2016年6月21日火曜日

衝上断層


地震に関するトンデモ説を展開しているウェブサイト(*)を見ていたら、熊本地震で発生した断層(あるいは亀裂)がほぼ垂直に道路を断ち切っている写真とともに、「衝上断層(垂直に近い断層)」、「このような断層が現れるメカニズムは通説の『断層地震説』では絶対に説明できないはず」などと書かれていました。

衝上断層(しょうじょうだんそう)とは、断層面が水平に近い角度の断層をさす言葉であって、このウェブサイトが書いているような「垂直に近い断層」ではありません:

このウェブサイトには、往々にしてこのような基礎的な誤解や間違いがあるので注意が必要です。

私の知り合いにも誤解している人がいました。同義の「衝き上げ断層」や英語の〝thrust fault〟(thrust=強くグイッと押す)から受ける印象がそのような誤解を生むのかも知れません。断層の上盤側が下盤側の地表に乗り上げているような場合もあるので「乗り上げ断層」とした方が誤解が少ないかも知れません。『広辞苑』には「押し被せ断層」(断層面がほぼ水平かそれに近い衝上断層)という言葉も載っています。

写真の断層(というよりは陥没)は熊本県阿蘇市の狩尾地区(地図)に現れたものです:

件のウェブサイトは、この「衝上断層」の出現は地震学の定説では説明できないから専門家たちは議論を避けているのではと示唆していますが、5月下旬に開かれた学会で議論があったようです。大きく分けると2つの考え方があって、「連続的ではないが、溝状の地盤破壊が直線上に存在している。(引っ張られる力で地盤がずり下がる)正断層による陥没では」とする説と、「カルデラ内に表層から深さ数十メートルまで火山灰層に覆われた地点があることに注目し、『断層の存在も否定できないが、より地盤のゆるい地域が陥没したのではないか』。かつて川があった場所は、さらに地盤が緩くなる」とする説があるようです。私は後者の方ではないかと思っていますが、結論はボーリング調査や人工地震探査を待ってからということになりそうです:

(*) http://www.ailab7.com/


関連記事