは"Result"と書かれている部分をクリックすると、詳細情報が表示されます。

火星の風

同じくフェニックスの動画で、10月に公開されたものです。こちらは、火星の風に揺れる観測装置が写っています:
画像に添えられている説明によると――これら一連の画像が撮影された当日、一枚の画像だけが「位相の不一致」を起こしていた。撮影の瞬間に、フェニックスがダスト・デビル(塵旋風;小規模なつむじ風)に巻き込まれたと考えられる。ダスト・デビルの前後の風速は毎秒7メートル、ダスト・デビルの通過時には毎秒11メートルを記録した――とのことです。

背後の空では、なにやら不穏な雲が移動しているように見えます。ひょっとしたら、雲ではなく砂塵が舞っているのかも知れません。

この風に揺れている観測装置の全体像を、以下のページで見ることができます:
この装置は高さ約10cmです。フェニックス本体から上に高く延びている気象観測マストの最上部に取り付けられています。こちらの動画では、この装置(特に「×」印のついた板)に、徐々に霜が付着していく様子が捉えられています。

火星の雲

NASAが12月15日に公開した火星の雲の動画です。火星の北極圏に着陸して、様々な探査活動をおこなったフェニックス・ランダーが撮影しました:
画像に添えられている説明によると――フェニックスが、日照不足のために探査活動を停止する約1か月前に撮影した映像を動画にしたもの。嵐の接近や、降雪の可能性を示している――とのことです。

こちらは、今年の9月に公開された火星の雲の動画です:
画像に添えられている説明によると――10分間隔で写した10枚の写真をつなぎ合わせて動画にしているので、雲の動きは実際より速くなっている。カメラは、真南からすこし西を向いていたので、雲はおおよそ西~西北西に向かって流れている。雲は氷の結晶から構成されていて、地球の巻雲と類似している――とのことです。

火星にも地震が起きていることを示す間接的な証拠が、いくつか報告されています。いわゆる「地震雲」のような雲が現れれば面白いのですが、飛行機雲が存在しない火星の空では望み薄です(grin)

2008年12月20日土曜日

地震の2日前に謎の大轟音――セネカ・ガンか?


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米国サウス・カロライナ州で、現地時間12月16日(火)の朝、M3.6の地震がありました。震源に近いサマービルやチャールストンでは、棚からものが落ちる、私道に亀裂が入る、などの軽微な被害があったようです。サウス・カロライナ州は地震が少ない地域で、地震は年間2~5回発生、規模はM2~5程度、今回と同程度の規模の地震が前回発生したのは2007年とのことです。下記は地震の発生を伝える記事の一例です:
この地震の2日前、12月14日(日)の昼過ぎ、サウス・カロライナ州の大西洋沿岸で原因不明の大きな音がとどろき、警察や消防への通報が相次ぎました。この大轟音が今回の地震の前兆ではなかったのか、と取りざたされています:
上記の記事をまとめると次のようです:
  • 地震の2日前、日曜日の12:30ごろ、サウス・カロライナ州の大西洋沿岸で大きな轟音が聞こえた。通報者の中には家が揺れたと報告する者もいる。
  • 地震専門家は、轟音の聞こえた時間帯に鋭敏な地震計にも震動の記録はない、超音速戦闘機F18などの起こした衝撃波ではないか、との見解。
  • セネカ・ガンといわれる現象(海底の亀裂からガスが放出されるときに大きな音が発生する?)を調査した専門家は、セネカ・ガンと地震の関係を示す情報は少ない、地震計にも記録が残らない、と説明。
  • 超音速戦闘機が実用化される前から、サウス・カロライナ州などの大西洋沿岸地域では大きな音の存在が知られていた。様々な説明が試みられてきた――海軍の大砲、海底の地すべり、海底のメタンガス噴出、隕石の落下、シンク・ホールの存在など。
  • 1811~1812年のニュー・マドリード大地震(複数のM8級地震)では、先行して発生した地震(複数)が大きな音をともなっていた。
  • 1886年に発生したチャールストン地震(M7.3)では、数週間にわたって頻繁に余震が続いたが、そのほとんどすべてが大きな爆発音をともなっていた。
地震と音の関係については、USGS(米国地質調査所)の下記ページに詳しい説明があります:
サウス・カロライナ州の沖合には(と言ってもかなり距離がありますが)、有名な「バーミューダ・トライアングル」があります。謎の大轟音、ひょっとしたら……という気がしないでもありません。

2008年12月18日木曜日

マグマ溜まりに孔をあけてしまった男たち

舗装道路を横切る玄武岩質の黒い溶岩流(ハワイ島で筆者撮影)

