2012年8月5日日曜日

〝恐怖の7分間〟迫る (その2)


8月4日付「〝恐怖の7分間〟迫る (その1)」からの続きです。
時速200マイル(320km)まで減速すると爆発ボルトによってパラシュートが切り離され、スカイクレーンは1秒間の自由落下をします。続いて逆噴射ロケットが点火します。 
逆噴射ロケットは降下速度を時速1.5マイル(2.4km)まで低下させるとともに、横方向の力を加えて、より速い速度で落下してくるパラシュートを回避します。 
スカイクレーンが火星の地表から60フィート(18m)まで降下すると、蜘蛛が糸を伸ばすように、3本のナイロン製ロープにつるされたキュリオシティが少しずつ下に向かって下ろされます。スカイクレーンは、キュリオシティを20フィート(6m)下にぶら下げた状態で降下を続けます。キュリオシティが地表に接触すると爆発ボルトによってロープが切断され、キュリオシティは外部との最後の物理的接続を失います。スカイクレーンは飛び去り、火星の赤い砂に突入して、その驚くべき使命を終えます。 
びっくりするぐらい複雑にみえるかも知れませんが、「複雑にみえるシステムが実際には火星着陸をシンプルにしているのです」とセル氏は説明します。 
バイキング1号バイキング2号マーズ・フェニックス・ランダーなどのミッションでは、逆噴射ロケットを使いながら高度を下げ、着陸脚を使って火星表面に降り立ちました。その他のミッションではエアバッグが使われました。キュリオシティにはそれらの方法が使えませんでした。 
「キュリオシティのように大きなサイズの場合、(強力な逆噴射ロケットが必要となるため)逆噴射ロケットは大量の埃を舞上げて探査機やその搭載機器を危険にさらします」とセル氏は説明します。「そのようなリスクに加えて、(着陸装置の上に探査車を搭載する方式では)キュリオシティのように大きく重い探査車が着陸装置から傾斜路を通って火星表面に下りる際の危険もあります」。  
それらのリスクを、パスファインダー、スピリット、オポチュニティはエアバッグを使うことによって回避しました。しかし、キュリオシティはエアバッグを使うには大きすぎました。 
 [訳注: 探査車本体の重量は、ソジャーナ(マーズパスファインダー)が10.5kg、スピリットとオポチュニティが174kg、キュリオシティは950kgです。]
「キュリオシティの着地をやわらげるのに十分な大きさのエアバッグは、打ち上げるには重すぎ、また費用もかかりすぎます。それに加えて、エアバッグが着地の負荷に耐えられるように非常にゆっくりと落下させる必要がありますし、キュリオシティが車輪を下にした姿勢でエアバッグが静止する必要もあります」。 
セル氏は、キュリオシティにとってスカイクレーン方式は理にかなっていると語っている。しかし、今でも彼は心配で夜も良く眠れないでいる。

スカイクレーン方式は複雑な手順のどれか一つでもうまく作動しないと(Zero Margin of Error)、25億ドル(約2000億円)を投じたプロジェクトが水泡に帰します。すべては、キュリオシティが火星大気圏に突入してから着陸するまでの7分間で決まるということで、関係者はこの時間を〝恐怖の7分間〟(Seven Minutes of Terror)と呼んでいます。

百聞は一見にしかず、以下の動画をご覧ください。スカイクレーン方式による火星着陸や、着陸後の探査活動が描かれています。高精細の動画ですので、全画面表示で見ることをお勧めします:

以下は、キュリオシティの着陸手順を1枚にまとめた画像です:

キュリオシティが火星に着陸するとき、火星から地球までの距離は2億4800万kmあり、キュリオシティの発した電波信号が地球に届くまで13.8分かかります。

うまくいってほしいとは思いますが、なんど考えてみても、すべてがうまく行くとは思えません。着陸時にキュリオシティと地球の間の通信を中継することになっている火星周回衛星〝マーズ・オデッセイ〟が、7月11日に原因不明のセーフ・モードに陥るということがありました。現在は正常に復帰しているのですが、不吉な前兆のように感じます。

キュリオシティが搭載している観測機器のうち、私が注目しているのはChemCam(Chemistry and Camera)です。これは、探査車から7mの範囲内にある物体にレーザー光線を照射して蒸発させ、その時に発する光を分光分析して物体の成分を知る装置です。以下はキュリオシティがその装置を使っている様子の想像図です。もし現場に火星人がいたら、キュリオシティを攻撃的・敵対的な侵略者と見なすかも知れません(笑):

(完)


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