「3度の大地震を経験、3度目は予知した人」(3月20日)とその補足(3月21日)では、夜空の様子から安政江戸地震を予知した人の話を紹介しました。安政江戸地震は旧暦・安政2年10月2日(西暦1855年11月11日)に江戸を襲った直下型の大地震で、マグニチュードは6.9~7.4、震央は荒川河口付近(地図、現在の葛西臨海公園や東京ディズニーランドのあたり)とされています。当時の江戸は世界でも有数の人口を誇り、瓦版や書物などの出版業者が多数存在したため、地震の被害や前兆などについての記録が多数残されています。
以下は『安政見聞誌』(著者は仮名垣魯文ほか)に載っている逸話です。概略を現代語に直してみました:
10月2日の夕方、駒込白山下(地図)にあった質屋で、丁稚が雨戸を閉めるために2階に上がった。しばらくして2階から下りて来ながら「今夜きっと地震があるに違いない。強く揺れるだろう」とつぶやいた。これを聞きとがめた番頭が「縁起の悪いことを言う奴だ」と叱ったが、そのままにしていた。その夜、大地震が起こり、家や蔵が破損したが、質屋の者は皆無事であった。7日間野宿した後、家屋の仮修繕が終わってもとの家にもどりほっと安堵したところで、番頭が丁稚の言ったことを思い出し、主人に告げた。主人も不思議に思って丁稚を呼んで尋ねた。
丁稚の答えは次のようであった ―― 私の父親は信州の者で、善光寺開帳の時の地震を経験しております。その父がいつも申していたのですが、「夕方、西の方に白い雲が霞のようにたなびき、東の方には藷(いも)のような雲が出ていた。そうしたらその夜、大地震が起きた。またしばらくして、同じような雲が東西に出たので、家財道具を広い場所に運び出し、竹林に身を潜めていたところ、また大地震が起きた」ということです。去る10月2日、2階に上がったところ、父が話していたのと同じ雲が出ているのが見えたので、思わず地震が来るに違いないとつぶやいてしまったのです。
『安政見聞誌』の原文は、『地震前兆現象 予知のためのデータ・ベース』(力武常次、東京大学出版会、1986)を参照しました。質屋のあった駒込白山下は震央から約15km、丁稚が雲を見たのは発震の数時間前になります。
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