2022年11月8日火曜日

怪しい地震予知が失敗に終わった話

 
アメリカ合衆国史上最大級の地震とされるニュー・マドリッド地震が起きた断層で、再び大きな地震が起きるとの予測が引き起こした騒ぎについて述べている記事です:

以下は記事の概略です:

1990年8月、アイベン・ブラウニング博士は、その年の12月3日前後にニュー・マドリッド断層沿いで大地震が発生すると予測した。

人々には博士を信じる理由があった。博士は1989年10月17日のサンフランシスコ地震(Loma Prieta地震、M6.9)を予測し、ほぼ的中させていたのだ(実際の予測は、10月16日に地球のどこかで大地震が起こるというものだった)。さらに、1990年9月には、ニュー・マドリッド地震帯で M4.7の地震が発生した。人々は、これが博士が予測した M6.5〜7.5前後の大地震の前触れではないかと考えた。

放送局 KY3 は、博士が12月3日に月が地球に異常に接近し、2つの天体が太陽と一直線に並ぶという事実に基づいて予測を行ったと説明している。博士は「気候学者」と名乗っていたが、実際の学位は動物学であり、地震の専門家は彼のことを真剣には受けとめなかった。

しかし、ニュー・マドリッド断層がセンセーショナルな歴史を持つことから、専門家ではない人々の目には、彼の予測は信憑性を帯びて映った。1811年と1812年にこの断層で起きた地震は、悪名高いものであった。当時の報道では、この地震でミシシッピ川が逆流し、遠く離れたボストンでも揺れで教会の鐘が鳴り響いたという。この地震はカナダでも感じられるほど強く、テネシー州にはリールフット湖(地図)が形成され、川自体にも一時的に滝ができた。

博士の地震予測は、断層線に最も近い地域 —— ミズーリ、テネシー、ケンタッキー、イリノイ、アーカンソーに近い地域で、おおよそミシシッピ川に沿った地域 —— では人々を狂乱の渦に巻き込んだ。リールフット湖の近くでは、住民たちが地元の保安官に奇妙な現象を報告していた:水が沸騰している、死んだ魚が浮いている、湖から硫黄が出ている、ヘビが湖から出てきた、などだ。保安官はあまり深刻に受け止めなかった。

メンフィスとセントルイスでは、人々は水、食料、医薬品、その他の必需品を、博士の名を取った貯蔵庫「ブラウニング・バンカー」に蓄えていた。学校や企業はその日を休みにしたり、地震避難訓練をしたりした。中には、完全に引っ越してしまった住民もいた。

セントルイス・ポスト・ディスパッチ紙によると、地震地帯の中心にあるミズーリ州ニュー・マドリッド(地図)でも、同じように備蓄と学校閉鎖が行われたとのこと。消防署のポンプ車は補強された建物の中で待機し、7つの救急ステーションが設営され、ボランティアが待機していた。警察署長によると、3カ月前から準備をしており、住民はみな協力的だったそうである。しかし、ニュー・マドリッドでも、すべての人が心配していたわけではない。従業員が出勤できるようにと、七面鳥の燻製を配る経営者もいた。ミズーリ州知事のジョン・アシュクロフトは、その日、以前からの予定どおりに地元の穀物検査事務所を訪問していた。

平然としていたのは知事のアシュクロフトだけではなかった。逃げ出す住民がいる一方で、地震を目撃するために他の地域からやって来る人々もいた。メンフィスでは、「フォールト・ライン」(断層線)というナイトクラブが、「アースクエイク・シェイク」(飲み物の名?)を提供し、「クラック・ダンス」(クラックは割れる、裂けるなどの意)を宣伝していた。「数回シュッシュッと噴射すれば、あの危険な地震を遠ざけることができる」といううたい文句を掲げた「地震撃退剤」なる物を販売する人たちもいた。地震をテーマにしたシャツも人気があり、それには “are you staying or are you leaving?”(あなたは留まる? それとも立ち去る?)と書かれていた。イリノイ州クインシーのラジオ局100.9によると、同じシャツが現在 eBay で 100 ドルもの高値で取引されているとのこと。
 
そして何も起こらなかった。
 
 12月3日、地震は起きなかった。その日は何事もなく過ぎた。ブラウニング博士は、「中西部の7つの州で人々をひどく恐れさせた」ことと「今年最も怪しげなニュースの一つ」を作ったことに対して、National Anxiety Center から第1回 Chicken Little Award(チキン・リトル賞)を贈られ、その間違った予測を嘲笑された。

ブラウニング博士が間違っていたからといって、ニュー・マドリッド断層帯で再び大地震が起こる可能性がないわけではない。しかし、専門家によると、50年間で、この地域で1811年から1812年にかけて起きたような規模の地震が起こる確率は7〜10%しかないそうである。

 
ちなみに、政府の地震調査委員会は、30年以内に南海トラフ沿いで巨大地震が発生する確率を 70〜80% としています。