今週は、サンフランシスコでAGU(米国地球物理学連合)の秋季大会が開催され、様々な研究発表がおこなわれています。そのため、地球科学分野の新しい知見が次々にニュースサイトをにぎわせています。その中の一つ、ジョーンズ・ホプキンス大学のブルース・マーシュ(Bruce D. Marsh)教授の発表を紹介します:
記事の内容をまとめると以下のようになります:
  • ハワイ島(ハワイ諸島最大の島、ホノルルのあるオアフ島とは別)東部のキラウェア山麓で、民間企業が地熱エネルギー源を探すための試掘ボーリングをおこなっていた。その試掘孔が、深さ2.5kmという浅い場所で、火山のマグマ溜まりに到達してしまった。マグマ溜まりから逆流したマグマは、5から10メートル上昇したところでボーリング・ドリルの冷却液に触れて固化した。
  • マグマの専門家マーシュ教授が呼ばれ、調査にあたった。同教授によれば、これまでマグマ溜まりのマグマを直接観察した例はない。これまでの観察は、マグマが地表に流れ出て、溶岩と呼ばれるマグマの最終形態になってからおこなわれていた。溶岩では、マグマに含まれるガスはほとんど大気中に散逸してしまっている。溶岩とマグマでは、博物館で恐竜の骨を観察するのと、野外でうなり声を上げている生きた恐竜を観察するほどの違いがある。
  • ハワイ島で見られる溶岩はほとんどすべて黒く流動性の高い玄武岩質で、海洋底地殻を形成する岩石と同じものである。一方、今回マグマ溜まりで直接観察されたマグマは、二酸化ケイ素分が多く粘り気の強い石英安山岩質であった。石英安山岩質マグマの化学的性質は、大陸を形作る花こう岩と類似している。今回、マグマ溜まりに到達したボーリング孔は、海洋性の玄武岩から、大陸を形作る岩石が分化する現場を観察させてくれる。
ハワイの火山から流れ出る溶岩は、ほとんどが黒く粘り気の少ない玄武岩質です。ハワイ島を訪れた方は実感されると思いますが、島の至るところで黒い玄武岩質の溶岩を見ることができます。日本からの直行便が到着するコナ国際空港は、滑走路の周囲にも黒い溶岩がたくさん露出しています。地表に流れ出る溶岩はほとんどが玄武岩質であるのに、地下のマグマ溜まりでは、人知れず白っぽい安山岩質の溶岩が分化し、さらに花こう岩に変化していっているというのは、不思議な感じがします。

2008年12月16日火曜日

悲惨なウェディング トップ10

イギリスの新聞『ミラー』のサイトが次のような記事を掲載しています:
結婚式と披露宴での失敗や災難など、10件がリスト・アップされています。動画も3つ入っています。笑ってすますことのできるものもあれば、けが人が出てしまった深刻なものなど、色々です。

3番目にリスト・アップされているのは、結婚式の最中に四川大地震(今年5月12日)に遭遇したカップルです。純白のドレスもほこりまみれになり、式を挙げていた教会も崩壊しています。"shocking snaps"と書かれている部分をクリックすると、その様子を撮した写真集を見ることができます。

私の好みは、"Cake Catastrophe"(ケーキの大惨事)と題された8番目の動画です。少々不器用な新婦がウェディング・ケーキの頂上部分を床に落としてしまうのですが、そのあと ……。

スウェーデンで1世紀ぶりの強いゆれ

Credit: U.S. Geological Survey

スウェーデン南部で、現地時間16日火曜日の早朝(日本時間同日午後2時20分)、マグニチュード4.7の地震が発生しました。同国でおきた地震としては、1904年以来約1世紀ぶりの強い地震とのことです。震源の深さが10kmと浅かったため、マグニチュードの割には揺れが大きく、海をはさんだ対岸のデンマークやポーランドでも有感地震となっています。人的被害はでていない模様です:
スウェーデンでは10月16日にマグニチュード3クラスの地震が北部で発生しています。またポーランドでは、12月12日にマグニチュード3.5の地震が南東部でおきています:
数年前から、ヨーロッパで有感地震の報道が増えているように思います。今年2月下旬には、イギリスで同国の観測史上2番目と言われる強い地震がありました。有感地震のめったにおきないオランダやドイツでも有感地震の報道がありました。

ヨーロッパの地震情報については、USGSも手薄ですので、下記を参照するとよいと思います:

2008年12月15日月曜日

地震データが示す恐るべき傾向!?

以前、日本テレビ系列で『特命リサーチ 200X』という番組が放映されていました。その中で、様々な調査をおこなう架空の会社として『ファー・イースト・リサーチ(F.E.R.C./極東リサーチ株式会社)』が登場していたことを、記憶されている方も多いと思います。これと似たような調査チーム"Horizon Project"がアメリカにあります。

