2016年6月16日木曜日

江戸時代の地震予知機


「予知機は『江戸期の安政地震の前は、磁石からくぎが落ちた』との逸話から、磁力が弱まると歯車が回って鐘を鳴らすよう作られた」:

「磁石からくぎが落ちた」という逸話は、『安政見聞録』に載っているものです。その部分を現代語に直してみました:
浅草かや丁大すみという眼鏡屋は、3尺有余(約1m)の大きさの(天然)磁石を持っていた。あの2日(安政江戸地震当日の旧暦10月2日)の夜8時ごろ(地震の約2時間前)のことらしいが、その磁石に吸い付かせていた古い釘や錠前などの鉄でできた物が全部落ちてしまったそうだ。眼鏡屋の主人はそれを見て大変驚き、この石をわざわざ売ろうとは思わなかったが、店の看板にもなるし、珍しい大きさだから大名の方々の目にとまれば何かよいこともあるだろうと(店先に)置いておいたのだが、鉄を吸い付けなくなればただの石だ。おそらく、長い年月が経ったので自然に磁力が薄らいだのだろうが、大損をしてしまったと不愉快に思った。夜更けの10時ごろに大地震が起こった。地震の後、その磁石に鉄を近づけると以前のように吸い付いたので、大地震がある前には磁石が鉄を吸い付けなくなることを発見したという話のよしである。

「浅草かや丁」は安政江戸地震の震源から約6kmのところです。

この眼鏡屋が看板代わりに使っていた天然磁石は、今はどこにあるのでしょうか。もし発見できれば、現代科学で再現実験などの検証ができると思うのですが。

『安政見聞録』の原文は、『地震前兆現象 予知のためのデータ・ベース』(力武常次、東京大学出版会、1986)を参照しました。


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