2009年3月31日火曜日

キラウエア山の噴煙の色が突然変化

下記のページに掲載されている動画をご覧ください。ハワイ諸島最大の島・ハワイ島にあるキラウエア山の山頂から立ちのぼる噴煙の色が、白色から突然褐色に変化する様子が写っています:
ハワイ火山観測所(HVO)の説明によると、火口内でおきた崩落によって噴煙の色が褐色に変化したとのことです。

キラウエア山は、活動レベルがやや高い状態が続いています。亜硫酸ガス(二酸化硫黄)の噴出が、2003年から 2007年までの平均では日量 140トンであったのに対して、今年の 3月 25日には 800トンに増加しています。

沖縄トラフの地震

書きそびれていましたが、3月 27日早朝、沖縄トラフでこの付近としては大きめの地震が発生し、最大震度 2 を記録しています。気象庁の資料では M5.7、深さ約 150km、米国地質調査所(USGS)の資料では M6.0、深さ 155.9km です。

単なる勘違いなのか、あるいは相変わらず沖縄トラフと琉球海溝(南西諸島海溝)を混同しているのか、「沖縄県の沖で M5.7 が有った様です」と書いているブログがあります。しかし、上掲の震央地図(USGS 提供)ではっきりわかるように、震央は Naha(那覇)の北西にあります。地図中の赤い線は沖縄トラフの中心軸、紫の線は琉球海溝の中心軸を示しています。

この震央地図が掲載されている元のページ(Magnitude 6.0 NORTHWEST OF RYUKYU ISLANDS)には、以下のような注記がつけられています:
Major Tectonic Boundaries: Subduction Zones -purple, Ridges -red and Transform Faults -green
この注記にしたがって上掲の震央地図を見ると、USGS は、琉球海溝を収束軸、沖縄トラフを中央海嶺と同類の拡大軸と認識していることがわかります。

下記のリンクをクリックすると、今回の地震の震央を示したグーグル・マップが表示されます。沖縄トラフという舟状海盆と、琉球海溝の地形的な違いがはっきりわかります。
Image Credit: U.S. Geological Survey

コディアク島沖で地震連続

アラスカ州のコディアク島南方沖で、現地時間の 30日、連続して地震が発生しました。最大のものは M5.4(下記記事では M5.7)です。米国地質調査所(USGS)のリストには、現時点で 10回の地震が掲載されています。
コディアク島はクック・インレット(入り江)の出口に近く、現在活発な火山活動を続けているリダウト山のほぼ真南約 300km のところにあります。南にはアリューシャン海溝があり、太平洋プレートが沈み込んでいます。今回の一連の地震はこのプレートの沈み込みにともなうものと思われます。

コディアク島付近での太平洋プレートの沈み込み方向(スリップ・ベクトル)が、精確にリダウト山の方に向かっているわけではありませんが、今回の一連の地震とリダウト山の火山活動には何らかの関係があるのかもしれません。

Image Credit: U.S. Geological Survey

リダウト山の噴火パターンが変化

このブログの 3月 25日付の記事「リダウト山で泥流発生、石油基地にせまる」の続報です。

3月22日以来、リダウト山は 18回の噴火をおこしています。この噴火パターンが、これまでの激しい噴火から、継続的に火山灰の噴煙を上げる状態に変化してきているとアラスカ火山観測所(AVO)の専門家が語っています:
記事によれば、現地時間の30日(月)前後を境に噴火パターンが変化したが、これがいつまで継続するのかはわからず、急変することも十分にあり得るとのことです。

リダウト山からの泥流に取り囲まれている石油基地については、タンクに残されている 600万ガロン(約 22000キロリットル)の原油の抜き取りが検討されていますが、現時点ではまだ実施されていません。抜き取りを実施するためには、基地にタンカーを接岸させる必要がありますが、それは 4月の 4日から 6日の間になる見込みです。かりに、その期間に原油の抜き取りをおこなったとしても、100万ガロン程度はタンク内に残ってしまうとのことです。その場合、タンクが軽くなって泥流に対する抵抗力が弱まり、かえって海洋汚染のリスクが高まるとの指摘もあるようです。

サンフォード山にも噴火の兆候?

米国アラスカ州では、リダウト山が活発な活動を続けており、さまざまな被害や交通機関への影響などが出ています。このリダウト山は、アラスカの主要都市アンカレジの南西約 160km のところにありますが、逆の方向(東北東)約 320km のところにあるサンフォード山(Mt.Sanford)から白い噴気が上がっているのが目撃され、地元住民が不安を感じています。以下は アンカレジ・デイリー・ニュースの記事です:
サンフォード山は、海抜 4949m の火山ですが、アラスカに入植が進んだ 1700年代以降には噴火したとの記録はなく、地質学的な証拠から、最後に噴火したのは今から約 10万年前(別の資料では 32万年前)の洪積世とみられています。

「噴気」の通報を受けたアラスカ火山観測所(AVO)では、火山活動によるものではなく、気象現象によるものとしています。山体に沿って上昇した湿った空気が冷却され白く見えるようになり、それが山頂付近から立ち昇っている「噴気」のように見えているのだという説明です。さらに、次のようにも指摘しています ―― サンフォード山の南壁はほぼ垂直に約 2500m も落ち込んでおり、ふもとのサンフォード氷河への落石や氷雪の崩落が頻繁におこる。これが白い蒸気のように見えるプリュームを立ちのぼらせることもある。

2009年3月30日月曜日

突っぱるハト

昨日午後、神奈川県大和市内にあるスーパーの立体駐車場での出来事です。

買い物をすませた後、立体駐車場の最上階(屋上)に駐めていた車を運転して出口に向かいました。屋上から傾斜のある通路を下って一つ下の階に入るところの路面に一羽のハトがいました。減速してハトに近づきましたが逃げません。運転席からエンジン・フード越しにハトが見えるか見えないかというぎりぎりの位置まで近づいてもそのままです。ヘッド・ライトを点灯しても、エンジンを空ふかししても、軽く警笛を鳴らしても、少しおどろいたような仕草を見せるものの、その場に留まって逃げる様子はありません。まるで、そこから先は一歩も進ませないぞという意志があるかのように、こちらを睨んでいる感じでした。とうとう、こちらも腹をくくって(笑)、ハトを引いてしまってもかまわないという気持ちで車をゆっくり前進させました。ハトが前輪の車軸の位置ぐらいまで車体の下に入ったとおぼしきころだったと思います。ハトは、車の右前から飛び出して、車の右上にある天井の梁にとまりました。その梁にはもう一羽別のハトがいました。

日差しのあるときに屋上に駐車していたため、車内は暑く、窓を開けていました。そのせいで聞こえたのですが、二羽のハトのとまっているあたりから、雛の鳴き声が聞こえてきました。どうやら、生まれたての雛がいる巣の近くに私の車が近づいたため、親鳥が警戒行動をとったようです。最初は、「このハト、病気なんじゃない?」とか、「ひょっとして宏観異常?」とか思ったりしたのですが、子を思う親の行動だったと得心しました。それにしても、屋上の駐車スペースから降りてくる車すべてに、このような行動をとっていたら、たとえ二羽が交代でしていたとしても、身が持たないのではないかと心配です。