この調査チームが次のような報告をしています:
まとめると、「USGS(米国地質調査所)のデータでは、死者数の多い破壊的な地震がここ数年で急激に増えており、地球のテクトニック・システムが前例のない変化を起こそうとしていると考えられる」という内容です。この報告に添えられている地震数の推移を示したグラフの拡大版が下記にあります:
このグラフを見る限り、たしかに2000年以降に地震の数が激増しています。本当なのでしょうか。このグラフは、USGS(米国地質調査所)が提供している下記のリストに掲載されているマグニチュード6から8までの地震の数を示しています。
注意しなければいけないのは、このUSGSのリストは冒頭に"Selected earthquakes of general historic interest"と明記されている点です。一般の歴史的関心の高い地震を選択したリストであって、すべての地震を公平に網羅したものではないということです。最近の地震ほど一般の関心は高いでしょうし、観測態勢の整っていない古い時期の地震ほど記録が少ないことは容易に想像されます。したがって、この"Horizon Project"が提示したグラフは、地震が近年急増していることを証拠立てるものではない、と言えます。

USGSは、地震数の統計表を提供しています:
このページの中程にある"Number of Earthquakes Worldwide for 2000 - 2008"という表を見てください。期間は短いですが、世界中で発生した地震の数をマグニチュード別に示しています。マグニチュード6クラス以上の地震数に大きな変化はありません。むしろ、マグニチュード3、4、5の数が2004年以降増加しています。

もう一つ注意していただきたいのは、"Horizon Project"のグラフとUSGSの表では、前者の方の地震数が少ないことです。前者の縦軸は地震数の目盛りが40までしかありません。一方、後者の表では、マグニチュード6以上の年間地震数は常に100を越えています。この点だけを見ても、"Horizon Project"がグラフ作成に使ったUSGSのリストが、"selected earthquakes"であったことが明らかであろうと思います。

かつて放映された『発掘!あるある大事典』という番組でねつ造騒動がありましたが、もし日本のテレビ局が上記のようなデータを使って地震番組を作ったとしたら、ねつ造とはいわないまでも視聴者の非難を浴びることになるでしょう。

Photo: Courtesy National Oceanic and Atmospheric Administration; Image source: Earth Science World Image Bank

2008年12月14日日曜日

フロリダの夕空とイランの地震


いわゆる「地震雲」など、空で起こる現象から地震を予知できると考えている人はかなりいるようですが、人によって現象の解釈の仕方は千差万別です。文化や宗教的背景が異なれば、いっそう違いが大きくなります。下記のサイトは、私が偶然見つけたサイトですが、アメリカ・フロリダ州の夕空に現れた雲の形象などが、イランのバムで発生した大地震の予兆であったと主張しています。

ここでいう地震とは、イランの都市バム近郊で2003年12月26日午前5時26分(現地時間)に発生したマグニチュード6.6の地震です。震源が10kmと浅かったため、震源に近いバムでは、12段階ある改正メルカリ震度階級で震度9("破壊的")を記録、死者3万1000人を出しています。バムは、2004年にユネスコによって世界遺産「バムとその文化的景観」に指定されていますが、その中心となる古代の城塞遺跡もこの地震で大きな損傷を受けました。

このサイトは、「バイブル・ドクトリン・ニュース」と銘打ったキリスト教系のサイトですが、「現在の出来事に対する慈愛に満ちた神の視点」という副題や、バイブル・ドクトリンとして「イスラエルを呪うものは、神がアブラハムと交わした契約によって呪われる」、「イランの地震とカリフォルニアの(大規模)土砂崩れは、イスラエルに敵対する者に下された神の裁きの表象である」などという文言があり、相当にバイアスのかかった内容です。その点をあらかじめご承知おきください。
ページの冒頭に、バムで大地震が発生する約3時間前にフロリダ州で撮影された夕空の写真が3枚、掲げられています。写真はクリックすると拡大します。小さな字で注釈が書き込まれているので、拡大して見た方が良いでしょう。

この3枚の写真について、次のように解釈しています:
  • 左の写真について: 太陽のすぐ下に暗い直線が見える。この写真を撮影する直前には、この直線は太陽を貫いていた。暗い直線は大地の表面を表している。太陽は、イランを表すスポットの上に正確に位置している。
  • 中央と右の写真について: “アースクエイク・エンジェル”が明瞭に見える。エンジェル(天使)は地震を引き起こす(「マタイによる福音書」28章2節、「ヨハネの黙示録」8章5節、16章17節~19節)。
左の写真について: 太陽の真下、写真の下辺中央に"Iran"と書かれています。この方向がイランだということなのでしょう。"WEST"と書かれた矢印が、撮影地での西の方角だとすると、やや南よりの西方向にイランがあると認識しているようです。メルカトル図法で描かれた地図では、たしかにフロリダとイランのバムはともに北緯28°あたりに位置していますので、西か東に進めばイランに到達すると考えるのは無理からぬことです。しかし、実際は地球が球体であるのでそうはなりません。フロリダから見てイランは北東の方角にあると考えるのが普通です(反対方向に遠回りをするのなら南西)。東京から見てサンフランシスコがほぼ真東に位置するように地図上では見えても、実際はそうではないことと同じです。

中央と右の写真について: おそらく、薄く黒い雲の形が、翼を広げた天使を横から見た姿に見えているのだと思います。聖書の文言にもとづいて、天使は地震を象徴していると考えているようです。「マタイによる福音書」と「ヨハネの黙示録」で、天使が地震を引き起こしたという記述のある章・節を掲げています。それらの記述を日本聖書協会の「聖書本文検索」から引用します:
マタイによる福音書 28章 2節 ―― すると、大きな地震が起こった。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったのである。

