2013年5月7日火曜日

受動的拡大説に軍配 ― 中央海嶺の構造


中央海嶺で生まれたプレートが広がっていく原動力は何か? 大きく分けて2つの説がありました:
海嶺では、まず側方への伸張があって隙間ができ、それを埋めるために下からアセノスフェアが上昇してくる(これを受動的拡大という)のか、それともアセノスフェアの側方への対流によってリソスフェアが引きずられる結果、拡大する(これを能動的拡大という)のかは、プレートテクトニクスの原動力の問題に関わる大きな問題であり、議論が続いている。 [木村学『プレート収束帯のテクトニクス学』、2002、東京大学出版会]

中央海嶺の地下がどのような構造になっているのか、これまでは地震波や音波、重力異常をつかった方法しかなく詳細にはわかっていませんでした。スクリップス海洋研究所の研究者は、電磁気を使って地下の構造を調べる方法を開発、それを利用して東太平洋海膨(East Pacific Rise)にある中央海嶺(太平洋プレートとココス・プレートの境界)の地下構造を描き出すことに成功し発表しました:

Credit: Kerry Key, Scripps Institution of Oceanography
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以下は、上記〝Discovery News〟の記事の抄訳です:
(研究チームのリーダーである Kerry)Key氏は、東太平洋海膨の地下に対称的で幅の狭いメルト・ゾーン(溶融域)を発見した。これは、拡大するプレートによって作られた隙間をマントルが単に満たしているだけだということを示している、と彼は語る。もし、上昇してくるマントルがプレートを(拡大する方向に)押しているのだとしたら、局所的な対流の証拠、たとえばもっと幅広い非対称なメルト・ゾーンがあると思われる。 
この研究結果は、中央海嶺の動きについての有力な仮説のうちの一つである受動的拡大モデル(passive flow model)を支持している、と研究チームは語っている。地球の地殻は巨大なコンベヤー・ベルトに似ており、プレートは中央海嶺から広がり、沈み込み帯でマントルの中に沈みこんでリサイクルされる、とKey氏は説明する。プレートはマントル内の巨大な対流セルに乗っているが、中央海嶺はそれらの大規模な渦巻きと連関していない。その代わりに、海嶺での局所的溶融は移動するテクトニック・プレートによって作り出される隙間によって発生する、と地質学者たちは考えている。しかし、プレートを移動させる原動力が沈み込み帯で生じる「引き」(受動的拡大モデル)なのか、海嶺に上昇してくるマグマによる「押し」なのかについては論争が続いている。 
「私たちの得たデータは、受動的拡大モデルのように見えます」とKey氏は『OurAmazingPlanet』に語っている。「私たちのデータは、こういうことが起こっているはずだと誰しもが考えるものと合致していますが、これまでは私たちの手元にはよい画像がなかったのです。今回得られた画像は、こんなことが起きているはずだという考えにもとづいて誰かが教科書用に描いた図のように見えます。」

研究結果を紹介する記事の常として、別の研究者の考えも紹介しています。ブラウン大学の地球物理学者 Don Forsyth氏は、今回の研究を高く評価した上で次のような指摘をしています:
しかしながら、Forsyth氏は、(海嶺の周辺に)マントル対流がないことを確認するために、南北の海嶺軸に沿った追加の調査が必要だとしている。「彼らは(マントルが)受動的に湧昇してくることを示す強力な証拠を手に入れたが、(海嶺の地下に見られる)対称性だけでは、必ずしも受動性を証明することにはならない」と『OurAmazingPlanet』に語った。

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