何年か前、東京の明治神宮でカラスに襲われたことを思い出しました。季節的には、今回よりもう少し暖かくなった時期だったように記憶しています。一人で参道を歩いていると、木の梢付近に大きな鳥の巣のようなものがあるのに気づきました。鳥の姿は見えなかったのですが、立ち止まって見上げていると、いきなり風を感じ、後頭部に何かがぶつかりました。黒い大きな鳥が飛び去るのが見えました。痛みはありましたが、頭に出血はありませんでした。嘴でつつかれたか、足の爪で引っかかれたのだと思います。やはり、私が見上げていた巣には雛がいたのでしょう。後でカラスの習性に詳しい方にうかがったのですが、カラスは集団で行動している人間や、反撃されるかもしれない強そうな人間(特に男性)に対しては、離れた場所から鳴き声などで威嚇することはあっても攻撃することはまれで、一人でいる弱そうな人間を背後から襲うことが多いそうです。どうやら、私は鳥に甘く見られているようです。

2009年3月25日水曜日

リダウト山で泥流発生、石油基地にせまる

一昨日の記事「リダウト山が噴火」の続報です。リダウト山は、今回の噴火開始以降これまでに 6 回噴火しましたが、現在は微小な地震が間欠的に続いているものの小康状態を保っています。

以下はアラスカのテレビ局のサイトが掲載している記事です:
この記事によると ――
リダウト山の噴火によって山腹の雪や氷が融解し、山麓のドリフト氷河に流れ込んで泥流が発生。泥流の幅は広いところで 1 マイル(1.6km)、氷河沿いの各所に滝ができている状態。泥流の先端はクック・インレット(インレットは「入り江」の意)に到達。海岸沿いにある石油基地を取り囲む状態になっており、石油基地を守る 6 つの堤防のうちの一つが決壊。同基地の人員はすでに避難しているが、600万ガロン(約 22000キロリットル)の原油がタンクに残っている。沿岸警備隊とアラスカ州環境保護局は、原油移送パイプラインを所有する企業とともに、原油の抜き取りの必要性や方法について検討中。リダウト山の頂上には溶岩ドームが形成されており、それが崩落することによって、新たな噴火がおこる可能性がある
―― とのことです。

以下の記事に、泥流の様子などを写した写真 6 葉が掲載されています:

2009年3月23日月曜日

リダウト山が噴火

このブログの記事「リダウト山の警戒レベル下がる」(3月12日付)のフォローアップです。米国アラスカ州アンカレジの南西約160kmにあるリダウト山(Mt.Redoubt)で、地震の頻度が上がり、マグマが岩盤を破壊しながら上昇している可能性が出たため、アラスカ火山観測所(AVO)は、日本時間の22日(日)15時09分、警戒レベルを “Advisory” から “Watch”(注意報)に上げ、航空経過レベルを「イエロー」から「オレンジ」に変更しています …… ここまで書いたところで状況が大きく変わりました。

日本時間 23日(月)15時38分、リダウト山が噴火を始めました。噴煙が 1500メートルの高さまで昇っているとのことです。AVO は、警戒レベルを"Warning"(警報)、航空警戒レベルを「レッド」(赤)に引き上げています。

下記、AVO が山頂近くに設置している地震計の 24時間連続波形も協定世界時(右側目盛り) 23日 6時台(日本時間 15時台)から振り切れています:

2009年3月21日土曜日

海洋底で見つかった古い化石

いま、『地球 46 億年全史』(リチャード・フォーティ、草思社、2009年)という書物を読んでいます。著者のリチャード・フォーティ氏は、次のような経歴の持ち主です:
1946年生まれ。古生物学者。大英自然史博物館古無脊椎動物部門主席研究員を退任し、2005年よりロンドン地質学会会長。専門はオルドビス紀の三葉虫と筆石類。著書に『三葉虫の謎』(早川書房)、『生命40億年全史』(草思社)ほか。
以前、同じ著者の『三葉虫の謎』も読みましたが、一般向けにここまで包括的かつ詳細に三葉虫について解説した本には出会ったことがなかったので、非常に興味深く、分厚い本ながら3日ほどで読み終えてしまいました。

さて『地球 46 億年全史』ですが、全体で 574 ページの分厚いハードカバーです。まだ 3分の 1ほど読み進んだだけですが、それでもハワイ諸島やヨーロッパ・アルプスの成因などについて、著者自身が現地を訪れて見聞したことがらや、過去の様々な学説が紹介されており、非常に興味深い内容です。それらの叙述の中から、実際に著者が経験したことについての記述を一つ紹介します:
二〇年以上昔のことになるが、私はロンドンの大英自然史博物館に勤務したばかりの頃、大西洋の深海から浚渫されたと思われる標本を受けとった。それは黒い頁岩で、そこには筆石と呼ばれる古代生物の化石が認められた。それらはただちにオルドビス紀のものと鑑定されたのだが、もしその石が海洋地殻から回収されたのだとすれば、プレートテクトニクス理論にとって大きな問題となりかねない(その地殻はすべてオルドビス紀よりずっと後のもののはずなのだ)。しかし顕微鏡で調べてみると、岩片には、深海にいるはずのない海洋生物の殻の残骸が認められた。つまり、その石塊はおそらく深海底に落っこちて、引き上げられるのをじっと待っていたのだろう。さらに調査を進めると、その頁岩の出身地はニューヨーク州のある特定の区域らしいとわかってきた。どうやらバラストだったらしい。船を安定させるために船倉に積み込む石がバラストで、帆船の時代にはごく普通に行われていた。理由はわからないが、そのバラストは、よそ者を載せたまま海底にばらまかれたのだ。そこにはほかにもよそからやってきた岩石があった。はるか北方からは、流氷によって花崗岩の丸石が運ばれてきた。もとはといえば大陸の斜面の端から海中に落ちた塊だ。
プレートテクトニクスの提示する地球観を受け入れられない守旧派の人たちは、プレートテクトニクスに矛盾する可能性のあるサンプルが見つかった場合、そのことを鬼の首でも取ったかのように喧伝します。しかし、その後どういう結論が出されたのかについては沈黙していることがほとんどですし、ときには「定説派」の学者たちが事実を無視したり、隠蔽したりしているかのようなことまで、さしたる証拠もなしに言いつのります。

しかし、実態はどうなのでしょうか。上に引用したリチャード・フォーティ氏の経験談は、ほんの一例にすぎませんが、そのようなサンプルが専門家の手にゆだねられ、きちんと検証されていることをうかがわせています。

なお、上記の引用文中で「流氷」と翻訳されている言葉は、「氷山」と理解した方が良いかもしれません。英語の原文がどのような言葉を使っているのかわかりませんが、たとえば、“floating ice”や“drifting ice”などは、水面を漂っている氷全般を指し、「流氷」や「氷山」の区別がありません。翻訳のさいに直訳的に「流氷」としてしまいがちですが、日本語では両者に区別があります。「流氷」は海面が結氷して生じた海氷が割れ、岸から離れて漂っているものを指すのに対して、「氷山」は陸上の氷床・氷河の末端が海に押し出され、漂っているものを指します。

写真は、アラスカ沖を漂う大量の岩石を含んだ氷山。このような氷山が融解すると海洋底に異質の岩石が堆積することになります。これらの岩石は、氷山から落下した岩石ということで「ドロップストーン」と呼ばれます。 Image Courtesy: Bruce Molnia US Geological Survey, Copyright © Bruce Molnia, Terra Photographics; Image source: Earth Science World Image Bank

地震後に海面に気泡、海水温上昇

3月11日から13日にかけて、中米・コスタリカ南部からパナマにいたる地域で、M5~M6 クラスで震源の深さが 10km 前後の浅い地震が少なくとも 4回発生しました。最大のものは 12日に発生した M6.3 の地震で、震源の深さは 9km でした。いずれも、ココス・プレートとパナマ・プレート(*)の境界で発生した地震と見られています。