ヨハネの黙示録 8章 5節 ―― それから、天使が香炉を取り、それに祭壇の火を満たして地上へ投げつけると、雷、さまざまな音、稲妻、地震が起こった。

ヨハネの黙示録 16章 17節-19節 ―― 第七の天使が、その鉢の中身を空中に注ぐと、神殿の玉座から大声が聞こえ、「事は成就した」と言った。そして、稲妻、さまざまな音、雷が起こり、また、大きな地震が起きた。それは、人間が地上に現れて以来、いまだかつてなかったほどの大地震であった。あの大きな都が三つに引き裂かれ、諸国の民の方々の町が倒れた。神は大バビロンを思い出して、御自分の激しい怒りのぶどう酒の杯をこれにお与えになった。
写真以外に、地震の発生年月日、時刻、震源の経緯度などの数字を数秘術的に解釈しています。たとえば、地震発生日時「12月26日午前5時56分52秒」の「26」はバビロン、「56」は「落下」、「52」は「壁」を意味するので、イランの古い都バムの城塞遺跡が崩落することを暗示している、といった具合です。そして、イランの地震などの災害を、神とアブラハムが結んだ契約にもとづいて、イスラエルに敵対するものに下された天罰であると結論づけています。

地図は、バム地震のP波到達時間です。フロリダとイラン・バムの位置関係を示すために掲載しました。Theoretical P-Wave Travel Times: courtesy of the U.S. Geological Survey

2008年12月13日土曜日

アルメニアとバルカン半島で大地震のうわさ

アルメニアで大地震のうわさが広がり、地震防災当局の責任者が否定の記者会見をする騒ぎになっています。以下は、アルメニアのニュースサイトに掲載された記事です:
アルメニアは、カフカス山脈の南にあり、北はグルジア、東はアゼルバイジャン、南はイランとアゼルバイジャンの飛び地、西はトルコに囲まれた小国です。20年前の1988年12月7日に死者2万5000人を出したスピタク地震(M6.8)がおきています。

今回のうわさの発端は、アルメニア科学アカデミーの「専門家」がテレビに出演して、自分たちが運用しているラドン・ガス測定ステーション(複数)の計測結果では、ラドン・ガスの濃度が通常よりも高まっている、これは地震の前兆と考えられる、と発言したことでした。おりしも、スピタク地震から20周年ということで地震に対する関心が高まっていたことも、うわさの広がりを加速したようです。

NSSP(National Survey for Seismic Protection of Armenia アルメニア地震防災国家調査局(?))のトップが記者会見を開いて、うわさを否定しました。その内容は上記の記事によると ―― NSSPは全国に150の観測拠点をもち、40のパラメーターを常時観測、地震の危険を評価している。ラドンガスについても、20ヵ所以上で測定しているが異常はない。いかなる国も地震の発生場所と日時を予知することはできない ―― というものです。

アルメニアでは毎年この時期になると、スピタク地震の記憶がよみがえり、地震に対する警戒感が高まるようです。日本でも、毎年9月1日の「防災の日」が近づくと、関東大震災との関連で週刊誌が地震に関する特集記事をのせ、大地震のうわさが流れることがあります。これと似た心情なのかも知れません。

上の2番目の記事では、記事の筆者が自分の実体験として、スピタク地震当日は非常に濃い霧が立ちこめていたと書いています。いわゆる「地震霧」かとも思いましたが、アルメニアでは毎年この時期には濃霧が多いとのことです。

一方、バルカン半島でもマグニチュード7級の大地震がおこるとのうわさが流れているようです。下記は、ブルガリアのニュースサイトに掲載された記事です:
地図はスピタク地震の震央を示しています。
Map: courtesy of the U.S. Geological Survey

2008年12月12日金曜日

大地震と火山噴火の連動性

オクスフォード大学の研究者が大地震と火山噴火の関係について発表し、いくつかのメディアも伝えています:
発表内容をまとめると次のようになります:
  1. チリ南部の地震と火山について、過去150年分の記録を統計的に分析した結果、非常に大きな地震があったあと約1年間は、火山噴火の数が最大4倍程度にまで増加する。
  2. 震源から最大500km離れた火山まで地震の影響を受ける。
  3. 影響を受ける火山は、活火山、休火山を問わない。
  4. 予想外だったのは、震源と影響を受ける火山の距離が大きかったこと(最大500km)と、火山活動が活発化するまでの時間が長かったこと(数ヶ月)。
  5. 1906年と1960年の大地震(史上最大の地震)では、6つないし7つの火山が噴火した。この地域では、通常は年間1つの火山噴火がある程度。
  6. これまでも、大地震の後に火山が噴火した事例は科学者によって指摘されてきた。しかし、地震と火山噴火が偶然同じ時期に起こったのか、両者の間に因果関係があったのか、確証がなかった。今回の研究は、因果関係があったことを統計学的に明確にしている。
  7. 研究対象となったチリ南部の地震と火山噴火の関連性について初めて示唆したのは、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンで1835年のこと。
日本では、地震と火山噴火の関連性について文部科学省が研究にのりだしたという報道が数ヶ月前にありました。主として、東海・東南海・南海地震と富士山噴火の関連性を調べるものです。下記は、文部科学省の平成21年度予算概算要求についての資料(pdf形式)ですが、6ページ目の「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」(概算要求額:11億8100万円)のなかに「地震および火山噴火発生の連動性評価」という項目が含まれています:
Image Courtesy Austin Post / USGS; Image source: Earth Science World Image Bank

