2009年5月1日金曜日

プレートの「底」確認

4月28日付『朝日新聞』の科学面に「プレートの『底』確認」という記事が掲載されています。東京大学地震研究所の川勝均教授のチームが、アメリカの科学誌『サイエンス』に発表した論文を解説するものです。同教授は地震波トモグラフィーで多くの業績を上げている方です。以下は記事からの抜粋です:
 川勝教授らは、沖の鳥島近海と北海道東方約 2000キロの水深 5600メートル付近の海底に、深さ 500メートル前後の穴を掘って設置された地震計を利用。各 2年分、地下構造を調べるのに適した延べ約 80 の地震のデータを集め、従来よりも地下で地震波が伝わる速度が精密にわかる方法で解析した。

(略)

 地震波は地下の軟らかい部分で速度が遅くなる。川勝教授らは、地震波の速度が遅い層は岩石が溶けた物質が混ざって軟らかくなっており、上部の硬いプレートは地下 80キロ付近が「底」だとした。

 軟らかい「アセノスフェア」と呼ばれる部分は高温で、部分的に溶けたマントルが水平方向に引き伸ばされたミリ単位以下の薄い層が多数ある、と考えられるという。
川勝教授が『サイエンス』に発表した論文(英語)の要旨は以下にあります:
この発表のポイントは 二つあると思います。一つ目は、これまでは漸移する(徐々に変化する)とイメージされていたリソスフェアとアセノスフェアの間には、実はシャープな境界があるとわかったこと; 二つ目は、プレート(リソスフェア)の底に接するアセノスフェアに「部分的に溶けたマントルが水平方向に引き伸ばされたミリ単位以下の薄い層が多数ある」と推定されたことです。この水平方向に伸びた多数の薄い層が、海洋プレートの移動を容易にしているのかも知れません(「鶏と卵」的ですが、プレートが移動した結果、薄く引き伸ばされたとも考えられます)。


プレート、マントル、リソスフェア、アセノスフェアの関係については以下の説明を参照してください:
また、以下の図は、これらの混同しがちな概念を視覚的にわかりやすくまとめてあると思います:
なお、マントルの内部が部分的に溶ける現象(部分融解)については、われわれがその言葉からイメージするものとは違っているようです。以下に『マグマの地球科学』(鎌田浩毅、中公新書)から部分融解についての説明を引用します:
 マントルが溶け始めるとき、鉱物の粒子の表面には液体の薄い膜が現れる。鉱物の表面だけがわずかに溶けるのである。これを部分融解(partial melting)という。鉱物と鉱物の間に細かい水路ができたようになり、液体のマグマが網の目のように連結してくる。この溶けた領域がしだいに増えてくると、鉱物の粒子そのものが液体に覆われるようになる。液体のネットワークに固体の鉱物が囲まれるような状態だ。(略)

 このように、岩石が部分的に溶け始めるのだが、全部が液体になったわけではない。全体としてはまだ固体の姿を保っている。ちょうど粘土のようなイメージであり、少しだけ軟らかくなった固体といってもよいだろう。(地震波の)低速度層の中では、このような部分融解した岩石の塊全体が、あちこちにでき始めるのである。

 なお、低速度層に起きている部分融解では、岩石が溶けている割合は 1 パーセント程度でしかない。
Image Credit: U.S. Geological Survey