一連の地震の後、太平洋側の海底から気泡がたくさん浮き上がってきているのを地元の漁師が発見し、科学者が調査をしていると、コスタリカのニュースサイトが伝えています。気泡の成分は、メタンと硫化水素とのことです。地震によって海底に亀裂が入り、天然ガスが放出されているとの見方がある一方、気泡は数十年前から浮き上がってきていたとの地元民の証言もあるようです。
専門家の調査では、気泡が浮き上がってきているあたりの海水温が周囲に比べて摂氏 2 度ほど高くなっていることが見つかっているとのことです。

(*)「パナマ・プレート」という名前は、上記ニュースサイトの記事に記載されているのですが、あまり知られていません。どうやら、ココス・プレートとナスカ・プレートの間にあり、東太平洋中央海嶺から分岐して東に伸びているガラパゴス海嶺の活動によって拡大を続けている海洋底を指すようです。一般的なプレートの名称については、以下の地図を参照してください:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年3月20日金曜日

トンガの噴火・地震・津波

昨夜の記事「トンガ沖で海底火山が噴火」の続報です。

噴火について

海底火山の位置について、情報が錯綜しています。ほとんどの報道では、トンガタプ島(トンガの首都ヌクアロファのある島)の南西海岸から約 10km の沖合としています。しかし、スミソニアン研究所と USGS(米国地質調査所)が共同で提供している下記の火山噴火情報では、首都ヌクアロファの北北西 62km の Hunga Tonga-Hunga Ha'apai が噴火していると記載しています。噴火が始まった日付や噴煙が高く立ちのぼった日付が報道と一致しています。しかし、まったく別の火山が期を同じくして噴火し始めたのかもしれません:
Hunga Tonga-Hunga Ha'apai の詳細情報や写真が以下にあります。この2つの島は安山岩質(ハワイなどは黒い玄武岩質)の岩石で構成され、海面下に隠れている大きなカルデラの西壁と北壁が海面上に出たものであるとのことです:
"Hunga"という言葉が何語なのかはわかりませんが、日本語の「噴火」と似ていて面白いと思います。

ご存知『ボストン・グローブ』紙の「ザ・ビッグ・ピクチャー」が今回の噴火の写真を特集しています。既存の火山島と海底の少なくとも 2か所から噴火しています。火山島の山体の勾配を考えると、海中で噴火しているのは新たに火道をつくって上昇してきたマグマというよりは、既存の火山島の火道から分岐した板状マグマが海中に噴き出したもののように思えます:
各写真の左下には番号が付けられています(1枚目を除く)。12番の写真がいかにも南洋の島らしい風景で気に入っています。立ちのぼる噴煙の右半分に日光が当たっています。首都ヌクアロファの海岸から撮影したとあるので、撮影時刻が朝であれば噴火場所はトンガの北北西、夕方であれば南西ということになります。写真の色調からは朝に撮影されたような印象ですが、確定できません。

Hunga Tonga-Hunga Ha'apai の位置については下記のグーグル・マップを参照してください:
地震について

日本時間の今日午前3時17分、トンガの首都ヌクアロファの南南東 220km、深さ 34km でマグニチュード 7.9 の大地震が発生しました(下記 USGS の発表参照)。太平洋津波警報センター(PTWC)では Mt 7.7、深さ 10km と発表しており、気象庁の遠地地震情報も PTWC に追随しています。深さが大きく食い違っているのが気になります:
下記、USGS の資料によれば、今回の地震は逆断層型だったようです:
震央の位置については下記のグーグル・マップを参照してください:
震央はトンガ・ケルマディック海溝の海溝軸に極めて近い位置にあります。太平洋プレートがオーストラリア・プレートの下に沈み込み始めてすぐの場所で発生したようです。このような場所では、震源の深さが 34km なのか、10km なのかで、地震がどのような仕組みで発生したのかの推定が大きく影響を受ける可能性があります。

津波について

マグニチュード 8 に近く、震源も浅い大地震であったにもかかわらず大きな津波は発生しませんでした。太平洋津波警報センター(PTWC)は、地震発生 12分後に北米太平洋岸を除く太平洋全域に津波警報を出しましたが、2時間弱で警報を解除しています。私が見た報道の範囲では、津波の最大値は 4cm でした。トンガ周辺の地震と津波の関係については、このブログの以前の記事「トンガの地震は津波を起こしにくい」を参照してください。

噴火と地震の関係について

トンガ沖の火山噴火と今回の大地震は関係があるのかについて、当然といえば当然ですが、今のところ専門家の見解はあまり出てきていません。唯一、オーストラリアの放送局のサイトが、「無関係」という専門家の発言を短く伝えています:
噴火場所と震央との距離は、噴火場所がトンガの北北西であった場合は約 300km、南西であった場合は約 200km で、かなり離れていることに留意する必要があると思います。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

スペース・シャトルの打ち上げ延期

日本人宇宙飛行士の若田光一氏を乗せたスペースシャトル「ディスカバリー」が無事打ち上げられ、国際宇宙ステーションにドッキングしました。当初予定よりも約 1か月遅れての打ち上げでした。

この打ち上げの遅延について、以下のような記述を見かけました:
どうもこのミッション、妨害行為か・宇宙へ若田さんを行かせたくないという工作が有る様です。

こんなにスペースシャトルが燃料漏れを起こすのはまず、通常は有り得ない・と思っておいて良いでしょう。NASAのほうで資金面に不満が有るのかあ~・とも思っています。日本人を宇宙に1人あげることに無料という事は有りませんので。

(「地震の掲示板ブログ」 http://8816.teacup.com/tamajin/bbs 2009年 3月 12日)
上記を書いた人は、 2007年にも次のように書いています:
NASAはどうも日本人宇宙飛行士をスペースシャトルに搭乗させたくないという思いが強い様ですね。いつも思うのは、日本人が乗るとなると何かと問題が起きた・という事で先延ばしにする傾向が有る様です。これまでに2人しか宇宙へ行っていませんし、契約金の事も有るみたいです。燃料タンクの異常などは最初から見つける事が出来るためこれが理由ではないですが、その様にわざと言うのでしょう。

(「ドライブ旅行・運転、他」 http://sun.ap.teacup.com/drtamajin/ 2007年 12月 10日)
明らかな誤解です。しかし、上記を引用することにしたのは、批判するのが目的ではありません。人間が知らず知らずのうちに陥ってしまう誤謬・錯誤・錯覚・思いこみなどの非常にわかりやすい事例だからです。先の記事「銃乱射事件と満月」(3月 16日付)でも書いたように、判断の根拠となるデータに偏りがあると、誤った結論が導き出されてしまいます。このスペース・シャトルの打ち上げ延期云々の場合、偏りは、シャトル打ち上げについての情報源にあると考えられます。

スペース・シャトルは、日本人が搭乗している、搭乗していないに関わらず、さまざまな理由で打ち上げの延期が頻繁に発生しています。1度の延期もなく当初の予定どおりに打ち上げられたのは、これまでのすべての打ち上げの約 25% しかありません。75%、つまり 4回の打ち上げのうち 3回は延期が発生しています。特に、コロンビアの空中分解事故以降は、NASA が安全面に極めて慎重になり、いっそう打ち上げ延期の頻度が高まっています。延期が発生する率は 75% よりも高くなっており、むしろ 100% に近いのでは、というのが実感です。

欧米の報道、特に科学技術系のニュースでは、日本人が乗っていてもいなくても、スペース・シャトルの打ち上げや、それが延期されたことがきちんと報道されます。しかし、日本の一般的なメディアは、日本人が搭乗しないスペース・シャトルの打ち上げやその延期については無関心で、ほとんど報道しません。したがって、日本の報道だけを情報源としていると、日本人の搭乗するシャトルだけがしょっちゅう打ち上げ延期になっているとの印象を持つようになってしまいます。

