ニュージーランドでケン・リング (Ken Ring) 氏の地震予報が話題になっています。リング氏は、月と地球の位置関係をもとに気象パターンの長期予報を行っている人物で、通称「ムーンマン」(Moonman)。あるニュース記事には 「神秘主義者まがいの数学者」(quasi-mystic mathematician) とも紹介されています。気象台の予報よりもリング氏の情報を頼りにする農業従事者も多いのだそうです。
以下は、リング氏のウェブサイトと同氏の地震予報の方法を説明したページです:
リング氏は、昨年 9月 4日に起きたカンタベリー地震(M7.0)を、ラジオ番組のインタビューで的確に予報していたのだそうです。
そして、今年 2月 22日にクライストチャーチを襲った M6.3 の地震についても、約 1週間前の 14日にツイッターで次のようなメッセージを発信していたということです:
Potential earthquake time for the planet between 15th-25th, especially 18th for Christchurch, +/- about 3 days. Short... and sharp.
15日から 25日の間に地震発生の可能性あり。クライストチャーチについては特に 18日± 3日程度。急激で・・・激しい。
さらに、今回のクライストチャーチの地震の 4日前、すなわち 2月 18日には次のような報道やブログ記事がありました:
- Quake prediction 'like a horoscope' (「マールボロ地方」の新聞; 同地方はクライストチャーチのある「カンタベリー地方」の北に隣接)
- a (shaky) date for your diaries (ワイカト大学のブログ)
上記の記事が伝えているのは、リング氏が昨年 9月のカンタベリー地震の後に自身のウェブサイトに掲載した次のような地震予報です:
Next year, the morning of 20 March 2011 sees the South island again in a big earthquake risk for all the same reasons. This date is the closest fly-past the moon does in all of 2011. The node arrives on the 20th at 9.44am. As that date coincides with lunar equinox this will probably be an east/west faultline event this time, and therefore should be more confined to a narrower band of latitude. The only east/west fault lines in NZ are in Marlborough and N Canterbury. All factors should come together for a moon-shot straight through the centre of the earth and targeting NZ. The time will be just before noon. It could be another for the history books.
来年、つまり 2011年 3月 20日の午前、(ニュージーランドの)南島に再び大地震のリスクがある。根拠はこれまでと同じだ。この日は、月が 2011年中ではもっとも(地球に)近づく日である。交点(node)は 20日の午前 9時 44分にやってくる(注 1)。この日は “lunar equinox” でもあるので(注 2)、今度はおそらく東西方向の断層による地震になるだろう。東西方向の断層ということから、(震源は)もっと狭い緯度の範囲に限定される。ニュージーランドで東西方向の断層があるのは、マールボロ地方とカンタベリー地方の北部だけである。すべての要因が重なって、月の力が地球の中心を一直線に貫いてニュージーランドを標的とするはずだ。(地震が発生する)時刻は正午直前だろう。この地震は、歴史書に記録されるもう一つの地震になるかも知れない。
マールボロ地方とカンタベリー地方については、以下の地図を参照してください。地図中の 「12」がマールボロ地方、「14」がカンタベリー地方です。後者の中心都市がクライストチャーチです:
3月 20日に月が地球に接近することについては、このブログの「エクストリーム・スーパームーン」(3月 3日付)、「エクストリーム・スーパームーン (補足)」(3月 4日月)、「エクストリーム・スーパームーン (補足-2)」(3月 4日付)を参照してください。
リング氏が 3月 20日に起きると予報した地震が、実際には約 1ヶ月早く 2月 22日に起きてしまったのか、あるいは 3月 20日にさらに別の大地震がおきるのかは定かでありません。
リング氏の地震予報については、当然のことながら科学者から批判が噴出していますが、それについては稿を改めて紹介したいと思っています。
(注 1) 原文の “node” は、天文学では交点 ―― 天体の軌道が基準面と交わる二つの点 ―― を意味しています。天体が基準面(通常は太陽の軌道を含む黄道面)を南から北に横切る点を昇交点、逆を降交点と呼びます。月が黄道面を北から南に横切る降交点通過が日本時間 19日午前 11時 7分頃に起きます。しかし、これをニュージーランドの夏時間(日本時間+4)に換算しても、リング氏の書いている「20日の午前 9時 44分」とは合致しません。その他、月の視赤経が 12時 00分となるのは 20日 午前 8時 26分ごろ、視黄経が 180度 00分となるのは 20日の 午前 5時 04分ごろ(ともに日本時間)で、やはり合致しません。また、文脈上は “The node” を月が地球に接近する時間帯の「中心時刻」 と訳すことも可能ですが、月の近地点通過は日本時間で 20日の午前 4時 9分で、やはりリング氏の書いている時刻とは一致しません。
(注 2) “lunar equinox” は、月の昇交点通過や降交点通過を意味していると思われますが、「注 1」で書いたように、日付や時刻が一致しません。ちなみに、占星術では黄道面に対する月の昇交点をドラゴンヘッド(Dragon's Head)、降交点をドラゴンテイル(Dragon's Tail)と呼んで、特別の意味を見いだしているようです。
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