2009年3月20日金曜日

スペース・シャトルの打ち上げ延期

日本人宇宙飛行士の若田光一氏を乗せたスペースシャトル「ディスカバリー」が無事打ち上げられ、国際宇宙ステーションにドッキングしました。当初予定よりも約 1か月遅れての打ち上げでした。

この打ち上げの遅延について、以下のような記述を見かけました:
どうもこのミッション、妨害行為か・宇宙へ若田さんを行かせたくないという工作が有る様です。

こんなにスペースシャトルが燃料漏れを起こすのはまず、通常は有り得ない・と思っておいて良いでしょう。NASAのほうで資金面に不満が有るのかあ~・とも思っています。日本人を宇宙に1人あげることに無料という事は有りませんので。

(「地震の掲示板ブログ」 http://8816.teacup.com/tamajin/bbs 2009年 3月 12日)
上記を書いた人は、 2007年にも次のように書いています:
NASAはどうも日本人宇宙飛行士をスペースシャトルに搭乗させたくないという思いが強い様ですね。いつも思うのは、日本人が乗るとなると何かと問題が起きた・という事で先延ばしにする傾向が有る様です。これまでに2人しか宇宙へ行っていませんし、契約金の事も有るみたいです。燃料タンクの異常などは最初から見つける事が出来るためこれが理由ではないですが、その様にわざと言うのでしょう。

(「ドライブ旅行・運転、他」 http://sun.ap.teacup.com/drtamajin/ 2007年 12月 10日)
明らかな誤解です。しかし、上記を引用することにしたのは、批判するのが目的ではありません。人間が知らず知らずのうちに陥ってしまう誤謬・錯誤・錯覚・思いこみなどの非常にわかりやすい事例だからです。先の記事「銃乱射事件と満月」(3月 16日付)でも書いたように、判断の根拠となるデータに偏りがあると、誤った結論が導き出されてしまいます。このスペース・シャトルの打ち上げ延期云々の場合、偏りは、シャトル打ち上げについての情報源にあると考えられます。

スペース・シャトルは、日本人が搭乗している、搭乗していないに関わらず、さまざまな理由で打ち上げの延期が頻繁に発生しています。1度の延期もなく当初の予定どおりに打ち上げられたのは、これまでのすべての打ち上げの約 25% しかありません。75%、つまり 4回の打ち上げのうち 3回は延期が発生しています。特に、コロンビアの空中分解事故以降は、NASA が安全面に極めて慎重になり、いっそう打ち上げ延期の頻度が高まっています。延期が発生する率は 75% よりも高くなっており、むしろ 100% に近いのでは、というのが実感です。

欧米の報道、特に科学技術系のニュースでは、日本人が乗っていてもいなくても、スペース・シャトルの打ち上げや、それが延期されたことがきちんと報道されます。しかし、日本の一般的なメディアは、日本人が搭乗しないスペース・シャトルの打ち上げやその延期については無関心で、ほとんど報道しません。したがって、日本の報道だけを情報源としていると、日本人の搭乗するシャトルだけがしょっちゅう打ち上げ延期になっているとの印象を持つようになってしまいます。

このような誤謬や思いこみを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。まず第一に、自分が依拠している情報源が偏っているのではないかと、常に意識することです。第二に、データ(数字)で確認することです。たとえば、「日本人の搭乗するシャトルは打ち上げ延期が多い」と感じたら、日本人が搭乗していない場合には延期がどの程度発生しているのかを調べ、比較することです。このような確認を怠ると、上記のような誤った思いこみに陥ることになってしまいます。