このような誤謬や思いこみを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。まず第一に、自分が依拠している情報源が偏っているのではないかと、常に意識することです。第二に、データ(数字)で確認することです。たとえば、「日本人の搭乗するシャトルは打ち上げ延期が多い」と感じたら、日本人が搭乗していない場合には延期がどの程度発生しているのかを調べ、比較することです。このような確認を怠ると、上記のような誤った思いこみに陥ることになってしまいます。

2009年3月19日木曜日

小惑星 2009 FH が地球に接近

最近発見された小惑星「2009 FH」が、昨夜 9時 17分(日本時間)に地球まで 7万 9000 km のところを通過して行きました。月の軌道の内側まで入ってきましたが、静止衛星の軌道よりは外側でした。この小惑星の大きさは、さしわたし 15 メートルほどと推定されています:
3月 2日には別の小惑星「2009 DD45」が地球に接近したばかりです(「今夜、小惑星が地球接近」参照)。最近、この種の小惑星の接近情報が増えているように思います。下記の『ユニバース・トゥデイ』の記事もその点を指摘しています。地球近傍小惑星の観測ネットワークが充実し、発見される小惑星が増えたのだと考えたいのですが、接近してくる小惑星が実際に増えているのだとしたら恐ろしいことです。ニアミスも何度か繰り返していれば、そのうち本当の衝突がおこりますので。

トンガ沖で海底火山が噴火

トンガの首都ヌクアロファのあるトンガタプ島の南西約 10km で海底火山が大きな噴火をおこし、巨大な水柱と噴煙を噴き上げています。
噴火が始まったのは月曜日で、水曜日になって激しさを増し、首都ヌクアロファからも噴煙が見えるようになったとのことです。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年3月17日火曜日

第一鹿島海山

前回の「襟裳海山」に続き、「グーグル・マップを使ったプレートテクトニクス名所巡り」シリーズの第 2 回目です。今回は第一鹿島海山をとりあげます。


大きな地図で見る

前回の襟裳海山は裾野が海溝軸に到達して崩れ始めた段階でしたが、今回の第一鹿島海山はさらに海溝軸に近づいています。すでに、山体の西半分が正断層によって海溝に崩落し、その部分の海溝が浅くなっています。さらに陸側の海溝壁には、第一鹿島海山から崩落したと見られる岩石が付加し始めています。日本列島のかなりの部分は、このようにして付加した海山や海台から構成されていると言われています。

第一鹿島海山の後には、香取海山、第二~第五鹿島海山、磐城海山が北東方向に続いており、常磐海山列、鹿島海山列と呼ばれています。これらの海山もいずれは日本海溝から日本列島の下に沈み込む運命にあります。海山列を南西に向かって延長した陸側海溝壁には複数の盛り上がりが見られます。これらは、過去に沈み込んだ海山の痕跡と思われます。

第一鹿島海山は襟裳海山よりもさらに海溝への沈み込みが進行した段階を示しています。世界中の海溝を見ると、さらに沈み込みが進みほとんど山体が崩壊してしまったものや、沈み込んだ後の凹みが陸側海溝壁に残っているだけのものなど、さまざまな段階の海山を見ることができます。これらは、全体として、プレートが動いていることの「動かぬ証拠」となっています。

なお、「宏観休憩室 地震前兆研究村」の掲示板に「茨城県沖の地震と海山列」(2008年5月8日付)という記事を投稿していますので、そちらもご覧ください。

グーグル・マップの操作法はご存知の方が多いと思いますが、念のために書いておきます:
  • マップ上でマウス・ポインターが「手」の形になっているときに、左クリックしたままマウスを動かすことによって、マップを任意の方向にずらすことができます。
  • マップの左上部にある「+」か「-」を左クリックすることによって、マップの縮尺を変えることができます。
  • 拡大率をあまり大きくすると「この地域の詳細画像は表示できません」などのメッセージや空白がマップに表示されることがあります。
  • マップ上の任意の地点をダブル・クリックすると、その地点を画面の中央に持ってくることができます。
  • マップの左下にある「大きな地図で見る」をクリックして、広い範囲を表示することをおすすめします。
  • 「第一鹿島海山」と書かれた吹きだしは、その右上にある「×」をクリックすれば消えます。再度表示するには、第一鹿島海山につけられたピン型のマークをクリックします。

2009年3月16日月曜日

銃乱射事件と満月

3月に入ってから、世界各地で銃の乱射などによる殺人事件が続いています:
  • 6日午前 アメリカ・オハイオ州 5人死亡、1人重傷
  • 7日夕方 イギリス・北アイルランド 2人死亡、4人重傷
  • 11日午前 アメリカ・アラバマ州 10人死亡、犬3匹死亡、犯人自殺
  • 11日夕方 ドイツ・バーデン・ビュルテンブル州 15人死亡、犯人自殺
  • 15日午後 アメリカ・フロリダ州 4人死亡、犯人自殺
  • 15日午後 アメリカ・ワシントン州 2人死亡、妻と継娘を斧で殺害
上記リストの事件発生日時はいずれも日本時間に換算してあります。北アイルランドの事件は、テロ事件と見られているので異質ですが、他の 5 件には政治的背景はありません。11日に 2件 発生し、1件当たりの犠牲者数も多く際だっていますが、11日は日本時間午前 11 時 38 分に月齢が 15.0 に達し、満月となっていました。

以下は上記事件を伝える記事の例です:
実は、先月アメリカの科学誌『サイエンティフィック・アメリカン』に掲載された、満月と人間の異常なふるまいについての下記記事を読んだばかりでした。記事では、満月と人間の異常なふるまいの関係“lunar lunacy effect”(以下「満月効果」)をきっぱりと否定しています:
記事を読んだときのノートから抜粋して紹介します:
満月の神秘的な力が、異常な行動、精神病院の入院、自殺、殺人、緊急救命室への搬送、交通事故、プロ・ホッケーの試合での乱闘、犬咬傷など、あらゆる種類の奇妙な出来事を増やすと考える人は現在でも多い。2007年、イギリスの警察は、犯罪率上昇に備えて満月の夜に警察官を増員。

ある調査によれば、大学生の 45% が満月の夜には精神疾患を患う人は異常な行動をしがちだと信じており、また別の調査では、精神衛生の専門家の方が一般の人よりもこのような確信を持っている傾向があることが示されている。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスや古代ローマの博物誌家プリニウスは、脳内の水分が満月の影響を受けると考えていた。人体の約 80% は水分であるので、現代でも月の潮汐力が体内の水に影響を与え、その結果、満月のときには異常な行動が増えると考える科学者がいる。しかし、少なくとも 3つの理由によって、この考えは否定される:
  1. 38万キロ彼方の月よりも、腕にとまった一匹の蚊の方が人体に及ぼす潮汐力は大きい。しかし、蚊が腕にとまっても人は異常なふるまいをおこさない。
  2. 月の重力は、海や湖のように開放された場所にある水にだけ潮汐を引き起こすが、人間の脳内のような閉じた場所にある水分には潮汐をおこさない。
  3. 月の重力的影響は満月のときも新月のときも同じであるにも関わらず、月が見えない新月のときに異常な行動が増えるという話はない。
満月の影響を熱心に主張する人たちにとって最大の問題は、満月と異常な行動の関係を示す証拠が存在しないことである。フロリダ国際大学の研究者によっておこなわれた包括的な統計的調査によって、満月と犯罪、自殺、精神医学上の問題、危機管理センターへの電話(日本の 110番や 119番に相当)件数などと満月はまったく無関係であることが示された。

この包括的調査の後も、満月効果に肯定的な研究報告があるとの指摘が散発的に続いた。しかし、詳細な調査によってこれらの報告内容は否定されている。たとえば、ある報告では満月の夜には交通事故が増えると結論づけていたが、データに致命的な欠陥が見つかった。この報告が調査対象とした期間中の満月は週末と重なることが多かった。週末には多くの人がドライブに出かける傾向があるため、このデータは偏っていた。報告書を提出した研究者がこの偏りを除去したところ、満月効果は消え失せた。

満月効果が単なる都市伝説にすぎないにもかかわらず、ここまで広まっているのはなぜか。いくつかの理由があるが、報道や映画などの取り上げ方が要因となっていることは間違いがない。ハリウッド製の多くのホラー映画が満月の夜を犯罪や異常なふるまいがおきやすい時期として演出している。

さらに重要な要因は、多くの人びとが陥っている“illusory correlation”(幻相関) ―― 実際には存在しない関連性を認知してしまう現象。われわれの心は、ある現象がおこらなかったことよりも、現象がおこったことの方に注意・関心が向き、よく思い出す傾向がある。これが幻相関をもたらす。満月のときに変なことがおこると、われわれはそれに気づき、記憶し、他の人たちにそのことを話す。そうするのは、満月と変なことが同時におこることが、われわれの予想に合致するからである。それと対照的に、満月のときに変なことが何もおこらなかった場合、現象が起こらなかったという事実の記憶は急速に薄れてしまう。このようなわれわれの記憶の選択性の結果、満月とおびただしい数の奇妙な出来事の間の関係が誤って認識されてしまう。

満月効果を信じている精神科の看護師は、そうでない看護師に比べて、患者の奇妙なふるまいについての記録をより多く残す傾向がある。

満月効果は、少なくとも現代の世界では、月がグリーン・チーズでできているという古くさい考えと同じレベルである。
上記の記事が述べている「幻相関」は、宏観異常と地震の関係にも起こりえます。たとえば「地震雲」。怪しい形状の雲を見た後で地震がおきると、そのことはよく記憶され他の人にも伝えられるのに対して、怪しい雲を見た後で何もおこらなかったときには、その記憶が急速に薄れ他の人に語られることも少ないのではないでしょうか。このような相関についての誤認は、科学分野の研究でもおこりがちです。それを防ぐために、科学の世界では様々な統計学的方法が開発されてきました。宏観異常と地震の関係を立証するためには、そのような統計学的な検定をクリアすることが最低限の条件ですが、民間の地震「研究者」で実戦している人は極めてまれです。せめて、「地震雲あり+地震発生」、「地震雲あり+地震なし」、「地震雲なし+地震あり」、「地震雲なし+地震なし」に分けて集計するなどの努力をしてほしいものです。

よく「雨の降っているときには地震が少ない」という話をネット上で目にします。これは、上記の記事に出ている交通事故と満月の関係を示すデータに偏りがあったという話と似ているように思います。1年 365日 8760時間のうち、雨が降っている時間というのは意外に少ないものです。時間が少ないということは、その間に発生する地震の数も少なくなります。したがって、雨の降っているときにおきた地震の数と、それ以外のときにおきた地震の数を単純に比較したのでは意味がないことになります。

そのほかにもネット上では、さまざまな現象と地震を結びつける話がまことしやかに語られていますが、ほとんどは上記のような幻相関、データの偏り、疑似相関、確証バイアス、認知バイアスなどの疑いがぬぐい切れず、迷信や都市伝説の域を出ないと私は思っています。そのような状況を克服して、ある現象と地震の関係を立証するには統計的な検定を避けては通れないのですが、そのような認識のある方はまれなようです。

2009年3月14日土曜日

冥王星は惑星だ!

昨日 3月 13日で、冥王星の発見が発表されてから 79周年になります。ご存知のように、冥王星は 2006年 8月に開かれた国際天文学連合(IAU)の総会で、惑星から準惑星(dwarf planet)に格下げされています。アメリカ人が発見した唯一の「惑星」であったためか、アメリカではこの格下げに対していまだに不満がくすぶっています。冥王星の発見者、クライド・トンボー博士はイリノイ州出身ですが、先ごろイリノイ州議会上院が「冥王星は惑星だ!」という内容の決議案を可決しています:
法律関係の英文なので和訳しにくいですが、以下は上記決議案の抄訳です:
冥王星の発見者、クライド・トンボーがイリノイ州ストリーター近郊の農家で誕生したが故に、

トンボー博士が、アリゾナ州フラグスタッフの名誉あるローウェル天文台で研究に従事していたが故に、

トンボー博士が、1930年に冥王星の存在を初めて検出したが故に、

トンボー博士が、現時点で、惑星を発見したただ一人のイリノイ州出身者であり、かつ、ただ一人のアメリカ人であるが故に、

75年以上にわたって、冥王星が太陽系第 9 惑星と認められてきたが故に、

(中略)

国際天文学連合の 1万人の科学者のうちのわずか 4 パーセントが参加した投票において、冥王星が不当にも「準」惑星に格下げされたが故に、

多くの尊敬するに足る天文学者たちが、冥王星は完全なる惑星の地位を回復されるべきだと考えているが故に、

イリノイ州議会上院第 96 次一般総会は、次のように決議する:

冥王星がイリノイの夜空を通過するとき、冥王星は完全なる惑星の地位を確立するものとする。加えて、1930 年に冥王星の発見が発表された日付を記念して、2009 年 3 月 13 日を、イリノイ州内において「冥王星の日」と宣言する。
どこの国でも議会というところは、くだらないことに時間を費やすものです。ちなみに、バラク・オバマ大統領は 2004年 1月まで、このイリノイ州議会上院の議員をつとめていました。

冥王星の格下げに関連して私が見たアメリカ人のブログには、冥王星が準惑星になったことによってアメリカ人が発見した惑星が 0個になってしまったと嘆く人に対して、「気にするな、アメリカ人は 100個以上の太陽系外惑星を発見しているじゃないか」と慰めているものや、「準惑星という分類が気にくわないんだったら、犬のお仲間ということにしておけばいい」と突き放すものがありました。後者は、冥王星の英語名称「Pluto」が、ディズニー・アニメに登場する犬の名前と同じことが背景にあります。

2009年3月13日金曜日

衝突衛星の破片落下始まる

2月に、アメリカの「イリジウム 33」とロシアの「コスモス 2251」という 2つの人工衛星が衝突しましたが、その衝突で飛び散った破片の大気圏突入が始まります。下記『スペースウェザー・ドット・コム』に掲載されている 3月 12日付の記事によると、「コスモス 2251」の 3つの破片が、それぞれ 3月 12日、28日、30日に大気圏に突入すると予報されています:
もう一方の「イリジウム 33」衛星は、衝突によって粉々になったわけではなく、衛星本体がかなり大きな塊として残っており、地上から撮影されているとのことです。ただし、イリジウム衛星の特徴である「イリジウム・フラッシュ」と呼ばれる現象(ときおりキラリと光る)は見られなくなっているようです。これは、衝突によって光を反射する太陽電池パネルなどが損傷を受けたか外れてしまったためと考えられます。

