アトランティスの機体は、着陸した西海岸のカリフォルニアから南東部のフロリダまで、特別仕様のボーイング 747 の背中に乗って空輸されることになります。この空輸の費用が 2億円近くかかるため、NASA は最後の最後までフロリダへの着陸に希望をつないでいました。
今回のアトランティスのミッションは、打ち上げから 19年が経過したハッブル宇宙望遠鏡の機能向上と保守です。宇宙飛行士による長時間の船外活動によって、新しい観測装置の取り付けや、古くなった装置の交換がおこなわれました。今回の作業によって、ハッブルは少なくとも 2014年までは運用が可能となりました。ハッブルへのスペースシャトルの飛行は、今回が 5度目で最後です。今後は、故障が起きても修理されることはありません。「歴史を通じておそらく最も重要な科学装置」と呼ばれるハッブル宇宙望遠鏡ですが、その最終的な運命は、2020年以降に無人のロケットによって大気圏まで曳航され燃え尽きることになっています。 その時のためのドッキング装置も今回の作業で取り付けられました。
すでに何度か紹介したことのある『ボストン・グローブ』紙の “The Big Picture” が今回の宇宙飛行の写真集を掲載しています:
私のお薦めの写真は次のとおりです(番号は各写真の左下に記されているものです):
6 工具の数々
ハッブル宇宙望遠鏡の機能向上や保守の作業で宇宙飛行士が使う工具の写真です。無重力状態でネジを回そうとすると、反作用で宇宙飛行士が逆向きに回転してしまいます。そこで、ドライバー(ネジ回し)には反作用を打ち消す機構が組み込まれています。7 2機のシャトル
今回の船外作業では、ハッブルに取り付けられているネジの一つが固着していて、これらの工具ではどうしてもはずせないという事態が起こりました。このネジをはずさないと、ハッブルの外壁をあけて内部の作業がおこなえないということで、たった 1つのネジをはずすために 1時間以上の悪戦苦闘が続けられました。しかしネジは回らず、最終的に NASA が地上から宇宙飛行士に与えた指令は「力ずくで取り外せ」というものでした。具体的にどのようにしたのか、報道からはわかりませんが、“brutal force” ― つまり腕力をつかって部品をむりやり取り外したとのことです。
打ち上げ準備中のアトランティスです。奥にもう 1機、これも打ち上げ準備中のスペースシャトル・エンデバーが見えています。2機のシャトルの打ち上げ準備が同時におこなわれることはまれです。エンデバーはアトランティスの救助用に準備されています。18 太陽面を通過
通常の国際宇宙ステーション(ISS)への飛行任務では、シャトルの機体に致命的な障害が発生しても、乗組員は ISS に避難して救助を待つことができます。ISS には空気や食料の備えが十分にあります。しかし、ISS よりも高い軌道を回るハッブル宇宙望遠鏡に接近するミッションでは、燃料の制約があり、非常時に ISS に避難することができません。非常事態が発生してから救助用のシャトルの打ち上げを準備していては、アトランティス船内の電力や空気が尽きてしまう恐れがあるため、あらかじめ救助用としてエンデバーを待機させることになっています。
アトランティス帰還後は、エンデバーは救助用待機のミッションを解かれ、次回のミッションに向けての準備がおこなわれます。次回のミッションでは ISS まで飛行し、物資を補給し、滞在している日本の若田宇宙飛行士や他の飛行士を地球に連れ帰る予定になっています。
太陽面を通過するアトランティスとハッブルを地上の望遠鏡で撮影した写真です。このような写真を撮影するには、撮影場所と時刻を周到に計算する必要があります。太陽の表面に黒点がまったく見られないことにも注目してください。同じ撮影者が公開している写真集が以下にあります:22 捕まえた!
26 ハッブルと飛行士ハッブル宇宙望遠鏡をアトランティスの窓越しに撮影した写真です。アトランティスのアームがハッブル宇宙望遠鏡をつかんで、シャトルの船倉に引き込もうとしているところです。
ハッブル宇宙望遠鏡の手すりにつかまる宇宙飛行士の姿です。ハッブル宇宙望遠鏡の大きさが実感できる 1枚です。さらに別の写真集が以下にあります。最後の 1枚が特に印象的です。シャトルの窓越しに船内をのぞき込む宇宙飛行士を撮影したものです: