トランスフォーム断層が縦断する南島
ニュージーランドの主要部分は北島と南島という 2つの島からなっています。
上記ブログ記事の最初の図は、ニュージーランドの地勢の概観です。右下の震源球から伸びている矢印の先端付近で今回の M7.0 の地震が起きました。
図の右上から南下し、ニュージーランドの北島の東側を回り込むようにして南島の北東端に上陸しているのがケルマディック海溝(Kermadec Trench)です。同海溝は北でトンガ海溝につながっています。ケルマディック海溝ではほとんどの部分で付加体が形成されていません。しかし、南端部分(ニュージーランド北島の東側)では付加体が発達して海溝が埋め尽くされ浅くなっているため、ヒクランギ・マージン(Hikurangi Margin)あるいはヒクランギ・トラフと呼ばれています。
ケルマディック海溝-ヒクランギ・マージンでは太平洋プレートがオーストラリア・プレートの下に沈み込んでいます。この沈み込み帯は右横ずれの成分を持っています。そのため、この沈み込み帯がニュージーランド南島に上陸するとマールボロ断層帯(MFZ)とアルパイン断層(AF)という右横ずれのトランスフォーム断層となります。今回の M7.0 の地震は、この断層帯の南側で発生しました。
アルパイン断層は南島の南西で再び海に出て、マッコーリ海溝につながります。マッコーリ海溝では、ケルマディック海溝とは逆に、オーストラリア・プレートが太平洋プレートの下に沈み込んでいます。このように沈み込む主体が逆転する現象は、台湾でも見られます。台湾の北では、琉球海溝でフィリピン海プレートがユーラシア・プレートの下に沈み込んでいるのに対して、台湾の南では、マニラ海溝でユーラシア・プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込んでいます。
プレート境界の移動
2番目の図は、今回の M7.0 の地震がなぜマールボロ断層帯-アルパイン断層のかなり南で発生したかを説明するものです。
ケルマディック海溝-ヒクランギ・マージンは後退=南下しています。この沈み込み帯の後退=南下によって、それに連なるマールボロ断層帯も徐々に南に広がると同時に、活動的な部分も南に移っていることをこの図は示しています。
今回の M7.0 の地震は、このようにして南に広がりつつある部分の前衛で発生したと考えられます。まだ確定しているわけではありませんが、今回の M7.0 の地震は、新たに形成された断層で発生したとの報道があります。すでに、全長 22km、水平方向に最大 4m ずれた新たな断層が 16000年前に堆積した地層を切り裂いて地表に現れているのが見つかっています。科学者によれば、この断層が見つかった地域では氷河期以降地震活動は起きていなかったとのことです。
また、今回の大地震はきわめて短時間のうちに発生した 2つないし 3つの地震が重なったものだとの見解も出されています。
なお、沈み込み帯が後退する(海洋プレートの移動方向とは逆の方向に海溝の軸が移動する)現象は日本海溝でも起きています。そのため、日本海溝は日本列島から徐々に遠ざかっているとされています。
火山の分布
上記のブログ記事では触れていませんが、ニュージーランドの火山について補足します。ニュージーランドでは、北島に火山が多数分布しているのに対して、南島には火山がありません(火山地図)。これは、北島には東のケルマディック海溝-ヒクランギ・マージンから太平洋プレートが沈み込んでいるので島弧型の火山が形成されるのに対して、南島には沈み込んでいるプレートがないので、火山が形成されないということで理解されます。
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