国際宇宙ステーション 危機一髪

日本時間の今日午前 1 時 39 分ごろ、国際宇宙ステーションに宇宙ゴミが高速で接近しました。衝突する可能性があったため地上から警報が出され、宇宙ステーションに滞在中の 3人の宇宙飛行士はステーション内のすべてのハッチを閉鎖し、緊急帰還用のソユーズ宇宙船に避難しました。避難指令が急で時間的余裕がなく、緊急時の手順が書かれたマニュアルを閉鎖したハッチの反対側に置き忘れてしまうほどだった、と伝えている記事もあります。幸いなことに、宇宙ゴミはステーションに衝突することなく過ぎ去りました。衝突の可能性が指摘されてから最接近までの時間が短かったため、通常の回避手段であるステーションの軌道変更はおこなう余裕がなかったとのことです:
上記産経ニュースをはじめとする日本の報道では、接近した宇宙ゴミは「初期のシャトル打ち上げで使用されたモーターの部品とみられ、長さ 8.5 ミリほど」としているものが多いようです。しかし、少なくとも 10cm 程度の大きさがないと、地上からのレーダー観測で捉えることができず警報も出せないはずですので、誤報ではないかと思います。欧米のニュースサイト(下記参照)では、1993 年に海軍の GPS 衛星の打ち上げに使われたロケットの部品で、「ヨー・ウェイト」と呼ばれるものだとしています。これは直径 5 インチ(13 cm)ほどのおもりで、重さ 1kg 未満、長さ 1m ほどのケーブルの先に取り付けられ、切り離されたロケットの姿勢を傾けて、人工衛星に追突することさけるために使われるものとのことです:

2009年3月12日木曜日

リダウト山の警戒レベル下がる


このブログの記事「リダウト山に噴火の兆候」(1月30日付)と「リダウト山に噴火の兆候(続報)」(2月3日付)のフォロー・アップです。アラスカ火山観測所は 3月10日(日本時間 11日)付で、リダウト山の警戒レベルを "watch"(注意)から "advisory"(勧告)へ、また、カラー・コードをオレンジからイエローに下げています。1月下旬から続いていたリダウト山の不穏な動きは、けっきょく大きな噴火に至ることなく沈静化したようです。以下は、そのことを伝える『アンカレジ・デイリー・ニュース』の記事です:
記事から抜粋します:
リダウト山は依然として異常に多い火山ガスの放出を続けており、頂上付近の氷河の融解も継続している。しかし、山体下のマグマは現在のところ上昇する動きを見せていない。

火山性の地震は止まっている。マグマは地下約 5km のところまで貫入してきているが、量が少なく、噴火をおこすには不十分である。

今後、カラー・コードがイエローとオレンジの間を行き来する可能性がある。再度、火山活動が 24 時間ほどで急激に高まることもあり得る。

カラー・コードがオレンジからイエローに下がったということは、火山観測所の職員がおこなうリダウト山の活動監視が、分刻みから 1時間ごとのペースになることを意味している。

アラスカの火山で、現在カラー・コードがイエローであるのは、リダウト山、クリーブランド山、オクモク山の 3火山である。
アラスカ火山観測所(AVO)のリダウト山情報は以下にあります:
Image Credit: U.S. Geological Survey

北朝鮮ミサイル(?)の迎撃

日米の政府や軍関係者から、北朝鮮がミサイルを発射すれば迎撃する準備はできているといった威勢のいい発言が続いています。しかし、オバマ大統領が迎撃を命ずる可能性は限りなくゼロに近いですし、日本政府にも北朝鮮と軍事的に事を構えるだけの度胸があるわけもありません。自国を標的として発射されることが明白であればいざ知らず、他国が人工衛星の打ち上げと主張するものを打ち落とすなど、それこそテロ国家の所業ですし、戦争すれすれの瀬戸際政策です。

「迎撃する」と表向きは豪語しても、本当に迎撃できるほどミサイル防衛システムは完成されたものではありません。以下は先月末ごろに報道された記事ですが、ミサイル防衛の現状がかなり怪しいものであることを示しています:
以下の記事にも示されているように、F22 戦闘機やミサイル防衛などの高額な兵器は、現在、予算削減の標的とされています。少なくとも、イランの長距離ミサイルに対抗するために東ヨーロッパに展開されるはずだったミサイル防衛システムは、「延期」される公算が高くなっています。北朝鮮のミサイルを迎撃云々という一連の強気発言は、ミサイル防衛の存在感を高めてこのような状況を打開するための方便という面があるのではないでしょうか:
通常の軌道(北極や南極の上空を通過する極軌道などを除く)に衛星をのせるには、地球の自転の力を利用するため、どうしても地球が自転していく東方向に向かってロケットを発射せざるを得ません。これまでの日本の衛星の多くも東や南東方向に向かって発射されています。アメリカのケープ・カナベラル、ESA(欧州宇宙機関)の仏領ギアナ、日本の内之浦や種子島など、多くのロケット発射基地は東側に海が広がっています。ロケットを東に向かって打ち上げることが多いため、切り離したロケットの落下や打ち上げに失敗したときのことを考慮すれば、そのような場所を選択することになるわけです。

北朝鮮の場合、東に海が広がっている場所といえば日本海沿いの地域になるわけですが、日本海の東には日本列島があるため話がややこしくなります。かりに日本の東に非友好的な国があったとしたら、日本も北朝鮮と同じような立場におかれます。日本が人工衛星を打ち上げようとすると、日本の東に位置する国が、自国に対する脅威だから打ち上げを止めろ、打ち上げたら迎撃するぞと警告してくるわけです。人工衛星の打ち上げだと主張しても、打ち上げに使うロケットはミサイルと変わらないと言われる。このとき、日本人は正当な宇宙開発の権利を侵害された、不当な威嚇だと憤ると思います。

北朝鮮を擁護するわけではありませんが、声高に迎撃云々と言う前に、「もしも本当に人工衛星だったら」と考えることも必要ではないでしょうか。北朝鮮は、今回打ち上げる「光明星 2 号」は試験通信衛星だと主張しています。前回の「衛星」は目的不明でしたが、今回のように衛星の目的がはっきりしていれば、本当にそのような衛星が打ち上げられたのか、軌道にのったのかなどの検証は比較的容易なはずです。

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

硫化水素とバイアグラ

男性の皆さんに朗報です。といっても新薬として実用化されるまでには、まだ何年もかかるようですが。詳しくは下記記事をお読みください:
上の記事の翻訳ではありませんが、ほぼ同じ内容の日本語記事があります:
硫化水素ガスを使った自殺や巻き添え被害が社会問題化しましたが、バイアグラの替わりに硫化水素を使おうとする人が出ないように願います。そんな人の巻き添えになるのはたまらなく嫌です。それにしても、硫化水素で元気になる「男性」って、古細菌や、深海底の熱水噴出口に群がるチューブワームシロウリガイのレベルなのでしょうか。

2009年3月9日月曜日

北極圏で大きな地震

日本時間 6日(金)午後 8時ごろ、北極点に近い海域(北緯 80.3°西経 1.8°)で M6.5 の珍しく大きな地震が発生しています。震央の位置は、北極圏にあるノルウェー領スヴァールバル島北方の大西洋中央海嶺付近です:
上記記事では、被害はなかったが、ノルウェー領内(?)で記録された地震としては史上最大と伝えています。スヴァールバル島近海では、昨年2月21日に M6.0 の地震が発生しています。

この地震は、大西洋中央海嶺からのびるトランスフォーム断層(横ずれ断層の一種)でおきたものと思われます。下記ページにある発震機構を示す図を見ると、震源球が「25%ずつ 4等分された円グラフ」のように描かれています。これは、横ずれ断層に特有のパターンです:
Image Credit: U.S. Geological Survey

オーストラリアで地震連発

日本時間 3月 5日夜から翌 6日夕方にかけて、オーストラリアで、M5 前後の地震が 3回発生しています。ジオサイエンス・オーストラリアの専門家は ―― 通常、オーストラリアではこのクラスの地震は年に 2回ほどしか発生しない、24時間以内に 3回も発生したのは珍しい ―― と語っています。

