3月20日付「3度の大地震を経験、3度目は予知した人」の補足です。
太陽や月の色がふだんと違う、滲んで見える、暈を伴っているなどが地震の前兆とされることが多く、これは大気中に何か(帯電エアロゾルなど)が漂っていることを思わせます。ところが、『安政見聞録』に記録された武家屋敷の老僕の証言は、「大地震が起きる前は空がとても近く見え、星の輝きがいつもの倍になる」というもので、逆に空気が非常に澄みきっていたことを示唆しています。
『震雷考説』という当時の書物にも「九月下旬空低く星大きく顕れ」という記述があり、老僕の話と合致しているようです(安政江戸地震が発生したのは旧暦10月2日)。
地震の前に空気の透明度が増すようなことがありうるのでしょうか。この点について、池谷元伺・大阪大学名誉教授は著書『地震の前、なぜ動物は騒ぐのか』(NHKブックス[822]、1998)で次のように述べています:
きらめく星空、大きな明るい月――静電集塵機作用
空が澄んだ空気に満ち、「きらめく星空」が現れると地震が起こるという。雲や霧の発生とは逆の前兆報告である。[中略] 地震の前に生じる地上の電荷の電場によって、埃を集める自然の電気集塵機の作用で空が掃除され、きらめく星空が現れたと考えてもよい。
兵庫県南部地震(1995年1月17日、阪神淡路大震災)の前兆を集めた『前兆証言 1519!』(弘原海清著、東京出版、1995)に載っている「空と大気の異常」に関する証言にも、少数派ですが大気が澄んでいたことをうかがわせるものがあります。もちろん、真冬という季節的なものもあるでしょうが:
16日[中略]神戸から関空へは船で行きましたが、六甲山の山並みから神戸の町がとても美しく、空気が澄み渡ったようなきりりとした感じで見えておりました。
1月16日[中略]東の空から昇る不思議な月を見ました。それは大きくて形容しがたいのですが、ギラギラと光るとでも申しますか一瞬ドキッとする輝きでした。今まで45年間見たこともない月を目の前に、主人とも話しましたがホント初めてで気持ちが悪いなと話しながら帰りました。
1月16日月が異常に輝くのをみて、息子と共にどうしてだろうと話し合いました。
地震の前に空気は濁っているのか、澄んでいるのか。矛盾した証言があるのは、大気が濁った状態から澄んだ状態へ、あるいはその逆に比較的短時間で変化するからかも知れません。『安政見聞録』には地震直前の空の様子が次のように書かれています:
この時天色朦朧として、半天に雲覆ひ、星の光り近く見ゆ
『安政見聞録』と『震雷考説』の文言は、『地震前兆現象 予知のためのデータ・ベース』(力武常次、東京大学出版会、1986)から引用しました。
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