世界天文年2009

来年は、ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡をつかった天体観測をおこなってから400年になるのを記念して、世界天文年(International Year of Astronomy)と定められています。主催はユネスコと国際天文学連合(IAU)で、
"The Universe - Yours to Discover"、「宇宙 … 解き明かすのはあなた」を標語として、日本を含む世界各地で様々なイベントや啓蒙活動がおこなわれる予定です。
以下は、「世界天文年2009」のプロモーション・ビデオです。冒頭に流れる声は、故ケネディ大統領、つづいてアポロ11号で月面に第一歩を記したときのニール・アームストロング船長です。私は、背景に流れる音楽が気に入っています:



ネット上のブログや掲示板を見ていると、天体の動きなどについて、おかしな言説やとんでもない誤解を見かけることがあります。私も、このブログで誤りを指摘するなどして、世界天文年の活動の一端を多少なりとも担えればと思っています。

2008年12月11日木曜日

今年最大の満月

日本時間12月13日(土曜日)午前1時37分に満月となりますが、この満月、非常に大きく見えるはずです。理由は次のとおりです ――
地球の周囲を回る月の軌道は楕円形をしています。このため、月と地球の距離は周期的に変化します。月と地球が最も近づく点が近地点(Perigee)、最も遠くなる点が遠地点(Apogee)です。月が近地点近くにあるときに満月を迎えると、距離が近い分、その満月は大きく見えることになります。
来る13日の満月は午前1時台、月が最も地球に近づく(近地点通過)のは午前7前後、で時間的に非常に近接しています。そのため、満月の見かけの大きさ(視直径)が33′30″にもなります。近地点通過時には、地球と月の距離は35万6567kmになります。地球-月の平均距離38万4401kmと比べると約8%も近づいていることになります。

下記の写真は、2006年の満月を撮影したものです。左側が遠地点、右側が近地点にあるときの満月です。大きさの違いがどの程度のものか、おわかりいただけると思います:
また、今回の満月のときには月の赤緯が最北となります。「月の赤緯が最北」とは、天球上で月と北極星の距離が最も短くなること、すなわち、月が南中する(真南に来る)ときの高度(仰角)が最も高くなることを意味します。満月が南中するするのは真夜中ですが、このとき、月は空の非常に高いところから地上を照らすことになります。

関東大地震(関東大震災)や兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)などの大地震では、地震の前に月が大きく見えたという証言が残っています。このため、今回の満月に関連して「これは地震の前兆ではないか」という類の投稿が、地震前兆関係の掲示板などで増えることが予想されます。しかし、今回満月が大きく見えるのは、純粋に天体力学的計算によって、あらかじめわかっていることですから、心配することはないと言えます。

2008年12月10日水曜日

電離圏にみられる地震前駆現象

電離圏(電離層)の変化から地震を予知しようという研究は、フランスやロシアが先行しており、日本は取り残されている感がありましたが、日本の研究者(現在は台湾の大学に所属)を中心とするチームが日本の人工衛星(「ひのとり」)を使って研究した成果がAGU(米国地球物理学連合)の発行する『JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH』誌に11月25日付で掲載されています:
JAXA(宇宙航空研究開発機構)のサイトにも紹介記事が掲載されています:
上記JAXAの発表から引用します ――
「ひのとり」による観測期間中、フィリピンで発生したマグニチュード6.5以上の3つの地震に伴う電離圏電子温度の変化について調べた結果、地震の発生約5日前から震央上空周辺の電離圏電子温度が通常の状態(電子温度経験モデル温度)から低下しはじめ、地震発生日にはその差が最大となり、地震後約5日をかけてまた通常の温度に回復することが見出されました。「ひのとり」による観測結果により地震前兆電離圏擾乱の存在が多くの人に納得できる形で示されました。
(中略)
地震によっては電離圏に影響が見られない時もありましたが、地中深く起こった地震、海岸から遠く離れた場所で起こった地震の場合でした。また、磁気嵐が発生すると磁気嵐の影響と地震の影響が区別ができない場合があるようです。
このような観測事実は、今年5月の四川大地震の前に観測されていた変化など、これまで他国の研究者が発表してきた観測データとよく似ていると思います。