一つ目の地震は、オーストラリア南東部・ビクトリア州の州都メルボルン近郊の Korumburra で発生した M4.6。メルボルン市内でも揺れを感じ、同市としては 1973年以来 36年ぶりの大きな地震となったとのことです。震源の深さは 8km、インド・オーストラリア・プレートが年 7cm の速さで北東に移動していることにともなうプレート内地震である、と専門家は説明しています:
二つめの地震は、オーストラリア北西部・西オーストラリア州 Broome の沖合で発生した M5.1。震源は極めて浅い位置にあったようです。

三つ目の地震は、オーストラリア南西部・西オーストラリア州 Beacon の北西で発生した M4.9。こちらは 100回を超える群発地震となっています。震源も極めて浅いところにあるようです:
上記記事によると、この群発地震は 1月末から始まり、通算で 216回の地震が発生、原因はよくわかっていないが、地下 2km 付近にある流体の移動が原因であろうと推定されているとのことです。

オーストラリアの南東、北西、南西の 3か所で地震がおきましたが、北東では何もおきていない … と思っていたら、北東部にはサイクロン Hamish が接近していました。クイーンズランド州北部には警報が発令されており、全住民が大陸本土に避難した島も出ています:
このサイクロンは、気象庁の気象衛星画像で見ることができます。昨晩の時点では目がはっきりと見えていましたが、今朝の時点では陸地に近づいたためか目が不明瞭になっています。日本にやってくる台風とは、渦の巻き方が逆なのがよくわかります。このサイクロンが接近しているオーストラリア北東部には、多くの日本人が訪れるケアンズなどの観光スポットがあるので要注意です:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年3月6日金曜日

インドネシア・スメル山が噴火

昨夜(日付が6日になって間もなく)、インドネシア・ジャワ島東部にあるスメル山(Mount Semeru)が噴火を始めた、とシンガポールやオーストラリアのニュースサイトが伝えています:
噴煙が高く上がっているものの、現地の天候は雨で、風向きも人間の居住地の方向には向かっておらず、今のところ降灰などによって被害が出る状況にはないとのことです。

スメル山は高さ 3676m (富士山より 100m 低い)の成層火山で、ジャワ島では最も高い火山です。

インドネシアで 1900 年以降に噴火した火山の地図が以下にあります:
Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency

2009年3月5日木曜日

襟裳海山

先月初め、グーグル・アースの最新版 5.0 が使えるようになりましたが、実はその数日前から、グーグル・マップの「航空写真」も 5.0 と同等のレベルが表示されるようになっていました。これによって、グーグル・マップで地上や海底の地形をかなり詳細に見ることができるようになり、世界中の地質学的に興味深い場所を居ながらにして見学して回ることが可能になりました。そこで、「グーグル・マップを使ったプレートテクトニクス名所巡り」シリーズと銘打って、「名所」を紹介していきたいと思います。

シリーズ第 1 弾は襟裳(えりも)海山です。北海道・襟裳岬の南東約 180km にある海山で、日本海溝と千島・カムチャツカ海溝の接続部に位置しています。海山の海底からの高さは 4200m (富士山より高い)ありますが、それでも頂上から海面まではまだ 3735m もあります。北緯 40°よりも北にあるにもかかわらず、その頂上部には白亜紀のサンゴ礁に由来する石灰岩があります。これは、白亜紀には襟裳海山が南方の暖かい海にあり、その後太平洋プレートに運ばれて、少しずつ高さを下げながら現在の位置に至っていることを物語っています。


大きな地図で見る

襟裳海山の裾野はすでに海溝軸に達しており、今後、山体の西側(海溝軸に近い側)に正断層が発達、それに沿って山体の崩壊が進み、徐々に陸側プレートの中に潜り込んでいくことになります。地震波などを使った探査で、襟裳海山と海溝軸をはさんで反対側の地下には、過去に沈み込んだ別の海山の痕跡が見つかっています。このような過去に沈み込んだ海山が、地震性スリップの発生する深さまで沈み込むと、地震の原因となるアスペリティになると考えられています。

襟裳海山の北に、陸側の海溝壁が U 字型にえぐられている場所があります。これは、過去に海山が沈み込んだ跡に特徴的な地形と考えられます。

グーグル・マップの操作法はご存知の方が多いと思いますが、念のために書いておきます:
  • マップ上でマウス・ポインターが「手」の形になっているときに、左クリックしたままマウスを動かすことによって、マップを任意の方向にずらすことができます。
  • マップの左上部にある「+」か「-」を左クリックすることによって、マップの縮尺を変えることができます。
  • 拡大率をあまり大きくすると「この地域の詳細画像は表示できません」などのメッセージや空白がマップに表示されることがあります。
  • マップ上の任意の地点をダブル・クリックすると、その地点を画面の中央に持ってくることができます。
  • マップの左下にある「大きな地図で見る」をクリックして、広い範囲を表示することをおすすめします。
  • 「襟裳海山」と書かれた吹きだしは、その右上にある「×」をクリックすれば消えます。再度表示するには、襟裳海山につけられたピン型のマークをクリックします。

2009年3月3日火曜日

トンガの地震は津波を起こしにくい

先月末にこのブログに書いた「深発地震のダブルヘッダー 」は、トンガ周辺でおきる深発地震についてのものでしたが、もう一つトンガの地震について書きます。下記は少し古い記事ですが、2006年5月3日に発生した南太平洋トンガの大地震はなぜ大きな津波をおこさなかったか、を説明しています:
記事によると ―― この地震は M8.0(USGS は後に M7.9 に修正)、震源の深さ 55km。プレート境界で発生する圧縮応力による逆断層型の地震ではなく、沈み込んでいる海洋プレート(スラブ)内で伸張応力によって発生した地震。そのため、上盤(陸側)プレートの跳ね上がりがなく、大きな津波が発生しなかった 。トンガ周辺で発生する地震では大きな津波がおきることは少ない ―― とのことです。

プレートの沈み込み帯には、大きく分けてチリ型とマリアナ型があります。チリ型は若い海洋プレートが低角度で沈み込み、上盤(陸側)プレートと広い面積で強く結合しているのに対して、マリアナ型ではスラブが急角度で沈み込み、上盤プレートと海洋プレート(スラブ)の結合が弱いという特徴があります。上記のトンガの地震は、トンガ・ケルマディック海溝から沈み込んだスラブ内で発生したものですが、この海溝はマリアナ型と考えられています。上盤プレートと海洋プレートの結合が弱く、プレート境界型の大地震が発生しにくい場所です。

例外も多いのですが、チリ型では付加体が発達しやすいのに対して、マリアナ型では付加体が形成されにくいという特徴もかつて指摘されたことがあります。実際に、トンガ・ケルマディック海溝では、ほとんどの領域にわたって付加体が形成されていません。

2006年5月3日のトンガ大地震についての資料は以下にあります。2番目のサイトは見た目がいささかケバケバしいですが、内容はまじめです:

ビキニと男性心理

ちょっと怖い研究成果が『ナショナル・ジオグラフィック』誌のサイトに掲載されています。プリンストン大学の研究者が複数の男性被験者に脳スキャンの装置を取り付けて実験した結果です:
記事をかいつまむと ――
(ビキニのように)露出の多い衣服を身につけた女性の写真を見せられると、男性の脳内では、道具の取り扱いに関係する領域が活性化する。

男性は、セクシーな女性のイメージを、一人称の動詞「I push, I grasp, I handle」(押す、掴む、取り扱う)と関連づける傾向がある。

最もショッキングな発見は、被験者男性の何人かで、通常、他者の気持ちを思いやる時に働く脳の領域がまったく活性化しなかったことである。このようなタイプの男性は、(ビキニのような露出度の高い服装の)女性が自分を性的に誘惑しているものとみなし、相手の気持ちを考えない。この社会的認知に関わる領域の活動が欠落することは実に奇妙だ。このようなことは、通常はほとんどおこらない。

