警戒レベルを下げるにあたって、Phivolcs は 4つの理由を挙げています:
- 1日あたりの火山性地震の数が減少し、7月の第 2週以降は通常レベルにもどっている。過去 2週間は 1日あたり 0 ~ 5回の地震が発生しているが、7月 2日以降は有感地震が発生していない。
- 中央火口の北側および北東側と Daang Kastila での熱水や水蒸気の活動は弱まっている。中央火口にある火口湖の水温の上昇が止まり、6月 8日以降、33℃から 34℃の範囲に落ち着いている。
- Daang Kastila と中央火口で連続観測している地温と全磁力の観測では、大きな変化が起きていない。
- 北東、南東、南西の山麓で7月 13日から 21日にかけて実施した精密水準測量では、ごくわずかな山体の膨張しか検出されなかった。これは、深部からの新しいマグマの供給がないことを示している。
タール山の警戒レベルが 「2」 に引き上げられたのは 6月 8日のことです。そのときは、Phivolcs の所長も自信満々で、すぐにでもタール山が噴火しそうな雰囲気があったのですが、すぐに「失速」状態となっていました。これまで何度か、Phivolcs が警戒レベルの引き下げを検討しているという報道が流れましたが、けっきょく 8月に入ってからの引き下げとなりました。なんだか、梅雨明け宣言を出し損ねたときの気象庁のようです。
ところで、上記理由の 「3」 で「全磁力の観測」という文言が出てきましたが、誤解されている向きもあるので補足します。火山噴火が迫り地下深くから新しいマグマが上昇してくると、火山がそれまで持っていた磁場が弱まります。マグマの熱によって火山の山体を構成する岩石が磁力を失うからです。これは「熱消磁」という現象で、クリップなどを吸い付けた棒磁石や馬蹄形磁石をアルコール・ランプなどで加熱すると、クリップが落下するという小・中学校の理科の実験を記憶している方もおられるのではないでしょうか。
このようにして山体内部の磁力が熱消磁によって弱まることによって、火山全体がもつ磁力の分布が変化します。火山の磁力と地磁気との「打ち消し合い」や「強め合い」によって、北半球にある火山では火口の南側で磁力が弱まり、北側では相対的に強まります。
全磁力の観測については以下にわかりやすい解説があります:
- 全磁力観測 (PDF形式、1ページ)
火山学者は全磁力観測によって、火山内部の温度分布を推定し、ひいてはマグマがどのあたりに上昇してきているかを判断します。以下はその実例です。特に「図 3」に注目してください。マグマの南側で地磁気が弱まり、北側で相対的に地磁気が強まっている様子がわかります:
- 十勝岳における地磁気全磁力変化 (PDF形式)
火山に関する電磁気現象全般については、以下に包括的な解説があります:
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