なお、「ひのとり」は1981年2月に打ち上げられ、1991年7月に落下した人工衛星で、太陽硬X線フレア、太陽粒子線、X線バーストなどの観測を目的としていました。重さは188kgで、月周回衛星「かぐや」などに比べると比較的小型の衛星でした。

2008年12月8日月曜日

地震からクジラ類の座礁を予測

クジラやイルカが集団で海岸に乗りあげる現象は、しばしば地震の前兆ではないかとささやかれます。しかし、逆のことを考えている人もいます:
上記は『サイエンス・ブログ』に12月7日付で掲載された記事ですが、要約すると次のようになります:
12月7日、南米・フランス領ギニア沖の大西洋中央海嶺で、M5.8とM4.9の海底地震がおきた。震源の深さはともに10kmと浅い。震源周辺の海域は、クジラやイルカがイカ類を補食する餌場である。今回の海底地震で発生した圧力波によって、この海域で潜水していたクジラやイルカの群に、10分の1程度の割合で聴覚器官の気圧障害が発生したと考えられる。この聴覚器官の障害によって、エコーロケーション能力(自ら発する超音波によって周辺の様子を把握したり、餌を見つけたりする機能)が損なわれ、潜水や捕食に支障が生じ、さらにサメ類などに襲われやすくなる。これらの危険を生き延びた場合、海流や彼らの回遊コース、1日あたり約100マイル(約160km)の移動速度を勘案すると、約30日後の来年1月上旬にアメリカ・フロリダ州の海岸でクジラやイルカ類の集団座礁が発生する可能性がある。
つまり、クジラやイルカの集団座礁現象は地震の前兆ではなく、地震の結果であるという考えです。

クジラの集団座礁事件として最近大きく報道されたのは、オーストラリア・タスマニア島での一件です:
この座礁事件では、11月22日に64頭、29日に200頭前後が座礁し、救助活動がおこなわれたにもかかわらず、多くの個体が死にました。この出来事についても、下記記事によれば10月26日に南極海で発生したM5.1(震源の深さ10km以浅)の地震が原因だとのことです:
上記記事には、クジラの群の推定移動経路とオーストラリア周辺の海流図が載っています。

地震はさておき、
環境保護団体がクジラやイルカ類に大きな影響を与えるとして問題にしているのが、海軍の艦船が使用するアクティブ・ソナー(超音波を発信し、他の艦船や魚群によって反射されて戻って来るまでの時間から距離を測り、反射音の方向から目的物の方向を知る。[広辞苑])です。カリフォルニア州の沖合では、環境保護団体からの差し止め請求を連邦地裁が認め、海軍がソナーを使うことに制限が加えられていました。しかし、このほど(11月12日)、連邦最高裁がこの差し止め請求を認めない決定を下しています:

カナダで大火球

11月20日の夜、カナダ西部のアルバータ州からサスカチュワン州にかけての地域で、轟音とともに大火球が落下するのが目撃されました。重さ約10トンの小惑星が大気圏に突入したものですが、TNT火薬100トン分のエネルギーを放出したと推定されています。以下は、パトロール・カーの車載カメラがとらえた映像です。火球が急激に増光し、目がくらむような光を発しながら地表に到達する様子が捉えられています:
最近は上記のような車載カメラのほか、防犯カメラ、お天気カメラ、Webカメラなどが普及したため、今回の火球も様々な方向から記録されており、YouTubeのサイトには多数の映像がアップされています。下記のリンクをクリックすると映像の検索結果一覧が表示されます:
映像のなかには、街の上空を飛行中のヘリコプターから撮影されたものもあります。火球そのものは撮影視野に入っていませんが、街の空が明るく発光する様子が写っています。ネット上の地震前兆を扱う掲示板などで、雷が鳴っているわけでもないのに曇った空が一瞬光る現象が、宏観異常として報告される場合がありますが、なかにはこのような大火球の落下が原因のものがあるのかも知れません。

その後、現地では隕石の破片が50個以上見つかっています。最大のものは14kgの重さがあるとのことです。下記は、最初に見つかった破片と第1発見者の大学院生の写真が掲載されているニュース記事です。隕石の破片は凍結した池の表面に半分めり込むような状態になっています:
当初は、国際宇宙ステーションで船外作業中の宇宙飛行士が紛失したツールバッグが大気圏に突入して火球になったのではないか、との憶測も流れましたが、そうではなかったようです。ツールバッグはその後も「順調に」地球のまわりを周回している様子が観測されています。

2008年12月6日土曜日

ロスト・イン・スペース(2)

スペースシャトル・エンデバーの女性宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでの船外活動中に紛失したツールバッグですが、その後、地球を周回する衛星軌道にのったことが確認されています。以下は、夜空を横切るツールバッグを地上から撮影した動画です:



肉眼や双眼鏡で見た場合の衛星に比べると、かなり速く移動しているように見えます。しかし、ツールバッグが他の人工衛星よりも速い速度で地球を周回しているという事実はありません。おそらく、倍率の高い光学機器を使って撮影したためだと思います。視野の中に写っている星の数が少ないことも、そのことを示しています。