被験者男性に様々な衣服を着た女性の写真を見せる(女性の顔は見せない)と、写真 1 枚あたり 0.2 秒しか見せていないにもかかわらず、ほとんどの男性はビキニの女性を一番よく記憶していた。
―― ということです。

よく「男は、女を子供を産む道具としか考えない」というようなことを言いますが、本当だったようです。

「今年の漢字」 2008年は「和」

日本では 2008年を象徴する漢字として「変」が選ばれましたが、中国では調和を意味する「和」が選ばれました:
多くの都市や交通機関が麻痺状態に陥った大雪害や四川大地震などに際して、中国国民が示した団結心と協調的な態度が「和」の文字に集約されている、北京オリンピック開催は宇宙の調和を具体化するものである、また、経済危機に対する中米間の協力も中国人の調和の精神を示すものである、というのが選定理由とのことです。

「今年の漢字」は日本では 1995 年に始まり、最初に選ばれたのは「震」でした。1995年 1月 17日に発生した阪神淡路大震災が国民に与えた衝撃の大きさを物語っています。中国でも今年は未曾有の大地震「四川大地震」(海外では温江地震、ウェンチャン地震と呼ばれることが多い)があったのですが、「震」ではなく「和」を選ぶあたりに、私は中国人の懐の深さやプライドの高さを感じてしまいます。

これまで日本で「今年の漢字」に選ばれた文字のリストは以下にあります。漢字能力検定で多額の利益を上げていたことが問題視されている日本漢字能力検定協会がからんでいます:

2009年3月2日月曜日

今夜、小惑星が地球接近

今夜 22時44分(日本時間)に、小惑星「2009 DD45」がタヒチ島西方の太平洋上空約 63500km (地球の中心から 0.00047天文単位)を通過します。光度は約 10.5 等級になると見積もられています。以下は、このことを伝えるアメリカの天文雑誌『スカイ・アンド・テレスコープ』の記事です:
記事によると、「2009 DD45」が発見されたのは 2日前、発見時の光度は 19等級。サイズは直径 30m を超えないと推定。発見者はマックノート彗星(C/2006 P1)の発見者としても知られるオーストラリアのロバート・マックノート氏。接近時に地上から観測した場合、毎分 0.5度という「超高速」で移動、普通の天体望遠鏡では追跡困難。

最近、地球に接近する小天体の観測技術や観測網が充実したためか、地球接近あるいは地球大気圏突入直前に発見される小天体の報告が増えています。昨年10月には小惑星「2008 TC3」(直径数メートル)が、発見から数時間後にアフリカのスーダン上空で大気圏に突入しています。自然の天体が大気圏突入前に発見されたのは、これが最初とのことです。

今回、「2009 DD45」が地球に最接近する時の距離 63500km は、「ひまわり」などの静止衛星の約 2 倍で、月の軌道の内側に入ってくることになります。上記の記事によると、これまで最も地球に近づいた小惑星は「2004 FU162」で、2004年3月31日に 約 6400km まで接近。これは、今回の「2009 DD45」の接近距離の 10 分の 1 で、静止衛星の軌道よりも内側にまで入ってきたことになります。

しかし、もっと地球に近づいた天体もあります。「The Great Daylight Fireball of 1972(1972年の白昼の大火球)」と呼ばれる天体で、大気圏を突っ切って再び宇宙空間に帰って行きました。大きさは小型トラック程度と推定されていますから、スーダン上空に突入した「2008 TC3」に比肩するサイズで、立派な小惑星です:
地球に接近する小惑星は、毎年数十個におよびます。今年の天文年鑑には、70個の小惑星の接近が予報されています。ある日突然、地球に衝突する小惑星が発見されることも十分にありえます。発見から数日で衝突となれば、ほとんど手のうちようがありません。避難するにしても、衝突地点が精確に計算できるのはぎりぎりになってからで、先走って避難した場所の方が落下地点に近いということもありえます。

天体衝突の脅威から地球を守る「IAA Planetary Defense Conference」(惑星防衛会議)が、今年 4月にスペインのグラナダで開かれます:
この会議は IAA(国際宇宙航空学会)や ESA(欧州宇宙機関)が中心となって開催される国際会議で、2年前にアメリカの首都ワシントンで開かれた「2007 Planetary Defense Conference」を拡大したものです。討議の内容は以下のとおりです:
  • 地球に危害をもたらす可能性のある小惑星と彗星の検出および追跡
  • それらの天体の特性
  • 脅威となる天体をそらす方法
  • 天体衝突による災害の特質
  • 防災計画上考慮すべき政治的、法律的、政策的課題
なお、上記文書によると ―― 現時点で 900個を超える小惑星や彗星が潜在的危険性のある天体(直径 140m 超)に指定されている。地上からの観測によって、この数は年間 80 個を超えるペースで増え続けており、専門家は全体で 4000 個を上回る数に達すると考えている ―― とのことです。

写真は小惑星 243 Ida とその衛星 Image Credit: NASA

2009年3月1日日曜日

「炭素観測衛星」打ち上げ失敗は妨害工作?

NASA が 300億円近い巨費と 9年の歳月を費やして開発した Orbiting Carbon Observatory 衛星(OCO、軌道炭素観測所)が 2月24日に打ち上げられました。しかし、衛星本体を保護するためのフェアリングの分離に失敗、衛星は軌道にのることなくロケットとともに南氷洋に落下してしまいました:
上で「9年の歳月」と書きましたが、これの意味するところは、OCO の計画がブッシュ政権の発足前に始まり、同政権の終焉後すぐに打ち上げに至ったということです。ブッシュ政権下では、OCO 計画に対して予算削減等さまざまな「ブレーキ」があったようです。長い間の艱難辛苦を乗り越えて打ち上げただけに、その失敗の衝撃は大きいものがあるようです。

OCO は、これまでにない高い精度で、二酸化炭素の発生場所と吸収場所や時間的変動を観測する能力を持っていたため、気候変動を研究する科学者の間に大きな失望が広がっています。以下は、『ニューヨーク・タイムズ』の記事ですが、科学者たちの失望・困惑や、OCO 衛星に準じる観測能力を持つ日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」(今年 1月 23日に打ち上げ成功)に対する関心と期待が高まっていることを伝えています:
OCO 衛星は二酸化炭素の発生源をピンポイントで特定できる能力を持っていたため、その打ち上げ失敗で胸をなで下ろす利害関係者や国家があっても不思議ではありません。何らかの妨害工作があったのではという疑念を持つ人も出ています。所詮は憶測にもとづく「陰謀論」にすぎませんが、以下はその例です:
この記事によれば、気候変動に関連した観測をおこなう衛星では、打ち上げ失敗や、軌道にのった後に不可解な機能停止に陥るものが多いと指摘しています。そして、これまでの経緯を考慮すると、日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」もいつまで観測を続けられるか心配するべきだと書いています。

かつて、チャーリー・シーン主演で『アライバル』というタイトルの SF 映画がありました。エイリアンが秘密裏に地球に工場をつくって大量の二酸化炭素を空気中に放出し、地球を彼らの住みやすい環境に改造しようとするストーリーでした。そのようなエイリアンにとっては、OCO 衛星などの地球観測衛星は非常にじゃまな存在ということになります。また、遠い星から地球にやってくる技術を持っている彼らにとって、人類の打ち上げた衛星を機能停止させることなどは朝飯前でしょう …… と、これは日曜の朝の妄想でした。

Image Credit: NASA