2009年11月12日木曜日

大気圧の変動が地滑りのきっかけに

大気圧の変動が、地震、地滑り、火山噴火、氷河の移動などのきっかけになりうるとの研究成果が発表された、と『USA トゥデイ』紙の記事が伝えています:
以下は記事の抄訳です:
どのようなタイプの気象がきっかけとなるのか?

研究の中心人物で米国地質調査所(USGS)に所属する William Schulz 氏は次のように語る。それは地震が起きやすい地域の周辺を通る気象システムのスピードに依存する。急速に移動する低気圧―嵐―は、ある種の地滑りや地震を引きおこす。低気圧が通過しているときには、地面に加わる力が減少し、土壌に含まれる空気や水の分子が上に向かって移動する。この移動によって、ふだんは土壌や岩石を支えている摩擦が減少し、地滑りや地震を起こす潜在的な要因となる。

一方、異常に高い気圧が長期間続く場合、穏やかで静かな天候になるが、これも地滑りや地震のきっかけとなりうる。高い気圧は大地の不安定化をもたらすからだ。

Schulz 氏とその同僚たちは、コロラド州南西部で起きている大規模できわめてゆっくりと移動する地滑りを、9ヶ月間にわたって分析し、「大気潮汐」(atmospheric tides)が地滑りにどのように影響するのかを調べた。この大気潮汐とは、太陽が大気を暖めることによって生じる 1日サイクルの大気圧の上下である。

この研究は、地震と気象の間の関係について提出されたピア・レビュー済みの研究報告としては 2番目のものである。『ネイチャー』誌の 6月号では、台湾の ChiChung Liu 氏の研究チームによって、アジアにおける地震の幾ばくかは台風に伴う気圧低下によって起きている可能性があると報告されている。

この研究について、コロラド州ボールダーにある国立大気研究センター(NCAR)の研究主幹である Maura Hagen 氏は次のように語っている――これは非常に興味深い論文で注目すべき結論だ。この研究は「大気の変動と地滑りの移動の間に強い相関がある」ことを示している。さらにこの研究報告は、大気から地表面にいたる全地球システムが一体であり、相互接続されたシステムであると指摘するすばらしい業績である。
上記記事のもとになった研究報告は、『ネイチャー・ジオサイエンス』誌に最近掲載されたもので、以下にそれを伝える『ネイチャー』誌のニュース記事があります。記事の全体を読むのは有料で登録が必要です。無料では、残念ながらほんの一部分しか読めません:
『USA トゥデイ』紙は、「大気圧の変動が、地震、地滑り、火山噴火、さらには氷河の移動までも、のきっかけになりうる」と書き、地滑りと、それ以外の地震、火山噴火、氷河の移動を同列に扱っています。しかし、発表された研究そのものは地滑りについてのものです。この点について、『ネイチャー』の記事(有料版)では次のようになっています:
Schulz and his team go one step further. They suspect that atmospheric tides could be involved in other phenomena that involve sliding surfaces, including earthquakes, volcanic eruptions and glacier movement.

シュルツ氏とその研究チームは、(地滑りだけではなく)もう一歩先を考えている。彼らは、大気潮汐が摺動面(滑り面)をもつ他の現象、すなわち地震、火山噴火、および氷河の移動、にも関与しているのではないかと思って(suspect)いる。
つまり、地滑り以外の現象については、大気潮汐の影響があるのか否か、まだ実際には調べられていないのです。その点で、『USA トゥデイ』紙の記事は、やや勇み足であり、ミスリーディングであると思います。

研究対象となった地滑りは、“Slumgullion landslide”(スランガリアン地滑り)あるいは“Slumgullion Earthflow”(スランガリアン土流)と呼ばれる現象で、コロラド州南西部にあるサン・フアン山脈で発生しているものです。約 700年前に始まった地滑りで、全長 4km。現在もゆっくりと、1時間あたり平均 0.5mm のスピードで土砂が移動しているのだそうです。日本で大雨の時などに発生する土砂崩れとは、地理的にも時間的にもスケールが違っているようです。
「スランガリアン」とは、シチュー料理の名前だそうです。地滑りの土砂の黄色っぽい色やゴチャゴチャな状態が、その料理の見かけに似ていることから、初期の植民者によってそう呼ばれるようになったとのことです。どんな料理なんでしょうか。