火星にも地球と同じようなプレート・テクトニクスがかつては作用していたと考える研究者はかなりいますが、金星については火星に比べて観測データが限られているためか、論文もあまり見かけません。数年前に、活火山と考えられる地形の配列から、プレート・テクトニクスの兆候を見いだそうとした報告を見かけた程度です。
以下の記事は、米国・ニューオーリンズで12月11日の週に開かれた2017年米国地球物理学連合秋期大会で発表された研究を紹介するものです(12月に開かれているのになぜか Fall Meeting と呼んでいます):
- Lava-filled blocks on Venus may indicate geological activity (金星表面の溶岩で形成されたブロックは地質学的活動を示している可能性がある)
記事には3つの図が掲載されています。はじめにこれらの図とそれに添えられた説明に目を通してから、本文を読む方がわかりやすいと思います:
- 図1 金星表面の高低を示した地図。南北両極地のまわりにテクトニック・ブロックの位置が円(楕円)で囲んで示されている。これらのブロックの分布は、おそらく金星全体のシステマティックな地質学的プロセスの存在を示している。
- 図2 金星表面の圧縮や伸張によって形成された尾根や地溝に囲まれた低地のテクトニック・ブロックの例。
- 図3 尾根や地溝に囲まれた金星の溶岩平原(左)と、中国のタリム盆地(右)の比較。両者の類似は、金星のブロック・テクトニクスについての知見を与えてくれる。
以下は記事本文の抜粋・テキトー訳です:
- 惑星科学者は、金星の地質学的な活動は7億年前に停止した、と考えてきた。
- ニューオーリンズで開かれた2017年米国地球物理学連合秋期大会において、12月11日、次のような発表が行われた ―― 金星表面のいくつかのよく知られた変形地形を金星全体の視点から眺めると、それらの地形は、金星でも地殻の運動が可能であり、現在も地殻が動いている可能性があることを示している。
- 金星の表面には幅の狭い尾根と地溝が散在している。これらの地形は以前から知られていたが、科学者はそれらが互いに無関係の孤立した地形であると考えてきた。
- 今回の研究発表をおこなったノース・カロライナ州立大学の惑星地質学者 Paul Byrne と同僚たちは、1990年から1994年にかけて金星を周回したマゼラン探査機(YouTube動画)によって得られたレーダー画像を使って、それらの地形構造を金星全体の観点から検討した。その結果、これまで誰も気づいていなかった新たなパターン ―― それらの尾根と地溝は、溶岩が冷えて固まった平らな低地のブロックの周囲に集中的に存在していること、各ブロックは離ればなれで、南北両極のまわりに分布していること ―― が見つかった。
- これらの地形構造は地球で見られる地形と非常によく似ている。例えば中国北西部のタリム盆地。タリムのような盆地は大陸地殻の大きなかけらで、直下のマントルからの力によって、押したり、回転したり、周囲の地形に衝突したりする。その結果として、盆地は周囲の地形を変形させ尾根や地溝を形成する ―― これらの尾根や地溝は金星のものと同じ特徴をもっている。
- 研究チームは金星でも同じことが起きていると考えている。金星表面の摂氏462度という高温によって金星の地殻は十分に加熱され、わずか10~15km下にあるマントルからわずかに分離し、薄い地殻のブロックを形成して周囲を押したり、衝突したり、回転したりする、と研究チームは推定している。
- 「これはプレート・テクトニクスではありませんが、金星の固く脆い表層が少なくともいくつかの場所では小さなブロックに分かれていることを示しています」と Byrne は語っている。ブロックの多くは差しわたし200km程度、大きいもので1200km程度である。
- Byrne を最も興奮させたのは、いくつかの溶岩平原内部に見られる変形の兆候である。若い(わずか7億年の古さ)溶岩の表面の変形は、「非常に最近、移動や回転が起きていた可能性を示しています」と彼は話す。何億年もの間、活動していないというのが定説であった惑星では、このような可能性は革命的なことです。
- ブロックの最初の動きはどのようにして起きたのか、なぜブロックは南北両極の周辺にしか分布していないのか。Byrne の推測は次のようである ―― 一つの可能性は、マントル内の非常にゆっくりとした対流である。マントルに載っている表面の地殻が薄いことによって、対流がブロックをゆっくりと押したり引いたりする。しかし、金星の赤道地帯には拡大する巨大な地溝帯が存在しているので、金星の全体的な拡大プロセスがこれらのブロックを極地域に押しやったのではないか。
- 「もう一度言いますが、これはプレート・テクトニクスではありません」と Byrne は強調した。「これらのブロックは陸地の小さな塊にすぎず、回転したり動き回ったりしているだけです。」