衛星となったツールバッグは“ISS Toolbag”と命名され、国際宇宙ステーションなどに危険をもたらす可能性のある宇宙ゴミ(スペース・デブリ)の一つとして追跡・監視されています。比較的明るいので、双眼鏡でも観測可能とのことです。

いつ頃、どの方向に双眼鏡を向けると“ISS Toolbag”を見ることができるのかについての情報は、以下のサイトで得られます:
Satellite Tracker
上記サイトで、国名・都道府県名・市町村名を選択すると、その地点で観測可能な日時や方向が表示されます。ただし、アメリカのサイトなので、市町村名の選択肢はかなり怪しいです。たとえば神奈川県の大和市は“Yawato”となっていたり、その都道府県にはない市町村名が選択肢に入っていたりします。選択後に“Go!”のボタンを押して、表示される情報の上部に書かれている緯度と経度が、選択した場所と大きく違っていないか念のために確認した方が良いでしょう。

上記のサイトの情報によれば、たとえば東京の赤坂で次に“ISS Toolbag”が見えるのは、12月7日午後5時52分頃からで北北西の方角、仰角52°、明るさ6.6等級となります。

2008年12月5日金曜日

ロスト・イン・スペース

先月、スペースシャトル・エンデバーの女性宇宙飛行士(Heidemarie Stefanyshyn-Piper氏、長い名前です)が、国際宇宙ステーション(ISS)での船外作業中にツールバッグを紛失しました。船外活動中に失った工具や部品としてはこれまでで最大(約14kg、50cm×30cm、10万ドル)とのことです。

以下は、そのツールバッグを紛失したときの映像です。“Oh boy!”(あら、まぁ)と叫んでいますが後の祭りです。大きな布製の容器の中にある何かを捜しているときに、じゃまになるツールバッグを脇にどけようとして手を離してしまったようです。見方によっては、捜しているものがなかなか見つからず、いらいらしてツールバッグを放り投げてしまったようにも思えます。工具を失ったために、エンデバーのスケジュールに大きな遅れが発生しました。女性宇宙飛行士は、船外活動から ISS にもどって仲間と顔を合わせるときが一番つらかったと、のちに述懐しています。



船外活動用の宇宙服には SAFER(Simplified Aid For Extravehicular activity Rescue)jetpack という装置が、背中にせおった生命維持装置の下部に取り付けられています。これは窒素ガスのジェットを噴射して宇宙空間での移動を可能にするもので、宇宙飛行士がジョイスティックで噴射方向を操作することができます。これを使えば、漂っていくツールバッグを追いかけて回収することもできたのではないかと思いますが、SAFER はあくまでも命綱が外れて宇宙飛行士が宇宙空間に放り出されたときなどの非常用ということで、今回は使わなかったようです。

2008年12月4日木曜日

最大瞬間風速からの地震予知

先週(11月24日~27日)、茨城県つくば市で日本地震学会2008年秋季大会が開かれました。その大会プログラムを見ていると、
  • 「最大瞬間風速からの地震予知(3) ―2008年 岩手宮城内陸地震の予知― 猿渡隆夫」
という発表が目にとまりました。ネットで検索してみると、今回の発表内容そのものは見つかりませんでしたが、同じ発表者が過去に行った発表内容が見つかりました:
要旨から抜粋すると次のような内容です:
  • 数ヶ月から数年ぶりの最大瞬間風速が記録された場所付近が震源地の可能性が高い。
  • 強風日から1週間から2ヶ月後、約1ヶ月前後で発生する地震が多い。
  • 地震の大きさは、最大瞬間風速約20m/s以上の強風地域の大きさと相関する。
  • 最大瞬間風速20m/sについては、地殻、海岸地域、平野部と山間部では異なるので、補正が必要。
  • 震源地近傍の最大瞬間風速の風向が、逆断層では圧力軸に、正断層では引張軸に、横ずれ断層では圧力軸あるいは引張軸に一致する傾向がある。
  • これらの傾向は、(大地震だけではなく)普通の地震にも敷衍できる。
  • 最大瞬間風速にもとづく地震予知の問題点は、地震発生の予測が1週間から2ヶ月と幅があること。また、大きい地震が発生するのか、より規模の小さい地震に分かれて発生するのかが不明であること。
発表者は、大学や研究機関ではなく企業に勤める在野の研究者のようです。(2)の文書では、名前の下に「武田薬品環境安全室」と書かれています。参照文献リストに『ポケット図解 最新地震がよ~くわかる本』(島村英紀、秀和システム)が載っていて、専門の研究者ではないことをうかがわせています。

今回の発表(3)を見ていないのではっきりしたことは言えませんが、(1)と(2)の内容から判断する限りでは、統計的検定が不十分で疑似相関の可能性を排除できないと私は思います。地震と強風の間に因果関係がない場合でも、特定の地震についてその発生の2か月前まで遡れば、強風の吹いた日はかなり見つかるのではないでしょうか。

