2010年12月15日水曜日

宇宙の巨大リング

まず、以下の図を見てください。中心部の小さな円とそれを囲む 2つのリング。NASA の WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe、ウィルキンスン・マイクロ波非等方性探査衛星)が観測した宇宙マイクロ波背景放射のデータに現れた巨大なリング状のパターンです:

このパターンは、イギリスの高名な数学者・宇宙物理学者・理論物理学者であるロジャー・ペンローズ博士と、アルメニアのエレバン物理学研究所・エレバン国立大学の Vahe Gurzadyan 氏が 11月 16日に報告したものです。

以下は、上記の報告をかみ砕いて解説している記事です:

以下に、上記記事から摘記・意訳します:
ペンローズ博士たちが報告したリング状のパターンは、天球上の全方向からほぼ等方的に放射されていると考えられている宇宙マイクロ波背景放射の中に見いだされた。宇宙マイクロ波背景放射は、ビッグバンの名残であると考えられ、ビッグバン宇宙論の有力な証拠とされている。
リング状のパターンは、宇宙が始まりと終わりを繰り返していることを示している、とペンローズ博士たちは考えている。

リング状の領域は、宇宙マイクロ波背景放射にあるわずかな温度のばらつきが平均よりも小さい部分である。

このリング状のパターンは、現在定説化しているインフレーション宇宙論では説明できない。インフレーション宇宙論では、生まれたての宇宙が、その直後に原子のサイズからグレープフルーツのサイズに急激に膨張したとしている。このようなインフレーションが起きていたとすれば、今回発見されたリング状のパターンは消されてしまうであろうし、インフレーションによってリング状のパターンが生成されるとは考えられない。

プリンストン大学の宇宙論学者 David Spergel 氏は次のように語っている: 「このような形状の、巨大なスケールで一貫した特徴がマイクロ波背景放射に存在するということは、インフレーション・モデルと矛盾し、宇宙が誕生と死滅を周期的に繰り返すというペンローズ・モデルの非常に特徴的な証拠であると考えられる。しかし、ペンローズ博士たちが発表した論文には、このリング状のパターンが実際に存在するか否かを検証するための詳細情報が十分には記載されていない。

一番最近に起きたビッグバンの前に存在した宇宙(ペンローズ博士はビッグバンによって区切られる個々の宇宙を “aeon” と呼んでいる)の情報をこのリング状のパターンが見せていると解釈している。

このリング状のパターンはビッグバン以前の宇宙で発生した超巨大ブラックホールどうしの衝突によって形成されたのではないか、と博士は示唆している。衝突したブラックホールは重力波(巨大な質量の加速によって生起する時空のさざ波)の「不協和音」を発生させのではないか、というのである。発生した時空の波は球状で均一に分布していたはずである。

ペンローズ博士の計算によれば、均一に分布した重力波が一つ前の aeon から現在の aeon に入るとエネルギーのパルスに変貌する。このパルスは、この宇宙の全質量の 80% 以上を占めるとされる目に見えないダークマターに対して均一な力を及ぼす。これが、マイクロ波背景放射に見られるかなり均一なリング状のパターンとして観測される。

ペンローズ博士たちは、WMAP の観測データに加えて、気球によってマイクロ波背景放射を観測した BOOMERANG 実験 のデータも解析し、同様のパターンを見いだした。2つの異なる観測装置のデータに同様のパターンが見つかったことから、観測機器のノイズやその他の人為的な要因によってこのようなパターンが現れた可能性は低い、とペンローズ博士たちは考えている。
宇宙マイクロ波背景放射については、ESA(欧州宇宙機関)のプランク・ミッションによってさらに詳細な観測データが集められている。ペンローズ博士は、自分の理論がこのデータによってさらに決定的に検証されるであろうと考えている。

このペンローズ博士たちの報告については、すでに批判や反論が出ています。その一つは上記記事中にも少し書かれていますが、WMAP の観測方法がリング状のパターンの原因ではないか、とするものです。WMAP の観測では、天球上の観測場所によって観測時間に差があります。観測時間が長い場所ほどノイズの影響が小さくなり、観測データに現れるマイクロ波背景放射の温度のゆらぎが小さくなります。このようなゆらぎの少ない部分がリング状のパターンの原因ではないか、それをペンローズ博士たちは自分たちの「周期的な宇宙」論に牽強付会しているのではないか、というものです。


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