2008年12月3日水曜日

マグライトを天体観測用に改造するキット

アメリカの天文雑誌『スカイ・アンド・テレスコープ』に掲載されていた記事です:

Maglite Night Vision

単3乾電池を使うミニマグライトを天体観測用に改造するキットです。手持ちのミニマグライトの電球と反射鏡を、赤色発光ダイオードを使った部品に交換し赤い光(他の色もあり)を出すようにするものです。発光ダイオードは電球よりも消費電力が少ないので、結果的に電池も長持ちするようになるとのことです。

天体観測の経験がない方にはわかりにくいかも知れませんので説明します ―― 夜間、天体を観測するには、暗い環境に目を慣らす必要があります。目が暗い環境に慣れるということは、瞳孔が開いた状態になることですが、これにはある程度の時間がかかります。一方、星の位置を示す星図など、手元の資料を見るときには懐中電灯で照らす必要があります。このとき懐中電灯が明るすぎると、せっかく暗い環境に慣れていた目がもとの瞳孔が閉じた状態にもどってしまいます。天体を見るためには、再び目が暗闇に慣れるまで待つ …… の繰り返し。これを防ぐために、懐中電灯の発光部に赤いセロファンをかぶせてビニールテープで固定するなどして、懐中電灯の明るさを減らすと同時に、目にとって刺激の少ない赤い色が出るようにすることが行われます。上記のキットは、このような改造をスマートにしてくれそうです。

2008年12月2日火曜日

夜空のスマイリー・フェイス

12月1日、金星・木星・月の3天体が空の一角に集まり、スマイリー・フェイス(笑顔)のように見える現象が世界各地で見られました。あたかも夜空が地上に向かってほほえみかけているような風情です。 世界各地の新聞がこの「笑顔」の写真を掲載しています。その中からいくつかを紹介します:


向かって左側の目が金星(宵の明星)、右側の目が木星、そして口が三日月です。金星はマイナス4.1等級で輝いており、今後さらに明るくなっていきます。木星はマイナス2.0等級、月はマイナス7等級(12月1日現在)です。

「笑顔」の傾き: 南半球のオーストラリアと北半球の日本では、「笑顔」の傾き方が異なっています。これは地球儀をイメージすると理解できます。地球儀の上で日本とオーストラリアの上に小さな人形を立てたところを想像してください。それぞれの人形にとっての地平線が大きく異なっていることが理解できると思います。このために、同じ星座や今回のような惑星と月の組み合わせを見ても、地平線との角度が違って観測されるわけです。

「笑顔」の長さ: オーストラリアで撮影された「顔」と日本で撮影された「顔」を比較すると、日本の方が面長になっています。これは撮影時刻が異なるためです。月は相対的に移動の速度が速いため、一晩のうちに恒星や惑星との位置関係が変化します。月は金星の方に向かって移動しているので、上記の写真が撮られた翌日の12月2日には、金星と月が 0°48′まで接近します。(もちろん、これは地球から見た場合の見かけ上の接近です。実際に金星と月の距離が大きく短縮するわけではありません。)

地球照: 上にあげた写真の中には、三日月の影の部分がうっすらと写っているものがあります(特にアデレードの写真に顕著です)。これは地球照と呼ばれる現象です。これについては「世界大百科事典」(平凡社)から引用します:
ちきゅうしょう  地球照 earthshine 新月前後の数日間、月の細く光った部分以外の暗い面が、淡いながらかなりはっきりと見える。これは地球に反射された太陽光が月面を照らしているもので、地球照という。新月のころは、地球の太陽に照らされた面が、ほぼ月のほうに向いている。地球のアルベドや大きさは月より大きいので、このとき地球は、満月の約90倍の明るさで月面を照らしている。半月に近くなると地球照は見えなくなる。
つまり、新月の前後は、月から見ると地球は満月ならぬ「満地球」になっており、月の夜の部分(地球から見れば暗い部分)は地球からの光でこうこうと照らされているわけです。

天王星・海王星: なお、肉眼では見えませんが、金星や木星が見えている宵の西ないし南西の空には、天王星と海王星も光っています。

2008年12月1日月曜日

「ヘビが原因」停電多発 ―― 岩手県

岩手日報の記事です:

  「ヘビが原因」停電多発 県内で今年10件 (11月3日付け)

記事によると、岩手県内の「停電件数自体は年々減少傾向だが、ヘビによるものは徐々に増加し、今年は特に多かった」とのことです。ヘビが架線に登って感電・ショートすることで停電が起きるようです。なぜヘビが架線に登るのか、記事に書かれているように、餌を狙ってというものが多いと考えられます。しかし、観天望気についての昔からの言い伝えでは、気象条件によってもヘビが高いところに登ることがあるようです。また、地震前の宏観異常として、ヘビが高いところに登った等々、ヘビの異常行動についての記録が多く残っています。

今年6月14日には、岩手県内を震源として「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」(M7.2、深さ8km)が起きています。